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カゲビト  作者: 永眠布団
第三章 新たな任務

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第26話 『切矢の行動・真城の戦闘』



 最悪だった。

 それは散々な事だった。


 波嵐高校を後にして、“波嵐卍進(はらんばんじょう)”を名乗る不良達に追い掛け回されたと思ったら、いつの間にやら真城ともはぐれて一人で逃走する羽目になり、加えて只の不良達だけかと思いきやその中には影人も何人か潜んでて、不良の拳や蹴りの合間を縫う様に影で攻撃を仕掛けてくる。

 こちらも影で反撃をしたいのに、一般人である不良の目が邪魔で、碌な対処も行えない。

 それに何やら、切矢・真城・立花の顔写真が彼ら不良達には共有されているらしく何処へ逃げても隠れても、奴らは懲りずに追ってくる。


 そうして切矢は次第に追い詰められていき。

 ……今いる場所さえも何処か分からなくなっていた。



 その後も最悪だった。


 不良の攻撃。

 影人の攻撃を捌ききり、見知らぬ道に出た時だ。

 不自然に集まる人の群れを発見する。


 或いは人混みに紛れるか。

 木を隠すなら森の中、などと言う程だ。

 走り続けて息も切れ、流石に少しは休憩をするのもアリだろう。

 そう思い、突入した人混みの中心で切矢の視界に……目を疑う様な光景が映り込む。


 それは人混みの中心で泣き叫び、『救急車を呼んでくれ』と必死に訴える男の姿。

 そしてその男が抱えているモノを見て、切矢の心臓が跳ね上がる。


 あれは。

 あの人物は、間違いなく立花だ。


 立花が倒れている。

 力無く、気絶でもしているのか動いている様子もない。

 しかもそんな立花から流れる、あの赤い液体は……?

 そしてそんな立花と男を見て笑う、あの女性は……影人か?

 どうして誰も助けようと動かない?

 これだけの人数が揃っていて、誰一人として救急車を呼んでいない?


 様々な感情が入り交じり、全力で人混みをかき分けた。

 しかしそれでも一向に前に進めない。

 人の波が、切矢の行動を阻害する。


 鬱陶しい。


 そうして切矢は、強硬手段を試みる。

 どれだけ合間をくぐろうとしても退かない人々を、乗り越える。

 何人かの人物を踏み台に、人の壁をよじ登る。

 そうして人の肩から人の肩へと飛び移り、邪魔な人々を文字通りの意味で“乗り越える”。


 かかった時間は僅か数秒。

 一気に人混みの最前列まで移動して、中心へとやってくる。


 勢いを付けてジャンプをし、そうして地面へと着地した。



「てめぇら、一体何してる!!」



 切矢は周りの人間を怒鳴りつけると、視線の先の影人を蹴り飛ばす。

 今はお前に構っている暇はない。

 今優先するべきは立花だ。

 ざっと辺りを見渡して……一人の主婦で目を止める。


「救急車を呼んでくれ!!」


「え、でも……もうきっと誰かが」


「どうせ誰も呼んでねぇんだろうが、早く呼べ!! じゃねぇと俺が『血まみれの少女を見殺し』つって、てめぇらの顔写真拡散すっぞ、ゴラァ!!」


 睨みつけ、威圧する。


 今が緊急事態である事は誰もが分かっているはずなのだ。

 そうであるにも関わらず、誰もが『自分以外の誰かが』と言って救急車を呼びもしない。

 早く呼ばなければならないと、早急に病院へ送らねば少女の命が危ないと……分かっているはずなのに。

 

 まだ馬鹿をやっているのなら……。

 これだけ言ってまだ救急車を呼ばぬなら、どうなるか覚えとけ……。



 一般人達に構うのはここまでだ。

 影人の女性は、既に起き上がって、更に行動を起こしている。

 その見た目。身体を変形させている事からも、この影人が“フェイズ4”であることは明らかだ。


 何故か影人の小脇には、男が一人抱えられた状態だ。

 次に何をしてくるのかが分からない。

 人質とでも言うのだろうか?


 しかしそれでも、影人をどうにかしなければという状況は変わらない。

 例えどんな状態であろうとも、油断ならない状況にある事に違いない。


 まずは、この騒ぎの元凶を片付けよう。

 どうにかあの影人をこの場所から追いやらなければ、いずれ来る救急車の邪魔になる。

 この場所と、立花の状態は、もうここの人達に任せる他ないだろう。



「待てや、ゴラァ!!」



 気が付くと、影人は逃走を始めていた。

 それも、人質? の男を抱えたままで。


 切矢は女性の影人を追いかける。

 向こうからこの場を離れてくれるなら、こちらとしてはありがたい。

 本当はこの際影人を見逃して、立花の応急処置などをしたい所だが……何故か囚われていく、あの男を放ってもおけない。

 結果。影人を追いかける事を選択する。



……



「そいつをどこに連れて行く!!」


 切矢は女性の影人を追いかけて何度も曲がり角を右折、左折と繰り返す。

 走るスピードはほぼ互角。

 男一人抱えて走る分、女性の影人の方が少し不利といったところだろう。


 しかしそれでも、元々の疲弊に加えて何度も角を曲がる為、思う様に距離が縮まらない。

 いつまでこの追いかけっこは続くのか。

 そんな愚痴を垂れつつも、切矢は目の前を移動する影人を見失わない様にひた走る。



 そんな追いかけっこの幕引きは、……以外にも早く訪れた。

 影人を追いかけてとある角を曲がった時、道の先で影人が待ち構えていたからだ。

 一瞬、罠のある場所へと誘い込まれたか?

 と、そんな疑念が頭を過るが、しかし見たところその場所は何の変哲もなく。ただの一般的な道だった。


「流石に、簡単には逃がしてもらえないみたいだねぇ~」


「ったりめぇだ。もし本気で逃げる気なら、せめてその抱えてる男は置いて行くんだな。そうすりゃ、ちょっとは早く逃げれる様にもなるだろう?」


「あはは。折角私の強運が引き合わせてくれた拾いモンを簡単に手放したりはしないでしょ~。コイツは私が出世する為に“黒点”様の献上品にするのよねぇ~、だからアンタが諦めて?」


「却下だな」


「……あぁ、そうですか」


 交渉は決裂したようで、女性の影人は興味無さげに切矢から視線を外して背を向ける。


「正直、アンタなんかに興味無いのよねぇ~。コイツを手に入れた以上、わざわざ危険を冒してまでアンタとやり合う必要無いんだし。……それでももし、アンタが“真城晴輝”を連れて来てくれるならぁ、コイツは諦めてあげても良いかなぁ~なんて、ね!!(……まぁ、嘘だけど)」


 女性の影人は胸元から徐に懐中時計を取り出すと、それを頭上に向けて明かりを点けた。


「――ッ、!!」


 その瞬間だった。

 その明かりを目印に、大勢の気配が集合する。

 そうしてものの数秒で切矢を取り囲む、影人達の包囲網が完成した。


 何故、この話の流れで“真城晴輝”の名前が登場するのか。

 何故、この影人は“真城晴輝”の名前を知っているのか。

 そういった疑問が頭を過るが、今はそれを考えている時でもない。


「お待たせしました姫川さん!!」


「こいつが例の“影狩り”っすね!!」


「ちゃちゃっと、バラしちまいましょう!!」


 見たところ、到着した影人は全員が“フェイズ3”。

 姫川と呼ばれた女性の影人に比べれば危険度は低くなるが、それでも警戒をしなくていいという訳じゃない。

 あくまでも“フェイズ4”と比べれば、といった話である。


 それにこの人数差。

 まず楽な突破は無理だろう。


「こういった古典的な方法でも、戦力を集めるのには役立つのよねぇ~」


 そう言って、満足げに懐中電灯を胸元にしまい直すと、


「もしもコイツを返して欲しいなら、“真城晴輝”と一緒に私らのアジトに来る事ね。私らに勝てたなら、コイツは返してあげる。まぁつまりは勝者の総取りってな話ぃ~、どうかしらぁ?」


「……そんな見え透いた罠にかかれって?」


「どの道そっちに選択肢とか無いと思うけどぉ? アンタ達って私ら全滅させに来たわけじゃん? そんでもって、まさか一般人を見殺しにとかしないでしょ~」


「……、」


「死ぬ気になったらいつでもおいで。ちゃんと殺してあげるから」


 切矢の相手を他の影人達に任せて歩き出す。


「……おいおい、そのアジトの場所とやらを聞いてねぇぞ」


「そんなのすぐに分かるでしょ? 私らの隠れ蓑、“波嵐卍進(はらんばんじょう)”のアジトと言えば、ねぇ~」


 女性の影人。

 姫川の姿が闇の中へと消えていく。


「もしもアンタが今回、私の手下達に手を出さないって言うんなら、今回は見逃してあげる。この事を“真城晴輝”にちゃんと伝えてもらわなきゃならないものね。まぁ無理してこのままコイツら(手下達)()り合いたいぃ~ってんなら止めないけど?」


 姫川の最後の声が、切矢に届いた。

 それを聞き入れ、舌打ちをしながらも矛を収める事を了承する。


 切矢が戦わない事をくみ取ると、“フェイズ3”の影人達も次第に闇に消えていく。

 そうして、影人達の気配が完全に消えてなくなると、……切矢はもう一度大きめな舌打ちをするのだった。


 “フェイズ3”程度。

 切矢からすれば、わけもない。

 時間はかかるだろうが、まず負ける事は無いだろう。


 しかしそれでも、切矢が止めた理由。

 それは現状の人数なら問題無いというだけで、時間をかければそれだけ影人の人数が増える可能性が高くなるという、そういった不安定な要素まで含めると勝敗が分からなくなるからだ。


 もしも切矢が負ける事態。

 怪我する様な事態となれば、それはそれで事である。

 立花が倒れた現状で切矢まで倒れては、戦える戦力が真城のみになってしまう。


 であるのなら、ここは切矢の戦力を温存し、且つ姫川が言う様に『男を助けたくば“波嵐卍進”のアジトに来い』といったメッセージを真城に伝える役割を全うし、例え罠と知ってても準備万端の状態で真城と共にアジトへ乗とり込むのが最善か。


 それに切矢の耳に微かに届いたあの“音”は……間違いなく救急車のサイレンだ。

 であるのなら、救急車は無事に呼ばれたという事になる。

 なら今、切矢が心配すべきは立花の容体だ。


 立花は、切矢が“助ける事”を決意した人間だ。

 助けた事を最期まで責任に持つと、そう決めた人間だ。

 であるならば、仮に今日が命日となるのなら、それを見届けるのもまた使命。


 それにだ。

 姫川に連れ去られたあの男。

 あの人物には切矢も見覚えがあった。

 あれは間違いなく、立花が“助ける”と決めた人間であったはず。


 ややこしくはあるものの、あの男は切矢が一切の責任を持つと決めた立花が、一切の責任を持つと決めた人物だ。

 つまり、何が言いたいのかと言えば……。


 あの男もまた切矢が責任を持たねばならない人物だ。

 まだまだ不甲斐ない立花が身を挺して守り……そして守り切れなかったその尻拭いを“親”である切矢がする他ない。

 あの男に何かあったなら、それは守り切れなかった立花の責任で、延いては切矢の責任でもあるという厄介さ。


 ……いや本当、とほほな案件だ。


 そういった面倒な責任を切矢が背負わなくても良いように、立花の生存は非常に重要な事で……。

などと言い訳をこねくり回すが、素直に立花が心配であったのだ。



 今急げば、救急車にはギリ間に合うか……?

 そう思い、切矢はもと来た道を全力でダッシュした。



……



 立花が倒れていた場所。

 その場所まで切矢が戻ってくると、そこには救急車とパトカーが止まっており、警察があれこれと事情を聴いている傍らで、担架に乗せられた立花が隊員達によって救急車の中へと運び込まれている最中であった。


 何故、警察が?

 そう一瞬思ったが、よくよく考えれば一人の少女が血まみれで倒れていたのだ。

 その出血量からしても、ただの事故とは思えない惨状だ。


 それに加えて切矢もよく把握出来てなかったが、立花が倒れていた箇所近くのアパート一室。その扉が消えており、その扉の留め具の破損具合から見たところ“壊れた”というよりは“壊された”という方がしっくりとくる程度には盛大に折れ曲がっているのが見て取れた。

 もし仮に血まみれの立花がいなくとも、この扉の破損だけで十分に警察は呼ばれてくる案件だ。



 切矢が現場に近づこうとして、気が付いた。

 『今の服装のままで警察に見つかるのはよろしくない』。

 そう判断するや否や、切矢は急いで身を隠す。


(……マズったなぁ)


 勢いで出て行こうとしてしまったが、よくよく考えると警察に今の状況を知られるのは非常に面倒な事になる。


 切矢は今、高校潜入の為とはいえ波嵐高校の制服を着用中。

 本来であれば調査の終了次第、制服は着替えるはずだったのに間が悪い事に襲撃者(不良達)に襲われた。

 その結果町中を逃げ回り、こうして現在に至るまで制服を着たままといった状態になってしまったわけである。


 生徒手帳(偽造)は確かにある。

 しかしそれで一旦生徒である事などを伝えても、後日……というかすぐに波嵐高校の生徒でない事がバレてしまう。

 そうなると、切矢も“怪しい人物”の仲間入りになるだろう。

 そしてそれは、立花も同様だ。


(まぁ~た『収拾部隊』に怒られるとこだった)


 隠蔽も楽じゃないんだぞ、と。

 大目玉を食らう羽目になる。


(……まぁそん時はそん時だ、その為の部隊なんだし知らん知らん)


 そもそも清水や神崎といった人物が悪いのだ。

 “影狩り”が国管轄の下での行動を開始して早三年。

 ……だというのに、未だに潜入調査などにはこうした偽造を使っての荒い処理がされている。

 “秘密結社”などと謳ってはいるものの国運営に切り替わったのだから、そうした処理も国管理でちゃんと操作してくれればいいのである。

 いつまでも非公式であった頃の名残で行動し、こうして問題に上がる時だけ国の力を利用する……のではなく、潜入調査をさせるなら初めから国に事情を説明し、周りにも話を通しておくべきなのだ。

 『問題が問題として上がるまでは問題じゃない』の精神でいつまでも動くから、いざ問題になった際、てんやわんやとするのである。


 そういった“不備”に巻き込まれて怒られる切矢からすれば、たまったもんじゃない案件だ。

 上がもっとちゃんとしてくれれば問題無い。初めからしっかり動いていたのなら、起こり得ない問題だ。

 悔い改めて。




 ……それにしても、この後はどうするか。

 

 立花は病院へと運ばれていく。

 あの傷からしても任務続行は不可能だ。

 

 任務自体は、切矢と真城で何とかするにしても、まず立花が戦闘不能になった事。

 そして救急車で病院へと運ばれる事を本部に伝える必要はあるだろう。


 現状で伝えられるものは全て本部に連絡するとして、その他に……立花がどこの病院に運ばれるのかも知っておく必要はある。


 仮に運ばれる病院が、“影狩り”御用達の息がかかった所であれば問題無いが、そうでない場合は本部の介入も必要になってくる。


(なら、まずは……あの救急車を追いかけて……ん? 待てよ、その前に)


 切矢は端末を取り出して操作する。

 

「出ろよ……」


 することは、真城への連絡だ。



……



「……どうして、俺の名前を知っている?」


 真城達の顔写真が不良の間で出回っている事は知っている。

 そうした理由で真城達の面が割れ、その情報を頼りに不良達が追って来ている事も分かっている。

 だが、しかし。

 真城の面が割れている事と、真城の名前まで知られている事は全くの別問題だ。


 “アイ”に顔認証でバレた様に、不良達もそう言った技術を持っている?

 そうした可能性も無くは無いだろうが、それにしたってわざわざ調べる理由も無いはずだ。


 この街に住んでいる訳でも、住まいがある訳でもない。

 名前を調べたところで得られる情報は何もない。

 それは不良達に限った話じゃない。

 影人から見ても、この街にやって来た“影狩り”が誰であるのかはそれ程重要ではないはずだ。

 逃げるなり、迎え撃つにしたってその判断材料は敵対勢力の“影狩り”が何人(・・)か分かれば良いはずだ。

 やはり、わざわざ名前まで調べる利点は薄くなる。


 そう思い顔を顰めた真城に対して、しかし大谷と呼ばれた影人は……笑って答えた。


「何だ知らねぇのかよ、お前? 最近影人界隈では有名人なんだぜ、“真城晴輝”って名前はよォ!! 面倒な“力”持ってるんだってなぁ。危険視してたぜ、“黒点”も“黒鉄”も――」


 黒いロングコートを着た男。

 大谷と呼ばれた影人が、真城に向かって接敵する。

 そうして、振り上げた拳を真城へと叩きこむ。

 その拳には当然、影が纏っていた。


 真城はそれを、影を纏いつつ交差させた腕でガードするも、


「なぁ!!」


「――ッ、!??」


 ドゴンッと響く衝突音。

 しかしそのすぐ後に、想定していた以上の一撃を受けて真城は後方へと吹き飛んだ。

 真城が纏っていた影の防壁さえ、その一撃で砕け散る。


「がふっ!?」


 地面へと転がって受け身も取れずに二度、三度とバウントする。

 しかし真城もそれだけでは終わらない。

 回転する身体を無理やり動かして、地面を掴む。

 そうして勢いを殺しつつ自身の身体が今どちらの方向を向いているのかを把握すると、丁度良いタイミングで起き上がる。

 グラつく視界を抑えつけ、何とか倒れない様キープする。


 真城が影人界隈で有名人……?

 その“力”の事さえ、影人達には既にバレている……?


 そう言った情報が思わぬ形で飛び出すが、それについて詳しく聞いている場合じゃない。

 既に戦いは始まっている。

 思考を早急に切り替えなければ致命傷になりかねない。


「……ぐっ!!」


 真城は受けた痛みで顔を歪めつつ、その痛みを起点として戦闘思考へシフトする。


(なんつぅ攻撃をしやがるんだ、馬鹿力野郎!!)


 まるで鋼鉄の塊にでもぶん殴られたような感覚だ。

 その見た目から受ける攻撃の印象と、実際に受けたダメージ量が一致しない。

 ……そのような印象を受けとった。


 真城の記憶で浮かぶのは、前回の任務で戦った“フェイズ4”の影人。

 あの影人は自身の筋肉を増加させ、攻撃の威力と範囲を増していた。


 この大谷の先程の一撃もそのようなイメージを彷彿とさせるが……しかし拳の直撃を受けた時、筋肉やら拳やらが大きくなったようには見えなかった。

 筋肉や拳だけじゃない。

 纏っていた影さえも、その量が増えてはいなかった。……はずである。


 目視での確認が出来ない何らかの能力か。

 或いは、本当に見かけ以上の馬鹿力の持ち主か。


(……ていうか仮に、そこまでの馬鹿力を持っているのなら、それはもう一種の能力なんよ、ソレ)


 グラつく視界で、真城はアレコレ考える。

 だがそれを不良達が許さない。


 真城を取り囲む不良達が、動かない真城へと一斉に攻撃を開始した。


「……くそっ」


 或いは、金属バットを振り下ろし。

 或いは、メリケンサックを付けた拳を打ち付け。

 或いは、全体重を乗せた跳び蹴りやタックルがあらゆる場所へと襲い来る。


 真城はそれらを体術で捌きつつ、対処が難しいものは“影纏い”をしてガードする。

 しかしそれでも怖いのが、


「そぉら、脇が甘いぜぇ!!」


「――ッ!? ……あっぶ、ね!!」


 大谷の攻撃だ。

 奴の攻撃は真城の硬化させた影を一撃で粉砕する。

 まともに正面から受けられない故、大谷が動いた場合は全力で回避に徹しなければならない。


 しばらく攻防し、隙を見て真城は距離を取る。

 戦いの最中、何人かの不良をノックアウトしたおかげで包囲網が崩れた結果であった。

 荒い息を整えて、真城は大谷にのみ集中する。


 ただでさえ今まで走り回っていて体力がヤバいのだ。

 それに加えてこうした殴り合いまで加わって、もう本当にヘトヘトだ。


 両腕が鈍い痛みと痺れを発する。

 まさか折れたりヒビが入ったりはしていないだろうが、しかしそれもであの一撃は重すぎた。

 なんで咄嗟に躱さずに受けたのか。

 今になって後悔する。



「ちっ、……全くしぶてぇなぁ。ちょこまかちょこまか、あの野郎」


「大谷さんの攻撃くらって、まだあれだけピンピンしてるとはなぁ」


「だよなぁ、俺だったら初めの一発で伸びてるぜ。あんなにヒョロイ見た目して、随分と動けるじゃねぇかよ」


「……、」


 口々に呟く不良達をよそに、大谷は一人静かに思考していた。


「始めは脆い防御で楽勝かとも思ったが、なかなかどうして……粘るじゃないの」


 そうして、大谷はニヤリと笑うと、


「おい、バットよこせ」


 そう言って、金属バットを構える男へと手を伸ばす。

 言われた男は「ヘィ!!」と頭を下げてバットを渡すと、大谷はそれを自身に馴染ませるように素振りする。


「なぁ、“かまいたち”だの“ソニックブーム”だのっつう、そう言った類の話は知ってるか?」


「……?」


「俺はそれが出来るんだ」


 真城は、突然大谷から投げられた質問に疑問符を浮かべる。

 それは何故、今そんな話が出てくるのかが真城には理解出来なかったからである。



 かまいたち、と言われて思い浮かぶのは……はやり妖怪であろうか。

 鎌鼬。それは日本に伝わる妖怪の一体だ。

 両腕に鎌を持ったイタチ、といった姿などとよくイメージされる存在で、突風やつむじ風などの強風に煽られて気が付けば身体に傷が出来ているといった現象を怪異化した……とも言われるものである。

 まぁ実際には、“風の刃で肌を切る”といった事は無いらしく、現象をあえて説明するのなら風ではなく風によって巻き上げられた土や葉、枝や小石といった物が肌に当たった事が原因。

 もしくは、皮膚が風によって急激に冷やされた事や乾燥した事によって起きた“あかぎれ”などが正体だ。などといった見解がされている。


 ソニックブーム。

 こちらは真城もあまり詳しくないのだが、簡単に言えば物体が音速を越えて移動する際に発する衝撃波が発する爆音の事である。

 なんでも、鞭を振るった時になるバチィンというあの音もソニックブームなんだとか。

 ただの音か、とも思うかもしれないが音とはつまり振動だ。

 大気を揺らす音の波。それは、時に離れた地点にある窓ガラスさえ割ってしまう事があるらしい。

 非常に稀な事態だが、隕石が落下せずに空中爆発した際に起きた衝撃波とソニックブームは、東京都とほぼ同じ面積の範囲の樹木がなぎ倒し、爆心地から1000km離れた家の窓ガラスまで割ったとも言われている。

 強力なソニックブームともなれば、それはもう兵器の領域なのである。

 ……因みにだが、ソニックブームはよく衝撃波と混同されがちだ。

 もしかすると大谷も、そこら辺を混同しての発言をしているのかもしれないが……。



「あぁ、そうか」


 しかし真城はそれら二つのワードから考えて、大まかに伝えたいニュアンスを感じ取る。

 “かまいたち”と“ソニックブーム”の類似点。

 それはどちらも目では見えない事。そして、そう言った目では見えないモノによって被害を受けるという事である。


 つまり、大谷が言いたい事を推察するのなら……。

 “かまいたち”を飛ばす。“衝撃波”、“ソニックブーム”を飛ばすといった行為により、『見えない攻撃をする事が可能だ』という事になるのだろう。


「……なるほどね」


「今、それを見せてやる」


 真城が納得した直後だった。

 大谷の握るバットが影を纏う。そうしてその先端から影の鞭を引き延ばすと……。

 ブンッと、それを真城へ目掛けて振り下ろす。


「――ッ、!!」


 バチィンとしなる影の鞭。

 しかしそれを、真城は当然回避する。


「…………、うん??」(って、ただの鞭じゃねぇか!!)


 大谷が行った行為。

 そしてそれによって起きた事象。

 何をとっても、それはただの影の鞭を振り下ろしただけの様だった。

 真城は疑問符を浮かべて内心でツッコミを入れつつも、状況の分析を開始する。


 真城の推測では“見えない攻撃”が来ると思われた。

 しかし来たのは、ただの影の鞭攻撃。

 ……いや、そんなはずは無いだろう。

 “見えない攻撃”であるのなら、やはり鞭以外に何かがあると見るべきだ。


 それは一体……?

 或いはまだやっていない?

 もしくはその効力をまだ真城が実感出来ていないだけ?


 そうやって目まぐるしく脳を働かせ、大谷の攻撃を推理する。

 しかし、そんな時だった。

 真城の耳に、不良達の嬉々とした声が届いてきた。


「おぉ、流石です大谷さん!!」


「何度見てもやっべぇぜ、大谷さんの“飛ぶ斬撃”!!」


「すっげぇ……、これが“飛ぶ斬撃”かぁ!! 初めて見たぜ」


「見たか!! これが大谷さん必殺の“飛ぶ斬撃”だぜ、覚悟しろォ!!」


 口々に大谷を称賛する不良の声。

 そしてそれに、まんざらでもない表情を返す大谷。


 ……いや、何だこの状況は?


 確かに、真城が先程までいた地点には影の鞭で出来た一本のスジ状の跡が出来ていた。

 不良達も、その跡を見て色々と言っている。

 そして、不良達から聞こえた“飛ぶ斬撃”という言葉。


 それら全てを飲み込んで把握して。

 その結果……真城にも、大谷がした攻撃の正体が見えてくる。


(やっぱり、ただの鞭じゃねぇかよ!!)


 影の攻撃。

 それは“影耐性”を持たない人間には把握出来ない攻撃だ。

 つまりは、その“影の攻撃”自体が一般の人間からすれば“見えない攻撃”となる訳だ。


 何が言いたいのかと言えば、だ。

 大谷は、外の世界で一般人を相手にする時に“影操作”を使用する際の合図として“かまいたち”だの“ソニックブーム”だのと言った単語を言う訳である。

 そうする事により、“影操作”で起きた事象を“飛ぶ斬撃”や“見えない攻撃”として一般人に納得させている。納得させやすい、というのが理由だろう。


 ひとえに『俺は超能力を使って斬撃を飛ばせるんだ』というよりは、まだ『俺がバットを振った風圧で相手を切った』だの『もの凄い勢いで振る事によって衝撃波を飛ばしたのだ』などと言う方がまだ信じこませやすいという訳か。

 ……正直、真城にはどっちもどっちの様に思えるが。


 まったく、くだらない前置きをしやがって。

 変に考察して損したよ。


「オラァ!! どうしたァ!!」


 大谷が真城へ向かってバットを振るう。

 そしてその度に、バットの先端から伸びる影の鞭が真城に向かって襲い来る。


 その攻撃が“見えている”真城はなんとか躱すが、それが“見えない”不良達からは、


「あ、当たらねぇ!?」


「あの野郎、ちょこまかちょこまかと!!」


「まるで見えてるみてぇに避けやがる!! どうなってる!?」


 といった様々な不満の声が響いてくる。

 まるで何かギャグでも見ているかのような気分故、不良達の声を真城はシャットアウトする。

 正直今はもう構ってやる暇がない。


 影鞭の動きは単純だ。

 目で見て避けるくらいは問題ない。


 しかしその威力が問題だ。

 大谷の振るう鞭の威力はコンクリートの壁を難なく抉り、近くに置かれていた大きめの岩さえも真っ二つにする勢いだ。

 もしも真城が同じように影の鞭を振るっても、ここまでの威力は出ないだろう。


 そうなると、その威力は大谷の持つ能力に由来するものだと推察も出来てくる。

 真城の“影纏い”を一撃で粉砕し、尚も真城に大きくダメージを残す程の威力を出したあの初撃。

 あの時もその威力に疑問を感じたが……この鞭の威力も同様だと考える。


 つまりは大谷の能力は……威力のブーストだ。

 影の……或いは、影と身体両方の“重量を増やす”事であるのだろう。


 大谷の拳を。

 大谷の振るう影の鞭の先端を。

 能力で重くして、威力をブーストしているに違いない。

 それこそが、真城の感じた“馬鹿力”の正体だ。



 真城は影の鞭を躱しつつ、その厄介さを実感する。

 一つは単純に、その鞭をまともに受けられない事にある。

 拳でさえ一撃で真城の“影纏い”を粉砕した威力なのだ。

 鞭には遠心力も加わって、それはもう凄い威力となっている。

 それこそ当たり所が悪ければ一発で死にかねず、また腕や脚の欠損さえなりかねない。

 躱すこと一択の攻撃だ。


 そしてそれに加えて二つ目だ。

 単純に遠距離から影の攻撃が来るという事が厄介だ。

 本来の真城であったなら影で剣なり棒を作り、攻撃を切ったり逸らしたりとするはずだ。

 それかもしくは“力”を使用し、攻撃そのものを消しに行くだろう。

 しかし現在、一般人の目がある場所ではそういった対処が不可能となっている。


 大谷は“かまいたち”だの“ソニックブーム”だのと理屈をつけて影攻撃を行うが、真城にはそういった手段がないのである。

 出来る事など精々、拳に影を纏わし殴りに行く程度のもの。

 それでは一向に勝てないし、向こうはこちらの影を一撃で破壊出来る攻撃力まで持っているとなれば、完全にお手上げだ。……こうなると、


(一旦、逃げるしかないか……)


 今の真城ではどう考えても分が悪い。

 切矢と合流し、一度態勢を立て直す、といった意味でもここは撤退するべきだ。


 今の時刻は20時前。

 既に日も落ち、辺りは真っ暗。

 であるのなら、全力の逃走も今なら叶うのではなかろうか?

 これだけ暗い状態であるのなら、顔が割れていようとも早々バレる事もないはずだ。

 顔を軽く隠しつつ行けば、そう見つかりはしないだろう。



 真城は結論をつけると一気に背を向け、全力での逃走を開始する。


「あ、ってめぇ!!」


「逃げんのかよ、臆病者が!!」


「帰って来い弱虫!!」


 程度の低い悪口を聞き流し、真城は移動に手を抜かない。

 影を使って多少のジャンプ力を底上げし、壁や塀を乗り越えて移動する。


 真城の姿が見えなくなるのに時間はかからなかった。

 それこそ、一分ちょいといった程である。


 真城が消えていった方向へ、尚も罵詈雑言を吐き続ける不良らをよそに、“一旦・・”は追うのを諦めた大谷が、残念そうに呟いた。


「ちぇ……、後少しで罠にハメられるところだったんだけどなぁ。勝ちを逃した」



…… ……



 追手がいない事を確認し、真城は一息ついていた。

 流石にもう限界だと、壁に背を預けて呼吸する。

 そしてその内、立っている事もままならずに座り込む。


 荒い息を吐き、うるさい鼓動を聞きながら大粒の汗を流して蹲る。

 真城の身体を隠すように。

 真城の顔を隠すように。


 しばらくそうして呼吸が落ち着いてきた頃に、真城の端末が鳴りだした。

 真城は慌てて端末を取り出して通話ボタンを押すと、周りに人がいないか確認する。

 通話の相手は切矢だった。


「もしもし」


「おう、俺だ。切矢だ」


「ちゃんと逃げ切れましたか?」


「あぁ、こっちは問題ない。……それよりも、だ。」


 切矢は会話のトーンを少し下げ、立花について切り出した。

 それは、立花が影人にやられて重傷となった事。

 そして、立花が助けると言って追っていた男子生徒が、何故か影人に連れ去られてしまった事。

 これから切矢は、立花が乗せられた救急車を追って病院まで移動する事。

 最後に、連れ去られた男子生徒を助けたかったら“波嵐卍進”のアジトに来い。といった内容を影人から受け取った事。などを告げられた。


「……そう、ですか。立花さんの容体は?」


「いや、まだ詳しい事は分からん。だが、今回の任務での活動はもう無理だろうな」


「そうでしょうね。というよりも、仮に動けたとしても安静にしていてもらいたいですが」


「だな。命あっての物種だ。身体引きずって来られて、そこから更に致命傷……何てのは御免被る。迷惑だ」


「ははは……」


 真城と切矢はいくつか言葉を交わしながら、情報を互いに整理する。

 そうして、


「それで、この後の事なんだが――」


 と言って真城と切矢の、今後の作戦会議が始まるのだった。



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