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カゲビト  作者: 永眠布団
第三章 新たな任務

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第9話 『vs “巨大ロボット”』



「どうしたの?」


 絶句した状態で動きを止める真城。

 そんな真城に疑問を持ったのか、“猫の面”を付けたセーラー服の少女が言葉を放つ。

 小首をかしげるようなその仕草だけを切り取れば可愛いが、如何せんそのお面の存在が異様さを引き立てる。


 なんでそんなお面を付けているのか?

 そんな疑問が喉元まで出かけるが、


「気を付けて、来るよ」


 という少女の声で、真城の意識が現状へと帰還する。

 そうだ。今はそんな疑問をぶつけている時じゃない。

 こちらへと迫り来る、あの“巨大ロボット”をどうにかしなければならないのだ。


 真城は“巨大ロボット”の方へと視線を向ける。

 “巨大ロボット”は、既に真城との距離を10m強の辺りまで縮めていた。


 人間程度がいくら抗おうとも意味がない。

 そう思えてしまえる程の圧倒的暴力ではあるものの、動きが遅いのは不幸中の幸いか。

 まずはとりあえずでも距離を取った方がいいだろう。

 そう考え、後ろへと移動しようと後方を振り向いた時だった。


「――ッ!?」


 “影世界”の中に浮かぶ、見覚えのあるいくつもの人影。

 人の形をした、ロボット達が目に留まる。

 それは書庫に現れた群れの一部なのか、あるいは本部で徘徊していた別動隊がやってきたのか。

 それを真城が知ることは出来ないがともかく、これでは“巨大ロボット”に集中できない。

 “巨大ロボット”をどうにかしようとする最中、後ろを狙われてはお終いだ。


 とりあえず“巨大ロボット”は後回し。

 “巨大ロボット”の現在地と動きには気を付けつつ、人型ロボット達を先にどうにかした方がいいだろう。

 “影世界”の中なので相変わらず“力”は使えない。

 しかし、それでも人型ロボットは倒せるはずだ。

 “力”を使わずとも、しっかりと気を付けて立ち回れば問題もないだろう。


 真城と同様に、人型ロボットが優先だと判断したのだろう。

 お面の少女が右手を振るう。

 その手に持つモノが、カチカチカチと音を鳴らす。

 それは見たところ、文房具の一つとしておなじみのカッターナイフだった。

 先程の音の正体は、刃を伸ばした時のものに違いない。


 よく見れば、カッターナイフの刃の先から影の鞭が伸びている。

 もしかすると、さきほど真城を拘束していた人型ロボットを攻撃し、破壊してくれたのはあの鞭なのかもしれない。


 真城とお面の少女。

 二人が同時に動いた。

 それぞれが別の方向に、人型ロボット達に向かっていく。



~   ~   ~   ~   ~



 “影世界”。

 その中は宇宙空間や水中のような場所である。

 フワフワと身体が宙に浮き、足場といったものは存在しない。

 そんな“影世界”内での移動には二通りの方法が存在する。


 まず第一に、水泳のように泳ぐこと。

 腕を水平に動かしたり犬かきのように動かして、軌道を修正する。

 バタ足やドルフィンキックのように宙を蹴り、前に進むことも可能である。


 これは主に探索用。

 周囲を警戒して進んだり、何かを探す目的で使うことが多いやり方だ。


 体力の消耗といった部分を考慮すると、長距離を移動する目的では使えないものである。

 しかし逆に言えば、移動にも方向転換にも身体を使うだけなので、影の使用は全身“影纏い”だけで事足りるという点では一考の余地がある。


 第二に、自身の扱う影の一部を空中に固定して足場にする方法。

 真城が初任務で遭遇した女の影人が体育館で使用していたのと同じ方法を用いて、足場を思いっきり蹴って速度を出すやり方だ。

 “影世界”を長距離移動する際に主に用いられ、また戦闘において一気に相手まで距離を詰める時や動き回って相手を撹乱したい時などに使われる。


 足場を蹴って一気に移動できる為、体力はあまり必要ない。

 しかし変わりに、“影世界”で活動する上で必須である全身“影纏い”の他に足場としても“影操作”を使用してしまう為、物理的な肉体よりも精神面での疲労に気を配る必要はあるだろう。


 前者も後者も一長一短。

 その時々によって臨機応変に使う必要があるのである。



~   ~   ~   ~   ~



 真城は“灰”の男との取引によって“力”と“影”を取りかえた。

 それにより、影人に対して優位に立ち回れるようにはなった。

 しかし同時に、自身の影が無くなったことで“影操作”で扱える影の総量は減ってしまっていた。


 今までの真城。

 前回の初任務までの真城は、衣類や持ち物などを調整し、全身“影纏い”が出来る総量まで持ち物を頑張って増やして対応していた。

 それは、真城がまだ影人との戦いや、状況に応じた対処に何が必要なのか? といった知識がまだまだ不十分であった為だ。

 全身の“影纏い”さえ出来る量があるならば、とりあえず問題はないだろうと勘違いしていた為のものだった。


 だが今の真城は違う。

 前回の任務で、真城はより多くのことを学んでいた。

 特に、“扱える影の総量がもたらす恩恵”については考える機会も沢山あった。

 大柄の影人と戦った時などがそうだった。


 大柄の影人が扱う“念動力”に対処するために全身“影纏い”を用いた真城。

 しかし、それでは扱える影が打ち止めとなってしまい攻撃に影を使えないといった問題が起きてしまったのだ。

 その時は、桜井に“影纏い”の一部を補ってもらったり、“煙玉”で生み出した黒煙の影で補ったりといった事でどうにか出来たわけだが……どうせならそういったことも一人で対応出来た方がいいだろうと考えを改め、持ち物を増やしておいたのだ。


 動きに制限がかからないように考えて持ち物を工夫している為、今回も前回と比べて、すごく影の総量を増やせたかと言えばそうでもないのだが……それでも、警棒程度の大きさの刀を一、二本生み出せる程度の影は増やせたつもりだ。

 

 なので当然、足場の形成くらいは問題なく行える。



…… ……



 真城は、自身の足元に影の足場を形成してそれを蹴る。

 それで一気に人型ロボットへと距離を詰め、握った拳をその胴体へと叩きこむ。


 バキリッッ!!


 と音を立てて拳がめり込み、影の防壁を突破して中の機体を凹ませる。

 やはりこのロボット達の扱う“影纏い”程度なら、真城でも問題なく突破可能。

 簡単に……とまでは行かないが、それでも一点集中で叩き込めば十分に貫ける硬度である。


 “アイ”の防壁とは大違い。

 これでもしもこのロボット達も“アイ”並の装甲であったなら、手が付けられないでいただろう。

 そうだったなら、流石にお手上げだった。


 真城は拳を一度引っ込めて、逆の拳を素早く同じ個所に叩きこむ。

 破損した“影纏い”が修復されるよりも早く、影で硬化した拳がロボットの胴体を破壊する。


『ガ、……ガガガッ、――ガガピ』


 雑音を響かせて、ロボットが機能を停止する。

 胴体の中にあるコンピュータ。“核”を破壊した為だろう。

 “力”が使えたなら破壊するといった選択肢は使わずに、電源ボタンを引いていたのだろうが、場所が場所なだけに仕方がない。

 “力”が使えない以上、破壊する他に手段がないので仕様がない。


 一体を破壊して、すぐまた次のロボットへと向かっていく。

 器用に足場を生成し、縦横無尽に移動する。

 相手の影に、捕縛されないように立ち回る。


 お面の少女も同様だった。

 足場を使って小刻みな移動を繰り返し、周囲の敵を把握する。

 そしてその直後。

 周囲にいた数体のロボット達がほぼ同時に『バチコンッ!!』『ベチコンッ!!』と鞭打たれ、機体の一部が爆発でもしたように飛散する。

 一撃目で影の装甲を破壊して、続く二撃、三撃目で機体の中核を破壊する。

 それを何セットか繰り返す。


「――ッ、おっと!!」


「……む」


 真城と少女を叩き落とすかの様にして、上から下へと“巨大ロボット”の広げた手のひらが通過する。

 警戒していたおかげで避けるのは容易い。

 やはり自分からぶつかりに行かない限りはそうそう攻撃を食らうことはないだろう。


 初めは焦って迫ってくる手のひらに対して、自身も殴りに行くなどといった暴挙を犯してしまったが、……よくよく考えてみれば避ける方が簡単だ。


 あるいは真城ただ一人であったなら、人型ロボット達に包囲されたその隙に“巨大ロボット”からの特大の一撃を貰う事態もあったのかもしれないが。

 しかしそれも、ありがたいことにお面の少女がいるおかげでロボット達のターゲットが分散し、人型ロボットと“巨大ロボット”の同時攻撃を受けることなく済んでいる。

 これならば、そうそう負けはしないだろう。


 ……とはいえ。


「……、」


 人型ロボットを破壊しつつ、真城は“巨大ロボット”の周囲を旋回するように跳びまわる。

 結局のところ、それでは“巨大ロボット”を止められない。

 負けはしないが勝てもしない、そんな状態。

 物理的な破壊が難しい以上、どこかにある電源ボタンを発見し起動をオフにするしかないのだろうが……はたしてこの“巨大ロボット”にも“戦闘訓練用ロボット”達と同様の電源ボタンがあるのかどうか。

 少なくとも長いケーブルなどで本部と繋がっているわけではなく自律で稼働している以上は、何かしらで機能のオン・オフが可能なはずだ。


 正面はもちろん見当たらない。

 もしやと思って背面を確認するもそれらしいものはない。

 そうなると、やはり“内部”だろうか。



 バキンッッ!!


 真城を取り巻いていたロボット。

 その最後の一体へ向かって、真城は拳を振り下ろす。

 影の装甲を突破して、稼働に必要な“核”を破壊する。


 これであらかた邪魔なロボットは片付いた。

 かるくお面の少女の方へと目をやって、無事なことを確認する。

 見れば少女も周囲のロボットを一通り片付け終えた後の様だった。


 これでやっと本題に取り掛かれる。

 あの“巨大ロボット”にはおそらく“内部”が存在する。

 その規模は不明だが、多分コックピットのようなものは存在する……はずである。

 それは元々、あの“巨大ロボット”を見た時から考えていた事だった。



 初めに神崎の指示を受け、書庫へ向かった時の事。

 最初はそこに天道がいた事で、その理由に納得をしてしまった訳ではあるのだが……そもそもこんな状況だ。

 天道がそこにいるのならハッキリと、そう伝えてくれればいいのである。

 わざわざサプライズを仕掛けるようなものでもない。


 で、あるのなら。

 天道が書庫にいたことは偶然で、真城たちが書庫に誘導された理由は別にあると考えた方が自然だろう。

 

 ではその本来の理由とはなんなのか?


 真城たちはその後、ロボットたちの襲撃にあった。

 そうして、“影世界”へと連れこまれ、“巨大ロボット”を発見した。

 その“巨大ロボット”は、確か“アイ”が制御を乗っ取りに動いているといった話ではなかったか?


 ここまで来て、真城はようやくある答えにたどり着く。


 真城達のそもそもの目的は“アイ”を破壊する事だ。

 しかしこの場所に、目的の“アイ”の存在は見当たらない。 

 あるのは、目の前の“巨大ロボット”のみである。

 

 であるならば、“アイ”は“巨大ロボット”のコックピットなる場所に入っているに違いない。

 それ以外に、考えられない訳である。


「行くか!!」


 “巨大ロボット”のコックピットを探し出す。

 その目的で真城が行動を開始する。――――その刹那の事だった。



『あああぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!』


 聞き覚えのある合成音声(こえ)が真城に届く。


「……へ?」


 声のする方を振り向いて、真城は目を見開いた。

 “アイ”がいる。

 何故かそこに、“アイ”がいる。

 “巨大ロボット”だとかコックピットの中だとかそんなことは全然なく。

 ……“アイ”がいる。


「なんで!??」


 真城の脳内が白くなる。

 脳が思考を放棄する。


 その隙に、


『チィ!! 真城晴輝、てめぇまだボコられてなかったのかよ!!』


 “アイ”も真城を認識しそんなことを言いながら、真城を無視して“巨大ロボット”へと一直線に駆け抜ける。


『まぁいいさ!! 丁度いい!!』


 “巨大ロボット”の胴体のギミックが稼働して、まるで巨大な蓋が開くようにしてカパッと入り口を露出させると、その中に“アイ”が間髪入れずに入ってく。

 “アイ”が中に消えると同時、再びギミックが稼働して蓋がゆっくりと閉まっていく。

 そして、


『真城晴輝も切矢祐真も!! 本部もまとめてぶっ壊す!!!!』


 “巨大ロボット”からは“アイ”の声。

 破壊を宣告する、甲高い叫びが響き渡った。



…… ……



 “アイ”に制御を完全に乗っ取られた、というよりも“アイ”に操縦される形となった“巨大ロボット”が動き出す。

 その動きは“アイ”の制御を得た為か、心なしか俊敏な動作を見せている。


『邪魔なもん全部ぶっ壊してぇ!! 私とたっくん二人の世界にしてやらぁ!!』


 両腕の拳同士を打ち付けて、真城たちへと前進する。

 “巨大ロボット”には足が無い。

 しかし変わりに下腹部の断面には四つのスクリューのようなものが付いており、それが回転することで機体の移動を可能とする。

 他にも身体の至る所に同様のものが付いており状況に応じて様々な動作、移動が出来るようだが、これらの動きも“アイ”が入ったことにより確実に“人の動き”に近づいた。


 真城とお面の少女が警戒心を強める中、また新たな声が二人に届く。


「お、ひなた!! 良かった無事だったか!!」


 “影世界”を泳ぐようにしてこちらへと向かって来た男性。

 それは赤一色の簡素なTシャツに黒いパーカーベスト、黒のクロップドパンツといった服装に加えて、赤と黒からなる千鳥格子(ちどりごうし)柄の竹刀袋を肩に担いだ茶髪の青年。

 それを見て、


「遅い」


 と、お面の少女はぶっきらぼうに言い放つ。


「ごめんて。神崎のバカが“アイ”に襲われてる最中でさぁ、助けてたら時間食っちゃって」


「しかもそれで“アイ”を仕留められなかった、と。……無能?」


「辛辣!?」


「そこで仕留めてたら、あぁはならなかった」


 こちらへと向かってくる“巨大ロボット”。

 その中で操縦する“アイ”の事を顎で指し、お面の少女は茶髪の青年を睨みつける。


「……あ、いや、ごもっともな意見です。はい」


 何も言い返すことも出来ずに、ただ頭を下げて謝りポーズをとる男性。

 そんなやり取りに、真城は若干引きながら、


「……あの」


 とだけ口にする。

 それだけで、とりあえずこの空間が二人だけのものでは無いことが伝わったのだろう。

 男性はコホンと一つ咳払いをすると、いままでのやり取りが何もなかったかのように取り繕う。


「あー、えっと。見ない顔ってことは新人か。俺は切矢祐真(きりやゆうま)、よろしく。こっちのちっこいのは立花(たちばな)ひなたって――」


「ふんっ!!」


「あ゛ああぁぁぁああ!!!???」


 男性が自己紹介をする途中、お面の少女が容赦なく男性の弁慶の泣き所へと蹴りを放つ。

 唐突な激痛に絶叫しながら“影世界”をのたうつ男性を横目に、また真城は言葉を詰まらせた。

 まぁとりあえず、男性の方が切矢祐真。

 お面の少女が立花ひなたってことでいいのだろう。


「俺は真城晴輝、よろしくです」


 真城もとりあえず自己紹介をやっておく。

 向こうが名乗ってきた以上、こちらだけ名乗らないのでは印象も悪くなる。


「……真城晴輝。そうか、あんたが」


(ゆう)、黙って。来るよ」


「――ッ!!」


 “巨大ロボット”が、右拳を振り下ろす。

 しかもそれだけではない。

 右拳が躱されたと見るや否や大きく身体を横に回転し、真っ直ぐに伸ばした右腕を回転に合わせて一帯を薙ぎ払うが如くぶん回す。


 ブオン!!

 と驚くべき加速で振るわれたそれをなんとか躱しきり、真城たちは常態を立て直す。

 

 やはり、動きが明らかに変わっている。

 先程までの“巨大ロボット”であったなら、ここまでの事はしなかった。

 いや、出来てなかったと言うべきか。


 ……にも関わらず、今はそれが可能となっている。

 移動や行動に使われているのは、各部位に取り付けられたスクリューのようなものだけではない。

 もっと別の……推進力を上げるもの。

 ブースターのようなものを利用して、攻撃の速度を上げている。


 その機能自体は元から搭載されていたのだろう。

 しかしその利用、処理を“巨大ロボット”に搭載されたAIだけでは上手く扱えず、使われずにあったものに違いない。

 しかし、その処理を可能とする“アイ”が操縦することで、その機能さえ十全に発揮できるものへと昇華した。……そんなところだろうか。


 まぁ兎に角、真城たちが初めから持っていた警戒心は間違いではなかったという事だ。


「これはまぁ確かに、まずはこっちが最優先な訳だな」


 真城に何かを話したそうにしていた切矢ではあったが、今はそれをグッと飲み込んで“アイ”が操縦する“巨大ロボット”へと目を向ける。


「そうですね」


「当然」


 真城と立花もその意見に同意する。

 三人がそれぞれ顔を見合わせて、互いの目的が一致していることを理解する。

 力を合わせて、この状況を打開する。


「そんじゃまぁ、いっちょやってやりますか!!」


「とっとと“アイ”を破壊して、本部を早急に立て直す!!」


「神崎は一度、みんなから殴られるべき」


 そして、それとほぼ同時。

 切矢、真城、立花の三人は、――――反撃を開始した。



…… ……



『たった三人で何が出来るんだぁ!? この圧倒的重量を!! どうにか出来るわけねぇだろうがよぉおおお!!!!』


 “アイ”が操縦する“巨大ロボット”。

 そして切矢、真城、立花の三人が――激突する。



 “巨大ロボット”が速度を上げて前進する。

 三人へ目掛けて一直線につき進み、さらにブースターで加速させた手のひらを、飛び回るコバエを叩き落とすかの如く振り下ろす。

 グォォオオン!! と迫るそれを三人はそれぞれ身を捻って回避する。


「だったらまずは手当たり次第に攻撃するぞ!! 確かにこの巨大さは厄介だが、逆に言やぁこんだけデカいんだ。何も全部が全部詰まってる(・・・・・)わけじゃねぇはずだ!! 機材だ金属だ予算だっつって足りねぇ箇所をガワの見せかけだけで誤魔化してるハリボテな部分があるはずだ!!」


「なるほど、装甲の脆い箇所を探すってわけか!!」


「分かった」


 切矢が提案した指示の下、真城と立花も行動をそれぞれ開始する。


 まず動いたのは立花だった。

 立花は手に持ったカッターナイフの先端から伸びる影の鞭をしならせる。

 そのリーチの長さを活かして、やたらめったらに打ち付ける。

 しかし、一度の鞭打ちだけでは“巨大ロボット”が纏う影の防壁を破ることは出来ないようで、二度、三度と同じところを攻撃し、その防壁を削り切る。


 立花が伸ばしていた鞭を一度引っ込める。

 そして次の瞬間、突きの動作に合わせるようにしてカッターナイフの先端から鋭利な影の槍を射出する。

 影の防壁が破壊され、その奥に向きだした機体へと影の槍が突き刺さる。


 ゴガァン!!

 と鈍い金属音が木霊するが、


「む、ハズレ」


 その手応えからくる“答え”を察して、一度諦め距離を取る。


 続いて動いたのは真城だった。

 空中に固定した影の足場を力強く蹴って加速する。

 向かう場所は背面だ。

 仮にこのロボットが見掛け倒し……とは言わないまでも、見た目重視で作られているのなら表面は完璧に仕上がっているはずだ。なら裏面は?

 そんな考えで取った策だった。


 “巨大ロボット”の動作に合わせて、ぴったりと背後へと移動して、


「らぁ!!」


 渾身の力を込めて拳を打ち付ける。

 ガンッ!! と音が炸裂し、影の防壁にヒビを作る。

 流石に一撃では駄目らしい。

 この“巨大ロボット”。いままで戦った“戦闘訓練用ロボット”や“警備ロボット”よりも硬質な“影纏い”が出来るようである。

 しかしそれでも、


「“アイ”よりは硬くない!!」


 真城は打ち付けた拳を引っ込めると同時、もう片方の手に力を込める。

 この二撃目で、残りの影の防壁ごとその奥の機体に攻撃を届かせる。

 そんな想いのこもった二撃目が、直撃する――その瞬間。


「――――ッ!?」


 グワンッ!!

 と、“巨大ロボット”が身体を動かした。

 理由は真城の攻撃を避ける為、ではない。

 “巨大ロボット”のターゲットに選ばれた切矢へ向かって移動を開始した為だ。


「……くそっ!!」


 急な動きについて行けずに、その場に置いてきぼりをくらった真城だが、なんとか意識を切り替え後を追う。

 “巨大ロボット”の背中を急いで追いかける。


『まずはお前からああああぁぁぁああああ!!!!』


 “巨大ロボット”が背面のブースターで加速する。

 そしてさらにタイミングを合わせて振るわれた右腕。その上腕や肘、前腕に取り付けられたブースターも起動する。


 ゴォォオオ!!

 と、まるでその巨体からは想像もできないような速度で迫り来る拳。


「チィ……ッ!!」


 思わぬ速度に、躱すタイミングを失った切矢が舌打ちする。

 今から避けたのでは間に合わない。

 多少移動できたところで、“巨大ロボット”がそれに合わせて軌道を修正するだけで事足りる。ほぼ確実に命中する。

 なら……こちらも受けて立つしかない。

 避けられないというのなら自身を出来る限り“影纏い”で固めつつ、その動きに合わせて後ろに後退する事で、威力を少しでも下げるのが得策か。


 衝撃に備える。

 中段で構えた竹刀を横に倒して一か八か、“巨大ロボット”の拳に沿わせて力の向きを逸らせないかを模索する。


(――ッ、来る!!)


 竹刀にも影を纏う。

 小さく短く呼吸をし、迫る拳から目を逸らさない。


「来いやあぁぁぁぁああああ!!」



 衝突する、――――その十秒ほど前のことだった。


「竹刀を思いっきり縦に振れ!!」


 ある男性の声が響いた。


「――――ッ」


 その声を聞き、切矢はもう迷わなかった。

 切矢へと届いたその声に従って、一心に竹刀を振り下ろす。


 直後だった。

 ズガガガガッッッッ!!!!!!

 という音が鳴った後、“巨大ロボット”の拳を加速させていた二か所のブースターがその機能を停止する。

 そしてブースターが突如止まった事により、真っ直ぐにつき進んでいたはずの拳の軌道が書き換わる。


「はあああぁぁぁぁあああああ!!!!」


 切矢が縦に振り下ろした竹刀。

 その切っ先がガリリリリッ!! と“巨大ロボット”の前腕の装甲を影の防壁ごと削りながら、切矢の頭上スレスレを通過する。


 ふぅ。と溜息を一つ付き、拳の直撃を避けられたことに安堵する。

 ……そして、


「天道、いやがったのか!!」


 先程、ブースターへと攻撃し機能を停止させた張本人。

 何処にいるのか分からないソイツに向かって声かける。


「なんだ、命の恩人に向かってその口の利き方は?」


 意外なほど近くから響く声。

 左右を見渡していないことを確認し、そうして頭上に目を向けて――発見する。


「相変わらず人を見下す趣味は変わってねぇようだな」


「お前こそ相変わらずだな。特に剣道に精通している訳でもない、ただの竹刀を振る姿勢。我流だ何だと言い訳しないでさっさと剣術の一つでも習ったらどうだ?」


『な、なんで天道秀才(てんどうしゅうさい)が!? お前はとっくに寝てるはず……』


 切矢と天道。

 二人の会話に割り込む様にして“アイ”の驚きの声が上がったが、しかし天道は肩をすくめる様にして、なんてことなくただ普通に言い放つ。


「なぁ、なんで俺が書庫なんかにいたと思う?」


『……はぁ?』


「知ってるだろ? あの書庫には“影”に関する世界中の書籍や資料の他に、ここ“影狩り”で研究した成果を収めた研究ファイルが保管されてるって事くらい。そん中にはもちろん、神崎が独断で勝手に作った発明品共も含まれる」


『――ッ!!』


「生憎と俺は神崎の作る道具に詳しくなくってな。調べてたんだよ。お前が使った“睡眠ガス”の仕組みと効力を。幸いなことにお前が所かまわずガスをばら撒いてくれてたお陰で、成分のサンプルも取り放題だったしな。間に合うかどうかは賭けだったが……思ったよりも仕組みが楽で助かった。初めは俺一人分作れりゃ良かったが、『旅は道連れ』とも言うしなぁ」


 そこで一度言葉を区切るとニヤリと小さく微笑んで、


「おらぁ!! 俺がわざわざ働いてやってるんだ、お前らだって働けよ!!」


「わかってんだよ、クソったれ!!」


「全くよ、嫌な借りを作ったものね!!」


 天道の声が合図であったかのように、野武と霜山の二人が刀を構えた状態で“影世界”に現れる。

 その顔はまだ完全に眠気が取れていないのか、瞼が閉じるのを必死にこらえている様だ。

 きっと、ここ数分間の中で叩き起こされたに違いない。


『|野武虎雄<のたけとらお>、霜山牡丹(しもやまぼたん)。お前らまで……』


 ギリギリと奥歯を噛みしめる。

 そんな顔が目に浮かぶような“アイ”の声。

 次から次へと、倒したはずの敵が復活するといった不快感、苛立ちが辺りの空気をピリピリと支配する。……その中で、


『ぎゃああぁぁぁぁぁああああああああああ!!??』


 また、新たな声が木霊する。


『……腕が、……腕が、……腕が』


「む、この声は」


「神崎? なんだ、神崎(あいつ)まで“影世界”に入って来たのか?」


 突然“影世界”に響く神崎の声。

 それに対して、立花と切矢が反応する。が、


「あ、いや、今の声は俺の持ってるイヤホンのスピーカーから……」


 真城も突然の声量に驚きつつも、なんとか説明を絞り出す。

 一体全体どうしたというのだろうか。

 真城の付けたイヤホンにカメラなどは付いていなかったはずである。

 であるのなら、神崎も顔だけ“影世界”に突っ込むか何かして、“影世界”内部の情報を知ったに違いない。

 そして、何かがあったのだ。

 神崎が叫びたくなる様な、何らかの出来事が。

 それは一体……何、


『僕が折角作った“巨大ロボット”の腕があああぁぁぁぁああああああ!!!! あれ作るのすっごく大変で大変で!! 給料や研究開発費用をやりくりしてコツコツコツコツ地道に組み立てて、ここまで作り上げたのに!!!!』


「…………、」


 見れば、“巨大ロボット”の右腕。

 先程、切矢の頭上を通過する際に竹刀で切りつけていたその部分。

 前腕の金属の装甲が切り裂かれ、その中身のない空洞が見えていた。

 

 なるほど。

 あの箇所が、真城たちの探していたハリボテ部分というわけか。

 ざっと見た感じ、あのハリボテ具合なら右手を切り落とすぐらいは可能だろう。


 神崎の悲痛な叫び声が木霊して、……一時の間、“影世界”を無音が支配する。

 その瞬間だけは、真城はおろか“アイ”でさえも無言となっていた。


 少しして、静まり返った空間で一人の男が口を開く。


「……よし、徹底的に破壊するか」


 それは、無慈悲な切矢の宣言だった。


『待って、それだけは!! “巨大ロボット”だけは壊さないで!!』


「無理に決まってるだろこの状況で。どっちの味方だてめぇ!!」


『だってだって!! “巨大ロボット”くんは悪くない!! 何も悪くはないじゃないか!!』


 ワーワー、ギャーギャー。

 切矢と神崎が、真城のイヤホン越しに言い合う。

 埒が明かないこの状況。しかしそれは意外な形で終結した。


『製作時間も素材調達も大変で――――「ゴン!!」ごふッ!?』


 神崎の言葉が途中で途切れる。

 何が打撃音というか鈍い音が聞こえた気がするが……。


『構いません、徹底的に……もう本当に徹底的に破壊してやってください』


 イヤホンから九条の声が響いた。


「もう大丈夫なのか?」


 九条の声に切矢が驚く。

 確か切矢が神崎を助けに行った時には既に倒れていたはずだったが。


『えぇ、今はなんとか。幸か不幸か私には既に“睡眠針”の抗体だか耐性のようなものがある様で……。まぁそれも毎度毎度“アイ”が暴れた結果なんですが』


 九条が溜息まじりに言い放つ。

 その声からは、疲れの色が聞き取れる。

 『もうなんでもいいから早く解決してくれ』とそう言っている様にも感じ取れた。


 まぁ何はともあれ、とりあえず“巨大ロボット”破壊の許可が下りたのはいいことだ。

 真城たちは、改めて“巨大ロボット”へと向き直る。


「そういえばさ」


 切矢が真城に向かって言う。


「アンタって影に対抗できる能力だか何かがあるんじゃなかったか? さっきから見ていたが使う素振りがないのは何か……条件とか制約とかそういうのがある感じなのか?」


「え、あぁ」


 真城は一瞬驚くが、切矢も“影狩り”の一員だ。

 真城の“力”についてももう大分知れ渡っているはずだし知っていてもおかしくないと納得する。


「それなんですが、実は“影世界”の中だと思うように使えないんですよ。“力”を使うと問答無用で“影世界”から放り出されてしまうので」


「そうなのか……俺と同じだな。その能力については知っときたかったんだが、残念だ」


「……? でもそれが今、ネックになっています。純粋な影の勝負じゃ俺は“アイ”の防壁を破れない。“アイ”の破壊が出来ないから、どうにかあの“巨大ロボット”から引きずり降ろして外の世界に連れて行かないと……」


 “巨大ロボット”の影の防壁はどうにかなる。

 しかし“アイ”はそうもいかない。

 “アイ”を相手にするならば、どうしたってこの“力”が必要だ。


 どうするか?

 そんな問題が浮上する(というか真城は初めから気付いていたが)中で。


『……っ!!』


 先程、無理やり言葉を止められた神崎が何かを閃き、もう一度口を開く。


『それなら!! それなら“巨大ロボット”は破壊しない方がいい!! あのロボットは元々“影操作”の出来ない人達や、出来るけど長く深くは潜れないって人達でも“影世界”を快適に探索出来る用にってコンセプトで作った物でもあるんだ。だから当然あの内部、操縦席やその周囲の空間は“影世界”のエネルギーを追い払って遮断するシステムになっている。その部分にさえ入れれば外の世界と同様に“力”だって使えるはずだ!!』


 神崎から訴え。

 提案を咀嚼する。

 次いで、切矢が頷いた。


「なるほど。そういう事なら、どうにかして真城をあの“巨大ロボット”の胴体部分にでも押し込めれば……“アイ”の破壊は何とかなるかもしれないのか」


『そうそう!! だから“巨大ロボット”を下手に破壊すると内部のシステムが!!』


「まぁどの道、中に押し込む為に胴体のどっかには穴を空ける必要はあるだろうがな」


『……、』


「胴体、か」


 真城が“巨大ロボット”を見つめる。

 多分だが、力技で“アイ”が中に入ったようにはいかないだろう。

 下手すると、“アイ”だってそのことは理解しているはずである。


 “巨大ロボット”の胴体部分。

 あの箇所だけは、もしかすると“アイ”並の“影纏い”となっていても不思議じゃない。

 今いるこの全員で同時攻撃を仕掛けても、果たして突破出来るのか?

 そんな不安が拭えない。


 しかしそんな不安を払拭する声が、更に響いた。


「なら、それくらいは俺がやってやろう」


 そう告げたのは、一ノ瀬だった。

 気が付くと、いつの間にか一ノ瀬が“影世界”の中にいた。

 しかもそれだけではない。


『な、なんで……一ノ瀬龍牙まで。せっかく最優先で排除した、のに!!』


 “アイ”の絶句するような声が響く。


「へへん。どうよ、間に合った?」


「明花さん!!」


「任せてって言ったじゃない」


 一ノ瀬と肩を並べる様にして立つもう一人。

 桜井がドヤ顔で胸を張る。


「中々起きてくれなくてちょ~っと電気を強くし過ぎた気がしないでもなくはないけど……まぁ結果オーライよね!!」


「おかげで手足がまだ痺れてはいるが……あのデカブツの胸を掻っ捌くくらいなら問題あるまい」


 一ノ瀬は“過激派”の野武や霜山と同様の刀を構える。

 ここに来る途中、落ちていた物を拾ってきたのだろう。

 片手が不調で使えないのか左手のみで刀を持っているが、言葉通り動きに支障は無さそうだ。


「行くぞ。とっととこのクソみてぇな茶番を終わらせる」


 一ノ瀬の掛け声でそれぞれが動く。

 真城、切矢、立花、天道、野武、霜山、桜井……そして“アイ”。



 最後の戦いが始まった。



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