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カゲビト  作者: 永眠布団
第三章 新たな任務

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第27話 『カチコミ』



 立花が運ばれた病院は、運が良い事に“影狩り”とも裏で連携が取れている場所だった。

 なので、それを確認した切矢が本部へと連絡し、事の次第を説明した。


 切矢が説明を終えて十数分後、病院の前で待つ切矢に声がかけられた。

 それは“影狩り”本部からやって来た、九条であった。

 九条は相変わらず目にクマを作って疲弊しきった顔立ちではあったものの、その瞳には立花に対する心配の念が見て取れた。


 九条がやって来てからは、実にシンプルだった。

 既に話は通してあるのか、九条が立花の母親である事。そして切矢が兄である事など説明し、病院の中へと通された。

 案内されたのは手術室の前だった。

 立花の手術は、既に開始がされていた。

 それは怪我の具合より先に出血が多く、すぐにでも処置に移らなければまずい状況だったからである。


 立花の手術中、切矢は立花がそうなった経緯について知っている限りの詳しい内容を九条へと伝えつつ、その後、真城との作戦の為に自身は波嵐市へと戻る事を説明した。


 しばらくして、手術室のランプが消灯する。

 手術は終了したようだ。

 手術室から出てきた医師の「成功した」という言葉を耳にして、切矢と九条は安堵する。

 実は見た目よりも立花が軽傷であったらしく、手術は大体一時間程で終了したとの事だった。


 時刻は大体21時半。

 手術が思いの外早く終わったのは幸いな事だった。

 あまり時間が経ちすぎては待っている真城にも心配をかける事になる。

 しかも真城は、一人で任務を出来る限り実行中。

 ここでいつまでも切矢が任務から離脱している訳にはいかなかったからである。


 しかしそれはそれとして、せめて立花の手術が無事に終わる事くらいは確認したい。

 それまでは立花の傍にいたい。そういう気持ちもあったのだ。


 手術が終わると、立花は病室へと移された。

 切矢もそれについて行き、立花の私物などを病室へと運び込む。

 立花の無事を確認した九条は、一度本部へと連絡を入れる為に外に行く。と言って出て行ってしまった。


 立花を病室のベッドへと移し終え、看護師達がテキパキと立花の身の回りを整えていく。

 切矢はそれを見守りつつ、立花の私物を専用タンスの中へと入れていく。


 立花のリュック。そしてお面。

 それらは切矢がここに来る前に、男子生徒の家(?)の中から回収しておいた物だった。


 看護師は自身らの仕事を終えると、切矢にお辞儀をして出て行った。

 その際に「消灯時間は過ぎておりますので、お静かにお願いします」という言葉を告げられた。

 ……それはそうだ。

 いくらこの病院が“影狩り”と裏で連携していても、一般の患者もいるのである。

 というか、一般の患者の方が多いのだ。

 あまり特別扱いもしてられない。

 

 病室は個室だった。

 その場所が、果たして一般人も使う場所なのか。

 或いは“影狩り”専用の場所なのか。

 それは切矢には分からないが、それでもあまり騒ぐべきでは無いだろう。



 切矢と立花だけとなった病室。

 そのベッドの前に、切矢は佇んでいた。

 目の前には、寝息をたてて眠る立花だ。


 立花の死は免れた。

 心配事から解放され、ようやく切矢は一息つく。


 眠る立花の頬を軽く撫でてやる。


「全く、……心配かけさせやがって」



 そうしていると、病室に九条が入って来た。

 どうやら本部との連絡を終えたらしい。


「この病室にいる許可を医師から貰って来ましたので、立花さんは私に任せてください。ここは私が見張っておきます」


 九条は切矢と目が合うと、そう切矢に告げた。

 今回の影人には、真城と切矢の他に立花の顔も割れている。

 あの女性の影人が仲間に指示を出すなりしてたなら、簡単に立花の居場所が特定されてしまうだろう。

 何せ傷ついた少女が運ばれたという病院を探すだけの事である。

 もしも手術が無事に修了したと知られれば、事故などを装って殺しに来ないとも限らない。


 そうなれば、現状意識の無い立花では自身を守る事は不可能だ。

 いや仮に意識が回復したとして、一体どこまで動けるか?

 激しい戦闘など、……いくら立花であっても以ての外だ。

 今は安静にさせておくのが一番だ。


 だからだろう。


 九条が言っている事の意味。

 それは九条が、もしも追手が来た際に立花を護衛してくれるという事だ。


「分かりました。行ってきます」


 切矢はそう言って頷くと、病室を後にする。

 波嵐市へと帰還する。



…… ……



 波嵐市で設定した合流地点。

 その場所に、切矢が到着する。

 切矢が来た時、真城は既に準備を終えた様にその場でひっそりと待機していた。


「どうだった?」


 切矢は真城に質問する。


 立花の現状・状態については切矢が波嵐市へと戻る際、真城へと『これから戻る』事を伝えると同時に簡潔に伝えていた。

 手術が無事に終わった事。

 九条が来てくれたので立花の事は任せて来た事、などである。


 故に、ここで聞くのは切矢が病院にいた間に真城が行っていた事の詳細な情報だ。


 真城は頷くと、波嵐市の地図を見せてくる。

 その地図には、いくつかの赤い丸印が付いていた。


「不良達から聞いた情報をまとめたものです。そこの赤い丸印が全て“波嵐卍進(はらんばんじょう)”のアジトだそうで……」


 よく見ると、いくつかあった丸印。

 それが一つを残して、二重線が引かれ訂正がされていた。


「その中で今日召集がかけられた場所がソコ(丸印)みたいです。一応メールの内容も確認させてもらいましたが……それも確認しますか? 念のために写真は撮っておきましたので」


「いや、そこまで確認が取れたなら問題も無いだろう」


 切矢が病院にいた一時間程で、よくここまで調べたものである。

 そう思い、切矢は素直に感心する。



 真城と切矢が行った作戦会議の内容。

 それは、切矢が病院にいる内に、真城が出来る限り“波嵐卍進”のアジトの場所を突き止める。

 そうして場所の特定が済んだ後、二人でアジトに突撃する。

 といったものであったのだ。


 立花の手術が思いの外早く終わった事で、真城も十分な捜査が出来なかっただろうと思っていたし、何だったら切矢が合流してから二人で場所特定に奔走する……といった感じになるとも考えていた。

 が、これは嬉しい誤算である。


 アジトの場所を突き止めたのみならず、いくつかあるアジトの中での“今回の目的地”。

 男子生徒が捕まっているであろう場所まで調べ終えているとは。

 これは本当に有難い。



 ……ん?

 召集のメールを確かめた?



「……因みになんだが真城、どうやってこの短時間でアジトの場所を割り出したんだ?」


「え? それはもう街中の不良を無理やり問い詰めて……」


「ワイルド!? え、真城さんってそういう感じ? ちょ、え、そういう感じのキャラなんです!?」


「いやいや、普段は違いますよ!? 勘違いしないでくださいね!? 今回はただ人質がいるとの事だったので出来るだけ早く助けないといけないなって……そういう思いでしたので!! ちょっと、いきなりヘコヘコとかしないで……態度とか改めなくていいですから!! 全然!! 今まで通りでいいですからね!?」



…… ……



 時を少し遡る。

 それは、切矢と真城が作戦会議を行っていた時の事。

 時刻にして、20時半。


 “波嵐卍進”のアジト。

 その三階建てで縦長の四角いビルの中。

 影人達の姿があった。


「……それで、連れてきたのがコイツという訳か」


 連れて来られた男子生徒、阿久津遼汰(あくつりょうた)を見下ろして鴨平(かもひら)は呟いた。


「まさか“影耐性”を持っていたとはな。“死神”が見えるという噂の少年、……俺が前に確認しにいった時は確かに俺を“認識”出来てはなかったが」


 両手両足を縛られて、口にはテープを貼られて声も出ない。

 そんな状態で床に転がる阿久津を見定める。

 しかし、今のその男(阿久津)の瞳孔には、確かに鴨平の姿が映っている様だった。


「この数日で開花したって事なんじゃないか? 嘘かホントか“死神”が見えるっつう目の持ち主だ。ある意味、素質はあったって事なんじゃねぇの?」


 黒いロングコートを着た男。

 大谷がそう言ってズカズカと阿久津に向かって進み出る。


「だがまぁアイツ(姫川)が言う様に、確かに運は良かったな。“黒点”の危惧する危険因子、“真城晴輝”が来ただけでなく“影耐性”持ちまで現れた。“黒点”が言うには“影耐性”持ちは“影狩り”の連中を捕らえるのでも“アリ”らしいが……俺らとしてはまともに戦う事も出来ないような一般人のが捕えやすい。出来る事なら楽をしてぇ」


 大谷は阿久津の前に立ってしゃがみ込むと、無造作に阿久津の髪を鷲掴んで持ち上げる。


「それにその一般人を囮にして、“影狩り”を誘い込む。それで“真城晴輝”はとっとと殺して、あわよくば残り二人の“影狩り”を捕獲する、と。一石二鳥、いや三鳥ってところかねぇ。……まぁ内一人は病院に運ばれたって話だが」


「闇討ちで分断しての各個撃破。辺りが無難だろうと踏んでいたところに、姫川がこのアジトにコイツを運んで来た挙句、このアジトで迎え撃つなどと言い出した時には『何を勝手な事を』とも思ったが……」


アイツ(姫川)は勝手で気分屋だ。そんな事は初めから分かっていた事だろう? お前が俺達に協力を提案してきた時点で、そういった事は前提にしておくべきだったな。俺らに勝手に動かれるのが嫌ってんなら、最初から一人でやれば良かったろう?」


「確かに、お前らは勝手で気分屋。加えて、ワガママで狡猾だ。……が、同時に戦闘狂で且つ強い。それは“影狩り”を迎え撃つ戦力としては申し分ないものだ」


「ふん」


「それにだ、こうなってしまった以上はこちらも全力で迎え撃つ他なかろう。過程はどうあれ、結果同じになるのならそれで俺は構わない。……考えようによっては“影狩り”からこちらの本拠地に飛び込んで来てくれるという訳だ。“影狩り”も十全の準備をしてくるだろうが、それはこちらも同じ事。街の影人を集結させ、数の暴力で押し潰してやればいい」


 鴨平は窓の外。

 夜の街を見下ろして、いずれ来たる敵。“影狩り”を見据えて時を待つ。

 大谷も阿久津をいじるのに飽きたのか、阿久津を放すと近くのソファーに腰掛ける。


 そんな時だった。


「“影耐性”持ちの一般人を確保したって話したら、“黒鉄(くろがね)”の奴が取りに来るってさ」


 そう言って、ウェーブがかった金髪の女性。姫川が部屋に入ってくる。


「あん? “黒鉄”が? ……まさか、俺達の手柄を横取りするつもりじゃねぇだろうな」


 大谷が“黒鉄”の名を聞いてポキポキと指を鳴らす。


「ダイジョブでしょ? 私が捕えたぁ~って伝えといたし」


「お前がぁ? そこは俺らの手柄じゃねぇのかよ!!」


「当たり前でしょ~? 私が発見して連れてきたのは事実なんだしぃ~~」


 睨み合う大谷と姫川。

 しかしそれを鴨平が溜息を吐きつつ仲裁する。


「手柄が横取りされるってのは、そう言う事じゃないだろう? “黒鉄”との受け渡しまでに“影狩り”との決着が着いてなきゃ“影狩り”の……いや、特に“真城晴輝”抹殺計画に奴も加担されかねない。そうだろ?」


「……あぁ。それじゃあアイツとの立場が一向に縮まらん」


「なるほどねぇ~。“黒鉄”が来るまでに決着つけとく必要がある訳かぁ……」


 鴨平。大谷。姫川。

 三人はそれぞれ視線を交えると、同時に背を向けそれぞれの持ち場へと向かっていく。


 “影狩り”を討つ為に。



…… ……



 そして現在時刻は22時。

 “波嵐卍進”のアジト。その三階建てで縦長の四角いビルを見下ろすようにして、近くのビルから眺める人影があった。

 真城と切矢である。


 切矢がアジトを見渡して呟いた。


「しっかし、よくあんなビルをアジトに出来たな“波嵐卍進”……っていうか影人は」


「あれ、見た目は綺麗ですけど廃ビルらしいですよ。廃れた原因とかは知りませんが、もう何年も前から不良の溜まり場になっていたみたいですね。それでそこにいた不良達やその他の不良グループを取り込んで纏め上げたのが最終的に“波嵐卍進”と名乗る様になったとか。それが大体四年前……みたいな話を」


「ふーん……、四年前ねぇ。てことはこの事件も案外、最近神崎が忙しくしていた話に絡んでくるのかねぇ」


「どういう事です?」


「うん? ……あぁ、そういや真城は懲戒処分とかってんでしばらく任務に参加していなかったんだったか。俺も“影狩り”に入ったのが今の体制になってからだから詳しくは知らないんだが……、何でも“影狩り”が国管轄の組織に切り替わるタイミングで色々上手くいってなかった時期というか期間というか、まぁとにかくそういったタイミングがあったみたいでな。組織としてしっかりと回るようになるまでの間、影人の調査・捜索が滞っていた事があったらしい。……でだ、ここ最近になって神崎がその“滞っていた時期”に起きた行方不明事件とかを洗い出して詳しく調査をするって事をし出したのよ。その結果、任務の数が増えて増えて……俺も立花も大忙しだったってわけ。で、今回のも時期的に“そのタイミング”に起きていた事件ぽいからさ、それで今まで本部に気付かれてなかったのかなぁ……ってさ」


「そんな事が……」


 神崎が最近まで、真城の“力”の利用について政府を説得していたといった話は聞いていた。

 そしてその疲れから“アイ”のボディを組み立て、暴走に至ったという経緯についても。


 しかしその“疲れ”の中に、『“影狩り”の組織が滞っていた時期の調査』も含まれていたのなら、それは確かに現実逃避をしたくなるのも頷ける、かもしれない。

 実際に任務として現場に赴くのは切矢達『戦闘部隊』ではあるものの、それ以外に怪しい場所に『調査部隊』を派遣して、得られた調査資料から任務内容とその人員を選抜し、『戦闘部隊』や『支援部隊』が任務を終わらせても、その後に『収拾部隊』を派遣させ最後に任務完了の書類作成とその確認。……やる事は沢山だ。


 それらの工程を、『戦闘部隊』である切矢や立花が大忙しだと思う程にしたのなら……。

 その後“アイ”が起こした暴走の後処理までをさせられていた神崎に、自業自得とはいえどかなりの同情心も湧いてくる。


 それにだ、今回の任務は水樹(みずき)が偶々見つけて持ち込んだものであり、神崎が発見したものじゃない。

 にも関わらず、結果として影人が関わっている可能性のある四年前(滞っていた時期)の事件が発見された事となる。

 それはつまり、まだ他にも見つけていない事件がある可能性を示唆している。


 この任務が無事に終わったら、真城もその“大忙し”に参加するのだろう。

 それら任務を早々に終わらせて、少しは神崎を労わってやろう。……と真城は内心で考える。


 が、とりあえず今は目の前の任務に専念だ。

 一つ一つ着実に終わらせよう。



「……にしても、流石は街を仕切る不良グループってところなのかね。人の数が多い多い」


 切矢がアジト入り口に集まる不良達を見て愚痴をこぼした。

 見える限りでも、入り口を陣取る不良達の数は四、五十人はいるだろうか。

 一般の通りからは少し外れた場所であるのをいい事に、ほぼ全員が人目を気にする事もせず堂々と目立つ格好と武装をし、中でもバットや鉄パイプ、木刀といった長物類がよく目に付いた。

 その異様さは、さながら一昔前の不良漫画に登場するような出で立ちだ。


「あぁいう格好を見ているとなんつーか結局の所、陽キャの不良連中も陰キャのオタク連中も、根本的は部分では同じなんだと実感させられるよなぁ……」


「一体何の話です?」


 突然、切矢がそんな事を言い出して、真城は疑問符を浮かべる。

 そんな真城に対して少し考え込んだ素振りを見せると、切矢は更に噛み砕いて語り出す。


「いや、何。何に触発されたのかは知らないけどさ、向いているベクトルが違うってだけでオタクも不良も同じだなってのを言いたいんよ」


「“波嵐卍進”とかもそんな感じですけど、……要するに『本気(マジ)』とか『夜露死苦(よろしく)』とか、あえて難しく漢字を当てるところが厨二と一緒だよね~とかそういった話です?」


「そうそう、そんな感じそんな感じ。髪を染めるのがカッコイイ。ジャラジャラとアクセサリーを身に付けるのがカッコイイ。刺青やタトゥーがカッコイイ。車やバイクを爆音たてて乗り回すのがカッコイイ。……ってな感じでさ、世に言う不良と思われるような行為でもそれを“カッコイイ”と感じて憧れて、自分もそうなっていこうとするのか。もしくはアニメや漫画の主人公の行動だったり能力だったり痛いセリフだとかを“カッコイイ”と感じて憧れて、自分がそうなる事を妄想するのか。その、『何らかの物事に“カッコイイ”と感じて憧れる事』自体に違いは無いって思うのよね、俺は」


「はぁ……まぁそうですね」


 なんとなく切矢の言いたい事が分かって真城も頷く。

 要は全員が何かしらのオタクである。と、そう言いたい訳だろう。

 別にそれは不良や、漫画・アニメオタクに限らない。

 様々な憧れの職種。

 スポーツ選手だったり俳優だったり。

 そういった“カッコイイ”、“自分もやりたい”、“なってみたい”という憧れが根底にあるものだ。


 それには自体も真城も同意見。

 しかし、あまりにも簡素な反応だった為だろう。


「あれ? 反論とかも無い感じ? ……少しは何か駄弁ろうぜ。あんまり無言でいるとこれからの戦闘で身体が言う事聞かないぞ」


「……緊張をほぐす為の会話だったんです、コレ?」


 切矢からそんな事を言われてしまう。

 確かに決戦前に緊張を無くすのは大事かもしれないが……話題としては話を広げられる自信がない。

 真城は少し考えて、


「いや、俺が気にしているのはどちらかと言えばその後で、その不良とオタクで、前者の方が加害者になりやすく後者の方が被害者になりやすいって事の方が問題なんですよね。どちらも同じで優劣なんて無いんですから、互いが互いをバカにする意味も無いと言いますか、互いの意志や意見をもっと尊重出来る世の中になるのが一番だなぁと。それこそ多様性を大切にって感じで。……まぁ何事にも“行き過ぎる”ってのはそれはそれで問題になっちゃうんですけれどね、結局のところ。今回の不良達もそうですが、それに限らずオタクや多様性だって同様に」


「そりゃそうだ」


「…………、」


 ……おい。

 話を繋げてくれないのかよ。

 瞬時に話が終わったぞ。

 そんな事なら話をわざわざ振るんじゃない。



 真城は気を取り直して、アジトへと向き直る。

 これからの戦いの為に緊張をほぐすのは大切だ。


 しかしそれはそれとして、真城には急ぐ気持ちも確かにあった。


 アジトに集まる不良達。

 その見た目はともかく、年齢層は二十歳(はたち)にも満たない子供達。

 あくまでもヤクザや暴力団といったものではなく、それ未満。

 そういった者達と関わりを持つ者も或いはいるのだろうが、少なくともこの集団はまだ“不良のグループ”といった集まりでしかない訳だ。

 まだまだ更生出来る段階だ。


 彼らが自ら望んで、或いは感化されて“そう”なったのか。

 将又、“波嵐卍進”の設立にさえ影人の介入があったのか。

 それは分からないが……もしかすれば真城達の働きで、或いは任務終了で街の状態が改善し、彼らの更生に何らかの後押しが可能となる。そうして取返しのつかない様な変な道へと行く前に助けられるかもしれないと考えると、……真城の鼓動が早くなる。


 影人に乗っ取られた被害者を助けたい。

 しかしそれと同様に、誤った道へと進もうとしている少年達を助けたい。

 そういった思いや考えが、真城の気持ちをはやらせる。


 それにだ、助けたいというのなら何も影人や不良達といった既に加害者側になってしまっている者達に限らない。

 この街に来てまだ一日も経過していないが、それでも分かった事がある。

 それは『街の正常化』という行いを、どれだけこの街の人間が求めているのかという事だ。


 任務を遂行する関係上、街の惨状を見て見ぬフリをした事もあった。

 いじめられている生徒達を無視して通り過ぎた事もあった。

 全てはこの『街の正常化』。影人を倒す為だと言い聞かせ、切矢の言う様に『優先順位を見誤るな』と、目の前のいじめに割って入っても『根本的な解決』にはならないと、目を背けた事もあった。

 しかし。それでも。

 何度も何度も見て来た事実があったのだ。


 ここが敵の総本山。

 ここが任務の最終地点。

 ここを終えれば、全て丸く収まる目処が立つ。



「……それじゃあ、早く行きますよ!!」


「たっく、しょうがねぇな。もう行くのか」


「どれだけ探しても正面突破しか無いですよ。こちらの人員の補充もありません。……いい加減諦めましょう」


「やれやれ」


 真城達のやる事は至ってシンプル。

 アジト入り口を正面から突破して侵入。そうして各個影人を撃破しつつ男子生徒を助け出す。これだけだ。


 アジトの侵入には正面からの他に、“影世界”を経由して行くという手もあった。

 が、“影世界”内に影人の存在を確認した事。

 “影世界”では真城が“力”を使えない事。

 アジトの内部にも一般人がいる為(目視&双眼鏡で確認済み)、“影世界”から外に出る際に見られる可能性があり、一般人のいない場所or見られない場所を探す(しかも“影世界”で影人と戦闘しつつ)のが大変。

 などの理由で却下という運びとなっていた。



 一般人の不良がいる為に、その視線がある間はこちらも“影操作”をまともに使えない。

 故に一般人を即座に戦闘不能にし、……そこからが本番だ。


 逆に“影世界”経由ではなく正面突破を選んだ理由に、『一般人を即座に戦闘不能にさせるなら、正面突破の方が邪魔も受けにくいだろう』……といった理由もあるのだが、それはまぁすぐ分かる。

 とにかく行動を開始しよう。



「さっきは向こうからの襲撃を受けましたが……今度はこちらの番ですよ!!」


「シャア!! カチコミじゃい!!」



 その直後、真城と切矢。

 二人は“波嵐卍進”のアジトに向かって突っ込んだ。



 そして。そして。



「来たぞぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!」


「アイツらだぁぁああ!! 殺せぇぇぇええええええ!!!!」


 アジトへ向かって駆けてくる真城達を確認し、不良達が大声で喚起する。

 そしてそれを受けて入り口に集まる全ての不良達が奮い立つ。

 腕を回し、拳を鳴らし、武器を構える。


 その直後だった。

 真城と切矢。そして不良達の一団が正面から激突した。



…… ……



 押し寄せる人並をかき分ける。

 雨の様に降り注ぐ拳を掻い潜る。

 迫り来て、突かれ、振り下ろされ、薙ぎ払われる長物を躱しきる。


 そうして弾丸のように一直線につき進んだ真城と切矢はアジトの入り口へと到達する。

 しかし、敵だってバカじゃない。

 ご丁寧に入り口の扉が開けっぱなしな訳ではない。

 アルミ製の“日”の形をした枠にガラスが取り付けられたような開き戸は固く閉ざされて、中からも鍵が閉められている状態だ。

 しかしそれを、


「真城、ここは俺に任せろ!!」


 と言って前に出た切矢が、ついに背負っていた赤と黒の千鳥格子(ちどりごうし)柄の竹刀袋へと手を伸ばす。

 そうして中から竹刀を取り出して……、扉を一太刀のもとに切り裂いた。


 ガッシャーンと盛大にガラス片を飛び散らせ、扉の右上から左下にかけて大きな一本線の穴が開く。


「――ッ、!!??」


 目の前で起きた事態。

 その情景を焼きつけて、不良達は無言で口と両目をかっぴらく。

 それは真城達を追っていた後方の者達と、アジト内部の扉の前で控えていた者達の全員だ。


 切矢が取り出した竹刀。

 そしてそれが振るわれる……その直後までは理解出来た事だろう。

 しかしそれが振るわれて、その結果起こった出来事に脳の処理が追いつかなかったに違いない。


 切矢のすぐ後ろを走っていた真城でさえ、原理を知らなかったなら同じ反応をしただろう。


 仮に切矢の構えた長物が日本刀のような鋭い刃のついた物であったなら納得したかもしれないが、しかし切矢の構えた物はただの竹刀。

 それは見るからに何の変哲もない一般の竹刀そのものだ。

 もしもその竹刀が、中身に金属などの重りを詰めた不正な代物であったとしても、その事実が変わる事は無いだろう。

 何せ竹刀とは、日本刀などのような切れ味を活かした斬撃武器ではなく、打つ事と突く事を目的とした打撃武器。

 ガラスを叩き割る事は可能でも、アルミ製の枠ごと“切る”といった行為は不可能なはずなのだ。


 無論切矢がおこなった行為とは、竹刀に纏わせた影で日本刀の様な刃を作り出し、文字通りに斬撃武器として扱った訳ではあるのだが、それが“見えない”不良達からすれば理解の出来ないものとなる。


 状況が一向に飲み込めず呆然とする不良達を良い事に真城達は、その切矢の開けた穴を目掛けて突進する。

 全身“影纏い”で扉に残ったガラス片や散ったガラス片などから身を守りつつ、両断されて脆くなったアルミ製の枠を無理やり折り曲げてアジト内部へと侵入する。

 その勢いで、内部で控えていた不良数人までもを巻き込んで床にゴロゴロと転がるが、すぐに体勢を立て直して起き上がる。



 目の前に広がるのは明かりの点った室内だった。

 しかしビルの明かりは点いていない。それは廃ビルなので当然だ。

 では何の明かりが点いているのか? その答えは辺りを見渡してすぐに分かった。


 この場所が“波嵐卍進”のアジトとして日を重ねている為だろう。

 故に不良達によって持ち込まれ、或いは改造された設備により、夜だというのに通常の室内とも遜色ない明るさになっていた。


 アジト内部。

 その一階エリアは玄関が少し広くなっており、そこから続く一本の長い廊下とそれぞれの大部屋へと繋がる入り口が三つある作りとなっており、更に廊下の一番奥には二階へと続く階段も見えていた。

 本来であれば、それぞれの部屋を確認して回る必要もあったのだが、ここが廃ビルであった事が幸いした。


 何せ、わざわざ入って確認する必要さえ無い程に荒れていたからだ。

 三つある入り口の内二つは既に扉が破損したのか付いておらず、残る一つも折れ曲がり扉の役割を果たせない状態となっていた。

 更にはそれぞれの大部屋と廊下を繋ぐ壁の間に設置された窓ガラスもそのほとんどが割れていて、扉や窓をわざわざ開けずとも大部屋の内部がどうなっているのかが外からでも分かる惨状であったのだ。


「この階にはいませんね」


「そうだな。人質の生徒もいない」


 ざっと辺りを見渡して、今回の戦闘で厄介だと思われる影人がいない事。

 並びに、攫われた男子生徒もいない事を確認する。


 厄介であろう影人というのは、黒いロングコートを着た男性影人と金髪ウェーブの女性影人の二体である。

 この二体はまず “フェイズ4” で間違いない。

 これは、最後の情報交換で共有し、意見し合ったものだった。


 真城と切矢の進行を阻めずに、むざむざとアジト侵入まで許してしまった外の不良達。

 そんな彼らが、急ぎアジト内部へ殺到する。

 そしてものの数秒で、少し広くなっていると思われた玄関を不良達が埋め尽くす。


 真城達は不良を倒しつつ廊下の奥、階段へと駆けていく。


「こんなもんかね?」


「そうですね。そろそろいいんじゃないですか?」


 両手に持ったゴルフボールサイズの物体を勢いよく、一階の四方へと投げていく。

 そしておまけとばかりに、真城達が二階への階段を半分ほど登ってから、更にもういくつかゴルフボールサイズの物体を一階の廊下へ向けて投げ込んだ。


 これが真城達の考えた秘策。

 一般人を即座に戦闘不能にさせる為の秘密兵器。



 “睡眠ガス弾(睡眠玉)”であった。



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