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カゲビト  作者: 永眠布団
第三章 新たな任務

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第36話 『俺の獲物』



 天道秀才(てんどうしゅうさい)

 それは“影狩り”に所属する戦闘員。

 本部で“アイ”が暴れた際、真城と共に解決を助けてくれた人物だ。

 服装は前回に会った時とそう大して変わらない。

 首元に青のラインが入った白いポロシャツに紺色のジーンズをはき、腰に付けた革のベルト。その左右にはホルスターと拳銃がぶら下がっており、そしてそれらを隠すようにして灰色で生地の薄いトレンチコートの様なものをまとっていた。


 どうして天道がここにいるのか?

 それは分からないが敵ではない。

 真城達がこの状態な事を踏まえれば、地獄に仏と言ってもいいだろう。



 空から落下してきた男性(黒羽)が、アスファルトの地面に墜落する。

 ズンッという鈍い音を響かせて、地面を黒羽(くろば)の形に凹ませた。


「追尾する……銃弾、だと?」


「そのまま抵抗しないでくれると助かるが」


 ゆらゆらと起き上がる黒羽へと、銃口を向けたまま天道は淡々と言い放つ。

 そしてその直後、引き金を引いていく。

 パスパスと玩具の拳銃が発砲音を響かせて、弾丸(BB弾)を発射する。


 天道が現在抜いている拳銃は一丁。

 しかし状況に応じていつでも抜ける様にと、もう一丁の拳銃にも常に手を添えている。



「くっ……!!」


 引き金が引かれたのを見て取って、黒羽は舌打ちすると再び黒い翼を展開して宙を舞う。

 直後、撃ち出された銃弾が飛翔する黒羽を追尾する。

 飛ぶ速度は互角、……ではない。

 少しばかり、天道の撃ち出す銃弾の方が勝っている。


 宙を立体的に飛び回り、どうにか銃弾の追尾を振り切ろうとはするものの次第に銃弾が距離を詰めていく。

 しかもそれだけではなかった。

 天道は更に何発もの銃弾を黒羽へ向けて射出する。


「――こ、のッ!!」


 抵抗したが無駄だった。

 無数の弾丸が黒羽の身体へと打ち込まれ、再び黒羽が落下する。



「……す、すごい」


 圧倒的なものだった。

 その光景を見て、真城は無意識にそう呟いた。

 こちらが万全の状態で戦い始めなかったとは言えど、切矢、立花、真城と立て続けに敗北した相手をこうも一方的に追い詰める。そんな天道の戦闘に、真城は目を奪われる。


 軌道を変化させ、相手を追尾する弾丸。

 それは天道の固有戦法であるらしい。

 能力ではない、完全な技術による賜物だ。


 原理は単純。

 影を纏わして撃ち出した銃弾の軌道を“影操作”で自由自在に操作する。

 たったこれだけの事である。


 だが普通の人間であったなら、撃ち出された銃弾の初速に纏わせた影をついていかせる事が出来ずに、弾だけがすっぽ抜けて行ってしまう様で、銃弾に影を纏わせたまま打ち出して、しかもその初速を維持したまま軌道を変化させるなど到底出来る事ではないらしい。

 しかし天道は、それを持ち前の勘やセンスといった才能をフル活用して可能としている。


 今使っている銃だって、玩具の様な見た目ではあるものの特殊な改造が施されておりその初速は音速の半分弱にもなるそうな。

 戦闘場所が“影世界”であるのなら実際の拳銃を扱う事もあるらしいが、その時であっても銃弾操作は可能らしい。


 そんな事、真城には出来ない芸当だ。



「天道……さん? どうして、ここへ……?」


 呻くような立花の声が届く。

 気を失っていたようで、気が付くと天道がいる状況に驚いている様だった。

 立花の言葉に答えてあげたいところだが、残念ながら真城にもその答えは分からない。

 ただ状況を見守って、天道が勝つようにと祈る以外出来る事は何もない。

 せめて戦いの邪魔にならない様にとこの場から離れたいところだが、身体は既に動かない。



 落下する黒羽へと、天道は更に銃弾を打ち付ける。

 そうして黒羽の持つ翼に孔を開けていく。


 しかし黒羽も諦めた訳じゃない。

 身体が地面へと打ち付けられるその直前、ボロボロの翼を霧散させ、再び新しい翼を展開する。

 そうして低空飛行で旋回して飛び回ると、今度は一気に加速して一直線に突っ込んでくる。

 狙う相手は天道だ。


 黒羽は身体に影を纏って突進し、纏った影を槍の様に先端の尖った形状へと変えていく。


「これでも――ッ、くらえ!!」


 更に自身を回転させ、さながらドリルの様にして威力を上乗せする。


「……、」


 猛スピードで突っ込んでくる黒羽を見て取って、それでも天道は動かない。

 銃口を向けたまま、立ち尽くすだけだった。


「天道さん……!!」


 声を振り絞り、真城は天道の名を叫ぶ。

 あの黒羽の攻撃は防げない。

 “相手へ触れる面積が小さければ小さいだけ貫通力を増大する能力”と、そう黒羽は言っていた。

 その事から察するに、貫通力が上がるモノは別に針や棘といったモノでなくてもいい。

 それこそ先端さえ尖っていて、相手へ触れる面積が小さいモノであるのなら、それこそ今黒羽が作っているドリル()状のモノでも問題ない。

 黒羽が言う様に、その威力、貫通力を引き上げる事が可能である。

 しかし、


「さっき俺も聞いてたよ」


 そう言って、迎え撃つ構えを取っていた。


「貫通力とやらがいくら強力であろうが関係無い。“先端”以外を狙えばいい」


 その直後だった。

 回転し、突っ込んでくる黒羽が呻きながら明後日の方向へと飛んでいく。

 加速した勢いのままアスファルトの地面へと墜落し、ズガガガガッと地面を削る。


 天道が撃ち出した銃弾。

 その全てが黒羽の作った“先端”以外へと命中し、攻撃を阻害した為だった。

 命中させた銃弾。それだってただ“先端”以外の場所へと当てた訳じゃない。

 的確に相手の重心、体勢を崩して、いま天道が立っている場所。そして真城達が倒れている場所にぶつからない様に配慮して、的確な位置や力加減で命中させたものだった。


「こ、の……」


 傷つき倒れ、それでもまだ戦意を失わない黒羽が尚も天道(標的)を睨みつけ、


「これなら、どうだ!!」


 真城達がいる方へ、影で作った針や棘のような形状のものを連射する。



「な――ッ!?」


 真城達は息を吞む。

 これは真城がやった事。

 やってしまった事と同じ状況だ。


 黒羽の攻撃は“相手へ触れる面積が小さければ小さいだけその貫通力を増大する”。

 そしてその威力は“影纏い”の最高硬度を持つとされる“黒鉄”さえ貫けるものらしい。

 もしもそれが本当なら、事実上防御不可能な攻撃だ。

 黒羽が言った様に、“受ける”ではなく“避け”なければならない攻撃だ。

 

 だが、これは罠だ。

 真城達を守る為、あえて天道が攻撃に当たりに来る。

 射線上に飛び込んでくる事を、見越して放たれた攻撃だ。

 もしも真城達を庇おうとするのなら、その攻撃を一身に“受ける”事になるだろう。


 真城が危惧した様に、真城達の存在が……天道の足を引っ張る形になってしまった。


 これは真城達の落ち度だ。

 決して天道の所為ではない。

 ここに真城達がいつまでもいた所為で、それが天道の敗因になるくらいなら……。


 もちろん真城も抵抗しない訳じゃない。

 こちらに向かって放たれた攻撃は、真城達で処理をする。

 決して天道の足は引っ張らない。

 それでもしも真城達に何かあったというのなら、それは真城達の責任だ。


「来ないでくれ……天道さん!!」


 真城は天道に向かって声を出す。

 と同時に“力”の発動を試みる。

 疲弊したこの状態でも、何とか“力”は使えるはずだ。


 相手の影の攻撃が、針や棘の様な小さいモノであるのなら、“力”を集束させず放出するだけでもいくつかの攻撃を霧散させる事は可能だろう。

 しかし、


「何もするな」


「……え?」


 天道の声が届き、真城は“力”の発動を中止する。

 その直後、真城達の足元から影の触手が現れる。


「ッ!?」


 そしてその触手が真城、切矢、立花の三人を捉えると、勢いよく遠くへと投げ飛ばす。


「え、ちょ!?」


「――ん、!?」


「天道、てめ……!!」


 いつの間に真城達の近くまで、影の触手を伸ばしていたのだろう?

 黒羽が攻撃を放った瞬間であったなら、ギリ間に合う程の距離。

 しかしそこから三人を持ち上げて、投げ飛ばす動作をするというのなら話は別だ。

 まず動作が間に合わない。動作を終えるより先に黒羽の攻撃が到達する。


 それは仮に天道が足元に影を纏うなりして、一気に移動速度を加速させ、真城達の下にたどり着いても同じだろう。

 三人を抱えて逃げるより早く、黒羽の攻撃が来てしまう。

 それこそ天道が盾となり、庇う行動をするので丁度といった具合だろう。


 しかし天道の影は間に合った。

 それどころか黒羽の攻撃が到達するより速く、真城達三人を投げ終わるという動作までもをやり切った。

 それが出来たというのなら、あらかじめ近くまで影を伸ばし、待機させていたという事になる。

 天道は、こうなる事をあらかじめ読んでいたのだろう。



「着地くらいはお前らで何とかしろ」


 そう言って、構えた銃を連射する。

 攻撃が無駄になった事実に「何!?」と驚く黒羽へと、銃弾を何発も打ち込んでいく。


「流石にしぶといな」


 あの影人(黒羽)は“フェイズ4”であるのだろう。

 着実にダメージは与えているものの、銃弾のいくつかは流動する身体によって受け流されている。そんな気配、手応えを感じ取る。


 しかしそれでも構わない。

 このまま続けてさえいれば、勝手に死んでいくだろう。

 銃口を敵に向け、無言で引き金を引き続ける。


 突然カチカチと音がした。

 それは引き金を引いた音。

 しかし発砲音は響かない。


(……弾切れか)



「……ッ!! 隙あり!!」


 そんな天道の隙を見逃さない。

 倒れ伏した黒羽が反撃へと動き出す。

 が、それは間に合わない。


 天道が、


「“アポート”。装填」


 そう言ったそのすぐ後、再び弾が切れたはずの拳銃から弾が発射されていく。


「――ッ!?!?!!」


 黒羽は何も出来ぬまま、その銃弾を受けて再度倒れ伏す。



「……一体、何が?」


 天道に投げ飛ばされた後、どうにか力を振り絞り、着地の衝撃を影で緩和し終えた真城が呟いた。

 “アポート”。

 天道は確かそんな事を言っていた。

 “アポート”。“アポート”とは何だったか。

 多分、超能力に付けられた名前であろうが、如何せん真城はそういったものに詳しくない。

 そんな言葉が聞こえても、真城にはその意味が分からない。

 しかし、そんな真城の疑問に答える様に、横から切矢の声がした。


「“アポート”ってのは、別の場所にある物体を取り寄せたり、引き寄せたり出来る能力の事だな」


「切矢!? 大丈夫なのか?」


「あぁ……お前達が守ってくれたおかげで、少し楽になった」


 そう言って、尚も痛そうな傷口を抑えつつ、


「天道は自分がマーキングした一定の範囲内にある物ならいつでも好きに手元に取り寄せる事が出来る能力を持っている。まぁ重量制限なんかもあるから“なんでも”という訳にはいかないが、アイツが一度撃ち出して散らばった銃弾(BB弾)ぐらいなら、マガジン内に再び入れ直すなんて造作もない」


 と天道を睨んで舌打ちする。


「おい、天道!! ソイツは……黒羽は俺の獲物だぞ!!」


「何を子供みたいな事を言っている。とっとと仕留めて帰るぞ」


 怒鳴る切矢。

 しかし天道は意に介さず、銃弾を撃ち続ける。

 が、少しして天道は手を止めた。


「何、……黒羽? ……なるほど。コイツがお前の探してたっていう例の」


「そうだ!! だから!!」


「……関係無いな。どの道コイツは“フェイズ4”。助かる可能性なんて無い。それよりも、斃せる内に仕留めておくのが得策だ。それともお前は、あの友人とやらが更に手を汚す事を良しとする人間か? 誰が戦い誰が斃すか、そんなのは問題じゃないだろう。……お前は、そんな事も分からない程バカなのか?」


「何だとこの……!!」



「だあぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!!」


 突如、絶叫が木霊する。

 その声の主は黒羽だった。


「……癇癪でも起こしたか」


 視線を切矢から黒羽へと戻し、天道は拳銃を構え直す。

 と、躊躇なく引き金を引いて銃弾を射出する。


「終わりだ」


 銃弾が寸分違わず、黒羽へ目掛けて飛んでいく。

 そして銃弾が黒羽へ命中する刹那、――突風が吹き荒れた。


 黒羽へと着弾するはずだった銃弾は、強風に煽られて明後日の方向へと飛んでいく。

 黒羽を中心に強風が逆巻いて、次の瞬間その風が天道へと押し寄せる。


「……何!?」


 砂ぼこりを巻き込みながら押し寄せた突風が、天道の身体をいとも容易く持ち上げる。

 全く抵抗出来ぬまま、天道を駐車スペース脇のブロック塀へと打ち付けて、ブロック塀を破壊する。


「天道さん!!」


「天道!?」


 突然起きた出来事に、真城達は目を丸くする。

 先程までの圧倒的な力量差を超えて、逆転された事態に困惑する。


 黒羽が別の能力も持っていたという事か。

 天道の言う通り、黒羽が“フェイズ4”であるのなら、能力を複数持っていてもおかしくない。

 寧ろ当然と言っていいだろう。


 ……しかし疑問に思う事がある。

 そんな力も持っていたのなら、どうして今まで使わずにいたのだろ。

 その能力があるのなら、先程まで一方的に負けていた理由が分からない。

 初めから使っていたのなら、ここまでボコられる事も無いはずだ。


 だがしかし、その答えはすぐ分かる。

 驚いていたのは、何も真城達だけではなかったからだ。



「ははっ、これが……俺の新しい力か。これが俺の新たな能力か」


 自身の震える手を見つめ、黒羽が笑っていた。

 逆巻く風の中心で、黒羽は歪に顔を歪めていたのだ。

 黒羽は黒い翼を出現させて展開する。


「これで俺は、更に強くなった訳だッ!!」


 黒い翼を羽ばたいて、逆巻く風を操作して、一気に天空へと舞い上がる。

 その速さは、先程までの速度を優に超えていた。

 だがしかし、風の操作がまだ完璧ではないのか、空中で静止するのに戸惑っている様子である。


「まだ扱いは不十分だが、これは良い力を手に入れた。中々に気分が良い!!」



「……全く。これだから影人はとっとと斃すに限るんだ」


 ガラガラと音を立て、瓦解したブロック塀から天道が起き上がる。

 そうして上空の黒羽へと銃口を向けると、そのまま銃弾を発射する。


「流石にあれだけでは死なないか」


 黒羽が風を操作して、向かってくる銃弾を吹き飛ばす。

 が、それによって黒羽自身が空中でのバランスを崩して落下する。


「おっとっと、まだ同時に色々するのは難しいな」


 翼を羽ばたき、空中でのバランスを整える。

 しかしその最中も、天道が新たに放った銃弾が飛んでくる。

 それに先程吹き飛ばしたはずの銃弾も、軌道を修正して再び黒羽を打ちぬかんと迫ってくる。


「……ちっ、力を手に入れたとはいえど、この状態でこれ以上戦うのは止めておいた方がいいか。完全に扱いきれない力を慢心して振るった結果、思わぬ敗北を招かないとも限らない。折角の力を存分に振るって試したい気持ちは多々あるが……引き際を弁えるのも重要か」


 黒羽が視線を真城や切矢へと向ける。


「どの道アイツらは敵じゃない。いつでも殺せる程度の存在、か」


 黒羽は翼を大きく羽ばたいて、


「見逃してやるよ。俺に殺されなかった喜びを嚙みしめて生きるといい。……なぁ、切矢?」


「――ッ、!?」


 切矢へと笑いかけ、黒羽は移動を開始する。


「逃がすと思うか?」


 天道が銃を連射する。

 銃弾が縦横無尽に飛び回り、包囲するように飛来する。

 だが、


「無駄だ。……もうその攻撃は届かない」


 直後、風を操ってもの凄いスピードで空を駆け抜ける。

 そうしてこの場所から離れていく。

 銃弾がその後を追うも追いつかない。

 どんどんと距離を離されていってしまう。


 一分と経たぬ間に、黒羽の姿が見えなくなる。

 夜の闇に消えていく。


 黒羽の気配が完全に無くなったのを感じ取り、天道は銃を下ろす。

 黒羽の消えていった方を見て、切矢はアスファルトの地面に拳を打ち付けた。


「やっと、やっと見つけたのに!! くそぉぉぉぉおおおお!!!!」


 何度も拳を殴りつけ、その拳から血が滲む。


(ゆう)!! 落ち着いて!! 手が、手が壊れちゃう!!」


 立花が、切矢の腕に抱きつくようにしてその行動を抑え込む。

 切矢の名を何度も叫んで、切矢の動きが止まるまで腕を離さない。


「くそ。……くそ」


 次第に切矢の動きが収まって、最終的にすすり泣く声のみとなる。

 そんな切矢を見て取って、


「……切矢」


 真城は何と声をかければ良いのか分からずに、ただ切矢と立花の成り行きを見守る事しか出来ずにいた。

 しかしそんな状況でも変わらずに、


「これで任務は完了したようだな」


 と淡々と天道は言って歩き出す。


「今日は疲れた。俺は先に帰ってる。後処理の報告なんかはお前らがやってくれ」


 そう言って、天道も夜の闇に消えていくのだった。



……



 静まり返った駐車場。

 そこには真城達三人と、今まで成り行きをずっと見守っていた阿久津のみがいる状況となっていた。


「……、」


 切矢はまだ泣いている。

 そっとしておいた方が良いだろう。

 立花だって同様だ。

 寧ろ立花は元々負っていた傷からして、安静にしてなければならない状態だ。


 ここから何か動くなら、真城だけの方がいい。

 まだ“黒点”が来るという可能性も無くはない。

 出来る事なら、ちゃちゃっと済ませて自分等もこの場所から離れた方が良いだろう。


 真城はまず阿久津と合流して、その無事を確認する。

 もう一度簡単に“波嵐卍進(はらんばんじょう)”のアジト、廃ビルを見回って、他に影人がいない事を確認する。


 辺りをしばらく警戒し、三十分ほど経ってから、これ以上敵が来ない事。

 “黒点”がいつまでも来ない事を感じ取り、ようやく真城は専用端末で本部へと任務終了を報告し『収拾部隊』に来てもらう。



 『収拾部隊』が来てからも、やる事は色々とあった。

 まずは状況の説明だ。

 簡単な経緯、何故一般人が大量にいるのか、眠っている事やガスの事などを説明し、表向きで公表する為の情報やでっち上げる情報を選別する。


 そしてその後は、眠る不良達を一度専用の車へと乗せていき、アイテムで暗示をかけていく。

 その作業自体には真城は参加しなかった(やり方が分からないし教えてくれない)が、人数があまりにも多いので、廃ビルから一般人を運び出すのを手伝った。

 暗示が終わり次第、傷ついた者達は病院へと運ぶらしい。



 この後は、戦いを目撃した人がいないかどうかの確認や、波嵐市での“フェイズ1”や“フェイズ2”が生き残っていないかどうかの確認と、見つけ次第の駆除等々。といった具合で進行していく様である。

 が、流石にそこまでは真城も参加しない。

 『収拾部隊』の作業の邪魔にならない様、早々に立ち去る事にする。

 こちらも傷の手当などが優先だ。


 真城と切矢も傷が酷く、立花がいた病院へと運ばれる事になる。

 病室を抜け出してきた立花も同様だ。

 阿久津も今回の騒動を知っている人物。そして“影耐性”に覚醒した者として病院へと運ばれる。表向きは傷の手当だがそれが終わり次第、真城が受けた様に“二つの選択”をする事になるのだろう。

 その選択を受けて、阿久津がどちらの道を選ぶのか。

 それは阿久津次第である。

 真城が今から考える事では無いだろう。

 もしも阿久津が、戦う事を選んだというのなら……その時にあれこれと考え、教えれば良い事だ。



 今回、真城達が“影牢”で捕獲した“フェイズ3”の影人は十体だ。

 この影人達は“影狩り”本部へと運ばれる。

 その影人達を、真城の“力”で救うのは……今の傷が治ってからになるのだろう。

 それまでに、今回の事を踏まえて何かしらの手がかりを思い出せばいいだろう。

 もしも何も浮かばなくても、その十体で何かの感覚を掴めたならそれでいい。

 それでも無理だったなら、切っ掛けを掴むまでするだけだ。


 “フェイズ3”になってしまった人間を助ける事は出来る。

 問題は、何かしらの“後遺症”が出るかどうかといった所である。

 今は無理でも、コツコツと“そう”なっていけばいい。

 既に一度、成功はしている。

 “後遺症”を出さずに助ける事が出来る、という事は分かっている。

 後はそれを、毎回出来るようになれば良い。


 どんな犠牲も糧にする。

 糧にして、未来でより多くの人間を救う事。

 それが真城の今回しっかりと決めた事。ちゃんと掲げた覚悟である。


 今はとりあえず身体を休めよう。

 これでようやく、一段落したのである。



 “影狩り”が手配してくれた専用車に寝かされて、病院へと運ばれる。

 その僅かな時間くらい、眠ってもいいはずだ。


 波嵐市で起きた事件。

 “幽霊騒動”の解決と、“波嵐市の正常化”……“波嵐卍進”の裏に巣くう影人の討伐。

 それら全てを達成し、ようやく任務完了だ。

 多少のトラブルは起こったが、何とか一件落着だ。


 真城は瞼を閉じる。

 そうして寝息を立て始める。



 真城が“影狩り”について二回目の任務。

 それはこうして、達成されたのだった。



…… ……



 時を少し遡る。


 “波嵐卍進”のアジト。

 廃ビルが遠目から拝める場所。

 高層ビルの屋上に、一人の男が着地した。


 その男の事を“影狩り”で知らない人物は稀だろう。

 その危険さ故に“影狩り”が付けた識別名(コードネーム)を知っていたのなら、出会っても戦いなど挑まずに逃げる事を選ぶだろう。


 そんな人物、“黒鉄”が……波嵐市へとやって来ていた。


 時は、天道と黒羽の戦闘中。

 その光景を見て取って“波嵐卍進”の壊滅と、影人達……鴨平、大谷、姫川の敗北。

 そして“影耐性”持ちの人間が“影狩り”によって奪還された事を理解した。


「あぁ~あ、これはどうしたもんかねぇ……」


 “黒鉄”は、“黒点”からの命令。

 “影耐性”持ちの人間を影人達が捕らえたから、それを受け取りに行ってこい。といった指示を受け、ただ受け取りに来ただけだった。

 ……だというのに。


 “波嵐卍進”は壊滅しているは、影人達は全滅しているは、“影耐性”持ちの人間は取り返されているは……と。

 しかも何故か黒羽がこの街に来て戦っているし、最近話題の“真城晴輝”までいるし……と。


 一体なんだこの状況は。

 “黒鉄”はこめかみに手を当てて考え込む。

 これは“黒点”にどう報告したものか。


 折角気持ちよく寝ていた所を起こされて、眠い頭で何とかここまで来てみればコレである。

 今から自分も参戦し、“影耐性”持ちの人間を奪い取る。“真城晴輝”を殺して首を持ち帰る。……それ自体は造作もない事だろう。

 しかし如何せん頭が働かない。

 これから戦おうといった気分じゃない。

 ハッキリ言って面倒だ。


(……帰って寝よう)


 そう思い、踵を返した時だった。

 ふと、視線の先に思いがけない人物が映り込む。


 それは“黒鉄”と同様に“波嵐卍進”のアジトが一望できるビルの屋上に立っていた。

 こちらが高層ビル。加えてこちらの方が後方である為に、その人物はこちらには気付いてない様だ。

 少なくとも、気付いたような気配、動きは見せていない。


 “黒鉄”がすかさず気配を消すと物陰に隠れる様に息を潜め、今一度その人物へと目を向ける。

 その人物で間違いない事を確認する。

 しかし、何度見ても結果は同じだ。


 夜風に黒衣をなびかせるその人物。

 それは言葉通りの“黒子(くろこ)”の姿をした影人だ。


(“黒子”ッ!? なんで奴がこの場所に??)



 “黒鉄”は“黒点”からの指示でここに来た。

 それはこの街の影人から、『“影耐性”持ちの人間を捕らえたから取りに来てほしい』という情報提供があったからだ。


 “黒点”という影人を中心にして影人は集団を成してはいるものの、基本的に影人同士での交流はほとんど無い。

 定期的な集まりの時以外、他の影人がどこで何をしているのかなど“黒鉄”も知らないし、別に知る必要も無いと思っている。

 だから“知って”、“向かう”のは“黒点”からの指示を受けた時のみだ。


 それ以外で、“影狩り”と影人の戦いの場に居合わせるなどというものは、偶然以外に他ならない。

 それは、どの影人も同じだろう。


 なら“黒子”は、偶然ここに居合わせただけなのか?

 それとも“黒子”も、何かしらの指示を“黒点”から貰ったか?


 いや、もしも後者であるのなら、わざわざ“黒鉄”までここに来た意味は無いはずだ。

 “黒点”が“黒子”を向かわせた状態で、“黒鉄”まで向かわせる意味は無い。

 そんなものは、どちらか一人いれば事足りる。


 であるのなら、“黒子”がここにいる事を“黒点”も知らない可能性。

 つまりはやはり“黒子”が、偶々ここに居合わせただけの前者という事になるのだろう。

 それなら辻褄も合うはずだ。


 ……しかし、一体いつからここにいるのか。

 何が目的であの様に離れた場所から、隠れて見学してるのか。

 見ておきたい人物でもいるのだろうか。


 と、そこまでふと考えて。

 一つの仮説に思い至る。


 “黒子”がどういった人物か。

 何を目的に行動してるのか。

 そういった知識を“黒鉄”は持っていない。


 何を考えているのか分からない。

 そんな人物だがしかし、前回の月一の集会では珍しく奴が顔を出していた事を思い出す。

 あの時の議題は確か……“真城晴輝”の能力についてのものだった。


 もしかして。

 もしかすると……。



(“黒子”は、真城の“力”に興味を示してる……のか?)



 しかし、その疑問に答える者は誰もいない。

 “黒鉄”は“黒子”に気付かれぬ様に場を離れる。


 別に“黒子”が何を考えていようが関係無い。

 “黒鉄”は自身が出来る事、したい事、……それをただするのみだ。



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