第3話 『夢への前進と問題点』
「ふぅ……」
二体目の影人を使った訓練・実験も終了し、真城は椅子に座って一息つく。
この作業。影人の分離は、思った以上に体力を消耗する。
一瞬の気の緩みすら許されない程の集中力を使用する。
もちろん一体目の時の様な、比較的簡単な個体もいるのだろう。
しかし、今しがた終わったばかりの二体目の様に、非常に分離が難しい個体も存在する。
その違いは真城が考えるに、“影と肉体の同化具合”によるものだと思えるが……。
であるのなら、完全に影と同化してしまった“フェイズ4”や“フェイズ5”には、どれほどの集中力と体力が求められるというのだろう?
いや、そもそも……完全に影と同化してしまった肉体を、本当に分離出来るのか?
考える事は山積みだ。
とりあえず今は、真城が今回行った行為が本当に正しかったのか。
真城の“混沌点”と感じたその場所を、綺麗に引き離した事が間違ってなかったか。それが一番重要だ。
何せ今回でようやっと、“混沌点”を全て完全に引き剥がすことが出来たのだ。
もしこれでも後遺症が出たのなら、一体何が間違っていたのか? 或いは、他にもすべき事があるのかを探す必要に迫られる。
もしも後遺症が出なくとも……今度は、時間がかかり過ぎるといった問題が浮上する。
今回使用した影人は、頭のてっぺんから足のつま先まで、全てを確認し尽した。
“力”を使って、“混沌点”を完全に分離した。
しかしそれ故に、たった二体で二時間近くも費やした。
一体目が約三十分。二体目が約一時間半である。
これでは、実戦には使えない。
ただでさえ影人を拘束し、抵抗出来ない様にした状態で開始する。
その上で始める前から。そして始めた後も、真城は集中をし続ける。
それで早くても三十分は遅すぎる。……細心の注意を払って、必要以上に丁寧に行った、とは言えだ。
加えて体力の事も鑑みれば……、
(……いや、とりあえず今は止そう。まずは今日やった二人の後遺症が出るか出ないか。……それが分かるまでは何とも言えない)
それにだ。
思い返して見れば、真城が影人の分離を行って後遺症が出なかった人達は過去にいる。
もし仮に、真城が今日やった行いが正しくて、“それ”をする事で被害者が後遺症を引き起こす事を阻止出来るのだとすれば、……その存在は不自然だ。
何せその人達には、これほどの集中力と体力を用いる様な事はしていない。
ただポンッと何も考えず、“力”を押し当てただけなのだ。
故に、まだ真城が気付いていない“何か”。
別の事柄が後遺症の有無を決定づけている可能性だって捨てきれない。
でなければ過去の“後遺症が出なかった人達”は、真城が何も考えずにただ“力”を押し当てただけなのに、『奇跡的な偶然が重なって綺麗に“混沌点”が分離出来た』……という事になってしまう。
起きた事象を“奇跡”で説明するよりも、もっと簡単に『後遺症の有無を決定する“何か”が別にある』と考えた方が……まだ腑に落ちるというものだ。
あえてポジティブに考えてみるのなら、“後遺症が出なかった人達”は“影人化”してからまだ日が浅く、“混沌点”が今回の一回目の影人よりも荒く、“混沌点”の数も一ヵ所のみだった。
故に何も考えず、ただ“力”を押し当てただけでも綺麗な分離が行えた。或いは、偶然押し当てた場所が良かった、か。
……と、まぁこんな感じになるのだろうか?
「うーーーん…………、」
真城は目を瞑って考える。
見つけた感覚の他に、何か別のものは無かったか。
まだ見つけていない“何か”の手がかりを探して記憶の海をかき回す。
そんな時だった。
「しっかし、よくやるな。わざわざこんな事をせずに倒しちまった方が楽なのに」
突然、背中から声がかけられた。
目を開けて振り返った視線の先には、野武虎雄が立っていた。
サイドと後頭部を刈り上げて残った黒髪を無造作にかきあげた様なツンツンヘアをした男性で、過激派共通の軍服を思わせる黒いコートを纏った『影世界専門部隊』所属の人物だ。
“アイ”が暴走した事件では、同じ部隊の霜山牡丹と共に力を貸してもらった間柄。
何故、こんな所にいるのだろう?
何かの用事で近くまで来たついでにここに立ち寄ってみたとかか?
或いは気になって見に来たか?
……何にせよ、こういった場所で出会うなんて珍しい。
「…………、そんな事はないですよ。助けられるなら助けるべきでしょ、普通は」
「そうか? 俺はそう思ったりはしないがな。影人も、影人に乗っ取られた人間も、俺には同様に“悪人”だ。だから当然、そんな“悪人”を助けてやる義理もない。人類を脅かすただの害獣にしか見えないね。いるだけで人の世の秩序を脅かす」
「……、」
何故、そういった極論・結論になるのだろう。
真城にはそれが分からない。
仮に“影人化”を起こした人が悪人であったとて、それは助ける助けないとは関係無い。
もし悪人を裁くというのなら、それは司法の管轄だ。真城達“影狩り”がすべき事ではないはずだ。
殺す以外に方法が無かった“これまで”はそれでも良かったかもしれないが、真城の“力”で助ける事が出来ると分かった“今”となっては、その考えはマズいだろう。
それが悪人であっても、命は命だ。
雑に扱っていい代物ではないはずだ。
任務中、切矢にも“救う覚悟”といったものを説かれたが……。
これはそういった論点の話じゃない。
「……悪人である事が、助けなくていい理由にはなりません」
ハッキリとそう告げる。
真城の真っ直ぐな意見を受け取って、野武は「まぁ、お前ならそういうだろうと思ったよ」と言って鼻で笑う。
そうして、少し意地悪そうな笑みを浮かべて、
「だったらさ、お前は気に入らない奴。例えば単純にいけ好かない奴だったり、或いはお前が嫌っているような人間。そんな“悪人”が相手でも、お前は構わずに助けちまうのか? 助けられるのか? そんなクソみてぇな奴らでも」
なんて事を聞いてくる。
しかし真城は「当然です」と即答する。
何せ経験がある事だ。
助けた後で、本当に助けるべきだったのか悩んだ事もあった。
いじめ被害者を救う事が叶わなかったのに、その加害者を助けた事だってあったのだ。
しかしそれでも、“助けた事”自体を真城は後悔したりしない。
そもそも、“悪人”というものが自分にとってどういった存在であるかなんて関係ない。
知り合いでも、赤の他人でも、“助けない”なんて選択肢はあり得ない。
「……ふん。やっぱりお前とは相容れないな。俺だったらその昔、自分をバカにして来た様な連中が助けを求めて来ようがシカトするね」
無駄な話を切り上げて、真城はジトっとした視線を野武へと投げかけた。
「……わざわざそんな嫌味を言う為に顔を出したんですか?」
「いや、別に。……ってか、その反応だと気が付いてなかったな?」
「何がですか?」
「……」
真城の反応を見て取って、野武は「やっぱりか」といった顔をする。
なんでも、今日の実験に使う影人を運んでいた『影世界専門部隊』の一人として野武も参加してたらしい。
……全く気が付かなかった。
訓練・実験の事で集中していた為だろう。『影世界専門部隊』の人物にまで気が回っていなかった。
「……それはその、すみません。……気が付いていなくって」
「構わねぇよ、そんな事」
…… ……
二人の会話も終了し、もうそれ以上に言いたい事も無くなった。……そんな時。
研究室の機材モニターを確認していた安室が一つの連絡を受け取った。
「真城君!!」
安室が大声で真城の名を呼びながら駆けてくる。
一体何がどうしたというのだろう?
その表情は、驚きと喜びの色に染まっていた。
「今、被験者を搬送した病院から連絡があったんだ!! 今日の一回目の実験で分離を完了させた男性が、意識を取り戻したそうなんだ」
「……っ!?」
「それで、後遺症が出ていないかの確認をした所……どこも問題が無いらしい!! 後遺症は、――出なかった!!」
安室からの言葉を受け取って、今度は真城の表情が驚きと喜びに染まっていく。
成功だ。後遺症は出なかった。真城の行った行為は間違っていなかった。
あの“混沌点”を解いて影と人を綺麗に分ける事。それが後遺症の起こらない条件なのだと理解する。
「よし!! ……よしッ!! やったぞ、……これで救う手段が確立した」
真城は思わず、ガタリと椅子を倒す勢いで立ち上がる。
強くガッツポーズをして歓喜する。
握り締めた右拳。そこに宿る“力”へと目を向ける。
今日のこれは、大きな一歩だ。
ようやっと、不明瞭だった“後遺症の出ない”救済方法が判明したのだ。
そしてそれを意識的に扱う事が出来る事も理解した。
これで救える。人を助ける事が叶うのだ。
“フェイズ3”になってしまった被害者も、完璧に助ける事が可能となる。
真城の夢。人助け。
そこに至る道が示された。
“ゴール”という存在が、ちゃんとある事が示された。
後はそこへと向かうのみ。
(――これで、俺も)
脳裏に浮かぶのは、両親の顔。
そして尊敬する医者としての姿、行いだ。
(お父さんやお母さんの様に――、立派な人になる事が――)
安室の報告。そして真城の喜びが周りの研究員にも伝播する。
研究室全体に、歓声が沸き起こる。
研究員としても、間違いなく貴重で重要なデータが取れたのだ。当然の事だろう。
今、この場で喜ぶ必要が無い者は……野武くらいのものである。
溜息を付きながら、その場を後にする野武を視界の端に収めつつ、尚も真城は舞い上がる。
昨日は、一ノ瀬に本気を出させる事に成功した。
そして今日は、影人の完全な分離に成功し、被害者を助ける方法・感覚を理解した。
今までの努力が……どんどんと結実していく。
良い事が立て続けに起き出した。
努力の成果が、幸運を運んで来たのだろう。
幸運が幸運を更に呼び、上り調子になって来た。
もう後は、……最後まで昇りきるだけである。
ここからは、真城のターン。独壇場となる訳だ。
「…………、」
……そうなると、惜しむらくは『実戦で使うにはどうしたらいいのか?』に対する答えが出ない点だろう。
少なくとも現時点の作業時間と“力”を扱う集中力を加味すれば、戦闘中に“今まで”みたいにただ“力”をぶつけるといった使い方は不可能だ。
それだと後遺症を引き起こす確率が、ぐんと跳ね上がる結果になってしまう。
そうなると『戦闘中は、ただ影人が操る影を無効化する事にだけ“力”を使用』して『時間的・体力的余裕がある場合にのみ分離作業で“力”を使う』……といった運用が現実的な方法となるのだろう。
真城の技術向上。或いは、画期的な方法でも見つからない限りは……。
とりあえず今後は、“力”の繊細な操作方法について学んでいくのが良さそうだ。
具体的にどうしたら良いのか。その方法はこれから研究データを基に選抜していく事として、それで多少の集中力とそれに伴う体力消費、時間短縮が見込めるなら悪くない。
あるかも分からない“画期的な時間短縮方法”なんかを探すより、コツコツと堅実に一歩ずつ進んでいくのが無難だろう。
最終的には、“今まで”の様なやり方で分離作業をこなせるのがベストだが……そうなるには、まだまだ時間も技術も足りてない。
(まぁもう少し簡単に出来たなら良かったのに、とも思わないでもないけれど……)
新たな目標を設定しつつ、内心で“力”をくれた“灰”に少しばかりの愚痴を言う。
まぁこればかりは仕方がない。
逆に、努力さえすれば解決出来る問題だというのなら、それで良い。
能力の性質的に、『どんなに努力しても出来ません』となっていないだけ有難い。
この休憩が終わったら、今度は研究員達の研究の手伝いとなる訳だ。
捕獲した影人が再び尽きてしまったので、これからまたしばらくは訓練・実験は出来ないと考えておいた方がいいだろう。
また切矢辺りが捕獲して来てくれるなら話は別だが……、彼だってそう何度も遭遇出来るものじゃない。
“影操作”しか使えない“フェイズ3”は、見つけるのが難しい。
前回、真城が参加した任務の様な状況は、非常に稀であったのだ。
それこそ、ある程度の“影人工場”化が進んでいる街でもなければ、複数体の“フェイズ3”に出会う事もそうは無い。
大抵の影人は“フェイズ3”となった時点では身を潜める。そして何らかの問題を起こし“影狩り”に捕捉される様になる頃には“フェイズ4”。或いは“フェイズ3”でも複数の能力を有している段階までは成長しているものなのだ。
(これでしばらくは、また研究の手伝いに逆戻りかぁ……)
実験に使う影人が足りていない。その事実に歯噛みする。
やっと影人と人を分離する為の技術。その感覚が見えてきた。掴めてきた。……というのにそれ以上の訓練が叶わない。
全く困ったものである。
掴んだこの感覚を忘れない為にも。この感覚を更に研ぎ、発展をさせる為にも影人は必要不可欠だ。
今が一番、影人が欲しい時。
しかし中々“影狩り”からの全面的な協力が得られないというのは、非常に由々しき問題だ。
……とは言えど。
いつまでも無いものねだりをしていても意味が無い。
それで状況が好転する訳じゃない。
出来る事からコツコツと。
とりあえず訓練が出来ない以上は、研究に協力する他ない。
研究だって真城の“力”についてのものである。
その研究結果も、巡り巡って真城の役に立つはずだ。
真城が研究の手伝いをする間。
“力”の操作を向上させる方法を、安室に調べて貰っておくとしよう。
何か良い案があったなら、それもこの研究室内でやる事の一つとして追加するのも良いだろう。
…… ……
「……やっと終わった」
19時。
研究員達から解放された真城は、ようやく研究室を後にする。
研究という目的のみの能力使用。
それは真城にとって、基本的に退屈なだけの時間だ。
あまり真城が動かずに、“力”を当てるだけの単純作業。
それしか無いのだから正直言って、……眠くなる。
研究が大事なのは理解している。
しかし真城としては、身体を動かしている方が好きなのだ。
ふぅ、と溜息を一つ付き、凝り固まった筋肉を解す様に首を回すと、今度は肩に手を置き二度三度と腕を回す。
研究で鈍った身体を動かす為、次に向かうのは第六階層にあるスポーツジム。
単純な肉体作り・体力作りが主な目的なのだが……その他にも、今回の様な“研究所で眠くなった時”などに頭を叩き起こす用途でとても重宝しているものである。
今日は午前中でも利用した訳なのだが、午後からは研究室での予定だったので、眠くなる事を考慮して午後からのスケジュールにも入れておいた訳である。
「さぁて、速くこの眠くなった頭を叩き起こして――」
真城はグッと一歩踏み出して、スポーツジムへと歩き始めた……そんな時。
真城のお腹が、盛大な音でグゥ~と鳴る。
「……そういえば、もうそんな時間だったよな」
先に晩御飯を済ませる必要性を思い出し、目的地を第五階層・食堂へと切り替える。
軽く小腹に入れたなら、今度こそスポーツジムへと赴こう。
…… ……
食堂に着くと、ハンバーグ定食を注文して席に着く。
19時を少し過ぎた時間ともなれば、食堂には多くの人が溢れてる。
服装からして研究員が目立つのは、単純に“影狩り”での研究員が占める割合が多いからだろう。
きっと真城の事以外でも、研究に大忙しに違いない。
周りを軽く見渡すが知り合いは見当たらない。
元々知り合いが少ない事は置いといて……、桜井や天道あたりを見つけられれば『「影人が足りていない事」を説明し、もしも“フェイズ3”を発見したら捕獲してほしい』といった内容のお願いが出来たのに残念だ。
正直、催促するようで申し訳なく、あまりしたくはないのだが……真城自身が“身を守る名目”で監禁状態となっているので仕方がない。
出来る事なら、真城自身も任務にちゃんと参加して、“フェイズ3”の捕獲をしたいのだ。
(そういえば最近、桜井を見てないな)
そんな事を考えながら、真城は目の前のハンバーグ定食を片付ける。
天道とは偶に書庫で会う事もあるのだが、桜井はどうしているのだろう。
或いは、発現した能力を扱える様になる為に、真城と同様どこかの研究室で実験でもしてるのか。もしくは任務に明け暮れる毎日か。
次に会った時にでも、何をしていたのか聞いてみよう。
……
…… ……
今度こそ、スポーツジムにやって来る。
到着してすぐ、真城は手慣れた動作でランニングマシンを使用する。
テキパキといつもの設定に変更し、真城はすかさず走り出す。
三十分間はまず走る。
その後、設定を変えて五分間を歩きつつ体力を回復。
といった流れを繰り返す。それが真城のルーティンだ。
体力に余裕があるのなら、両手両足に重りを付けたりもするのだが……流石に今日は止めておく。
影人を二体も分離した事で、肉体のみならず精神的な疲労も多くある為だ。
ジムには他にも様々なマシンが置かれており(神崎作の謎マシンもあり)、筋力トレーニングも可能だが……とりあえずは、ランニングマシンのみでいいだろう。
まずは体力を上げていく。
その事のみに重点を置いて進めてこう。
体力の重要性。それを今日は思い知らされた。
「よし、……今日はこれくらいでいいかな」
無心で走り続け、沢山の汗をかいた真城は時間を確認して足を止める。
時刻は21時半となっていた。
真城はジムに備えられたシャワールームで汗を流す。
そうして服を着替えたら、
「それじゃあ最後といきますか」
ようやくこの時がやって来る。
疲弊した身体を動かして、真城が最後に向かう場所。
それは、今日一日を頑張ったご褒美と言っても良い所。
疲労を回復させる天国。
それが、真城の今日寄る最後の一つ。
それでようやく、今日のスケジュールは完了だ。
…… ……
全てを終えて帰路につく。
向かう場所は真城の私室。
しかしその途中で、洗濯スペースへと寄って今日一日で汚れた衣類を全て洗濯機に放り込む。
そこで二十分程しばし待つのだが……その時間で、真城は専用端末を操作する。
“影狩り”から支給されている専用端末には様々機能が付いている。
その中の一つに、本部のデータバンクへアクセスし閲覧可能な情報を引き出すというものがあるのだが……真城は最近その機能を利用して、こういった時間にあれこれと資料を読み耽っている訳である。
様々な項目があり、中にはアクセス権が必要な資料もあるのだが、真城としては今閲覧出来る情報だけでも十分だと思っているので然程重要視はしていない。
とりあえず興味が引かれたものから順番に読んでおり、現在は『超能力の種類』や『超能力で出来る範囲や応用』といった内容だ。
真城が影人と戦ってみて分かったこと。
それは単純に「初見殺しが怖い」ということだった。
相手の使う能力はどういったものなのか。またその能力はどういったことが出来るのか。何を警戒しなければならないか。そういった知識に疎くては、話にならないということだった。……故に、そういった知識を得ようとしている訳である。
とはいえデータは膨大だ。
興味を引かれた能力から少しずつ、こういった暇な時間を見つけては読んでいるものの中々に読み終わらない。
未だ三分の一も読んだかどうかといった程。いつ読み終わるのかさえ分からない。
まぁ情報を読み込めば、それだけ知識になるのだから別に文句もないのだが。
因みにこれは余談だが。
初めに興味を惹かれた項目に『“識別名”持ちの影人について』というものがあり「“本部”が警戒し、公開している影人達の情報であるのなら知っておいて損は無いでしょ!!」と試しに“黒鉄”について調べてみた結果……あまりにも空欄が多く、保有する能力についても要約すると“分かっていない”といった内容がつらつらと書かれているだけだったので、無言でブラウザバックして別の項目に切り替えた……というのは内緒の話。
洗濯機が音を鳴らし、終了した事を告げてくる。
真城は洗い終わった洗濯物を抱えて私室へと歩いてく。
洗濯ルームと真城の私室は、ほとんど目と鼻の先。
私室にはすぐに到着だ。
寝具に着替えて横になる。
時刻は22時半だ。
今日はもう寝るとしよう。
布団へと横になって目を瞑る。
頭に過るのは今日に起きた出来事と、脳に張り付く自問自答。
より強い影人とも戦える様になってきた。それは一ノ瀬との戦いと訓練による賜物だ。
そして影人の分離も可能となってきた。それは“混沌点”を発見し、仕組みを理解したからだ。
“夢”に確実に近づいた。
確実に前に進んでる。
しかし……。
真城はまだ“人を救うとはどういった事なのか”、その答えを未だ明確に出せていない。
ただ助ける事だけが“救う”という事なのかが分からない。
“救う”という行為を、影人にも当てはめられるのかが分からない。
影人さえ“救う”事が出来るのか? そんな道があるのかも分からない。
影人の分離も、現状……実戦では使えない。
使い物になる段階に至れてない。
それが実戦で使える様になるのかも分からない。
画期的な方法。そんなものがあるのかさえ分からない。
先に進めば進むだけ、新たに問題は浮上する。
無視できない。無視していいのか分からない問題がへばり付いて離れない。
……しかしそれでも、
「……寝るか」
とりあえず今は寝よう。
いずれ、おのずと良い答えが見つかると、そう期待するしか今は無い。
「……進んで進んだその先に、望む未来はあるはずだ」
睡魔がどっと押し寄せる。
深く意識が沈んでく。
真城の一日は、こうして幕を閉じていく。




