第五話「街道の影」2 再び影が
それから数日が過ぎた。
穏やかな春の日が続いていた。城では、いつもの日常が流れている。
私は朝、奥方様のお部屋で朝食の準備をしていた。
窓から差し込む陽の光が、部屋を明るく照らしている。
その時、扉が勢いよく開いた。
「テレーゼ」
伯爵様だった。その顔は、険しかった。
「どうなさいました?」
奥方様が本から顔を上げた。
「また、襲撃があった」
「...!」
奥方様の表情が変わった。
私も驚いて、手を止めた。
(さっき、治安が良くなったと言っていたのに)
「ここ数日で、三件立て続けだ」
伯爵様は、報告書を広げた。
「しかも、巧妙だ。まるで、騎士の巡回の隙を狙ったかのように」
奥方様は、すぐに立ち上がった。
「詳しく聞かせてください」
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伯爵様の執務室に、地図が広げられた。
襲撃のあった場所に、×印がついている。
「三日前、街道の北側で商人が襲われた。午前10時頃だ」
伯爵様が、最初の×印を指す。
「二日前、街道の東側。午後2時頃」
二つ目の×印。
「そして昨日、街道の南側。午後4時頃」
三つ目の×印。
「すべて、騎士の巡回の隙を突いている」
奥方様は、地図をじっと見つめた。
私も、横から覗き込んだ。
三つの×印は、確かにバラバラに見える。でも...
「この襲撃地点...」
奥方様が、指で地図をなぞった。
「一見ランダムですが...」
そして、地図の中央を指した。
「この辺りだけ、襲撃がありませんね」
確かに、×印は地図の外側にあって、中央には何もなかった。
「それがどうかしたのか?」
伯爵様が聞いた。
「山賊は、自分の拠点から近すぎる場所では犯行を行いません」
奥方様は、静かに説明した。
「なぜなら、山狩りをすればすぐに見つけられるからです」
「ほう」
「でも、遠すぎる場所にも行きません。移動に時間がかかるからです」
奥方様は、地図の中央に円を描いた。
「つまり、この空白地帯の中心にアジトがあるはずです」
伯爵様は、地図を見つめた。
「なるほど...!では、この森の中か?」
「可能性が高いと思います」
奥方様は頷いた。
「廃屋や洞窟など、隠れやすい場所があるはずです」
私は、奥方様の推理に感心していた。
(三つの点から、隠れ家を見つけ出すなんて...)
でも、奥方様の表情は晴れなかった。
「でも...おかしなことがあります」
「何だ?」
「どうやって、巡回の隙を知ったのでしょう?」
奥方様は、地図から顔を上げた。
「私が組んだシステムは、外から見ると予測できないはずです」
「それなのに、見事に隙を突いている」
伯爵様の顔が、険しくなった。
「...まさか」
「情報が、漏れているのかもしれません」
奥方様の呟きに、部屋には重い沈黙が落ちた。




