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カゲビト  作者: 永眠布団
第三章 新たな任務

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第6話 『“巨大ロボット”』



「……ゼェ、……ハァ、……ゼェ、……ハァ」


 切らした息を整える。

 周りを確認し、ロボット達を振り切ったことを確かめる。

 と同時に、野武、霜山、桜井と顔を確認し、誰もはぐれていないことに安堵する。


 あの状況の中、誰一人欠けることなく助かったのはまさに“奇跡”の一言だ。


 押し寄せるロボットの波。

 それに対し全員が、ただひたすらに駆けていた。


 一直線の廊下を駆け抜けて、廊下に積まれた段ボールの山をぶちまけて、階段を上り下り。

 足元に影を纏わせ、廊下、壁、天井と立体的に移動して、研究室の扉を手当たり次第に開け放ち、取り付けられた消火器を後ろへとぶん投げて。

 そうして、そうして、そうして、そうして……。


 やっと安全を確保した。


 今はシャッターが閉まったとある研究室の中。

 シャッター横に付けられた扉を見つけ、その中へと身を潜めたのだった。

 入ってから気付いたが、この研究室は以外にも広く、また、入って来た扉とは真逆の扉から別の廊下に出て行けることも分かった。

 更に部屋の中にも階段があり、下の研究室にも下りることが出来る。

 その下の部屋からまた更に別の廊下へと繋がる扉も発見した。

 これなら、例えロボットが押し寄せても三つの扉全てを塞がれない限りは、逃げ道に困ることも無いだろう。好都合だ。


 壁に背中をもたれ掛けると、まるで糸が切れた様に腰を落とす。

 もう足が限界だ。

 とりあえずは安全だと分かったからか、余計に疲れが沸いてくる。

 いや、身体が疲れていることを脳がやっと理解したからか。


「それで、どうするんだ? “アイ”がいるってところから随分と離れた気がするが」


「仕方ないよ。それよりもアレに捕まる方がまずかった」


 真城と同じく息を切らし、床に大の字で横になる野武と、研究室のイスに腰掛ける霜山の言葉。

 それに対して、


「……なに? あなたたち“アイ”さんを止める気なの?」


 桜井が話しかけてくる。

 少し言葉に棘があるようにも感じるが……気のせいというわけではないだろう。

 “過激派”と“穏健派”。

 桜井が“過激派”をあまりよく思ってないことは、真城も初対面から知っている。


「だったら何だよ。まともに影人共を始末しねぇ役立たずだとは思ってたが、こうして邪魔までするようじゃ流石に話になんねぇぞ」


 桜井の言葉の棘。

 それを察したからなのか、野武が桜井を睨みつけながら言い放つ。


「……ふん。仕方ないじゃない。まさか今回はドローンまで徘徊してるなんて、私も思ってなかったし」


 いや、言葉の棘以前の問題か。

 野武はそもそもこういう人物なのだろう。

 嫌いな人間、邪魔な人間。

 そういった存在には、大体同じ態度を示す。

 ……真城との初対面でもそうだった。


「大体、わざわざ動かなくたって一ノ瀬さんに任せとけばいいじゃない。なんで今回に限ってあなた達は動いてるのよ」


「一ノ瀬ならとっくの昔に負けたわよ。ずっと引きこもってて気づかなかったんでしょうけれど」


 腕を組み、顔を背けて疑問を投げる桜井。

 それに対し、椅子に座り頬杖をついたままの霜山が桜井へと視線を向けることなく応答する。

 まるで興味もないように。

 しかし、それでも仕事上のコミュニケーション程度の最低限くらいはこなす様に。


 霜山も桜井を良く思ってない。

 それは態度から察して余りある。

 まぁ……逆もまた、同じことが言えるわけではあるのだが。


「それ……本当なの?」


 状況を理解して、それが事実なのかどうなのか。

 それを真城に確かめる。


「本当だよ」


 真城の答えはシンプルだった。


「明花さんも手伝ってくれませんか? 戦力は、多い方がいい」


 今度は逆に、真城の方が質問する。


「勝算はどれくらいなの?」


「八割、……いや九割。…………いやいや、絶対に勝利する!!」


「……ふーん」


 桜井は少し考えるようなそぶりを見せる。

 そこから、しばらくの長考が続く。


「やめとけよ。そいつは手伝わない。天道(てんどう)と並んで常習犯だぜ、そいつは」


「ちょっと!! 流石に秀才(しゅうさい)くんと並べる程じゃなくない!?」


 先に痺れを切らした野武が口を挟む。

 桜井はそれに突っ掛かるが、そのこと自体は真城も九条やら神崎から聞いているので何とも言い難い。


「えぇっと、でも“前回も我存ぜぬで隠れてたって”」


 とりあえず、真城の知っていることのみを伝えてみる。

 それが真実であるのかどうか。

 そしてそれに対する意図を知る為に。


「え、……いや、それは、確かに、事実、だけれども。間違いじゃないけれど……ッ」


 桜井は少し言い淀む。


「それみろ」


 フン。と野武が『知っていました』とばかりに鼻を鳴らす。


「流石にそれは語弊があると言うか、て言うかそれじゃ私が何か冷たい人みたいに聞こえるじゃん!!」


「“今回も”、そうだろ?」


「そりゃ、……そうだけど」


 しかしそれもまた事実。

 前回隠れていたことと、今回、今の今まで隠れていたという事実は変えられない。

 そこにどんな事情があるのかは本人にしか分からないが、しかし客観的にだけ見るのなら、桜井が言うように『冷たい人』のレッテルを張られても仕方がない。


 視線をあちこちに彷徨わせ、そして最後に真城で止める。


「違うんだって、私だけじゃないんだってそういうのは……。ほら、例えばさ、大地震が起きたら次も警戒するでしょ? 『また地震が起こるかも』とか、『避難経路を確認しておこう』とか『すぐに逃げられるように必要なものをまとめて玄関前に置いておこう』とかってさ。でさ、もしも最初の地震で津波まで押し寄せてきちゃったら、『また津波が来るかもしれない』とかそういう警戒も増えるわけじゃん? でもさ、実際に次の日もそのまた次の日も地震があったりしたら段々と感覚がマヒしてきて震度3とか4でさえ『お、今回は小さいなぁ』とか『何だよまた地震かよ、鬱陶しいなぁ』とか避難の準備が面倒になっていってさ、津波とかも最初以降全く来なければ『どうせ今回も来ないんでしょ?』とか『大丈夫、大丈夫』みたいな雰囲気になってくるわけじゃん!? そういう感じなんだって!! 多分私以外にも多いはずだよ、そうやって今回の件にも関わろうとしなかった人達は!! ただ前回も気絶して、今回も事件の収束に動くか動かない以前の段階で脱落しちゃったってだけで……」


 それは一種の慣れ。或いは“正常性バイアス”。

 “オオカミ少年効果”とも言うらしいものだろう。

 しかしそれが言い訳だと分かっていて、それでもそれを言う以外にないとばかりに、言い訳を重ねてく。

 次第に目を逸らし、俯き、それでも言い訳を止められない。


 『私が悪いわけじゃない』。

 『ただ生き残っているだけで、他の人達と同じなだけだ』と言わんばかりに。


 しかし。

 自分で言っていて、何かに気が付いたのだろう。

 一人ではっとして、バツが悪そうに目を瞑る。

 そうして、……無理して絞り出すように、


「でも、……そうだよね。私は他の脱落しちゃった人達とは違うよね。私にも、状況を打開するだけの“力”が確かにあったのに。……私はそれをしなかった、只の冷たい人間、か」


 納得して、頭を掻き、そうしてもう一度、真城へと目を向ける。

 少し恥ずかしそうに、


「ほら、言ったでしょ。こんな私なんかより、晴輝くんの方がヒーローに向いているってさ。もう、今度こそ、自信を持ってもいいんじゃない?」


 そんなことを言ってきた。

 それは、いつかの病院の屋上での問答。

 真城の疑問に対する答え。その捕捉。


 つきものが落ちたように、「はぁ」と溜めた息を吐き。

 そうして、桜井は小さく笑った。


「私も手伝うよ。私はお姉ちゃんだからね。今回、晴輝くんがヒーローになるのを、ほんの少し手伝ってあげる」


 スッ、と手を差し出す。

 真城はその手を握る。

 二人は、固い握手をして笑い合う。



 ……そもそもの話からして、だ。

 桜井が呆れて面倒に思うほど、感覚がマヒするほどに、問題を起こす神崎(バカ)が悪いのだ。


 そういうことに、しておこう。



…… ……



 話が一段落した時の事。


『それじゃあ、そろそろ話を戻そうか』


 その静寂を破るかの様にして真城のワイヤレスイヤホン、そのスピーカーから声が届く。

 もしかすると、神崎も話を切り出すタイミングを待っていたのかもしれない。


 突然のその声に桜井は驚いた素振りを見せるが、しかし口を挟むことはない。

 ほのかに頬を染めているのは、今までのやり取りを神崎にも聞かれていたことに対する恥ずかしさだろうか。

 片手をうちわのようにしてパタパタと、自分の顔を扇いでいる。


『“アイ”の居場所は今も把握出来ている。君達が今いる研究室の場所から考えるならば――』


 そう言って切り出した神崎の言葉。

 これから情報を精査してまとめ上げ、なるべく安全に、確実性をもって“アイ”の元までたどり着き、そうして“アイ”を撃破する。

 その為の作戦会議を始めると、――そう思っていた矢先の事だった。



『しまった!! ……まずい!!』



 神崎の驚きと不安、それと警戒に染まった声が突如、響く。


 一体何がどうしたのか?

 そんな疑問を投げたその瞬間、神崎から謎の言葉が返って来た。


『“アイ”の狙いは“巨大ロボット”だ!! このままじゃ“巨大ロボット”が乗っ取られる!!』




「…………、はい?」


 言葉の羅列は理解できた。

 言葉の意味は理解できなかった。


 一瞬、真城は自分の頭がバカなのかとも思ったが、どうやらそうじゃないらしい。



~   ~   ~   ~   ~



 “巨大ロボット”。

 

 それは、“影狩り”本部と繋がる“影世界”。その中に存在する。

 神崎が色々とお金を工面して、必要なものを買い集め、そうして完全な趣味で作ったものらしい。

 それは、神崎曰く『男のロマン』。


 人間がコックピットに乗り込んで、“巨大ロボット”を操縦する。

 地球から突如として沸いた謎の超巨大怪獣や、宇宙からの侵略者たる超巨大宇宙生命体なんかと殴り合い。

 そうして最後に必殺技。

 超極太レーザービームだの超特大レールガンだのをぶちかまして勝利する。

 そんな子供心を震わせる夢の様な産物。

 子供なら一度は夢を見て、妄想したような夢の結晶。


 それが“巨大ロボット”だ。


 アニメや漫画、ゲームや小説なんかにも登場し、いつかそんな空想が現実になると信じていた。

 世界の何処かの天才が、素晴らしく画期的な方法を発明し、作ってくれると信じていた。

 自分もいずれ、その“巨大ロボット”のコックピットに乗り込んで、操縦するんだと……そう、願っていた。


 しかし現実はどうだった?


 いつまで経っても完成の兆しは見えてこない。

 出来た“巨大ロボット”も、精々10mが関の山といった程だろう。

 それどころか、人間のように足が動くロボットの方が数も少なく、大きくなるにつれて足を持ち上げる事さえ出来なくなる。

 しまいには足という形だけを残して動かない。

 足裏を引きずる。タイヤだのキャタピラーだので移動する。


 そんなもの“人の形”ではない。


 それが“巨大”であり“ロボット”であるなら別に良い。

 そう思うものもいるかもしれないが、少なくとも神崎はそうではなかった。

 目指すべきものは人間のシルエット。


 いつまでも完成しないだけなら仕方がない。

 それは技術の問題だ。

 技術が足りないだけならば、情熱でカバーすればいい。

 『こうすればいける』、『これで代用できる』とそうやって、“作る意欲”さえあればどうとでも道はあるはずだ。


 だがしかし、完成しない理由は“そう”ではない。

 もちろん“そう”でもあるのだが、それよりも大きな理由が別にある。


『用途が無い』

 

 たったそれだけ。

 それだけの、本当にくだらない……理由だった。


 現実で“巨大ロボット”なんて作っても意味は無い。

 ある程度大きくて、用途があるならそれでいい。

 それ以上、巨大である必要なんて無い。


 今後、地球人が宇宙へ進出し、例えば月だの火星だのを耕すような段階であるのなら、何かしらの用途を捻出する事も出来るかもしれないが、それだって別に“巨大ロボット”である必要は無い。

 それが車ほどの大きさのロボットだったとて、“必要な動きが可能”なら別に巨大じゃなくていい。


 それに寧ろ、小型化して量産した方が良い場合もある。

 “巨大ロボット”一つ作っても、それが故障したら大問題となるからだ。


 逆に小型のロボットであるのなら、例え一つ二つと壊れても、すぐに変えがきくものだ。

 なんだったら修理する必要さえない。

 新しく作った小型のロボットと交換するだけでいいのである。



 とまぁ、こんな感じだ。

 そうやって、やらない理由を何層にも積み重ね、出来ない、無理だ、と諦める。


 だから神崎も諦めた。

 『“巨大ロボット”を作ること』を、……ではない。

 『誰かが作ってくれること』を、……諦めた。


 自分で作ると、決意した。


 “影世界”という反則。

 ほぼ無重力に等しいあの空間を使って、本物の“巨大ロボット”を作って見せると。



~   ~   ~   ~   ~



「“巨大ロボット”……そんなものまであるんですか?」


 今日というこの一日で、真城は多くのロボットを目撃した。

 

 “アイ”。

 “戦闘訓練用ロボット”。

 “警備ロボット”。

 ドローン。


 そして、そのラインナップに“巨大ロボット”までもが加わるというらしい。

 ズキズキと痛みを訴える頭を、真城は押さえて溜息をはいた。


 “巨大ロボット”とまず聞いて、思い浮かべるのはどれくらいの大きさか。

 少なくとも5mはあるだろうか?

 10mもなければ良いなと切に願う。


 素早さとかはどうだろう。

 大きければ大きいほど、動きが鈍くなってくれるなら寧ろ100mぐらいあってくれた方がいいかもしれない。


 そんなこんなの考えを、脳内で繰り広げること僅か数秒。


 新たに発生した危険因子。

 それへの対策を講じるよりも早く、新たな問題が扉を叩いた。


 それも、物理的に。



 ドンドンドン!!!!

 ガンガンガン!!!!


 ただ力尽くで無理やりな轟音を響かせて、ロボットの群れが押し寄せる。

 研究室の扉を開き、或いは破壊して、強引に何体ものロボットが入ってくる。


「くそっ!! もう来やがったのか!!」


 同じ場所に留まりすぎたか。

 “アイ”は監視カメラ以外にも、ドローンから情報を取得可能。

 別にそうじゃなくっても、ここまで逃げてくる最中に監視カメラに映らなかった方が奇跡だろう。

 どちらにしたって、後はそれらの情報を基にしてこちらの居場所を割り出せばいいだけだ。

 ロボットの群れを寄越すだけ。

 それだけで、“アイ”の勝率は格段に上がるのだ。

 しない手はないだろう。


「どうしますか!?」


 真城は急ぎ、神崎へと指示を仰ぐ。

 神崎も情報の精査で忙しいだろうが仕方がない。

 時間が経てば経つほどに、部屋へと入るロボットの数が増えてくる。

 研究室から出るための三つの扉、そのどれからもロボットが入ってくる為、このままでは部屋がロボットで埋まるのも時間の問題となるだろう。

 何せ三倍。三倍の速度でロボット達が増えていく。


『その部屋の下の階から出た方が近道ではあるが、……そのぶんロボットの数が密集している!! 逆に上の階の東側の扉なら押し寄せるロボットの層も薄そうではあるが――ッ』


「だったら下の扉に入ります!! どれだけロボットが密集してようが、どのみち“アイ”へと近づけば近づくほどロボットの数が増えるはず。だったら結局早いか遅いかでしかないでしょうし……全員で一点突破します!!」


「了解だよ、晴輝くん!!」


「仕方ねぇ!!」


「一気に行くよ!!」


 各々の武器を構える。

 影を纏わせ、全身全霊の一撃に備える。


「「「「せぇーーーの!!!!」」」」


 爆音と轟音。

 その音の波動、ソニックブームにも似た外への広がりに押し出されるように。

 いくつものロボット達が宙を舞う。


 初めは真城が“力”を使うことを考えた。

 それにより、ロボット達の防御壁である“影纏い”を引き剥がし、脆い装甲へと一撃を叩きこむ。

 そんなことも考えた。

 しかし、それではワンテンポ遅れてしまう。


 真城の“力”は諸刃の剣。

 こちらも“影操作”を使う以上、何にでも“力”を使っては味方の行動の妨害さえしかねない。

 この数のロボットの“影纏い”を消し飛ばすというのなら、“力”を広範囲に使う必要があるだろう。

 しかし、それではその間、味方も“影操作”を使えない。

 相手の影と一緒に、味方の影もまとめて弱めてしまうから。


 故に、“力”を広範囲にばら撒いて敵味方の影を一斉に無効化し、“力”の発動が終わってから、皆で影を纏って攻撃する。といった流れとなる。

 しかし……それではやはり遅いのだ。


 だから。

 今回、真城達がやった事。

 

 それは、全身全霊の攻撃をロボット達の足元へと放ち、その後、まるでスコップで土を掘り返すかのように一気に下から上へと振り上げて、弾き飛ばす。

 そういった方法をとっていた。


 例えどれだけロボット達の“影纏い”が固くても、それはそれとしてノックバックをさせることは出来るのだ。

 それに加えて、ロボット達は人間に比べて非常に軽く作られた代物だ。

 四人の力を合わせて、“てこの原理”のようにして投げ飛ばすくらいは簡単な事だった。


 一点突破。

 押し寄せるロボット達の群れ。

 その中央に、人間一人ずつなら軽く通れる程度の穴が開く。


「いっけええええええええええええ!!!!」


 研究室、下の階。

 そこにある目的の扉を通り抜け、四人はほぼ一斉に外に出る。

 廊下へ飛び出し、周囲を窺う。

 が、どこを見てもロボットばかり。……囲まれている。


「くっそ!!」


 真城は舌打ちする。

 予想は出来ていた事だが、しかしそれでも実際に目の当たりにすると面倒だ。

 四人はなるべく固まって、ロボット達の猛攻を切り抜ける。


「キリがねぇぞ、こりゃあ!!」


「……本当ね!!」


「全くだよ!!」


 ここでも先程と同様に、真城の“力”が使えない。

 だから四人それぞれが、“破壊する”ではなく“後方へとノックバックさせる”ことで対処する。


『そのまま廊下を西側に!!』


 神崎からの指示が届く。

 と、同時に四人が西を向く。


 今度は野武の舌打ちが聞こえた気がした。

 何せ、西側というのが……、


「随分と数が多いな……」


「……はぁ、疲れる」


 ロボットが、一番密集してる場所。

 足元に影を纏ってロボット達を跳び越えていこうにも、空いた空中には『そうはさせない』とばかりにドローン達が飛んでいる。


(……どうする!?)


 真城は脳内で思考する。

 脳細胞をフルで動かし、何か良い案が無いかと模索する。



 ――そんな時だった。


「みんな伏せて!!!!」


 桜井が叫んだ。

 それと同時、ほぼ反射的に三人は身を屈めて膝を付く。


 ブオンッ!! ブオオンッ!!


 と、何かが空を切る音が鳴り響く。

 真城はその音に聞き覚えがあった。

 それは桜井が得意とする――、


(影の鞭か!!)


 桜井が警棒を振り回す。

 その先端からは鞭状に変化させた影が伸びていた。


 影の鞭は廊下の壁に着弾すると、更にそこからいくつもの影の糸へと分裂して大勢のロボットとドローンを絡め取る。

 目でギリギリ見えるほどにまで極細に引き伸ばされた影の糸。

 それらは真城達を守るように、周囲360度、あらゆる機体をその場その場に固定する。


「行って!! 早く!!」


 桜井の声を聞き、その意図を理解する。

 『私を置いて先に行け』とそう桜井が告げている。


「明花さんは!?」


「私なら大丈夫。逃げるのは得意だから、みんなが無事に行った後……私一人で何とかするから!!」


「……でもっ!!」


 真城はなんとか説得を考えるがそうもいかない。

 桜井が捕縛したロボット達が、ギチギチと力尽くで影の糸を引き千切ろうと躍起する。

 周りから、バチンブチンと糸が切られた音が鳴り響く。


「私、考えたんだ。多分この中で、私が一番戦えない足手まといだろうって」


「そんなこと無いって!!」


「まあ見てよ」


 そう言って、桜井は警棒を両手で必死に抑えながら目を瞑る。

 瞬間、バチンッ!! と桜井の前髪の辺りの空間がスパークする。

 少し明るく光ったかな? とそう思える程度の放電だった。


 真城はそれに驚くが、


「これ、私の新しい“力”みたいなんだけどまだ制御が全然でさ。この事件が起こった時もこの能力をどうにか実戦向きに出来ないか~とか、もうちょい強化出来ないか~とか研究員達と相談したりしてたんだけど凄く集中しなきゃだしと全然でさ……。相手がロボット軍団だから何か役立つかとも思ったけど、今回はどうやら無理っぽい」


 そこで一度、言葉を区切り。


「でもさ、“集中さえすれば”、眠ってる人(・・・・・)を無理やり起こすくらいは簡単な訳なのよ」


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべる桜井。

 その言葉が意味することは何なのか?

 そんな真城の疑問に答えるように、更に桜井は言葉を繋ぐ。


「さっき言ってたよね。この戦いの勝率は八割だか九割なんだって。だったら、“アイ”さんと戦うための戦力として乏しい私の役目は、別のところで勝率を引き上げることだろうって思うわけよ。――――だから私は、一ノ瀬さんを見つけて起こしてくる」


「……!?」


「任せて」


 力強くうなずく桜井。

 それを見て、真城はようやく決意を固める。


「さあ早く!!」


 桜井が警棒を強く引く。

 それだけで、影の糸に絡め取られていたロボットやドローンが無理やり引きずられる様にして道を開ける。

 真城達が先に行く為の道を確保する。


「話は終わった?」


「とっとと行くぞ!!」


 霜山と野武が急かす。

 真城はそれに頷くと、最後にもう一度だけ桜井へと向き直り、


「気を付けて」


「えぇ」


 桜井の言葉を受け取って、真城は今度こそ走り出す。

 ロボット達の包囲網を抜けていく。




 廊下の角を曲がり、桜井が見えなくなる。


(……何が俺の方がヒーローに向いてるだ)


 真城は頬を少し緩める。


(明花さんの行動だって十分に、ヒーローらしい事をしてるじゃないか)


 困っている人を救うこと。

 助けを求める人々を救うこと。


 壊滅寸前の“影狩り”本部を救うこと。

 “アイ”を倒して救済する。


「(……俺だって、負けないぞ)」


 決意を新たに、真城は拳を握り締めて駆け抜ける。



…… ……



 七階層目の研究室、その奥にある小さな小部屋の中。

 神崎はPCを操作して真城達に指示をとばしつつ、別の作業も行っていた。


 それは、“アイ”によって昏倒させられた本部の人々を回復させる為の薬の作成である。


 ただ睡眠ガスなどで寝かされたぐらいなら問題はないだろう。

 それだって過剰に摂取したりといった問題は多々あるが、比較的マシな方である。

 

 神崎が作った発明品。

 その中には細菌やナノマシンといったものを使い、意図的に身体に不調を訴えかけるものや、生体電気を操作して、或いは脳波を騙し、偽り、人間の意図する事とは関係無く強制的な『眠り』『失神』『酔い』を引き起こさせるものも存在する。

 そういったものに対しては適切な処置。

 特別な“解毒薬”だの“装置”といったものの使用が不可欠だ。


 本来であれば、そういった代物を使う際にはちゃんとそれに対応する“解毒薬”も用意され、それさえ使えば問題ない……といった状態なのだが、今は如何せんそういった状況ではない。

 “アイ”が後先考えずに手当たり次第に使用した可能性を考慮するならば、本部に用意されている“解毒薬”だけでは数が足りない。といった予測が立つ。

 

 真城達が“アイ”に敗北する結果は考えていない。

 例え“アイ”がどれだけの難敵であったとしても、それに挑む仲間達に対し、“負ける可能性”などというものを考えることは寧ろ裏切り行為だろう。

 仲間達が戦ってくれている。

 ならば、自分らも勝利を信じて、その為の行動を起こすべきだろう。


 今の神崎達、非戦闘員がやるべきこと。

 それは、“アイ”を破壊した後の本部立て直しを出来るだけスムーズに行う為の準備のみ。



 これは、とても幸いなことなのだが。

 これは、とてもとても幸いな、不幸中の幸いであるのだが。

 本部には“アイ”が暴走し、あれこれとやらかした時用に様々な箇所に“解毒薬”の材料を保管し隠しているのである。

 材料さえ整っているのなら、後はそれを組み合わせて作るだけ。

 時間はかかるが、それでも半日もあれば本部の復旧も可能だろう。


 問題はロボットか。

 不正データによる暴走はワクチンソフトでどうとでも。

 しかし事態が事態なだけに仕方がないとはいえ、真城達によって破壊されたロボット達を修理するとなれば手間がかかる。

 場合によっては修理する材料が足りないかもしれない。


 そういった場合は、とりあえず“戦闘訓練用ロボット”の修理は後回し。

 それどころか“戦闘訓練用ロボット”を何体か分解し、代替えできる部品を取り出して、交換してでも“影世界”の警備に当たらせる“警備ロボット”とドローンの修理が最優先となるだろう。

 神崎からしてみれば、こちらの方が面倒だ。

 まぁ……自業自得なので何とも言えんが。



「そっちはどうだ、何か使えそうなもの見つかった?」


「そうですねぇ……、こっちのだと“失神針”の薬が作れますね」


「俺のところは、これだと“酔い促進剤”……つってもいくつか足りないな。お、無水カフェインが大量に……誰か使う人いる?」


「なぁ、このナノマシンって何かに代用出来なかったっけ? ほら、前回に“アイ”が暴走した時に確か……」


 小さな小部屋内で、神崎がPCの画面に三割、手元の作業に七割といった感じで作業をする中、小部屋の外から安室(あむろ)たち研究員の声が届いた。

 現在、この研究室周辺にはロボットは徘徊していない。

 それは付近の監視カメラで確認済み。ということで安室たちは今、研究室の方へと移動して、“解毒薬”の材料探しをしている最中だった。

 安室の他に、沼倉(ぬまくら)難波(なんば)釜原(かまはら)片桐(かたぎり)の計五人。

 それぞれが手分けして作業にあたっている。


 因みに、こういったことは専門外の九条はというと、神崎の横でその作業を眺めているだけである。



「神崎さん!!」


 小部屋の入り口から顔を覗かせる安室。


「どうもこの部屋だけじゃ材料が足りない。他の部屋へ取りに行きてぇんだが、ロボット達はどんな感じだい?」


「はいよ。ちょっと待ってね」


 神崎がPCを操作する。

 確認するのは、この階層のロボットの位置取りだ。


「……おや?」


 監視カメラの情報を見て一言、神崎は疑問そうに呟いた。

 いくつかの映像を同時に並べて、“それ”が事実であることを素早く精査し確認する。

 その結果、


「安心していいよ。この階にロボットはいないみたいだ」


 そう、確信をもって解答する。

 もしかすると、“アイ”が真城達を包囲する為にロボットを大量に移動させたことで起きた弊害なのかもしれない。が、こちらとしては有難い。


「あいよ。んじゃ、ちょっくら行ってくるわ」


 安室は軽く返事をすると、研究室の外へと向かっていく。



 しかし。

 それからすぐのことだった。


「な、なんでお前がここに――、が!?」


 安室の驚きに満ちた声。

 それと同時、聞こえるはずのないキシキシという金属の軋む音。

 一瞬ざわついた研究室が、その次の瞬間には何事も無かったかのように不自然に静まり返る。


 異変。

 それは、まごうことない異変だった。


 神崎と九条。

 二人が異変を察知して行動に移るよりも早く、その異変の元凶が口を開いた。



『やっほ~迎えに来たよ、たっくん。……お仕置きしなくちゃだね? 私から逃げるなんて』



 神崎の絶望(アイ)

 まるで死神にも似たそれが、研究室へと踏み込んで……先程まで安全地帯だったはずの場所を踏み荒らす。


 もはや隠れる余裕もない。

 “アイ”は、研究室奥の小部屋へと一直線にやって来る。


『み~つけた』


 ブラウン管テレビのような頭部。

 そこに映されたアニメ調の女性の顔、その口元は――三日月型に裂けたかのような歪な笑みを浮かべていた。



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