豺獣を祭る(やまいぬけものをまつる)
【あらすじ】
本能の赴くまま獲物を物色し、人家をさまよい歩く男。
理性を失った男を待ち受ける運命とは?
『あぁっ、早く欲しいっ!!
何かないか?
この欲求を満たすものは?
もう限界が迫ってる!
早くしないと、時間切れになっちまう!』
オレは縄張りを出て彷徨い歩き、人通りの少ない住宅街に差し掛かった。
『あっ!アレはっ!
いいじゃねぇかっ!
はちきれそうな果実!
たわわに実って美味そうだっ!』
熟れきった体から滴り落ちる甘い汁が口中を満たす。
想像するだけでヨダレが出そうだ。
ゆっくりと近づき、手を伸ばした。
ガシャンッ!
硬いものに阻まれた。
『ちくしょうっっ!!
ちくしょうっっーーーーーっ!!!
見てろよっ!コノヤローーーッッ!!』
悔しさが爆発する。
オレは頭を掻きむしり足を踏み鳴らした。
不審な様子に人が集まってくる。
『ヤバいっっ!』
慌ててそこを離れた。
『ちっ!!
ムカつくぜっ!!
どうしようもないこの欲求は誰のせいだ?!
オレのせいじゃないっ!!
なぜこんなものがあるんだっ!!
オレのせいじゃないっ!!
くそっっ!!!』
ムシャクシャしながら歩き回った。
獲物を探し回った。
また「カワイ子ちゃん」を見つけた。
『あっ!!よしっ!あれだっ!あれにしようっ!!
ちっ!
こっちを見てるぞ!』
オレは慌てて物陰に身を隠した。
日が暮れるのを待って、獲物のありかに侵入する。
獲物は無抵抗だ。
まるで、オレに喰われるのをずっと待っていたかのように。
皮膚に歯を食いこませた。
『ああっっっこの感覚っ!
久しぶりだっ!
だが足りないっ!
もっとっっ!!!
もっとだっっっ!!!』
夢中で獲物をむさぼる。
『足りないっ!
どこだっ!
どこにあるっ!!』
まだその奥から、美味そうな匂いがした。
ゆっくりとソレに近づく。
脂でツヤツヤに光る白い肌に、骨がところどころういて見える。
『私を食べて』
本能を刺激する、得も言われぬ匂いを放ち、オレを誘ってやがる。
据え膳食わぬは男の恥。
ダラダラとヨダレが溢れ出るのをそのままにして、獲物に近づく。
優しくソレを咥え、引っ張った。
「ガッシャッッーーーーーンッッ!!!!」
耳をつんざく金属の音。
思わず振り返る。
背後に金属の扉が落ちていた。
閉じ込められた!?
・・・・捕まった!!??
くそっっっ!!!
チクショウめっっっ!!!
人里に出て、柿を食って、栗を食って、ゴミをあさって
何が悪いっ!
オレは本能のままに行動したんだっ!!
誘惑したのはどっちだっ!!
くそっっっ!!!
力の限りぶつかり、ひっかき、噛みつき、逃れようと暴れまわった。
頑丈で無情な、熊捕用の檻は、びくともしない。
夜は静かに更けた。
「豺獣を祭る」とは・・・・
『狼の祭/豺の祭 七十二候のうちの霜降初候(十月二十三日~二十七日頃)のこと。「豺」は山犬、狼。狼が禽獣を捕獲した後に祭るように並べる、という言い伝えにちなむ。初春の「獺魚を祭る」、初秋の「鷹鳥を祭る」に対応する。
(https://kigosai.sub.jp/001/archives/11281『きごさい歳時記』さんを参照)』
だそうです。




