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カゲビト  作者: 永眠布団
第三章 新たな任務

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第10話 『ミサイル』



 皆が動く。

 それぞれが固まらずバラバラに移動して、“アイ”が操縦する“巨大ロボット”の攻撃を掻い潜る。


 作戦は簡単だ。

 切矢、立花、天道、野武、霜山、桜井。

 その六名が隙をみて攻撃を加えつつ、真城と一ノ瀬の動きをサポートする。

 そうして “巨大ロボット”の胴体にたどり着き、一ノ瀬が空けた穴から真城が侵入。

 中の“アイ”を探し出して討伐する。……それだけだ。

 

 できることなら、真城以外も内部に突入し“アイ”と戦いところだが……。

 まず前提として“アイ”と対等に戦える人物が、一ノ瀬と真城の二人以外にいないのだ。


 純粋に真正面から“アイ”の影の防壁を切り裂くことが可能な一ノ瀬。

 “力”を使うことで影の防壁を無効化することの出来る真城。


 この二人以外がいくら“アイ”の下へと集っても、影の防壁を突破出来ないのだから当然破壊することも不可能だ。

 それでは、無駄に戦力を捨てることになってしまう。

 

 その上で、一ノ瀬が未だ不調。

 “アイ”と戦うのは難しいというのだから……残る選択肢は真城晴輝ただ一人。

 と、そういう事になるわけだ。


 真城の侵入が成功した以降なら、他の人間も“巨大ロボット”に侵入し“アイ”を撃つ手助けをするといったことも可能だが……。

 “アイ”の操る“巨大ロボット”が本気で暴れ回ること。なにやら破壊の対象に、“影狩り”本部も入っていることを考えるならば、できるだけ人員は裂かない方がいいだろう。

 

 

「出し惜しみなんて無しだ!! 全力でぶっ壊すぞ!!!!」


 一ノ瀬の掛け声。

 そしてそれに答えるように、七人の怒気を纏った喚声が響き渡った。



…… ……



 切矢が竹刀を、野武と霜山が刀を振るう。

 天道が銃弾を撃ち込む。

 桜井が影槍を突き刺し、立花が影鞭を打ち付ける。


 そうして“影世界”に破壊音が木霊する。

 六人の攻撃で“巨大ロボット”の機体が少しずつ破壊されていく。

 致命的な大打撃ではないものの、着実に少しずつ、装甲を傷つける。


 一ノ瀬と真城はその攻撃には参加しない。

 “巨大ロボット”の懐へと潜り込む為の隙を求めて、縦横無尽に“影世界”を跳び回る。



『だぁああああ!!!! 小蠅がちょこまかちょこまか鬱陶しい!!』


 “巨大ロボット”の肩パーツが音を立てて動き出す。

 両開きの扉が開くように稼働して、その奥にある物を露出する。


 それは、ミサイルだった。


「……なによ、アレ」


「ふざけんなよ、畜生め!!」


 肩パーツにびっしりと格納されたそれを認識し、真城らは顔をしかめる。

 ミサイル一つ一つの全長は分からないが、目視で確認する限り弾頭の大きさは人間の頭の大きさと同程度。

 それが無数にあるというのだから、集合体恐怖症ではなくともゾッとする。

 あんなもの、どう対処すればいい?


『ターゲット、ロック!!』


 “アイ”の声が響く。

 今はとにかく逃げるしかない。

 

『発射!!』


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッッッッ!!!!

 音を立て、ミサイルが一斉に発射する。

 それぞれが別々の軌道を描き、真城たち全員へ向かって飛んでくる。


「――――ッ」


 誰の合図もいらなかった。

 強いて言うならミサイルの発射こそが合図となった。

 真城らは、それぞれが全力でミサイル回避に専念する。


 ミサイル自体にもAIのようなものが搭載されているのだろう。

 “アイ”が言っていたようにターゲットをロックして、そのものが何処に逃げても追いかける仕組みらしい。



 しかし。


『――みんな落ち着いて!!』


 そんな状況下で、神崎の声が響いた。


『あのミサイルのほとんどは見せかけだ!! ミサイルの先端の色に注目してくれ。赤色以外は火薬燃料がまだ用意出来てなくて入ってない!! だから爆発は警戒しなくていい!!』


 神崎の言葉を受け取って、真城らはそれぞれ自身へと向かって飛んでくるミサイルを確認する。

 ミサイルの先端は赤と黒。

 そして、確かに神崎の言うように赤と黒の比率は1と9。

 ということは……本当にそのほとんどが見せかけだ。


『……チィ。ひどいよたっくん!! ネタバレなんかするなんてぇ!!』


 “巨大ロボット”から悲しむ“アイ”の声が響く。が、


『でも爆発しないからって安心なんか出来ないからね!! 高速で延々と突っ込んでくる鉄塊ミサイルに当たり続けるだけでも十分な凶器だし!!』


 それも一瞬で切り替える。


 確かにそれは“アイ”の言う通りである。

 例え爆発をしなくても、当たればダメージを食らうのは確実だ。

 後目で確認する限り、全員にざっと五十ものミサイルが張り付いている。

 これら全てがぶつかれば、“影纏い”でガードしていてもダメージは相当のものになる。


 ミサイルはエネルギーが続く限り延々と真城らを追い続けることだろう。

 このままでは、いずれは疲れて追いつかれる。

 早めに対処しなければ厄介だ。


「くそ!! どうする!!」


 真城が呻く。

 しかしそんな真城へと、再び神崎の声が響いた。


『大丈夫、安心しなさい。こうやってミサイルに追われるシチュエーションならミサイルを同士討ちさせるのがセオリーだ!!』


 何やら少し嬉しそうにそんなことを言ってくる。

 しかし真城はピンと来ない。すかさず、


「どうやって!!」


 と聞き返すと、神崎からも返答がすぐに帰ってくる。

 なんでもこういった場合の対処法であるようで、神崎が言うようにミサイルの相討ちを狙うのがアニメや漫画でのセオリーらしい。

 

 なんでミサイルなんかに追われた時の対処法なんてものが存在するのか?

 アニメ知識の無い真城には甚だ疑問だが……話を聞く限り、ミサイルをひきつけた二人組が互いに半円状の弧を描きながら移動して、正面衝突一歩手前で軌道を変更。

 互いがぶつからないようにギリギリで交差すれば、それを追っていたミサイルは突然軌道を変えることが出来ず、ドカン。

 ミサイルのみがぶつかって木っ端微塵。と、まぁそんな感じの作戦だった。


 しかし、それは二人のペアを組んでやるものだ。

 真城が辺りを見渡しても誰もいないためすぐに行動に移すのは難しい。


 どうするか?

 そんな考えを浮かべながら“影世界”を跳び回る真城へと男性の声がかかった。


「――だったら俺らで先にやる」


 真城のいる遥か後方。

 そこにいた切矢の声だった。

 どうやら神崎の声がそちらにも聞こえていたらしい。


 切矢のすぐ近くでは立花が移動中。

 切矢と立花。二人が協力したのなら、神崎の策は可能だろう。



「ひなたーー!!!!」


 切矢は近くを移動していた立花へと呼びかける。

 立花はその切矢の呼びかけに、コクリとだけ頷いて答えた。


「行くぞ!!」


「ん!!」


 切矢と立花は神崎の作戦通りに、それぞれ対の弧を描いて移動する。

 幸いミサイルの速度は特別速いわけでもない。

 いや実際には速いのだが、今いるこの空間が“影世界”といった特殊な環境の中であり、加えてこちらにもある程度高速で移動する手段があるおかげなのだが、とにかく追いつかれる心配が無いというのは有難い。

 十二分に引き付けて……そうして、


(3、2、1……ここだ!!)


 切矢と立花。

 それぞれがタイミングを見計らって交差する。

 そしてその直後、影による足場を形成してそれを蹴る。

 蹴った反動で、切矢と立花はそれぞれ上下へと軌道を修正して移動する。


「どうだ!!」


 切矢が振り返る。

 自身へと向かって飛んでくるミサイルへと、目を向ける。

 しかしそこにあったのは……、


「――なっ!?」


 切矢と立花それぞれを追っていたミサイル。

 それら約五十ずつのミサイルが互いに衝突することなく、まるで……集団行動の進行交差のように滑らかにミサイルそれぞれの合間合間を掻い潜り、一つとしてぶつかることなくすれ違う。……そんな光景であったのだ。


「くっそ!! 話がちげぇじゃねぇか!!」


 切矢はその場で舌打ちする。


 思惑は失敗に終わった。

 そんな信じがたい結果を無理くりに飲み込んで、再びミサイルとの追いかけっこに専念する。



「……、」


 そんな状況を無言で見つめていた真城。


「……神崎さん?」


 話が違うのではないか?

 そんな感じのニュアンスで、神崎へと呼びかける。が、


『流石は僕の発明品……。一つもぶつからないとは恐れ入る、自分の才――』


 なにやらブツブツと独り言を呟いてこちらの話が届いていないご様子だ。


 これはもう使い物にならないな。

 そんな考えが頭をよぎった時のこと。

 突如、


『――ブツンッ』


 と神崎の音声が停止する。

 一瞬、バッテリーが切れたのかとも思ったがそうではない。

 一度耳から取り外して確認しても電源はオンのまま。

 それを伝える緑のランプも点いていた。


 これは……音声がしっかりと終了し通信が切られたものではないのだろう。

 通話中の音声が突如、何者かの手によって無理やりぶった切られてしまったかのような不自然さ。

 まず間違いなく、“アイ”による妨害か。


 “巨大ロボット”。

 それは神崎が作り上げた代物だ。

 神崎がそのことを話すかどうかはさておいて、その弱点や搭載された武器の対処法を知るのも神崎だ。


 未だ真城らを追い続けるミサイルと同様に、何らかのネタバレをされてはたまらない。

 そういった“アイ”の思惑であるのだろう。


(くそっ!!)


 神崎からの助言が使えない。

 ここからは、完全に後手に回ることになる。


「うおっ!?」


 真城の眼前にミサイルが数本回り込む。

 ミサイルに付けられたAIが真城を包囲しようと飛び回る。

 真城はその動きをよく読んで、完全に包囲網が完成する前に脱出する。


 とりあえずはこのミサイルだ。

 まずはこれを対処しなければ。


「――――ッ」


 真城を目掛けて、速度を上げてくるミサイルの一つが目に留まる。

 先端の色は赤。それは爆発するミサイルだ。


「ぐっ……!!」


 爆発の威力が分からない。

 その範囲も分からない。

 なんなら、いつどのタイミングで爆発されるのかも分からない。


 真城が急ぎ、方向を転換するとミサイルと逆方向へと逃げていく。

 そんな時だった。


 真城へと狙いを定めていた先端赤のミサイルが――銃弾を受けて爆散する。


 十分に距離を取れていたおかげで、熱風が真城に届くことはなかった。

 真城の肌をわずかに撫でる程度に止まった。


「この攻撃は……」


 銃弾には見覚えがあった。

 何より今この場に該当する人物など一人だけ。


「いつまで逃げ回ってるつもりだ、お前ら!!」


 天道だった。


「火薬燃料積んだミサイルは俺が処理する。お前らはとっとと爆発しないミサイルを片付けろ!! ブースター部分を破壊すりゃどうとでもなるだろ、んなもん!!」


 続けて天道が銃弾を発射する。

 撃ち出された銃弾が軌道を不自然に変えながら加速して、真城を追う別の先端赤ミサイルへと突き刺さる。

 瞬間、ミサイルが爆発し熱風をまき散らす。


「真城、お前はあのロボの内部に入ることに専念しろ!! 野武!! 霜山!!」


「はいはい!!」


「分かってるって!!」


 影の足場を蹴って加速した野武と霜山が、真城を追うミサイルの群れへと突っ込んで行く。

 そうして最低限の動作で先端黒のミサイルのブースターを切り落とし、ミサイルを無効化する。


 見れば野武と霜山は先端黒のミサイルの処理をし終わっている様だ。

 真城が神崎の指示を受け、切矢や立花とがコントをしている間に片付けていたのだろう。


 天道、そして野武と霜山の援護によってミサイルから解放された真城は向きを変え、“巨大ロボット”への接近を試みる。

 一ノ瀬の居場所を確認し、一ノ瀬が胴体付近にいることを認識し、そちらへと移動する。


「一ノ瀬さん!!」


 真城が一ノ瀬のもとへと合流した時だった。

 “巨大ロボット”が新たな挙動をし始める。


『ふん!! ミサイルだけで終わりだと思うなよ!!』


 真城と一ノ瀬へ向けて差し出された右腕が大きく音を立てて変形する。

 握り込んだ右拳ごと前腕の一部が、肘を中心軸にして上腕の一部と回転するようにして入れ替わる。

 新な前腕となった元上腕。

 それが更に変形し、円錐状の突起物を突き出すとそれが高速で回転をし始める。

 それは見紛うこと無き巨大ドリルだ。


 回転しながら向かってくるドリルに対し、真城は一瞬怯んでしまったのがまずかった。

 ドリルなどに目もくれずに移動する一ノ瀬と距離が開いてしまい、また怯んだことでドリルの回避タイミングを逃してしまう。

 このままでは、大きく迂回をしなければこのドリルが躱せない。

 

「しまっ……」

 

 折角一度、一ノ瀬と合流できたのだ。

 このまま胴体へ一緒に向かわなければ、真城が“巨大ロボット”の内部へと入ることが叶わない。

 いくら一ノ瀬でも、いつまでも“巨大ロボット”の胴体部分に張り付いてはいられない。

 このチャンスを逃せば、次のチャンスがいつ来るか。


「ぐっ!!」


 どうにかこの状況を最短距離で躱しきる。

 その方法を模索するが……、考えが浮かばない。――そんな時だった。

 突如、真城の胴体にグルグルと影の糸が巻き付いた。


「……!?」


「いっくよ~~~~!!」


 桜井の掛け声。

 それと同時に、ガクンッと真城の身体が力強く引っ張られる。


「ぐえ゛!??」


 呻き声を吐くぐらいの余裕しかなかった。

 視界がぐわんと切り替わり、真城がその状況を『今、自分は桜井の鞭の先端に絡め取られて振り回されているのだ』と理解する頃には、同時にドリルを躱しきったのだとも理解する。


 桜井にお礼を言おうと試みるも、桜井は未だに真城を離さない。

 それどころか、何故か真城を振り回す速度を上げていく。


「ちょっちょっちょ………っ!??」


 事態を飲み込めない真城へと、再び桜井の掛け声が響いた。


「そりゃーーーー!!」


「ぎゃああああああああああああああああああああ!!??」


 遠心力により極限まで速度を上げた真城の身体が、突如巻き付いていた影の糸から解放される。

 スッポーーン。と撃ち出される真城。

 その向かう先は、一ノ瀬がいる“巨大ロボット”胴体部分。


「やっと来たか」


 自身の下へと高速で飛んでくる真城を見やって、一ノ瀬は一度大きく深呼吸をすると刀を構える。そして、


「これでも、くらえ!!」


 左手で、一ノ瀬が刀を振り下ろす。

 斬!! とまるでケーキでも切るように簡単に、“巨大ロボット”の胸元を影の防壁ごと切り裂いた。


(まじかよ……)


 一瞬だけ、自身がもの凄い速さで飛んでいる事さえも忘れて、あまりの攻撃力の高さに驚愕する真城。

 “黒鉄”と同等の“影纏い”硬度を持った“アイ”をして、今回の件になるまでずっと切って捨てられているほどの実力者。

 その実績は伊達じゃない。


「……ぐ、ぁ!!」


 まだ身体が本調子では無いからか、あるいは桜井が無理やり叩き起こすために用いた電撃の作用によるものか、痛みに顔をしかめた一ノ瀬が呻く。

 振り抜いた左腕を、右手で庇いながら一度荒い息を吐く。

 しかしそれに、真城が『大丈夫か?』などと声をかけている暇はない。


「とっとと壊してこい!!」


 一ノ瀬からの言葉を受けながら、真城は開けられた穴へと吸い込まれるように入っていく。

 一ノ瀬が真城の飛んでくる箇所を計算し、丁度真城が“巨大ロボット”に着弾する箇所へと穴を開けていたのだろう。


「負けたら承知しねぇからな!!」


 そう言って、“巨大ロボット”を蹴った反動で後ろへと飛び退いていく一ノ瀬を後目に、真城は“巨大ロボット”の内部へと侵入する。



(……ていうかこの速度はどうやって止めればいいんだぁ!??)



…… ……



「さて、と」


 一仕事を終えた一ノ瀬が、コキコキと首を鳴らす。

 “巨大ロボット”から十分に距離が取れた事を確認しもう一度、左手の刀を構え直した。


 真城は既に内部へと送り込んだ。

 しかし、後は“アイ”が斃されるのを待てばいい……という訳でもない。


 “アイ”は任せた。

 ならば、こちらはこちらで自分らの仕事をするのみだ。



 “巨大ロボット”の左腕。

 そちらも音を立て、右腕と同様のギミックで変形する。

 しかしその先端についた武器はドリルではなかった。

 突如、巨大な鋼鉄の円盤が“巨大ロボット”の腹部にあった格納庫から出現し、それが左腕の先端と合体する。

 荒いギザギザのついた円盤が回りだし、回転ノコギリが完成する。


 それだけではない。


 “巨大ロボット”背面のギミックが稼働して、折りたたまれて隠されていた腕が二本現れる。

 そうしてそれら新しい二本の腕にも当然武器が握られる。

 一つには巨大な斧。もう一つには巨大な刀。

 それらも、どこかしらに格納されてあったものである。


「よくもまぁ、こんな全長30m程もある“巨大ロボット”に見合うサイズの武器まで用意したもんだ……」


 それだけは、関心に値する。

 が、今はそれが憎らしい。

 全くもって、いつからこんなガラクタをこさえていたのやら。


 腕が四本に増えた“巨大ロボット”。

 携える武器はドリルに回転ノコギリに斧に刀。


 そしてそれを取り囲むようにして、それぞれ構える“影狩り”の面々。

 一ノ瀬、切矢、立花、天道、野武、霜山、桜井。


 覚悟を決め、動いたのはほぼ同時だった。


 灰色一色の“影世界”。

 そんなほぼ何もない空間に轟音が響き渡った。



…… ……



 “巨大ロボット”。その胴体、内部。

 そこには真城が思っていた以上の空間が存在した。


 真城が侵入した先。

 そこは、人二人がギリギリ歩いて渡れる程度の道だった。

 中に入れば、後はコックピットだとかそれに必要な機材だとかそういったもの以外は無いのかと思っていたが、“道”がある以上は色々な部屋が内蔵されているのかもしれない。と思い直す。


 元々、この“巨大ロボット”は『“影世界”の長時間探索を快適に行える』ように作られた、といった話を神崎から聞いている。

 そのことから考えるに、もしかすると食料庫や簡易のシャワー室、寝室なんかもあるのかもしれない。

 ……道を間違えないようにしなければ。


 真城は勢いよく壁にぶつけてしまった肩と頭を擦りながら、後方の入ってきた穴を確認する。


 一ノ瀬が一太刀で開けた穴。

 そこは既に、外を覆う“影纏い”の防壁で塞がった様になっていた。

 わざわざ今から外に出る必要も無いのだが、“アイ”を破壊した後のことも考えておいた方がいいだろう。

 少なくともこの“出口”。頭の片隅にでも入れておこう。


 とりあえず行動を開始する。

 神崎が言うには、この“巨大ロボット”内部には『“影世界”のエネルギーを追い払って遮断するシステム』なるものがあるらしいが、少なくとも“ここ”はそうではないようだ。

 未だ“影世界”の中と同様に無重力のようにフワフワと身体が浮き沈みする空間を泳ぎながら、真城は道なりに進んで行く。


 しばらくして。

 真城は奇妙なものを発見した。


 それは、黒く半透明なもの。

 厚さ五ミリほどのそれが二重に連なって、一つの壁を形成しているものだった。


 それを見て、真城が初めに思い浮かべたのは“影纏い”で纏った影の膜。防壁。

 そして次に思い浮かべたのが初任務、“足立尊(あだちたける)の影人”が栗枝(くりえだ)教授の研究室に立てこもった際に用いられた“黒箱作戦”。研究室の壁全面を“影纏い”で覆って隔離した……あの時のものである。


 要するに『“影操作”で作られた影の壁』のようだった。

 しかし、


「……これは」


 壁に手を当てた真城の手がすり抜ける。

 いとも容易く、それこそ“壁”なんて無いかのように簡単に。


「おわ!?」


 当然、壁に触れて押し返されるものとばかりに思っていた真城は焦る。

 ただでさえ地に足が付いておらず空中に浮かんでいる状態では、一度動かした身体を方向転換させるのが難しい。

 ……従って。ブレーキもままならず、そのまま真城の身体全てがその壁を通過する。

 そうして、


「――ッ、いでぇ!?」


 勢いよく、顔面を床に打ち付けた。

 壁を通過したその瞬間、無重力のような力が無くなって“外”と同様の重力のある世界へと切り替わった為だった。


 顔を押さえてうずくまり、しかしそれでも痛みが治まらずにゴロゴロと床を転がり回ってのたうって、ビクビクと身体を痙攣させた後、十数秒もの時間をふんだんに使って立ち上がる。


 どうやら、先ほど真城が探していた『“影世界”のエネルギーを追い払って遮断するシステム』というのがコレらしい。

 『システム』というのだから、その制御もAIが行っているのだろう。

 真城達“影狩り”や影人達の使う“影纏い”。それは相手からの攻撃を防御するといった側面が強く、むしろ真城としてもそういった利用方法しかしていなかった訳ではあるのだが……。

 なるほど。と、真城は感心する。

 確かに防壁として硬化させ、来るものを拒んで遮断する。といった事が出来るのだから、その硬さ等を調整さえすれば、この壁のように“影世界”のエネルギーのみを遮断しつつ人間は出入り可能にする事だって出来るのだ、ということに。


 その“調整”の部分を人間だけでも出来るのか?

 あるいは神崎が特別に組み立てたAIだからこそ可能な代物か?

 それ自体はハッキリとしないが……まぁ兎に角そういうことも“可能”というのが分かっただけでも収穫だ。

 そういうことにしておこう。

 

 “影操作”の思わぬ使い方を見て、『案外、まだ色々な奇抜な使い方とかもあるのかもしれないなぁ』などと考えながらも、真城は鼻頭を赤く染め、その瞳にたっぷりと涙を溜め込みつつ、それでもフラフラと進んで行く。


 ぶっつけ本番というのも嫌なので一応“力”を使っては見るものの、問題なく機能する。

 “力”が発動し右手が白く輝くが、“影世界”から吐き出されるといった事も起こらない。

 これなら“アイ”との戦闘も可能だろう。


 一応、“力”を広範囲にばら撒く放出系の発動は避けておこう。

 いくらこの場所が、“影世界”のエネルギーを遮断した“外”と同じ環境下であったとて、その遮断しているもの自体が影の壁である以上、それを万が一無効化させてしまった時が面倒だ。

 “力”の発動は、右手のひらに収束させた圧縮系のみで対処するべきだろう。


 道は間違えていない。

 この場所が“影世界”のエネルギーなどを遮断しているエリアなら当然、その中に真城の探すお目当ての場所。“アイ”のいる操縦席……“巨大ロボット”を操るコックピットがあるはずだ。



……



『本部も!! お前らも!! まとめて全部消してやらぁあああああ!!!!』


 “アイ”の怒号が響く。

 “巨大ロボット”が轟音を立てて“影世界”を暴れ回る。


 そして、その攻撃を回避し食らいつく“影狩り”の面々。

 その攻防が、激化する。


「言ってろよ」


 切矢が全力で突撃する。

 狙う場所は当然、ハリボテと分かったドリルの付いた右腕だ。

 

 しかし、それを“アイ”も分かっているのだろう。

 切矢に狙われた右腕を引っ込めて、刀を持った左腕が迫り来る。


「チッ、そう簡単にいかねえか。だが!!」


 切矢は最低限の動きを使って振り下ろされた刀を回避する。

 そうして狙いを一度その左腕に変更し、全力で竹刀を振り下ろす。

 ガリガリガリガリッッ!! と音を立て“巨大ロボット”の影の防壁を削ぎ落す。


「今だ、ひなた!!」


「分かってる」


 削がれた影の合間から“巨大ロボット”の装甲が顔を出す。

 そこへ目掛けて、立花の影の鞭が振るわれる。


 ヒュオンッ!! と風切り音を立てた一撃が炸裂するその直前。

 立花の作った影の鞭。その先端が拳大の球体に変化する。

 それは宛ら、鎖付き鉄球(モーニングスター)

 ご丁寧に鋭利な棘まで生えている。

 

 バゴンッ!!

 影の鉄球が、“巨大ロボット”の装甲を凹ませる。


「むぅ、固い」


『そんなんじゃ、かすり傷にもなんねぇんだよォ!!』


 切矢と立花を払うように、回転ノコギリ付きの方の左腕を横に振る。

 が、当然切矢と立花はそれを躱すと距離を取る。


「その攻撃だけならな!!」


「それでも、そういったダメージの蓄積が、積み重ねが、私達の勝利に繋がっていくものよ!!」


 ダダンッ!!

 と野武と霜山が“巨大ロボット”の両肩に着地する。

 そして、それと同時に渾身の力を込めた刀を振り下ろす。

 狙う箇所は関節部。


 ズガン!! 

 と鈍く音を響かせて、“巨大ロボット”の影の防壁がヒビ割れる。

 遺憾だが、二人の一撃では影の装甲を砕ききることは叶わない。


(チィ……!!)


 二人は内心、舌打ちするが、しかしそこまで出来れば別にいい。

 全くもって問題ない。


「「でやあああああああ!!!!」」


 二人は剣先を立てると、そのままヒビの入った所へ目掛けて刀を深々と突き刺した。

 一撃目。それを受けて脆くなった影の防壁が、今度こそ音を立てて砕け散る。

 そして、


 ギリギリ!! バチバチ!!

 と歪な機械音を響かせ“巨大ロボット”、その関節部分が軋み、歪む。


「ぐっ……く、限界か」


 刀には当然、影を纏わせている。

 それにより、確かに刀の硬度は増している。

 しかしそれでも、“巨大ロボット”が腕を動かそうとするたびに、刀に纏わせた影が、或いは刀本体が、同様にベキベキとヒビ割れる。


 これ以上は持たない。

 これ以上は刀の方が折れかねない。


「もう一押し!! 刀から手を放して先に離れて!!」


 桜井が両手を広げて落ちてくる。

 “巨大ロボット”、その頭上に着地する。


 広げた両手。

 その先には影の糸が伸びていた。

 桜井がその影の糸を操作して、“巨大ロボット”の両肩、その関節部分に突き刺さる刀へと巻き付ける。


「やああああああああ!!!!」


 目を閉じる。

 両拳を力いっぱい握り締め、ただ一つ。

 能力の発動に集中する。


 瞬間だった。

 桜井の両拳から小さな火花が迸る。

 それと同時、桜井の両手から生まれた放電が影の糸を電線のように伝わってその終点、刀の刀身へと到達する。


 パアンッ!!

 と一瞬大きな火花が破裂して、突き刺さった関節部分から黒い煙と焦げた臭いが立ち上る。


 桜井は足場を蹴ってその場所を離脱する。

 そして同時に、影の糸を引いて刀を二本回収する。



「お、お前、そんな事まで出来たのか」


「大丈夫? 顔色が悪いけど……」


「うん、何とか。……でももうやりたくない」


 桜井はそのまま野武、霜山と合流すると、回収した刀を返却する。

 荒い息を吐きつつも、ドッと溢れた疲労感を何とか気力で持ちこたえて顔を上げる。



『やってくれるじゃん……!!』


 “巨大ロボット”の動きが鈍る。

 ギシギシと関節部分を軋ませて、四つの内二本の腕が垂れ下がる。

 左右で片腕ずつ。

 斧を持った右腕と回転ノコギリの付いた左腕だ。

 回転ノコギリに至っては、回転も停止している。


『今ので色々壊れたか!? まともに腕が動かんじゃん!!』


 斧を持った右腕が武器を持つ握力を喪失し、ズルズルと斧が手から滑り落ちる。

 それを、


「お、ラッキー」


 切矢が影でキャッチする。


「……ッ、重!?」


「ちゃんと持って」


 斧の予想以上の重さに身体を下へ引っ張られ、深影(しんえい)に引きずり落ろされそうになる切矢であったが、その斧を立花も影で支えてくれたことで事なきを得る。

 二人で斧を拾い上げ、良いものが手に入ったと不敵に笑う。



「バカが無策で突っ込んで何が出来るのかとも思ったが、中々どうしてやるじゃないか」


 遠距離から銃を構え、適度に銃弾を撃ち込んでいた天道が口を挟む。


「お前ももっと積極的に手伝えや!!」


「やってるだろ? お前らと違って俺はちゃんと考えて動いてる。見てみろ」


 噛みつく切矢だったが、天道に促されその視線の先へと目を向ける。

 そこにあったのは、ドリルの付いている方の右腕だった。

 よく見ればその右腕には所々銃弾を撃ち込まれた後があり、その成果かは知らないがドリルの回転も止まっていた。


「どれだけ右腕を逃がそうが、俺の弾丸からは逃げられない」


 天道はドヤ顔を決めると、


「野武、霜山、桜井のお陰で腕二つ(ノコギリと斧)が動かなくなった。これなら目当ての右腕(ドリル)にたどり着けるはずだ。後はその斧を使うなり何なりして、お前と立花で右腕(ドリル)を切り落とせ。俺の攻撃で大分脆くなっているしお前達でもイケるだろ。残る最後の腕()とお前らがたどり着くまでのサポートは、こっちの残りメンバーでするから気にするな」


 一通りの説明を終えると、最後に天道は一ノ瀬へと目を向ける。


「一ノ瀬さんは……」


 一ノ瀬は先程の一撃。

 真城を“巨大ロボット”の内部へと送り出す為に振るったアレ以来、攻撃をしていない。

 いや、出来ていないというべきか。


 やはり顔色が良くはない。

 桜井の持つ能力で叩き起こされたらしいことまでは把握しているが……。

 それが思いの外、堪えているのが原因か。

 或いは、それ以前の“アイ”との戦闘が原因か。

 理由は定かではないが、少なくとも戦力として期待するべきではないだろう。


(……惜しいが、待機させとくのが正解か)


 しかし。

 そんな思考を一ノ瀬は感じ取ったのかもしれない。

 一度大きく息を吸うと、


「俺も右腕切断に向かおう。俺がいた方が確実だ」


「問題ないのですね?」


「ああ」


 一ノ瀬は軽く刀を振って見せる。


 それがやせ我慢であろうことは分かっている。

 しかしそれでも、本人が行けるというのなら無理に止める必要も無いだろう。

 何より、腕の切断が確実になるという点は確かである。


「分かりました」


 天道は頷くと“巨大ロボット”に向き直る。

 両手に持った拳銃。その銃口で狙いを定める。


「あのクソロボットをスクラップにするぞ」


「当然だ!!」


「徹底的に、破壊する」


「神崎のバカを泣かしてやる!!」


「いいわね、それ!!」


「とっとと終わらせて汗を流したいしね!!」


「行くぞ!!」



 天道、切矢、立花、野武、霜山、桜井、一ノ瀬。

 それぞれが声を荒げ、怒りに任せて“巨大ロボット”に突っ込んだ。



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