第4話 『vs “アイ”』
九条や神崎。
その他、安室博志を含む研究チーム達と別れた後、真城は更に下の階層を進んでいた。
七階層から十階層へと移動して、そして現在、執務室の付近である。
『――ザザッ、真城君。その角を曲がった先、そこから50m程で目標に到着だ。警戒してくれ』
神崎から渡されたワイヤレスイヤホン。
そこから、雑音交じりな神崎の声が届いた。
真城は言われた通りに廊下の角を曲がり、そのまま真っ直ぐに駆けていく。
目標まで、40……30……20、
「――っ」
真城は無言で息を呑む。
前方に、目標を確認したからだ。
それは、今回の討伐対象。――“アイ”だった。
~ ~ ~ ~ ~
「あんなのに捕まってみろ、何をされるか分かったもんじゃないんだぞ!?」
「……、」
「お願いだああああ、助けてくれえええええええ!!!!」
そう言って、神崎に泣きつかれ……。
結局、真城は“アイ”を破壊する方法を選択した。選択せざるを得なかった。
まぁそれでも、神崎は兎も角としても九条が戦いに参戦してくれるなら心強い。
そんな甘えた考えを持っていた感は否めない。
だからこそ、“アイ”の破壊を選択できたと言っても違いはない程度には。
しかしそんな思惑も、一瞬で瓦解した。
どうやら九条は、今回の一件で神崎を(一応は)助ける為に行動し、そして負傷したらしい。
光源はあるものの、それでもなお薄暗い部屋の中。
よく確認出来てはいなかったが、見れば九条の右手には荒く包帯が巻かれていた。
骨折まではしていない。
しかしそれでも、これから戦闘に参加するには心許ない状態だった。
「すみません、こんな状態で……」
九条が頭を下げた。
しかし真城としては九条が頭を下げる道理はない。
下げるべきは、この神崎の馬鹿である。
「それで、“アイ”ってのを倒すにしても戦力が足りませんよ。どうするんです?」
真城は神崎へと向き直る。
まさか、『助けてくれ』とだけ言っておいて『後は全てお願いね?』なんて無責任な事は言うまいな?
「今、本部内にある監視カメラからの映像を見ているんだが」
そう言って、神崎は操作していたノートパソコンの画面を真城に向ける。
そこには最大四つまでのカメラ映像が同時に表示されていた。
他にも、下画面に個々のカメラの名称が表示されており、神崎がキーボードを操作することにより表示する映像が切り替わる。
パソコンの画面。
その一つには“アイ”と思われる一体のロボットが神崎を探す姿が表示され、残る三つの画面には未だ本部内で生存する人々が固まって行動する、或いは部屋に立てこもり身を隠す姿が映し出されていた。
「数は多く無いが……生存者は確認できる。彼らに協力を頼むのがいいだろうね。中には事態の収拾に動いてくれる者もいるはずだ」
「その“事態の収拾”というのが、“神崎さんを献上する事”でないといいですね、神崎さん?」
「……今そういうこと言わないでいいんだからね、九条君?」
「はいはい、そういう話は後にしましょう。神崎さんの献上は“アイ”の破壊が失敗した時の最終手段ってことでいいじゃないですか、今は」
「……なんか今回やけに冷たくないかい、真城君?」
「自分の胸に手を当てて聞いてみてください」
そんなグダグダとしたやり取りをしながら、真城はもう一度パソコンの画面を確認する。
「……それで話が逸れましたけど、結局のところ生存者の中に今回戦力になれそうな人ってどれくらい残ってるんですか? 話を聞く限りじゃ“アイ”の破壊には数がいれば問題ないって感じじゃないように思いますけど」
「ふむ……、『影世界専門部隊』辺りから集めた方がいいだろうね。何せ彼らは“影操作”、“影纏い”に関しては『戦闘部隊』よりも慣れている」
「…………、」
真城は一瞬、言葉が詰まる。
ここで『影世界専門部隊』が絡むのか、と。
正直な話、現状の真城に『影世界専門部隊』の良いイメージは全く無い。
……しかし、状況が状況だ。
協力した方が事態の収拾が容易なら、しない手も無い。
それに、それは彼ら『影世界専門部隊』からしても、多分同じことが言えるだろう。
ましてや真城の“力”についての一件は、一応は“片付いている”状態だ。
彼らとて、変な事は起こすまい。
――しかし、
「む、“アイ”が動き出した。……これは、生存者を見つけたからか」
画面を見れば“アイ”が、研究員達の立てこもっていた一室の扉を破壊して侵入。
生存者達をバッタバッタと薙ぎ払い、戦闘不能にしていく映像が表示されていた。
「今の“アイ”が居る場所から考えて、『影世界専門部隊』の戦闘員と合流するには……」
カチャカチャカと、せわしなくキーボードを叩く音がなる。
そしてしばらくして、神崎は動きを止めた。
「まずいな」
パソコンの画面が切り替わり、標的である“アイ”の現在地とその付近の生存者達を現した複数の赤い点が本部の地図上に映された。
よく見れば“アイ”以外の赤い点にも小さく人物名が書かれている。
そこにカーソルを合わせれば、人物名の他に顔写真や所属部隊も表示される仕組みであるらしい。
真城がいくら見たところで、顔と名前が一致していない人物だらけなので意味がない。
しかしそれら人物を全て把握する神崎からすれば、それは有益な情報だ。
本部内の監視カメラ。
そこに映った人物の顔をバンクのデータと照合して名前を割り出す。
さらにその中から、未だ生存している人物とそうでない人物を区分していく。
出来た生存者リストに目を通し、そして……、
「……もうあまり戦える人材が残ってない」
そう呟いた。
「じゃあどうするんですか? やっぱり献上を」
「いやいや待て待て、待ってくれ。今任務中でなく、今日は本部内にいるはずの人物が何人か見当たらない。……そうなると、“アイ”が監視カメラの情報を盗み見て探索を始めても存在がバレないように、カメラに映らない場所をあえて選んで隠れている可能性が高い。なら、まだ諦める時じゃない!! そうだろ!?」
「そうは言っても神崎さん。カメラ外で既に倒されてる可能性もありますよね?」
「まぁ確かにそうだ、……が」
九条からの冷ややかな一言に、口籠もる神崎。
さらにキーボードを操作して、生存の確認が取れていない数人のリストを表示する。
「研究員達はともかくとしても、桜井君と天道君はそうそうやられるような人物じゃないと思うんだ!! 彼らならきっと!!」
桜井明花と天道秀才。
桜井については知っている。
真城の初任務に同行してくれた女の子。
戦闘面に関しては、どちらと言えば『戦闘タイプ』ではない。
しかし逆に『サポートタイプ』としては優秀で、機転も利く。
真城も十分なほど、彼女には助けられた記憶がある。
多少ぬけている所はあったが……確かに簡単にやられたりはしないだろう。
天道については未知数だ。
真城は全く面識がない。今初めて聞いた名前である。
「でもこの二人って……」
しかし九条は、二人の名を聞いて眉を寄せた。
「我存ぜぬで前回確か、事態が収まるまで隠れていた人達ですよね?」
「……………、」
無言。
神崎が口を閉ざして目を逸らす。
向かう先は真城。
「……きっと真城君の頼みなら快く引き受けてくれるはずだ!!」
「どっから来たのその自信!?」
一回、本当にぶん殴ってやろうかしら。
そんな怒りの感情を抑え込み、しかし力強く拳を握りこんだ真城。
堪えろ。ここは堪えるんだと言い聞かす。
「ま、まぁ二人の事は置いておこう。まずは確認出来ている戦力の確保が優先だ、そうだろう!?」
「神崎さん……無理やり話を逸らさないで下さい」
「逸らしてない、逸らしてない。み、見ろ。このままだと野武君と霜山君が“アイ”の餌食になってしまうぞ!!」
「……、」
画面を見せ、危険を知らせる神崎。
それを先程よりも更に冷めた目で見つめる九条。
感情を押し殺し、無表情の真城。
「はぁ……」
溜息をつき、真城は立ち上がる。
どの道、行動するしかない。
このままここでグダグダと話し合っていても埒が明かない。
「分かりました。まずはその二人の所に向かえばいいんですね?」
~ ~ ~ ~ ~
真城がここへと移動するまでで、とある問題が起こった。
それは、合流する予定だった『野武』と『霜山』が居る地点よりも手前に“アイ”が移動してきてしまった事。
それにより、二人より先に“アイ”と接触する羽目になった事だった。
『どこ!! どこ!! どこに隠れたの!! どうして隠れるの!? やましい事があるからそうやって隠れてるんだ!! 逃げるんだ!! たっくんのバカァ!!』
遭遇した“アイ”は何やら喚きながら、ドスドスと力強い足取りで歩いていた。
「……、」
コツコツと、真城は耳のワイヤレスイヤホンを小突く。
「そういう事らしいですけど、何か言い分はありますか神崎さん」
『捕まりたくない捕まりたくない捕まりたくない……』
イヤホンから何かブツブツと聞こえるが、真城はそれを無視して“アイ”へと視線を向き直す。
『――ッ、たっくん!?』
真城の声に振り向く“アイ”。
しかし、真城を見るや『なんだ違うのか』と肩を落とす。
そんな動作を見て、
(こうやって近くで見ると、本当に人間そっくりだな)
そんな感想が真城の中から沸いて出る。
本部の上階で戦闘訓練用ロボットに遭遇し、その人間らしい挙動に驚いたものだったが、こうして“アイ”と見比べてみればアレでさえまだ人間の動作には程遠かったのだと思い直す。
それ程までに、限りなく人間と見間違うものだった。
頭の造形が小型のブラウン管テレビの様な物でなく、人間の顔の造形であったなら。
或いは、その顔の部分を隠して首から下までの代物を、何も知らない一般人に見せたなら、まず間違いなく人間だと誤認する。そのレベルのもの。
それが“アイ”だった。
AIだけではない。
その胴体、細部に至るまで、全てが技術の集大成である事をこの瞬間、真城は心で理解した。
(これで暴走さえしてなければなぁ……)
許可は既に貰っている。
しかし本当に壊して良い物なのか。
ロボット工学などというものに明るくない。
そんな真城でさえ、躊躇いが生まれてしまう程度に。
……まったくもって神崎拓富とは困った人物だ。
これほどのものが作れる一種の天才でありながら、同時に本部の破壊と暴走を引き起こす厄災の生みの親。
それでいて、このような事態を起こすのが今回で初めてでない。というのだから……本当に呆れてしまう。
こういった問題事に毎回付き合わされて巻き込まれるのだから、九条さんは尊敬できるし頭が上がらない。
今度、胃薬やら精神安定剤やらをプレゼントするとしよう。
『……違う。…………誰? あなたは……真城、晴輝。』
“アイ”が呟く。
顔認証を終えたのだろう。
『たっくんは何処だあああああああああああ!!!!』
襲い来る“アイ”。
“アイ”と真城、二人の戦闘が始まった。
…… ……
影を纏う真城と“アイ”。
互いが共に接近し、両拳を打ち付けあう。
ゴガン!!
金属同士がぶつかり合う轟音が鳴り響く。
その初撃を制したのは、
「――ッ、っぐぁ」
“アイ”だった。
真城は打ち付けた拳が発した激痛に顔をしかめると、咄嗟に腕を引っ込める。
「なんつう固さだよ……」
殴った方の拳をもう片方の手で擦る。
戦闘用の革手袋は付けている。
それは手の甲や指の付け根部分に鉄のプレートが仕込まれた代物だ。
加えて、その上から影を纏って硬化させた状態のものだった。
……にも関わらず、完全に押し負けた。
見れば纏い硬化した影にもヒビが入り、砕ける寸前の状態だ。
「これが、“黒鉄”に匹敵するっつう固さってやつか」
手を開いて閉じる。
まだ動く事を確認する。
……よし、骨は折れてない。ヒビも入ってない。
まだやれる。
「――――うぉ!!?」
真城の顔のあった場所を、“アイ”の拳が通過する。
寸での所で、真城は身体ごと捻って回避したものの、しかし完全に躱しきれなかった為に左耳に微かな摩擦熱を感知する。
「ぐっ、わぁっつ!?」
片手を床に付けて一回転。
そこから態勢を立て直す。
その間も、“アイ”への視線は外さない。
(くそ!! ――また来る!!)
距離を詰めて来た“アイ”が、左腕を右から左に切り払う。
その一撃を、真城は咄嗟に両腕でガードする、が。
ゴパン!!
その勢いに耐えきれずに押し切られ、その身体を横の壁へと打ち付ける。
「――っか、はっっ!??」
視界が点滅する。
肺の空気を無理やり押し出され、一瞬呼吸が滞る。
「こ、……の!!」
追撃が更に来る。
真城は急いで身を屈め、“アイ”の拳の下をくぐる様にして回避する。
そこから出来る限り遠くへと飛び込む形で前転して距離を取る。
無理やりにでも態勢を整えて、次の攻撃を警戒し……、
「――――っっっ!?」
眼前に、迫る拳を確認する。
確認した時には遅かった。
真城が顔面に重い一撃を受けて後退する。
よろめくその足取りを、“アイ”は見逃してはくれない。
足払い。
そしてバランスを崩した真城の倒れる方向へ、“アイ”が更にもう一撃。
真城が、倒れるのを後押しされる。
流れる様な一連の動き。
それにより、真城は成す術もなく身体を床へと打ち付けられた。
この間わずが、一分も経っていない。驚くべき戦闘力。
起き上がろうとする真城の両腕を“アイ”が捉える。
うつ伏せにされ、後ろ手に拘束され、さらに背中に“アイ”が乗る。
片腕を首にまわされ、首を絞める様に海老反りにされていく。
「ぐっ、がぁ……っ!!」
腰が、背骨が、メキメキと音を立てる。
「ああああっ、あっっ、あがっ……」
死ぬ。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!!
ロボットに殺される!!
抵抗しようにも“アイ”は微動だにしない。
体重は人間と言っても差し支えないぐらい。
しかしそれでも、その身長の女性の体重からすれば確実に重いだろう。
が、それでも圧死する事は無いレベル。問題は無いはずだった。
だが、……ロボット故に“痛覚が無い”ことを失念していた。
男の真城が本気で抵抗し、自由な足を使って“アイ”の背中部分をどれだけ力いっぱい蹴り付けようとも、痛みで拘束を緩めない。
表情さえ顰めない。
(くそっ!! ……ヤバイヤバイヤバイ!!!!)
初手をミスった。
判断を誤った。
“アイ”の持つ、“黒鉄”と同等レベルの“影纏い”。
その硬度がどれほどのものか知りたくて、ついつい“影纏い”で対抗したのが間違いだった。
わざわざそんな事をせず、初めから“力”を使っていれば良かったのだ。
失敗した失敗した失敗した。
今更“力”を使ったところでもう遅い。
今の“アイ”は純粋な腕力と技のみで真城を拘束している。
拘束に“影操作”が使われていないなら、影を無効化する真城の“力”は意味をなさない。
しかも相手はロボットだ。
これがもし影人であったなら、広範囲にでも“力”を発動するだけでも意味はあった。
影人は真城の“力”に当たるだけでも痛みがあるようなので、それを隙にして拘束から脱す事も出来たのだ。
しかし、それも叶わない。
どうする?
どうする、どうする、どうする、どうする。
どうすれば、……この状況を打開できる?
「……、……――っ!?」
ひらめきがあった。
奇跡的に、打開策が閃いた。
『――――――――ッ!??』
瞬間。
真城の右手を中心に、眩い閃光がほとばしる。
それは、真城の“力”によるものだった。
…… ……
眩い閃光。
それに視界を奪われる。
それは、何も人間に限った話だけではない。
カメラを通じて、様々な情報を管理し処理する。
“アイ”でさえ。ロボットでさえ同じことが言えるだろう。
影を無効化するでもない。
相手にダメージを与える訳でもない。
しかし、ただ単純に視界を奪うものとしての機能も確かにあった事を思い出す。
一瞬の隙。
一瞬でも、視界を奪えば問題ない。
一瞬でも、拘束が緩むならそれでいい。
「――でぇやあああ!!!!」
真城は両腕の拘束を力技で解くと、急ぎ腰を回した勢いに乗せて肘鉄をお見舞いする。
狙いは勿論カメラへと。
“アイ”が視界の情報を取り入れているメインカメラ。
それは、ブラウン管テレビ型の頭部……ではなく、首よりも少し下。
人間で言うと、胸骨柄の場所にあった。
ガシャン!!
という音を立て、真城の肘鉄がカメラのレンズに直撃する。
どうせならレンズを割ってやりたかったが、如何せん素材が頑丈なのかレンズ破壊は叶わない。
が、今はそこまで重要なことでも無い。
まずは、“アイ”の拘束から完全に抜け出して距離を取るのが優先だ。
身体を軋ませ、グラつく“アイ”。
そこにさらにもう一撃のダメ押しだ。
“アイ”の胴体に真城は両足の裏を当てる。
勢いよく、体重を乗せて、真城は一気に“アイ”の身体を蹴り飛ばす。
「おりゃあぁ!!!!」
『――――ッッ!??』
“アイ”の身体を、後方へと吹き飛ばす。
それと同時に、真城は足裏に纏わせた影を使って距離を取る。
真城は立ち上がり、状況の立て直しが出来た事にホッとする。が、しかしまだ終わりじゃない。
先程の反省を踏まえて、今度こそ失敗をしない為の努力をせねばなるまい。
“影纏い”の硬化具合。
それを知りたいが為に、拳同士の打ち合いをした。
それは明確な失敗。
だが、失敗したのはそれだけでは無い。
“アイ”のもつ並外れた戦闘能力。
それを、真城は侮っていたのだ。
それにより、真城が態勢を整えることもままならず、あれよあれよという間にバランスを崩され拘束された。
反撃さえ、出来ぬまま……。
正直、ここまで一方的になるとは思っていなかった。
一ノ瀬との戦闘訓練も、ハンデありとは言え十分に戦えた。
一撃を加えることが出来ていた。
影人とも戦闘し、自身の戦闘能力が通用することも理解した。
“フェイズ4”でさえ、仕留めることが出来たのだ。
……にも関わらず、こうも一方的に負けるなど。
「……どうする」
起き上がる“アイ”を、警戒した瞳で窺う。
あまり接近戦はしない方がいいかもしれない。
『閃光弾? ……いや、あれは。そうか、「真城晴輝」にはそんな“力”が』
ブツブツと呟きながら、“アイ”はこちらへと目線を合わせてくる。
……くるか?
そう思い、身構える。警戒を強くする。その時だった。
“アイ”の手元から、ピンポン玉ほどの大きさの何か丸い物が落とされた。
その物が何なのか?
そんな疑問を浮かべるよりも先に、答えが来た。
落下した“ソレ”が床へと落ちたその刹那、――――真城の視界が奪われた。
…… ……
再び、眩い閃光が辺り一帯にほとばしる。
『これは“力”ではなくただの“閃光弾”。さっきのお返し』
“アイ”は自身の視界、“目”となるカメラを光から守りながらそう呟いた。
そして、
『そしてこれが“睡眠針”』
目を抑え、その場に佇む真城へと狙いを定めて射出する。
プシュッと吹き矢と同じ要領で、空気の流れに乗せた小さな針が飛んでいく。
それが真城へと命中したのを確認し、
『あんたなんかに用無いの』
背を向けて。
今まで無力化した者達と同様に。
興味なく、そう吐き捨てた。
…… ……
「“閃光弾”かよ、くっそ……」
神崎からその情報は貰っていた。
音響閃光手榴弾とは違い、光のみを放出する神崎製の代物だ。
対策として、目を逸らしたり瞑ったりすればいいのだが、一応でサングラスも貰っていた。
が、それらを使う間もなく炸裂し、結果……閃光を浴びることになってしまったわけである。
まったく。
これもまた、失敗だ。
最初からサングラスを付けていればいいものを、メガネの類をかけた事が無いからと、邪魔だからという理由から付けることをしなかった。
その結果が今の状況だ。
一体、いくら失敗を積み重ねれば懲りるのか。
これが影人達との命のやり取りであったなら、死んでいてもおかしくない。
いい加減、気を引き締めろ。
真城晴輝。
もうてめぇは、少しのミスで死ぬような。
命を落としてしまう様な世界へと、やって来ているんだ。
「……、」
少しして目を開く。
まだ多少の違和感はあるものの、チカチカはするものの、問題ない。
それもいずれ回復する。
軽く眼球を動かして辺りの様子を確認する。
すると次第に、ぼやけて霞んでいた視界がクリアになってくる。
その眼前には、“閃光弾”を落とした時と何ら変わらぬ位置取りの“アイ”。
視界が奪われた前と後とで多少の変化はあるものの、それでも“アイ”はそこにいた。
小型ブラウン管テレビの様な頭部。
そこに映されたアニメ調の女性の顔が何やら驚いている風なのが少し謎だが。
『……なんで』
まるで声を、無理やり絞り出す様に。
『なんでお前は眠らない……ッッ!!!?』
“アイ”は真城へとそう告げる。
はて?
一体何の事やら。
真城には状況が呑み込めない。
『どうして“睡眠針”が効かないんだ!!』
あぁなるほど、そういう事か。
真城は合点がいく。
そういえば、さっきチクリと腕に違和感があった気もする。
その時にでも、針を一発貰ったのか。
だが、
「あぁ、それなら神崎さんに対策してもらったからな。そのおかげだ」
真城は淡々と説明する。
神崎の作った“睡眠針”。
それは名前からも想像がつく通り、針を刺された者を眠らせるものである。
人を眠らせる技術。
眠気を促すメカニズム。
“眠り”と一括りに言ってもその原因、理由は様々ある。
例えば、アレルギー薬や風邪薬などに含まれる抗ヒスタミン薬。
それは脳の覚醒に関わるヒスタミンと受容体の結合を阻害することで眠気を誘発する。
例えば、食後。上昇した血糖値を下げる為に膵臓から分泌されるインスリン。
しかしそれも血糖値が上がり過ぎれば、それを下げる為に大量のインスリンが分泌されることとなり、結果、低血糖症状。つまりは脳の栄養たるブドウ糖が十分に脳へと行き渡らずに眠気といった症状へと繋がっていく。
例えばオレキシン。
脳の覚醒に関わり、またオレキシンの欠乏がナルコレプシーの原因とされる。
例えばメラトニン。
例えばアデノシン。
例えば、例えば、例えば、例えば……。
もちろん真城にはそういった知識も無いし専門外。
なので実際のところ、その神崎が開発したという“睡眠針”がそれらの中のどの技術を用いて製作された代物なのかも分からない。
それは神崎も承知の上。
なので、神崎が真城に教えた事はこれだけだった。
『その針に刺されると急激に眠くなる』、『針が脳へと直接“眠れ”と命令信号を送るんだ』と。
それは読んで字のごとく。
それ以上でもそれ以下でもなかった。
そして、その“睡眠針”における対策も……。
『これを首の後ろに付けといて』と言って渡された小さな湿布の様な物。
それさえ付けとけば、首から下のどの部位に“睡眠針”を刺されても眠くなりはしないらしい。
……しかし、そんな背景を全く知る由もない“アイ”からすれば、かなりの驚きがあった事だろう。
何せこれまで、その“睡眠針”で仕留めきれなかった獲物はいなかったであろうから。
『…………、』
言葉を止め、真城の出方を窺っている“アイ”。
その表示された顔からは、感情を窺い知ることは出来ない。
しかし、それでも。
これで終わりというわけではないだろう。
まだ二手、三手。
真城を戦闘不能にするアイテムなり技術はあるのだろう。
問題は、そのアイテムなり技術をどうやって真城へと当てるのか。
そして、それが真城に効果があるのか否か。
それを考えているのだろう。
真城はそれらをどう掻い潜ればいいのかを、考えねばならないか……。
真城の今の目的は、“アイ”を破壊する事じゃない。
もちろん破壊できるならそれに越したことは無いのだが、まぁ無理はしない方がいいだろう。
今優先することは味方と合流する事だ。
野武と霜山に合流する。
しかしその前に“アイ”を二人から引き離さなければならない。
引き離して、距離を置いて、頃合いを見て真城も離脱する。
そうして離脱した先で、二人へと接触を図る算段だ。
まぁ、二人がこの戦闘音を聞きつけて、こちらへとやって来てしまう可能性もあるのだが、その時はその時だ。
三人で力を合わせて“アイ”と戦い、そして撃破。
或いは頃合いを見て三人で離脱して、作戦を整えてから再度挑む。
そのような流れでいいだろう。
天道と桜井については、とりあえずは考えない。
現状使える戦力で、存在が確認できていない者を当てにしても仕方がない。
(――――っ、来る!!)
“アイ”が動く。
真城がそれに応じて構えをとる。
“閃光弾”対策のサングラスも忘れない。
次からは慢心しない。
ちょっと試してみよう等という好奇心も捨て去って。
今度こそ、全力全開で挑み切る。
「らああああああああああ!!!!」
そうして真城も駆けだした。
簡単に全壊は出来ずとも、せめて四肢のどれかくらいは破壊する。
そんな意気込みで、
二度目の激突が開始した。
…… ……
真城へと向かって伸びてくるいくつもの影の槍。
それは、“アイ”を中心として放たれたものだ。
“アイ”の影硬化。それは“黒鉄”にも劣らない硬度を誇る程。
そしてその硬度は、防御力のみならず攻撃にも転用可能なものである。
それはつまり、“最強の盾”は同時に“最強の矛”にもなり得る。ということだ。
しかし、
「……、」
真城は構えを崩さない。
タコの触手の様にうねり、無軌道に襲い来る影の槍を見据えると、
「――――ッ」
ゴパンッ!!!!
と、槍の一つへと真城は拳を打ち付ける。
“力”を発動し、白く輝く右拳。
それは、影槍へと突き刺さると同時、影槍を塵のように霧散させる。
“アイ”を目指し、駆ける速度は落とさない。
影槍を打ち払う、その動作さえ自信を前へと押しやる体重移動として消費する。
『むむ……』
“アイ”はそれに驚かない。
今、相対している者が『真城晴輝』である事は知っている。
そして、相手が『真城晴輝』であるのなら、“そういった力がある”事はデータバンクからも既に分かっている事だろう。
しかし、それはそれとして。
知っている事と、実際にそれを相手にすることでは、また少し話が変わってくるはずだ。
“アイ”の反応は、言うなれば“警戒”。
そして、その厄介さからくる“苛立ち”だろうか。
真城が更に一つ二つと、影槍を無効化する。
無効化し、更に距離を詰めていく。
真城は、影槍では止まらない。
止められない事を、“アイ”も理解しただろう。
『……、』
影槍。影の触手が更にうねる。
うねり、うねって、真城を仕留めるべく一斉に襲い来る。
……が、
「食らうかよ!!」
足裏に影を纏わせ、跳ぶ。
床から壁、壁から天井と、立体的に跳び回る。
影槍と影槍の合間を縫う様に移動して、影槍を躱してく。
そうして、すれ違いざまに影槍を“力”で消していく。
『――このッッ!!??』
“アイ”の表情が変化する。
苛立ちが募り、怒りへとシフトしていく。
これが、普通の相手なら止められたことだろう。
“アイ”の影硬化たる“最強の盾”と“最強の矛”。
それは真城以外なら、避ける以外に選択肢の無い攻撃であるからだ。
だが真城はそうじゃない。
その影硬化に対して真っ向から立ち向かい、無効化する能力を持っている。
影に対する、圧倒的なメタ能力。
『――ッ、チィ!!!!』
真城と“アイ”の距離が2m程にまで差し迫ったその刹那、“アイ”に更なる動きがあった。
“アイ”は振り上げた左腕を、今度は下へ向かって振り下げる。
バシュン!!
床に向かって、“何か”を強く叩きつけた音が木霊する。
それは、どこかで聞いた音とよく似た音だった。
瞬間。
真城はその音の正体を理解する。
視界を、周囲を包み込むようにして舞い上がる白煙。
……これは、
「“煙玉”かよ!!」
真城は舌打ちをする。
しかも、
「……え?」
“煙玉”の主導権。
それを“アイ”が手にするよりも早く、瞬時に奪い取ろうと影を伸ばした真城は絶句する。
「なんで……、操作出来ない……?」
何とか疑問のみを口にする。
神崎製の“煙玉”。
あれは確か、黒煙の正体が小さな固形となっていて、影で煙自体を操ることが出来たはず。
しかし、今回のこの煙。
白煙の微粒子を影で捕まえることが出来ない。
『残念!! “煙玉”には二種類あるんだよ!! バァーーカ!!』
「――ッ、!?」
そんなのもあるのかよ。
じゃあこっちは、本当にただの煙が発生する方の“煙玉”なのか。
黒煙と白煙ぐらいの違いしかないと思ったが、そんな事は無かったよ……。
煙には固体の微粒子からなるものと、液体の微粒子からなるものとの二種類が存在する。
影操作で操ることが可能な影は固体のみ。
そして同時に、影で捕らえて動かすことが出来るのも物体のみ。
それはつまり、影で捕まえることの出来ない液体と、その液体、気体の微粒子が作る影の操作は不可能ということだ。
「くそ!!」
視界が悪い。
それは付けているサングラスのせいではない。
辺り一面を白一色で閉ざす白煙の所為である。
「何も見えねぇ!!」
大きく腕を振り、煙を霧散させようと試みるも、未だにどこからか“煙玉”が白煙を噴射し続けているせいか全く状況が改善しない。
(でもこれなら、アイツだって……)
“アイ”だって真城の位置が分からないじゃないか。
そう頭に過った時だった。
真城の腹部を目掛けて、“アイ”の拳が突き刺さる。
「――――ッッッッ、か、は!???」
『残念、残念、残念!! こっちには赤外線カメラっつう“目”もあるんだよ!!』
「卑怯!!」
腹部を抑えて後退する。
依然として白煙が晴れる事は無い。
“アイ”の位置が、全くもって分からない。
(――どうする!?)
急いで全身を影で纏って硬化する。
どこから攻撃がくるのか分からない以上は、とにかく全身を守る他ない。
(……こうなりゃ、勘しかねぇのか)
辺りの気配を探る様に、周囲四方へと気を配る。
機械が軋む音、足音等々、少しの音も聞き逃さない。
――ゾワリッ!!
「そこか!!!!」
突如、背後から感じた気配を察知し、瞬時に右拳を背後目掛けて振りきるが……、しかしそれは空を切る。
「外した!?」
――ゾワリッ!!
「そこおおお!!!!」
次に、左から感じた気配。
それへ向け、すかさず左拳を突き出すが……、
「……またハズレか」
その拳も、またしても空を切る。
「……どうなってんだ!? そこかしこから気配はするのに、全く攻撃が当たらねぇ!!」
『なぁーはっはっはぁ!! 残念だねぇ!! 私みたいな“目”が無い所為で“勘”に頼るしかないってのは――――っさ!!』
「――ッぐ、ぁ!?」
白煙の中に響く“アイ”の声。
そして、そんな“声”から場所を特定しようと耳を研ぎ澄ます真城の左脇腹に、“アイ”の回し蹴りが突き刺さる。
呻き、後退するが、そこから更に、
――ゾワリッ!!
と、再び攻撃の気配を察知する。
(……躱せない!! 間に合わない!!)
真城は躱す事を諦めて、攻撃が来るであろう箇所を腕で固めてガードする。
纏っている腕の影。それを出来得る限り硬化させる。
……しかし、
『ハァァズレェェェェエ!!!!』
気配を感じた位置とは真逆から、“アイ”の攻撃が炸裂する。
「――ッ!??? なん、で……」
背中へと突き刺さる、“アイ”の重い一撃。
それを受け、真城は遂に片膝を付いて息を吐く。
『――ザザッ……、こ……れは、もしかして』
真城の付けたイヤホンから、ノイズまじりに神崎の声が届いた。
『気を付けるんだ真城君。君はたぶん今、“気配玉”に包囲されているぞ』
…… ……
『ふむ、では説明しよう!! “気配玉”というのは何か、という話なのだがね。それを説明する前にまずは人間が感知する“気配”について、ある研究結果が報告されているといった所から始めようじゃあないか。真城君にも分かりやすいように噛み砕いて話すけど、人間には“五感”と呼ばれる感覚機能、俗に言う「視覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」「聴覚」があるわけなのだが、実はそれ以外にある第六感として「磁覚」という感覚もまた人間に備わっている……なんて話があるわけだ。これは地球という巨大磁石のS極とN極、つまり北極と南極からなる異なる地磁気を感知して、現在の方位を正確に把握する……コンパスの様な役割を果たすことが出来るとされる感覚なんだ。が、実はこの感覚自体は特別なものではなくってね。渡り鳥だったり亀だったり蜂だったり鮫だったり……、まぁ色々な生物がその「磁覚」ってものを頼りにして行動、生活をしているわけなんだ。んで、話を最初に戻すけど、そういった「磁覚」こそが人間の感じる“気配”の正体なんじゃないの? ってな研究があるわけさ。磁気、地磁気、それは言ってみれば電気だ。電気自体も別に特別なものじゃない。人間がそれを発見、発明する遥か以前から生物と深い関わりのあるものだ。身体の中では常に微弱な電気が行き来しているだろう? 脳が指令を出す時然り、筋肉を動かす時然り、心臓やら何やらの臓器が活動する事にさえ電気信号が使われている。そういった微弱な電気信号、電磁波が体外に溢れ出し、それを他生物が“気配”として感知しているんじゃないのかってな話らしい』
「は、はぁ……」
『真城君も経験が無いかな? ふと後ろから“気配”を感じて振り向いたら誰かが居た、とか。或いは逆に、“気配”を感じて振り返ってはみたものの誰もいなくて、「やや、これはもしかして幽霊の仕業かな?」なんて勘繰ってみたりだとか。僕が作った“気配玉”っていうのは、そういった実験の成果から人間が最も感じやすい磁気、電気信号、電磁波からある特定の周波数を作り出し、そこに無いはずの存在を誤認させる“気配”を生み出す。そういった物なんだ。まぁこれもまだ研究途中の代物で、必ずしも特定の誰かを騙すことが出来るのかと聞かれると難しいところなんだけれどね。如何せん個人差が大きくて、感じる人、感じない人、影響を強く受ける人とそうじゃない人と千差万別。これも一種の才能みたいなものなのかねぇ。“それ”が遺伝によるものなのかそうでないのかも今の所ハッキリしないし……。そういう所も、まぁ「霊感」と似たようなものだよね。……「霊感」といえばそうだ、その話もしよう。どちらかと言えば、第六感なんて言われて真城君達が思い浮かべるのは「磁覚」じゃなくて「霊感」なんじゃあないのかな、多分。そんな「霊感」なんだけど、これも驚くべき事に“気配”の話とは切っても切れない関係なんだ。ほら、「“気配”を感じて振り返ってはみたものの誰もいない」ってな話はさっきもしただろう? 実はそれも科学的にみればそれらしい答えも出ていてね。その正体は“低周波音”だと言われているんだ。要するに“音”だね。人間が耳で聞くことの出来る音、可聴域っていうのが20Hzから20000Hz。それよりも高くなってくると“超音波”、逆に低くなると“低周波音”だったり“超低周波音”だなんて言われ方をするんだけれど、その“低周波音”っていうものは人間の心や身体に大きく影響を及ぼすとされていて、そういった被害の代表例を挙げると“圧迫感”や“不眠”、“めまい”や“息苦しさ”や“吐き気”、“痺れ”や“肩こり”、“幻覚”なんてものがあるらしいんだよね。例え“音”や“電気”が聞こえなかったり見えなかったりしたとしても、“音”や“電磁波”ってのは大気を振動・波動させる波だからね。人体に良くも悪くも影響を与えまくるというわけだ。その昔、電化製品なんかから発せられた“低周波音”によってイライラや不眠などの身体の不調を訴える相談や苦情が多く寄せられてね。以降20Hzを下回る“低周波音”による“騒音被害”については損害賠償の請求も出来るようになったんだ。でだ、こうした“低周波音”による“騒音被害”の一例こそが幽霊の正体だ。発生する原因だ。なんて言われていたりもするんだよ。……ほら、こういった悪影響って幽霊体験だったり幽霊の“気配”なんてものを感じている時の症状と酷似しているだろう? だからこそ、どこからか「磁覚」だの「霊感」だので感じた“気配”というものを“幽霊の存在”として脳が錯覚を起こしてしまっているのでは? って話があるわけさ。因みに幽霊がよく目撃される場所で不可聴音を計測した結果、意識的に知覚できない19Hz、厳密には18.98Hzだかの周波数が幽霊の錯覚を引き起こすらしいことが分かったみたいでね、そこから得られたデータや周波数もいずれは“アイ”や“気配玉”に搭載し――――』
「もういいよ!! どんだけずっと喋ってるんだよ!! 要点だけ簡潔にまとめてくれりゃいいんだよ、そういうのは!!!!」
淡々と早口で解説をし続ける神崎の言葉を遮り、真城は大声で抗議する。
今はそんな話を長々と聞いているわけにはいかないからだ。
「……まぁ、つまり。なんかよく分からないけれど、そこにいないはずの“気配”を作って誤認させるわけだ。その“気配玉”ってのは」
真城は辺りを確認する。
未だに白煙が包む中、そこかしこから複数の“気配”を感知する。
(くそ……ッ!! 偽の気配がバレたからって今度は気配だらけにして自分を隠す算段か!!)
これでは最早、“アイ”の気配を探るどころの話ではない。
二つの気配からの二択で、運任せに攻撃する。……といった手段も使えない。
……どうする?
……どうすればいい?
(…………、……ッ)
ふと、先程と同じような解決案が頭をよぎる。
――しかし、
(さっきと同じような手が、本当に通用するのか……? それくらいの対策は、向こうも用意してあるんじゃないのか? いやでも、だからこそ!?)
いくら考えても仕方がない。
本当にそんな手に、“アイ”が引っ掛かってくれるのか?
その確信が掴めない。……だが。
これで出来なかったなら、また別の案を考えればいいだけだ。
最悪、この白煙を一直線に突っ切って逃げるのも一つの手。
それで真城を追ってくるようならば、野武と霜山のいない側へと逃げていき、追手の“アイ”を振り切って、またここまで戻ってくればいいのである。
(よし、決めた!!)
真城はそっと決意する。
それと同時に、真城は“力”を発動する。
『――ッ、!?』
それは、眩い閃光。
周囲を包み込む白煙をかき消すが如く、真城を中心として展開していく。
『そんなんが!! 効くわけないでしょうがッッッ!!』
真城の突然の行動に驚く“アイ”。
しかしその真城の行動で、“アイ”の行動が制限される事は無い。
“アイ”の赤外線カメラ。サーモグラフィからしてみれば、突如真城を包み隠す様に赤や黄色く表示されただけかもしれない。
当然それだけでは、真城の現在地点を隠せない。
カメラの視野を潰す結果には至らない。
――が、しかし、だ。
“アイ”の声は聞こえてきた。
“アイ”自身のその声が、“アイ”の居場所を教えてくれる。
これこそが、真城の考えていた引っ掛けだった。
「そおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
『――!??』
「こおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
瞬時、全身の影を集約し左拳へと纏う。
瞬間、影を硬化させ作る、真城のとっておきの武器。
「だあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
振り抜く。
その瞬間に拳から伸びゆく影の塊。
通称、『ロケットパンチ』。
『きゃあああああああああああああああああああああ!!????』
ベキベキベキ!!!!
機械がひしゃげる音がする。
“アイ”の絶叫が木霊する。
『――あ、くぁ……ッッ』
ガシャンと何かの落ちる音を聞きとどけると同時、“煙玉”の効力が切れたのか白煙が晴れていく。
真城の眼前に、“アイ”の姿が露出する。
そこで見た光景は……。
右肩から先の腕が千切れ飛び、そんな千切れた肩口を左手で押さえてうずくまる、“アイ”の姿だった。




