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カゲビト  作者: 永眠布団
第三章 新たな任務

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第16話 『新たな任務』



 食堂。

 その四角いテーブルを一つ借り、切矢と立花、そしてその対面に真城が座る。

 真城と切矢の前にはハンバーグ定食、立花の前にはおにぎり定食がそれぞれ並ぶ。

 

 さぁこれから食べ始めよう。

 そう思い、真城が手を合わせた時だった。


「は、はい、あーん」


「……ん」


 立花がおにぎりを一つ掴むと、一口分を千切って切矢の口元に近づける。

 切矢はそれをされるがままに口へ入れると一言、


「美味しい」


 と口にする。

 立花はそれを見て頷くと、


「……こ、これも、あーん」


 と言って今度は味噌汁を一口、レンゲで掬うとそれも切矢に近づける。

 切矢はそれも素直に飲み干すと、


「うん、美味しいよ」


 と優しく微笑む。

 それで立花は満足したのだろう。

 立花も小さく笑って頷くと、後は素直におにぎりを食べ始める。



(……、俺は一体何を見せられているんだろう)


 真城は予期せぬイチャイチャを見せられて目線を軽く彷徨わす。

 出来ればそういう行為は、二人だけの時にやって欲しいものである。

 一緒に食わないか? と誘われたから同じ席に着いたもののこれでは居心地がよろしくない。


(これがいわゆる“バカップル”というやつなのか……)


 そんなことを考えながら、真城はその事にツッコみをせず自身の飯を口に運ぶ。

 ひたすら一人で。無心で。

 目の前の定食を片付けにかかる。


 ……別に羨ましいわけじゃないんだからね。

 ちょっと陽の存在が眩しすぎてまともに視線を向けられないだけなんだからね。



「それでさ、食事に誘った理由(わけ)なんだけど」


 唐突に、切矢がそんなことを切り出した。


「はぁ」


 真城はそれに平静を装いつつ返答する。


(いや、まぁ別に平静を装う必要とか無いんだけれどね? これがいつもの俺だし。普通だよ普通。動揺とか無いから)


 真城が手元のフォークを皿に乗せて聞く体勢を整えると、切矢は頷いて話をし始める。


「実はお前に――」


「あ、あの……タメ口は」


「……、」


 切矢が意を決して話し始めたその途端、立花の言葉が挟まった。

 それに切矢は、出鼻を挫かれたとばかりに一瞬だけ苦い顔を見せるが、しかしそれもそうだと思い直したのだろう。

 場の空気をリセットする為に一度咳払いをすると、今度こそ、


「実は真城さんに、お願いしたいことがあるんだ」


 と口にした。


「俺に……ですか?」


「あぁ。真城(あなた)にしか頼めない」


 真っ直ぐと、真城を直視する切矢。

 その瞳には強い意志が見て取れた。


「いいですよ」


「まぁそうだよな、確かにそっちにメリットが無いのは分かって――……へ、いいの?」


 断れるとでも思っていたのだろう。

 切矢は話の途中で目を丸くして聞き返してくる。

 しかし真城は改めて、


「はい、いいですよ」


 とそう告げる。


「お前、……良い奴かよ」


 切矢は何やら驚き極まっているらしく変な返しをしてくるが、真城としては普通のこと。

 そこに困っている人がいるのだから、それを助けるのは当然だ。


 まぁというのは建前で、軽くネタばらしをするのなら。

 切矢の頼み事に、大方の予想がついたから。という方が正しいか。


 わざわざ真城に絞って頼み事をする理由。

 真城にしか頼めない内容など……一つしかないだろう。

 つまりは、真城の“力”(能力)関係だ。



……



「つまり、友人を助けたいという事ですね?」


 切矢の頼み事を聞き終えて、真城は一息つく。

 要約すると、二年前に影人化して“フェイズ3”となってしまった友人を助けてほしいとのことだった。


 なんでもその事がきっかけで、彼は“影狩り”となったらしい。


 影人“フェイズ3”となった友人を助ける方法を探す為、“影狩り”の本部にはとどまらず日本のあちこちを探し回っていたが成果もなく、困り果てていた矢先のこと……神崎から真城晴輝の“力”について聞かされて、こうして舞い戻ってきたそうな。


「……友人、か」


 真城は少し押し黙る。

 真城と原田。切矢と友人。

 状況が、自分と重なる。


「もちろんソイツは俺が倒して確保する。真城は俺が確保したソイツに最後、“力”を当ててくれるだけで構わない。それ以外の手間は取らせない」


「分かりました。協力します」


 真城は頷く。

 自分はある意味において失敗してしまったこと。

 しかし、それを切矢にも味わわせたくはない。

 全面的に協力しよう。


 しかし、


「ですが……」


 真城は言葉を詰まらせる。

 真城としても、先に言っておかなければならない事があるからだ。


 それは、まず初めに現在の真城の技量では“フェイズ3”となった友人の身体を影人と分離するまでは可能としても、その後の後遺症まで全く引き起こさせずに救えるかどうかが分からないこと。

 そして第二に、二年前に影人化を起こしたという友人が果たして現在も“フェイズ3”であり続けているのかどうか?

 つまりは……現状の真城の“力”では“フェイズ4”となってしまった影人に対しては救える見込みが無に等しいということをだ。


「……、」


 それを聞いて、今度は切矢が押し黙る。

 口元に手を当てて、険しい表情で硬直する。


 が、しばらくして。


「それでも、可能性が全く無いよりはマシだ」


 ハッキリと、そう言い切った。


 或いは、真城の技量がアップする。

 真城の“力”が強化される。

 そういった未来、可能性もあるのだから『“フェイズ4”でも助けられる』『“フェイズ3”でも後遺症を出さない』といったラインに至るまで、倒して確保した友人の影人を監禁しておけば助かる率も格段に上がるかもしれない。

 と、そのような案も上げてはみたが、


「いや、そんなことはしなくていいよ。俺が確保した時に、……なんなら明日確保出来たとしたらその時にすぐにやってもらって構わない」


 と言われ、真城は自身の上げた案の愚かさに気が付いた。


「だって、それで助かる可能性が格段に上がった状態ってことはさ、そうなる前に何度も失敗して経験してコツを掴んでからってことだろう? それはなんつーか、助けてほしいって頼んでる俺が言うのもアレなんだが、身内贔屓みたいで嫌っつーか、それは流石にどうなんだろうって思っちまうわけよ。だってそうだろ? 今後先に“力”を受けて助かる奴らは早ければ早いほど後遺症無く助かる可能性が低くて、後になればなるほど後遺症無しで助かる可能性が上がる。でもそれは当然のことなんだし仕方のないことなんだから、それも一つの“運”として受け入れるしかない訳で、割り切りも出来る。でもその“運”で出来た順番を人為的に俺達が前後させちまうのはどうなのよ? って思うんだ」


「――っ!!」


 真城に衝撃がつき抜ける。

 そしてその後にじわじわと湧き上がる後悔。

 

 そうだ。

 何を変なことを考えていたのだろう。

 例えソレが可能だとしても、それを出来る権利など真城なんかには無いはずだ。

 自分の身内だの知り合いだので命の順位を前後させるなど、邪な気持ちでするべきではないのだ。

 医療の世界では、本当にどうしようもない時に“トリアージ”という方法が定められてはいるものの、真城のコレはソレではない。

 同列に考えるなどあってはならない事である。


「もしそれで俺の友人が助からなかったとしてもそれは真城の所為じゃねぇ。全ては俺の問題だ。真城はただその手伝いを、ほんの少ししてくれる……それだけさ。それに考えても見てくれよ。真城の持つその“力”が無かった今までは“フェイズ3”になった段階で助かる見込みなんてのがそもそも0%だったんだぜ? そんな状況に比べれば、例え1%でも2%でも助かる可能性があるってだけでマシなのさ。だからもし失敗したとしても、そのことで真城を責めたりなんてしねぇ。だから」


 迷いなく。


「その時が来たら、お願いします」


 その言葉を聞いて、もうそれ以上の問いはいらなかった。

 真城は力強く頷いて、


「はい、任せてください」


 と、そう強く頷いた。



……



 真城、切矢、立花の三人は各々のペースで食を進める。

 その間、重要な話を終えた切矢と真城は他愛のない会話(たまに立花も参加)を続けていた。

 それは、


「本当ならこの話、昨日の段階でしようと思ってたんだけどなぁ。天道の野郎につっかかられてよ」


「そ、それは嘘……。(ゆう)からつっかかったからで……」


「天道さんとは仲良いんですか?」


「そんなわけないだろ? 犬猿だ、あんな奴とは」


 だの。


「そういえば今何歳?」


「十九歳。大学一年生ですね」


「げっ……、てことは俺のが年下じゃねぇかよ。結局タメ口で話してたわ。因みに俺は十八で高校三年。んで立花は今十三歳の中学一年な」


「まぁ、別にいいんじゃないですか? 年齢が下でもこの仕事では先輩なわけですし」


「それもそうか」


 だのといったものだった。

 そうして、小一時間ほど経った頃。

 丁度、全員が定食を食べ終えて席を立った時である。


 三人の専用端末がそれぞれ同時に振動し、着信音を響かせた。

 三人は同時にそれぞれの端末画面を確認する。

 

 一件のメールが届いていた。

 差出人は神崎拓富。

 そしてその内容は……。


「『任務通達』……これって」


「あぁ、次の任務が決まったらしいな。しかもここまでタイミングぴったしって事は、俺ら三人で行けってな話かもな。にしても『執務室招集』って……、いつもみたいにメールで済ませりゃいいものを」


「は、はやく、行かないと……」


 三者三様。

 それぞれ言葉を口にして、行動を開始する。


(次の任務。……今回は一体どんな内容の)



 期待と不安を胸に抱き、――――真城の新たな任務が幕を開けた。



…… ……



 執務室に到着すると、ノックして部屋へ入る。

 入ってすぐ目に付いたのは、正面奥に配置された本部長用の机に腰掛ける神崎とその横に控える九条だった。

 部屋の横には巨大スクリーンが配置され、説明準備も万端なご様子だ。


 部屋を軽く見渡して、見知らぬ女性で目を止めた。

 それは上下共に鼠色のスーツを身に纏うショートヘアの女性。


 女性は真城からの視線に気が付いたらしい。

 女性は軽く会釈すると「水樹蒔那(みずきまきな)です。よろしく」とだけ一言告げる。


 この水樹という女性も今回の任務に同行するのだろうか?

 そんなことを考えている真城へと、水樹について、神崎が簡単な説明をしてくれる。


 それは大まかに。

彼女も“影狩り”の一員である事。

 普段は本部におらず、国家公務員としての表の顔を持って活動している事。

 政府との橋渡しを行う役目を担っている事。

 そして、真城のバイト先に現れたドッペルゲンガー。その原因・理由が彼女の指示で行われたものであった事。

 最後に、今回の任務内容を持ってきたのが、水樹であるという内容だった。


 神崎が一通りの話を終える頃、九条が任務の資料を手渡しにやってくる。

 真城はその資料を受け取ると、中を見る。



波嵐(はらん)高校における幽霊の噂と影人についての関連性』



 それが、真城の目に飛び込んできた一頁目のタイトルだった。


「幽霊、ですか?」


 真城は率直な疑問を口にする。

 しかしそれに対して、


「あぁ、またソレ系統か」


「よ、よく、ありますよね、……幽霊、騒ぎ?」


 切矢と立花は普通の反応を返していた。


「“神隠し”、“ドッペルゲンガー”と並んで“幽霊騒動”も潜伏する影人を見つける上での重要な要素の一つですからね。……そういう任務が多くなるのは仕方ありません」


「えぇ。なので私も幽霊の噂を聞いてすぐに調査をしてもらったんですよ。私専属の部隊にですが。結果は案の定でした」


 不満そうに唇を尖らせる切矢を宥める様に、九条が真城にも分かるように説明を加え、それに同意する形で水樹がさらに言葉を続けた。


 ドッペルゲンガー。

 それは、簡単に言えばもう一人の自分に遭遇する事。

 そしてその、“もう一人の自分”に出会ってしまった者は死に至る。……などという類の都市伝説。

 しかしその噂の背景には影人の存在があるのだと、神崎達は言っていた。


 いわゆる影人誕生のプロセス。

 影が人格を宿して自立行動を開始、そこから肉体と主人格の奪取まで。

 その過程が“ドッペルゲンガー”と酷似するから、ということらしい。


 今回の議題。

 “幽霊騒動”もその類。

 しかし、こちらの場合は誕生のプロセスというよりも誕生したその後、といった方がよいのだろう。

 

 何らかの事件、事故に巻き込まれ行方不明、或いは死亡扱いとなっているはずの人物が目の前に現れる。その現象を“幽霊騒動”と呼ぶのなら、それは“フェイズ3”となった影人の目撃例と酷似する。

 或いは、一般人が立ち入れない領域。“影世界”の出入りなどの一般人が見失いやすい移動方法が、実体を持たない幽霊が壁をすり抜けて移動するさまと見間違えられる等。


 それなら確かに、何も知らない人間が見たのなら『幽霊が出た』と騒ぐのも頷ける。

 その目撃した人物が今現在、行方不明や死亡扱いである事を知っていたのなら尚更だ。



「それじゃあ説明を始めるよ。席についてくれ」


 考え込む真城をよそに神崎が真城達を手前の席へと促すと、それを合図に九条が機材を操作して、巨大スクリーンの画面が切り替わる。


「現在、波嵐(はらん)高校で『行方不明の生徒の幽霊が出る』という噂、並びに“幽霊騒動”が確認されている。そして今回、その幽霊の正体が影人であることが確定した。だからその影人を撃破してくるのが今回の大まかな任務内容だ」


 神崎が説明を進め、その内容に応じて九条が巨大スクリーンの画面を更に切り替える。

 そこに映し出されたのは一人の男子学生。


「名前は稲守賢史(いなもりけんし)。波嵐高校に在籍する一年生。彼の幽霊、もとい影人が今回の騒動の原因だということが分かっている。事態の収拾の為、この影人を速やかに討伐してほしい。ここまでで何か質問は?」


 真城達はペラペラと資料をめくって思考を整理する。

 稲守賢史についての項目に軽く目を通す。

 家族構成、生年月日、学歴、資格等々は飛ばしつつ、影人化に至った経緯などが記載されていないかを探してく。


(……これは)


 真城が一つの内容に目を止めた。

 それは稲守賢史の影人が、“幽霊”などとして囁かれる原因となったであろう事件。

 “夏休み期間中に稲守賢史()が行方不明となっている”、というものだった。


(……、)

 

「ターゲットはこの一体だけなのか? それなら三人も必要ないんじゃないのか?」


「ん、ん」


 切矢が質問を飛ばす。

 それに対し、立花も横で同意する様にコクコクと頷く動作を見せる。


「……確かに」


 真城も思考を中断し、と同時にそのことに気が付き賛同する。

 確か前回の任務を受ける時だったかに『“影狩り”は人手が不足している』といった話を聞いていた。

 人手不足が危ぶまれる現状であるのなら、人員は少ない方が良い。

 ただでさえ、今は“アイ”の起こした騒動で色々問題が山積みだ。

 任務の重要性を考慮しても、それはそれとして本部の立て直しも優先的に行うべき案件だ。


 資料によれば、幽霊の噂が流れ始めたのは九月に入ってかららしい。

それはつまり夏休みの期間が終わり、授業が再開して以降の事。

 今が九月下旬になったばかりである事を考えると、影人が行動を始めてからまだ半月程しか経っていない。

 もしも稲守賢史が、資料の通り夏休み期間中に“影人化”したことによって行方不明となったのだとすれば、今尚“フェイズ3”である可能性が高いだろう。


 それなら、ここで三人もの人材を宛がうというのは……いささか過剰戦力のようにも思えてしまう。

 それは仮に何らかの好条件が重なって、影人が“フェイズ4”にまで成長していたとしても同様だ。

 一人とまではいかずとも、二人もいれば十分なはずである。


 しかし、それでも神崎は首を横に振る。


「確かに波嵐高校だけなら一人でも問題はないだろう。が、懸念する要素がいくつかあるんだ」


 そう言うと神崎は視線を水樹へと向けると、水樹は頷いて追加の資料を渡してくる。

 真城達は、その資料を無言で受け取った。


『波嵐市における不良・非行少年グループの活動とそれに伴う地域への悪影響』


 資料のタイトルは上記の通りだった。

 

「実は今回の“幽霊騒動”。それは波嵐市の“影人工場”化によって生じた事件、その氷山の一角に過ぎないのかもしれない」



 受け取った資料。

 それにも真城は目を通す。

 そこに書かれていた内容は大まかに、


『波嵐市を中心として活動する不良・非行少年グループ。“波嵐卍進(はらんばんじょう)”』


『“波嵐卍進”の存在による波嵐市全体の治安悪化』


『治安悪化のあおりを受けて、周辺の学園等での“いじめ”や“恐喝”が増加傾向にあり、その中でも特に波嵐高校の被害が多い』


 といった点。

 そしてそれに加えて、


『今回の“幽霊騒動”の元凶である影人を生み出した稲守賢史(いなもりけんし)も高校でいじめを受けていた』


 といった情報の数々だ。


 ……ここから導き出される答え。

 それは、


「黒幕の存在だ。“波嵐卍進”を裏から操り、波嵐市の治安悪化を引き起こす、……影人の存在があると見ていいだろう」


「「「……、」」」


「そうなると背後にいる黒幕は、まず間違いなく“フェイズ4”。……それも、一体ではなく複数体の可能性も見込まれる」


 神崎の言葉。

 その言葉に、真城達三人が押し黙る。


 そうして、


「なるほど、そういうことね」


 切矢は納得した様に呟いた。



……


…… ……



 任務内容を一通り聞き終えて、真城達は一息つく。

 

 今回の任務。

 言ってみれば、大きく分けて二つの項目に分類出来るものだった。


 それはまず第一に『“幽霊騒動”の鎮静化』であり、波嵐高校を根城にする影人の討伐。

 そして第二に『街の正常化』であり、波嵐市を“影人工場”化している影人を見つけ出して討伐する事である。


 どちらも討伐任務だが、それは真城達が『戦闘部隊』に所属するが故の事。

 それ自体は問題ではない。問題と言うのなら、この二つの項目の難易度だ。


 『“幽霊騒動”の鎮静化』。

 これは影人化した稲守賢史(フェイズ3)が引き起こしている案件だ。

 比較的簡単な部類と言えるだろう。


 しかし『街の正常化』。こちらがかなり難しい。

 今ある情報を鵜呑みにするなら、波嵐市で活動する不良・非行少年グループ“波嵐卍進(はらんばんじょう)”を裏で操っている影人(フェイズ4)を見つけ出し、討伐しなければならない。

 しかも、“フェイズ4”が複数体いる可能性もあるという。



「大体の内容は分かった。……だがそれなら、任務のメインは『街の正常化』でそれに付け加えて『“幽霊騒動”の鎮静化』の+α(プラスアルファ)があるって形なんじゃないのかよ? この話の流れだと『“幽霊騒動”の鎮静化』がメインで『街の正常化』がおまけみたいにも聞こえるぜ?」


 少しして、切矢がそんなことを口にする。


 その疑問はもっともだ。

 真城も話を聞いていてそのように受け取った。


「それは、」


「それは今回の任務を持ち込んだのが私だからです」


 神崎が何か言葉を発するより早く、水樹がその答えを口にする。


「私が普段“影狩り”にはおらず、国家公務員という役職で表の活動をしていることは既に説明された通りです。その表の活動で今問題に挙がってるんですよ。“いじめ問題”が」


 まぁ、今に始まった事でも無いんですが。と付け加え、水樹は更に言葉を続ける。


「ここ数年、凄惨ないじめがよく話題にあがります。あなた方もニュースなどでご覧になる機会はあったはずです」


 そう言われ、真城も少し考える。

 凄惨ないじめ。……それは真城も耳にしたことが何度かある。

 その中でも、ニュースで取り上げられる凄惨なもの。

と言えば、……やはりそのいじめによって被害者が自殺してしまう例だろうか。


 いや、ニュースだけに限定するならそうだろうが、大きく“いじめ問題”として挙げるなら、別にそういった極端なものだけではないのだろう。


 いじめは日々、日常的に起きている。

 脅しや暴力や辱め。

 大切なものを盗まれ、隠され、捨てられる。

 悪口や無視、仲間外れ。

 

 場所だって問わない。

 学校、部活、習い事。

 地域や職場、ママ友やその他グループ、SNS。

 国家や国籍、人種といったものまで様々だ。


 人の集まり、人との関わり。

 そういった場所において、いじめは必ずと言っていいほど発生する。

 発生してしまう。


「私は、今のこういった日本の現状を解決したい。と考えています」


 水樹は言う。


「我々“影狩り”にとって影人を斃すという行為は重要です。ですが、それ自体はあくまでも起こってしまった被害の後始末、事態がそれ以上悪化しない為の火消し作業に過ぎません。“影世界”という根源そのものをどうにかしなければ、影人は今後も生まれ続けます」


 水樹は更に続ける。


「しかしかと言って、現状その“影世界”を消滅しうる様な技術も手掛かりも今の“影狩り”にはありません。それを知っている可能性のある“白川宗介(しらかわそうすけ)”の居場所さえ、分かっていない状況ですからね」


 ここで水樹は一旦言葉を区切ると、


「影人や“影世界”。“影狩り”には解決しなければならない事が山積みです。しかしかと言って日本のそれ以外の現状を放置して良い理由にはなりません。影人を生み出すのは、何も“影世界”だけが原因ではないのですから」


「……、」


「ストレスの無い社会。ストレスを溜めないでいい社会。それを作る事もまた、影人を増やさないという意味で、今の日本にとっては重要な課題です」


 水樹は力強く言う。


「私は今回の一件で“いじめ問題”を大きく取り上げて摘発し、いじめの無い社会、その第一歩の足掛かりとしたい。……ですので、波嵐高校の現状を社会に公表していくにあたり“いじめ”以外の要素。特に影人関係の話題へと繋がりかねないオカルト要素、“幽霊騒動”を速やかに排除してほしいんです。……折角“いじめ問題”を摘発してもその話題を“幽霊騒動”に掻っ攫われたりして、議題の話題逸らしをされたくはありませんから」


「そういう訳なんで、よろしく頼むね」


 水樹が話を終えた後、神崎がそう言って締めくくる。


「実際の所『街の正常化』って言っても、本当に“波嵐卍進”を影人が裏で操っているっていう根拠は無いんだよね。そういうグループが好き勝手しているって事と、それによって街の治安が悪化しているってのは事実なんだけど、それに影人が絡んでないって事例も今まで沢山見てきたし。まぁ今回はその可能性も兼ねた保険ってことでここは……」



「やっぱいらねぇんじゃねぇかなぁ!? 三人も!!!!」


 切矢の怒声が木霊した。



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