第5話 『ドローン』
『があああああぁぁぁぁぁぁぁああああああッッッ!!!!!!』
“アイ”の絶叫が響き渡る。
『よくも、よくも、よくも、よくも!!!! たっくんが作ってくれた大事な身体なのに!!!! 壊すなんてありえない!! 信じらんない!! 最悪!! 死んじゃえバァーカ!!』
地団駄を踏み、真城の事を睨みつける。
右腕が破損して千切れる程の一撃。
それは、真城が想定していた以上の大ダメージだった。
“アイ”の装甲。
“黒鉄”に匹敵すると言われるソレを、真城のあの一撃が貫けたとは思えない。
もしかすると、“アイ”の居場所を探り出すためだけに使った“力”。
その“力”の無差別放射によって、“アイ”を守る装甲……“影纏い”が予め無効化・弱体化されていたのかもしれない。
『真城晴輝!! その顔覚えたからな!! お前は絶ッッッ対、私が殺してやるからなぁ!!!! 覚えてろ!!!!』
“アイ”は床に落ちた右腕を無造作に掴み取ると、真城とは真逆の方向へと向きを変えて走り出す。
真城への怒りを噛み殺し、一時撤退と一目散に駆けていく。
そんな“アイ”の背中を見送って、真城も片膝を付いて息を吐く。
「……なんとか、なったか」
“アイ”という脅威が去って尚、他ロボット達が攻めてこないとも限らない。
周囲への警戒は怠らず、それでも出来得る限りの休息をする為に壁へと背を傾ける。
深呼吸をし、荒い息を整える。
『お疲れさま、真城君。正直、倒されちゃうんじゃないかとヒヤヒヤだったよ』
神崎からの連絡が耳に届く。
「俺がやられたらすぐさま神崎さんを“アイ”の元へお願いしますね。九条さん」
『お任せください。ボコして引きずっていきます』
『やめて!!!?』
そんな軽いやり取りをしながらも、神崎の他にしっかりと九条の声があることに安堵する。更によくイヤホンに耳を凝らすと、遠くから小さく安室たち研究員の声も聞こえている。
真城が“アイ”との戦闘中、例え真城が“アイ”を完全に引き付けていたとしても、ロボット達は自立稼働をしている。
そのロボット達に見つかって、逃げ惑う様な状況にはなっていないらしい。
「それで、二人の状況は?」
『うん。野武君と霜山君の居場所は今もこちらで把握出来てるよ。今さっき戦闘訓練用ロボットを二体ほど破壊して上の階層へと向かってる。幸い“アイ”が逃げて行った方向とは逆側に上階への階段があるから、そこから九階層へ向かってくれ。それ以降の詳しい位置取りまではこちらでナビゲートしよう』
「分かりました」
やれやれ、どうやら真城の戦闘中に九階層に上がって行ってしまったらしい。
“アイ”との戦闘に鉢合わせるような事態にはならずに済んだが、しかし少々面倒だ。
ここは今、十階層。
二人が現在、九階層にいることを考えると、まだ一階違いではあるものの、あまりゆっくりしていると更にもう一階層上へと上がって行かれてしまう可能性も無くは無い。
急いで合流した方がいいだろう。
『気を付けて』
神崎からのその言葉に無言で頷くと、真城は立ち上がり階段を目指して走り出す。
…… ……
九階層目の研究室側にやって来て、神崎のナビゲートの通りに進んでく。
いくつかの研究室を通り抜け、指示に従いある部屋の中へと身を隠す。
しばらくすると、機械の軋む様な足音が近づいたのち通り過ぎる。
どうやら徘徊するロボットとはエンカウントせずに済んだらしい。
徘徊するロボット全てが“アイ”のように赤外線センサーやら何やらを搭載していたら面倒だった。
真城が初めに遭遇したロボットは“戦闘訓練用ロボット”。
あれは名前の通りで戦闘に特化した訓練用のロボットなのだが、それ故に、搭載されているカメラ。つまり“目”は、通常のものが使用されていた。
今しがた通り過ぎたロボットも、同様に“戦闘訓練用ロボット”であったのだろう。
しかし徘徊するロボットの中には、赤外線カメラを搭載した“警備ロボット”もいるという話を神崎と九条から聞いている。
“ソレ”を見つけたら要注意。
とはいえ、周辺の監視カメラから得た情報を基にした神崎の指示に従って動いている為、神崎がミスでもしない限りは遭遇も無いだろう。まぁそれでも絶対とは言い切れないのが辛いところではあるのだが。
足音が聞こえなくなってから十分に時間を経過させ、頃合いを見て部屋から出る。
そんなことを二、三回ほど繰り返して、やっとこさ“目的地”へと到着する。
『この部屋の中だよ』
そう言われ、真城はその部屋の扉を開けて中へ入る。
「誰だ!!」
真城が部屋に入ると同時、それを察知した男が声を上げる。
今はロボットから身を潜める状況故なのか、心なしか声量は小さめではあるものの、しかしその声色からはしっかりと警戒の色が聞き取れる。
「待ってくれ、俺は敵じゃない」
まずは警戒を解いてもらう為、両手を上に上げて敵意が無い事をアピールする。
「お前は、……真城、晴輝?」
真城の顔を確認した男が、真城の名前を呟いた。
どうやら面識があるらしい。
まぁ“過激派”であるなら当然か。例の件で一悶着あったのだ。
「なんだよ、帰って来てたのか。悪いけど上から何と言われようがお前の“力”が邪魔な事は変わらない!! お前らが何て言おうが俺はこれからも影人を殺していくからな!!」
「落ち着きなよ。今はその話をしてる時じゃないでしょ? それにそっち話なら本部で声明があったじゃない。虎雄がそんな事をわざわざ言わなくても、私たちは今まで通りで問題無いんだって話」
真城に対して、いきなり突っ掛かってくる男性と、それを宥める女性。
確か事前に聞いた話では、男性の方が野武虎雄。
女性の方が、霜山牡丹。……だったか。
「ねぇ? ここに来る途中で神崎のバカと会わなかった? 私達探してるんだけど」
自身が“過激派”であることを誇示する様に、軍服を思わせる黒いコートを纏った明るい茶色のミディアムパーマをした女性、霜山が真城へと問いかける。
腰に巻いたベルトから下げているそれは、刀……だろうか。
「それは“アイ”に引き渡す為ですか?」
「そう」
『……、』
イヤホンから、神崎の息を呑む音が微かに伝わる。
「一ノ瀬の奴がやられた時点で決着はついてんだ。もう勝ち目なんかねェよ、時間の無駄だ。西郷さんだって今は任務で出払ってる。俺らと一緒だった“アイ”を倒そうとしてた奴らも大量のロボット共に囲まれてお陀仏だった。必死で逃げ隠れしたはいいものの、結局もうアレと戦える人材なんて残ってない。……なんだってあのバカは毎度毎度、暴走することが分かっててアイツに身体を作るんだか」
同じく“過激派”共通の黒いコートを身に纏い腰から刀を帯びている、サイドと後頭部を刈り上げて残った黒髪を無造作にかきあげた様なツンツンヘアをした男性、野武が暗に「お手上げ」だととそう告げる。
負け戦。
既に盤面をどうしようと、局面が変わる事態にはなり得ない。
で、あるならば。
とっとと白旗を振って負けを宣言しよう。
敵大将の望むあのバカを引き渡そう。
それが、二人の考えのようだった。
真城は一度深呼吸をして自分の精神を落ち着ける。
真城晴輝は、元々コミュニケーション能力に優れているわけではない。
もし本来であるのなら、初対面の人達を相手に“まともな会話”などというものを成立できる訳がないからだ。
しかしかといって、こんなところでいつまでも二の足を踏んでいるわけにもいかない。
ここで二人に協力を仰げないのなら、ここまで来た意味がない。
ここは仕事だと割り切って、話を進めていくのが一番いいだろう。
もう一度深呼吸をして、次いで二人を見渡し言い放つ。
「“アイ”を破壊します。手伝ってください」
真城は単刀直入に真逆の提案を切り出した。
…… ……
「不可能だろ、そんなの」
真城の提案を聞き、初めに突っぱねたのは野武だった。
見た目、三十代前半ぐらいの男性が腕を組みながら真城を睨みつける。
「あんたねぇ、知らないのかもしれないから教えるけどアレの装甲がマジで固いんだって。他のロボット達なら無理やり突破出来なくもないけどさぁ。アレは別格。半端に硬化させた影程度じゃどうにもならないどころか、寧ろこっちが怪我するよ」
ヒラヒラと手を振って、野武に同意する様に霜山が口を開く。
こちらは二十代後半ぐらいだろうか。
着ている服装の印象からもう少し若くも見えなくもないが、その面構え、眼光は野武以上に鋭く、いくつもの修羅場を乗り越えてきた猛者然とした雰囲気を纏っている。
年上二人に威圧され、一瞬ビクリと身体を震わすが、しかし真城も引くに引きない。
――『お願いだああああ、助けてくれえええええええ!!!!』
大の大人にあれだけ無様に泣きつかれ、助けを求められたのだ。
人助けを望む真城としては、どうしても振り払えない。
せめてもう少し頑張ってから。
まだ少し出来るはずだ。
これで出来る事は全てじゃない。
……そんな諦めない為の言い訳が、次から次へと湧いて出る。
「俺の“力”なら、その“アイ”の装甲を突破出来ます。現にここに来る途中、それで片腕を破壊してきました」
真っ直ぐと、二人を見つめて言い返す。
「ちょっと“影纏い”をしてもらえませんか?」
信じなければ、実際に示すまで。
真城は近くにいた野武に向かって声をかける。
「な、なんだよ」と真城からの攻撃を警戒したのか、ジリリと距離を取ろうとする野武を「いいから、いいから」と言いくるめて、なんとか片腕に“影纏い”をしてもらうと、真城は“力”を発動した右手でその腕に触れてみる。
……その瞬間、
「……まじかよ」
野武の驚きの声と共に、纏ったはずの影が瞬時に霧散した。
「これで信じて貰えましたか?」
真城は少し自慢げに、その“力”をアピールする。
それは言わば、セールスタイム。
あれだけ『使えない』だの『いらない』だのと言われ続けた“力”のことを、“過激派”達に伝えるチャンスである。
「へぇ、実際に見てみると凄いものねぇ。こんなに簡単に影を無効化できちゃうなんて」
「だな。俺達にもこの“力”があれば、楽に影人共を始末出来るのにな」
「…………、」
まだまだ意識改革には時間がかかりそうである。
「理屈は分かった。それで“アイ”の装甲を突破、撃破しようってなわけだな?」
「はい。そういうことです」
「どうせやるならもう少し戦力が欲しいところだけど……、後どれくらい戦える人が残ってるの? 正直、あまり期待が出来ないけれど」
「それなんですけど……神崎さんが言うには、もうここにいる俺らぐらいしか生き残ってないみたいです。だからこうして会いに来たんですよ。まぁ何人か監視カメラに写ってなくて何処に隠れているのか分からない人達もいるらしいですけれど」
「どうせ天道とかそんなんだろ。アイツは毎回こういった問題には顔を出さないからな」
ここでも天道の名前が出るのか。
どんだけ常習犯、というか手伝わないことに定評がある奴なんだ……。
「まぁ戦力として当てにならないなら仕方ないわよ。それよりも“アイ”が今どこにいるとかの目星はついてるわけ? まさかこれから倒しに行こうってのに場所が分からないとかじゃないでしょうね」
「いくらその“力”があるからと言っても、ロボット共に囲まれたら面倒だしなぁ。探し回るのは得策とは言えねぇぞ」
「あぁ、それに関しては問題ないです」
真城はコツコツと、耳に付けたワイヤレスイヤホンの存在を伝える。
「神崎さんとの連絡が繋がっています。これで“アイ”の現在地点もすぐに分かりますし、安全な道のりをナビゲートしてもらえるので」
「「……え゛」」
二人の声が同時に詰まった。
「え? もしかして最初からずっと繋がってたの……?」
「へ、あ、はい。そうですけど」
「………………、い、いやぁ、あれだなぁ。流石は神崎さんだなぁ。“アイ”の居場所も特定済みとか仕事早いわ~」
「うんうん。ほんとほんと」
いや、神崎さんをバカと罵っていたのを取り繕うとしてるんだろうけどもう遅いよ……。
というか多分その件に関しては本部の全員がそう思ってることだし、何なら真城や九条も散々言ってやったから神崎さんも気にしてないと思うよ。うん。
今回、神崎がバカやらかした事に関しては事実なわけだしさ。
何も言い返せないだろうし、させないよ。いや本当。
…… ……
『……うん? ロボット達の動きが変わったな』
“アイ”に向かって真城、野武、霜山の三人が歩を進める最中のことだった。
イヤホンから、神崎の疑問の声を耳にする。
『ていうか、配備してあったドローンまで乗っ取ったのか!?』
続いて、神崎の頭を抱えるような悲鳴が上がる。
「どうかしましたか?」
『……、』
イヤホン越しでいまいち状況が掴めなかった真城が、神崎へと問いかけるが、しかしそれに対する返答は無く沈黙が続く。
耳を凝らすと、何やら忙しなくキーボードを叩く音が聞こえてくる。
「どうした?」
「何かあったの?」
何かしらの事態を察したのだろう。
神崎からの返答を待つ真城へと、野武と霜山の声が届く。
とはいえど。
真城としても確かな答えは返せない。
真城は耳に届いたいくつかのワードを思い出し、その事について二人に質問を投げてみる。
「いや、俺にも何が何やら。『配備したドローンが乗っ取られた』みたいな話が、……なんのことか分かりますか?」
「……ドローン」
「ドローンって確かアレですよね。プロペラが四つ付いてて飛び回る」
「えぇ。元々は“無人航空機”だとか“UAV”だとかって大きな枠組みの中にある“マルチコプター”って分類みたいだけど、まぁ最近の感じだとその認識で概ね間違いないわね。因みにあなたが思い浮かべたプロペラ四つのドローンは『クワッドコプター』」
霜山はドローンについて何やら知識があるらしい。
真城が何となくフワフワと思い浮かべたイメージを、端的に指摘していく。
まぁ、そういった詳しい理解は今の真城には多分必要が無いのでスルーする。
とりあえず真城の認識と相違ないなら問題ない。
「それで、ドローンなんてものも本部にはあるんですか?」
「なんだよ、そんな事も知らねぇのかよ」
「えぇ、実はこれでも意外な事に新人なんですよ!! “例のいざこざ”やら“懲戒処分”やらで印象だけは大きいのかもしれないですけど!!」
どうも野武は、真城を受け入れてはいないらしい。
初対面の時もそうだったが、あれ以降もずっとつんけんしている。
そんな一連の流れに『はぁ』と大きく溜息をつき、霜山が説明を開始する。
「本部でのドローンと言えば、“影世界”内に配置された無人監視機の事。あなたみたいな表の『戦闘部隊』だとなじみが無いかもだけど、『影世界専門部隊』にいるとよく見るやつなのよ。役割は説明の通り。本部へと繋がる“影世界”を監視して、影人共の接近を事前にキャッチして伝えるのが役目なの」
「それのコントロールが“アイ”に乗っ取られたって事ですか?」
「そういう事なんだと思うわよ。話を聞く限りわね」
なるほど。と真城は納得する。
要するに、いつまでも神崎が見つからず業を煮やした“アイ”の次の一手だろう。
ドローンがいくつあるのかは知らないが、本部の周りに配備されている代物だ。かなりの量があると思っていい。
それを使っての物量作戦というわけだ。
そういえば、
「“影世界”の中って確か、対策をしないと機械関係のものって壊れちゃうって話だったんじゃ? “影世界”の影のエネルギーが機材に悪い影響があるとかで」
「そ、だから当然対策もされている。搭載されたAIが、内蔵されている“影結晶”を使用してドローン全体を“影纏い”して守ってるの」
「へ、へぇ……」
AIが“影操作”をする技術。
“戦闘訓練用ロボット”以外にも使われているという事か。
まぁ、そんなことが出来るのなら便利だし当然か。
「あのドローンの技術は凄いよ。何でもドローンのプロペラ、ローターの部分には発電機が付いていて、“影操作”で回したプロペラが生み出した電力で内蔵されてるAIとかの機材を全て稼働させているっていう……“影結晶”が尽きない限りの疑似永久機関だって話でさ。その上、ドローン同士の電波でネットワークのようなものを形成していて互いの電力を補い合うワイヤレス充電も可能。さらに溜まって余った電力は本部に送信されて本部でのその他機材を動かす電力としても利用出来る~なんていう技術の詰め合わせでさ。バ……神崎さんも、そういうところだけは素直に尊敬できるんだけれどねぇ」
「……ははは」
乾いた笑いしか出てこない。
そんな話が一段落した時だった。
『――ザザッ、……あ……あーあーあー、こちら神崎。聞こえてる?』
無音だったイヤホンから神崎の声が聞こえ出す。
どうやら通信を切っていたようである。
『ふぅ、すまないね。監視カメラを除いているのがバレたのか、“アイ”からの逆探知を受けちゃってね。ダミーやら何やら対策は幾つか用意していたつもりだったんだけれども、流石に“アイ”が相手となると骨が折れる。終わったかと思ったよ』
「そうですか、それは無事で何よりで」
挨拶はそこそこに、
「それで状況は? どうしたらいいですか?」
簡潔に現状と今後の指示を要求する。
『説明は後にしよう。まずはその部屋を離れた方がいい。今から詳しいルートを伝えるから、それに従って動いてくれ』
「分かりました」
そう言われ、三人はすぐさま動き出す。
周囲を警戒しながら部屋を出て、指示に沿って進んでく。
…… ……
移動の合間に、真城達三人は神崎からの状況説明を聞いていた。
神崎からの話の内容は、真城の耳に付けているワイヤレスイヤホンからしか聞こえない。しかしそれでは、野武と霜山の二人と意思疎通を図ることが難しい。
神崎が話して聞いた内容を、もう一度真城が二人へと説明し直すのでは面倒だ。
突然の対応が必要になる事も今後あるかもしれないのだから尚更だ。
なので、真城はまず神崎の指示に従ってワイヤレスイヤホンに付けられた幾つかのボタンの一つを押して対処する。
要は、このイヤホンに付けられたスピーカー機能をONにして、イヤホンとスピーカーから同時に音声を出力出来るようにした訳だ。
更に、小さなツマミを回転させて音量も調節する。
「詰まる所、まずは逃げる。って事ですか?」
『そういうこと』
「……、」
神崎の話を聞き終えて。
真城達三人は、しばし無言となっていた。
話を要約するとこうだった。
“アイ”が本部のドローン全体を管理しているAIを乗っ取って制御下に置いた。
“アイ”が本部の監視カメラにハッキングをして情報を盗み見た。
その時に、監視カメラを盗み見ている別の存在に気付いて逆探知。
神崎はなんとかその逆探知から逃れる事に成功した。
しかし、監視カメラの件から真城達の現在地はバレたそうで、ロボットの集団とドローンの群れが真城達のもとへ向かってる。……と。
『ドローンには赤外線カメラだとか超音波センサーだとかミリ波レーダーだとかその他諸々、状況に応じてAIが隠れた人間を早期発見する為のシステムが搭載されている。そんなのが大量に本部内を徘徊すれば、見つからない場所なんてどこにもない。監視カメラである程度の居場所を捕捉されてしまった以上、その周囲を重点的に捜索されれば、それこそ一巻のお終いだ』
「……、」
『加えて、ドローンにも防衛手段。牽制方法として、スタンガンの様な空中放電とそれら電撃を遠くのターゲットに命中させる為の電極射出装置も付いている。弾数は二発分それぞれのドローンに搭載済み。だからただの監視機と侮ることもできない』
「…………、」
どんだけ多彩な機能付きなんだよ!!
そのドローン!!!!
『現状、今以上の戦力は望めない。下手にロボット達とかち合って戦力を減らすのは得策とは言えないからね』
「でもどうするんですか? 逃げてるだけじゃ勝てないですよ? 疲れ知らずなロボットに対してこっちは人間ですから、……消耗戦に持ち込まれたらそれこそ」
『ただ“逃げる”ってわけじゃないよ、勿論。さっき言っただろう?「ルートを伝えるからそれに従って動いてくれ」って。それに、今目指しているのは“アイ”のいる所だ』
「……!?」
『さっきまでいた部屋の周辺には、今後、どうあったってドローンとロボット達が集合する。だからその場からは出来得るかぎり距離を取らないとならない。しかしかと言って、移動しているところやその方角を監視カメラに見られれば、“アイ”はロボット達への指示を修正してしまう。だから僕が指示を出して、真城君達には監視カメラの無い道を通ってもらってるわけだ』
「おぉ」
真城は神崎のこれまでの指示の意図を理解して、感嘆の声を漏らす。
『まぁ、監視カメラに映らないってことは僕のPCからも見えないって事だからね。そっちの詳しい情報が分からないから、突然出て来るロボット達の対処は真城君達に任せるしか無いんだけれどさ』
「そこは……まぁ、仕方ないですね」
そんな会話の途中だった。
「しっ! 静かに」
真城の横を歩いていた霜山が、真城と神崎の会話を制止する。
「何か来る。多分ロボット」
真城もすかさず耳をすます。
すると、
キシ、キシ、キシ。
と機械の軋む様な足音が近づいてくるのが分かった。
足音からして数は一体。
「どうする?」
野武が腰の刀へと手を伸ばしながら質問する。
制圧か、それとも一度来た道を戻って隠れるか。
真城は少し考える。
すぐに制圧できるなら制圧してしまった方がいいかもしれない。
例え来た道を戻っても、別のロボットと遭遇する可能性はゼロじゃない。
もしそうなれば、挟み撃ちの状況になりかねない。
それに例えロボットに見つかっても、その視界を“アイ”が共有しているわけでは無いはずだ。
少なくとも、“常”ではあるまい。
視界を常に共有出来ているのなら、真城が本部でロボット達に追い掛け回された後で“アイ”と遭遇したにも関わらず、“アイ”は真城の存在を認識していなかった筋が通らない。
複数あるロボット全ての視界状況を完全に把握出来ていない節がある。
まぁ単純に神崎以外には興味が無かっただけなのかもしれないが。
「(……やるか)」
真城はそういって頷いた。
キシキシと、ロボットがやって来る。
真城達は簡単にやるべきこと打ち合わせて息を殺す。
ロボットは、まだ真城達の存在に気付いてない。
曲がり角。壁越しに拳と刀を構えて今か今かと待ち伏せる。
あと少し。
一歩。二歩。三歩。――そこだ!!
ロボットが曲がり角へと来た瞬間。
真城が、白く光りを収束させた右手でロボットの身体を纏う影を引き剥がす。
と同時に、野武が両足を切り落とし、バランスを崩して前に倒れる身体を霜山が抱きかかえると、背中のボタンを引いてすかさず電源をOFFにする。
その間、五秒もかからない。
出来得る限りに音を殺して完遂した。
「ほぉ、まさかこんなに簡単にいくとはなぁ。その“力”が無けりゃこのロボの影を断つだけでも一苦労だったってのに」
刀の切れ味に満足する様に、野武はロボットの足の断面を確かめながら呟いた。
「影の防御を無効化出来るんだから本当に便利よね。今回のハッキングされた状態だと背中の電源ボタンにまで影が纏われてるから、引っ張ろうにも引っ張れないのに。……だから普通ならもっと徹底的に動かなくなるまで破壊するしか方法がない」
同じく、真城の“力”の便利さを再認識する霜山。
しかしそれも、結局は。
真城の“力”を褒めるのは『影人を楽に屠れる事』その一言に尽きる故のものだろう。
だが、それでも。
そうしていくことでしか意識改革は成されない。
そうしない選択肢は無いだろう。
「さ、早く先に進もうぜ」
「えぇ。こんなくだらない事件とっとと片付けて、早く休みたいものね」
刀を鞘に納めながら野武が急かす様に前へ出る。
その言葉に、停止させたロボットを床に寝かせた霜山が同意する。
「そうですね」
真城もそれに同意して、神崎からの指示を待つ。
そうして。
神崎から次に進む道を伝えられ、その通りに真城達は歩いていく。
…… ……
監視カメラの無い道をしばらく進んでいた時だった。
ドドドドド。と沢山の足音が聞こえ出す。
何事か?
そう思い、音のする方へと視線を向けたその時だった。
「きゃああああああ!! なんで!! どうして居場所がバレたのよぉ!!」
どこかで聞いたことのある女性の声が耳に届いた。
その声の主は誰だったか?
そんな疑問の答えが出るよりも早く、答えが先にやって来た。
「あれ!? 晴輝くん!! 帰って来てたの!?」
淡く茶色みのあるストレートな髪を肩まで伸ばした女性が、息を切らし全力疾走のままこちらへと向かってくる。
真城には見知った顔の人物だった。
「明花さん!?」
桜井の名前を声に出すが、それは再会を祝う為に発せられたものではない。
桜井がやって来るその更に後ろから、ロボット達が群れになって押し寄せてくる光景に対して放たれたものである。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド……ッッッ!!!!!!。
“戦闘訓練用ロボット”。
“警備ロボット”。
そして、ドローン。
廊下を埋め尽くすほどの、影を纏った黒一色の金属の塊たち。
「ちょっとぉ!!」
「マジかよ……ッ!!」
真城と同じく、状況を理解し戦慄した霜山と野武。
二人もまた、真城と同じ気持ちであったことだろう。
無理やり絞り出す様に、怨み言を口にする。
顔を見合わせる必要などなかった。
三人が三人とも、同時同一の事を考えた。
もはや打ち合わせる必要も無い。
……まずは、
「「「逃げろおおおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!」」」
ロボットの群れに背を向けて、一斉に走り出す。
最早、監視カメラに映るだとか“アイ”に居場所を特定されるだのといった些細な問題事などどうでもいい。
あの群れに呑まれれば一巻の終わりだ。
抵抗出来るだのなんだのといった事など考えるまでもない。
津波とは、たった50cmの高さでさえ人間を押し流す。
水でさえそうなのだ。
金属の群れになど、そもそも押されて潰されるだけで命に関わる。
「走れぇぇぇぇえええええええ!!!!」
全速力で。
脇目も振らずに、駆け抜ける。
前しか見ない。
前を見る以外に余裕がない。
「だああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
本部内。
四人の絶叫が木霊した。




