第32話 『逆効果』
真城が“黒隠”を連れて、外へと向かって跳んでいく。
そんな姿を、桜井は捉えていた。
そして聞こえた、真城の声も。
しかし、それでも。
突然の真城の行動に納得が追いつかない。
視界を奪った強烈な閃光。その正体さえ分からない。
分かるのはただ、真城が“黒隠”を連れて出てく事。
それも何故か光る真城の右手。
そんな右手が触れた壁。その影の膜が、光から逃げる様に穴があく。
目の前には人質と供に倒れる“フェイズ3”の三人も。
……分からない事だらけである。
そんな中、桜井よりも早く事態を把握した大柄の影人は叫ぶ。
「……ッ、足立様!!」
瞬間、“瞬間移動”を使用する気配を察し、桜井が寸での所で身体を動かす。
警棒を振り下ろし、その先端に纏わせた影を鞭状にしてしならせる。
ブオン、という風を切る音と共に大柄の影人に攻撃する。
大柄の影人は視線を桜井に移すと、身体の影を硬化させて受け止める。
それでも攻撃をもろに受けていたが気にしない。
自身の持つ能力の一つである“再生”を使い、瞬時に傷を回復する。
「く……っ!!」
それだけでは無い。
桜井の事など意に返さず、開いた窓から出ようとする。
“黒箱”で覆った影が、再び穴を閉じようとはしているが、間に合わない。
(……どうする?)
桜井は素早く考える。
既に真城の勝手な行動で、“黒箱作戦”はボロボロだ。
修正だって不可能だ。
この件は、後でこってり叱る必要があるだろう。
……しかし幸い、事態は悪い方だけには向いていない。
少なくとも、人質は解放出来ている。
全員無傷で助かった。
……ならば今は問題ない。
今現状、問題となるもの。
それは再び“黒隠”と大柄の影人を接触させる事である。
大柄の影人の行動から分かる事。
それは、“黒隠”が連れていかれた直後には“瞬間移動”を使おうとしていたものの、桜井の攻撃を受けて以降、“瞬間移動”を使おうとしない事。
それはつまり、転移すべき対象。“黒隠”を目視出来なくなったという事だ。
だから“瞬間移動”を使わずに窓から出ようとするのだろう。
今の桜井の距離から、大柄の影人を止めるのは難しい。
“黒箱”の修復も間に合わない。
……で、あるならば。
桜井も共に外に出よう。
今出来るのはそれしかない。
「そこで倒れている一般人と影人達をお願い!!
私はあの“フェイズ4”を追いかける!!」
“影世界”にいる『影世界専門部隊』達へと指示を出し、桜井も大柄の影人を追って外に出る。
外に出ると同時、研究室を覆っていた影の壁に開いていた穴が塞がった。
『影世界専門部隊』の者達は、任務中外の世界へと出られない決まりとなっている。
唯一の例外は“黒箱”で囲った場所内での行動のみ。
倒れていた“フェイズ3”三体は『影世界専門部隊』でも、後は対処が可能だろう。
外に出て、桜井はすぐに大柄の影人の姿を捕らえる。
ざっと周りを確認するが、人目の気配は特にない。
これなら多少は問題ない。
桜井は警棒に影を纏う。
その影を鞭状にして、再び大柄の影人へ向けて振り下ろす。
大柄の影人はそれを察知し、身体の影を硬化させるが……桜井の目的は攻撃では無かった。
大柄の影人へと向かった影の鞭が、突如大柄の影人に当たる直前で軌道を変える。
桜井が影を操作し、大柄の影人の身体をぐるぐる巻きに拘束する。
何度も何度も、簡単に振り解かれない様に。
そうしてそのまま引っ張って、大柄の影人を連れて屋上へ。
影を使って足場を作り、九号館を昇ってく。
屋上への侵入は、生徒では行えない。
講師だって、用さえなければ来ないだろう。
(この影人は、屋上で私が食い止める!!)
タン、と勢いよく屋上へと着地する。
少しして、大柄の影人も引き上げる。
筋肉を膨張させた大柄の影人が、桜井の影の拘束を力技で振り解く。
しかしその都度、桜井は影を操作し巻き付ける。
拘束を解くのが無理だと察した大柄の影人が、桜井を見据える。
「……どうやら、お前から先に始末した方が……手っ取り早いようだな」
「うん。その通り。
だから私と戦おう?」
桜井は大柄の影人へと巻き付ける影の鞭を更に細く変化させ、その糸を警棒の先端から左腕へと移し替えると、今度は自由になった警棒をブンと大きく横に振る。
桜井と大柄の影人を繋ぐ影の糸。
それは無論、大柄の影人をここから逃がさない為のものである。
「勿論……勝つのは私だけれどね!」
~ ~ ~ ~ ~
「クソが!! 離せ!!」
必死に藻掻く“黒隠”を引きずったまま目的地にたどり着く。
真城は“黒隠”を手放すと、右手の光を押し付ける。
が、それを“黒隠”は寸での所で回避する。
光に当たればどうなるか。
それは先程の研究室で、“黒隠”も見ていたのだろう。
真城の“力”、光。
掌に収束させた攻撃は、確かに威力が高くなる。
油断をしている“フェイズ3”程度なら、当てただけで十分に影の分離が可能だろう。
ただその場合、効果範囲が狭くなるのが欠点だ。
光を収束したのなら、その効果範囲は掌のみに限られる。
ただ光を放出するならば効果範囲は広くなる……が、しかしそれだと影の分離に時間がかかる。
どちらも一長一短だ。
状況によって使い分け、最適な行動をしていこう。
ドスンと、“黒隠”が地面を殴りつけて怒りを表す。
「何故だ!! どうして、どうして、どうして、どうして!!!!
どうして俺の邪魔をする!!
お前らなんぞに、……俺の願いを邪魔する権利がどこにある!?」
何度も何度も。
地面を殴り、真城に向けて訴える。
しかしそれでも真城は、
「あるさ。
……“影狩り”はそういう組織だ。
俺の夢と同じ。人を助ける事が、仕事だから」
真っ直ぐと“黒隠”を見つめてそう告げる。
それは研究室での問答と、同じ様に。
「……助けるだと? あの男をか!?
あいつには助ける価値なんて何もねぇ!!
あいつは最低最悪の人間だ!! この俺に復讐されて当然の人間だ!!」
その瞳に闇を溜め。
少し呼吸を整えて。
「教えてやろうか?
あいつがどんな人間か。
そいつを知りゃあ、助ける気なんて失せるだろうぜ……?」
「…………、」
「あいつはな、俺の彼女を犯したんだ。
彼女の立場を利用して、写真まで使って脅してな。
自分の研究が上手くいかない事を言い訳に、己の性的欲求を満たす為、彼女の人生を滅茶苦茶にしてみせた。
挙句にそれを嬉々として話すんだ。まるで自慢話でもするように……。
考えられるか? お前なら。
そんな奴が息吸って、未だのうのうと生きてやがる。
許せるか? そんな奴」
「…………、」
「許せる訳ねぇよな? そんな吐しゃ物みてぇな存在を!!
だから俺が裁くんだ!! あいつの罪を!!
この俺が!! 復讐の名の下に!!」
沸々と湧き上がるどす黒い感情を溢れさせ、爆発する様に訴える。
そんな“黒隠”を見て、それでも……真城の意志は変わらない。
救済の意志は変化しない。
「確かに、その人は罪を犯したかもしれない。
でもそれをお前が裁いていい事じゃない。
……そんな結末では終わらせない。
栗枝教授は俺が助ける。
それが俺のすべき事。
その後で、お前の言う事が間違っていないなら……それは国に、社会に、人の手によって裁かせる」
「ぐぎ、ぎぎ……っ!!」
真城の言葉に納得など示さない。
溢れる怒りを増加させ、もはや話し合いなど不要とばかりに動き出す。
真城へ向かって一直線に、“黒隠”が襲い来る。
“黒隠”は納得が出来なかった。
しかし逆に、真城には理解出来たことがあった。
真城の知りたかった情報。
それは“黒隠”の本体、足立尊の過去の出来事だ。
人を救うなら、まずは何に困っているのか知らねばなるまい。
影人化を起こした人を救うなら、溜めたストレスの内容を知らねばなるまい。
それを知らない状態で、人を救えるわけがない。
真城は原田を救う事が出来なかった。
それは物理的な意味ではない。精神的な意味で、である。
真城を嫌う原田。そんな原田の本心を知り得なかった真城には、到底救うことの出来ないものであったのだ。
もし本心を知っていれば……別の道があったのではなかろうか?
本当の意味で救う事が出来たのではなかろうか?
そんな思いが拭えない。
後悔があったのだ。
失敗があったのだ。
だが今回はそうではない。
原田の失敗を活かして今度こそ、影人に捕らわれた本体を……心の面でも救いたい。
……足立尊を救いたい。
ただ影人を斃すだけでは意味がない。
真城も構える。
戦闘態勢を整える。
勢いよくぶつかり合う真城と“黒隠”。
そんな“黒隠”を真っ直ぐに見つめて、“黒隠”の中に眠る足立尊へ届くようにハッキリと、
「お前も救うぞ!! 必ず!!」
そう強く、宣言した。
……
ぶつかり合う真城と“黒隠”。その攻防。
“黒隠”が、身体に黒い影のモヤを纏わせて迫りくる。
それを迎え撃つのは、右手に“力”を収束させた真城の拳。
“力”を収束させる場所。
それは掌のみにとどまらない。
右手の範囲に限るなら、その場所は自由自在。
現状、右手の全てをとはいかないが……それもいずれは可能だろう。
しかし真城の拳が、“黒隠”の身体を穿つその瞬間。
“黒隠”の身体が変化する。
真城の拳を避ける様、拳が当たるはずだった箇所に穴があく。
一瞬真城は驚くが、今戦っている影人が“フェイズ4”であったのだと改める。
“フェイズ4”の影人は、人間の肉体が全て影と同化した実体無き存在だ。
故に、“形”が人間である事に決まりはない。
不定形。変幻自在。言わばアメーバの様なものである。
見た目が人であるからと、人型として捉えれば……足をすくわれるのだと理解する。
「……!?」
真城の拳をすり抜けて、眼前へと接近した“黒隠”。
そんな“黒隠”の放つ攻撃が、勢いに乗せて放たれた影の拳が、真城へと迫り来る。
「――ッ、ぐ……!!」
躱す余裕は既に無い。
真城は急ぎ影を纏うが、それでも硬化が間に合わない。
ゴスリと顔に一撃を受けて後退する。
あまりの痛みに顔が歪むが、それでも怯んでいる暇はない。
“黒隠”が続く二撃目を構えているのが目に留まる。
咄嗟に真城は“力”を収束からただの放出へと切り替えて、“黒隠”の追撃を阻害する。
「――ッ!?」
全方位、無差別に放たれた大量の光。
それを受け、“黒隠”は忌々し気に距離を取る。
初の“フェイズ4”との単独戦闘。
一度のミスでも命取り、そう考えて挑むべきだろう。
ここには桜井はいないのだ。
真城のミスをカバーしてくれる者は誰もいない。
桜広場の時の様、意識が混濁する事態には陥れない……。
とりあえず一つの危機から脱した真城。
安堵から短く溜息をつくと戦況の分析を試みる。
戦いは振り出しへと戻った。
真城と“黒隠”の立ち位置も、攻防の前と同じ場所。
しかし、得られた情報はデカいだろう。
それだけは、振り出しへは戻ってない。
得られた情報を整理する。
“黒隠”が、真城の“力”を避けている。
それは原田の時と同様だ。
研究室での一幕で、“フェイズ3”三体を仕留めた事もあるのだろうが、それを抜きにしてもこの光には嫌悪感があるのだろう。
“黒隠”の持つ能力について。
今回の攻防でも、“黒隠”は攻撃系の能力を使っては来なかった。
真城への意表を突いた攻撃であったにも関わらず、尚も拳のみだった。
この事から、やはり“黒隠”は攻撃系の能力を有してはいないのだろうと考える。
もしも持っていたのなら、……ここまで隠す必要も無いはずだ。
(……いけるか?)
油断はしない。
慢心など以ての外。
しかしそれでもこの状況。
大柄の影人と相対するよりは楽だろう。
後は真城の“力”が“フェイズ4”の“黒隠”に、どれほどの効果が見込めるか。
そして、どうすれば……足立尊を救えるか。
……ここは一つ、試してみるか。
これは人を救う為の第一歩。
やってみなければ分からない。
「……なぁお前。
復讐ってのは、そんなにしなくちゃなんねぇ事かよ?」
真城は“黒隠”を見て言い放つ。
「……なに?」
“黒隠”からはドスの利いた声が聞こえたが、それでも真城は気にしない。
「復讐が、そんなに必要な事なのかって言ってんだ!!」
「……、」
静観する“黒隠”に、真城は更に言葉を繋ぐ。
「復讐なんて必要ないだろ!!
そんなことよりやるべき事があるだろうが!!
彼女が男に犯されて悔しいのは分かる!!
それが強いストレスになった事も分かる!!
でも、それなら彼女の心のケアをしてやる方が大事だろ!!
いつまで影人に身体を乗っ取られているつもりなんだ!!
帰ってやれよ!!
彼女の下へ!!
それが一番大事だろ!!
彼女の望む事だろ!! 違うのか!?」
“黒隠”を直視して、その内の足立尊へと呼びかける。
もしかすると、真城の声は届かないかもしれない。
もしかすると、“黒隠”の精神に乗っ取られてる性質上、“黒隠”を弱らせてからの方がいいのかもしれない。
だがそれでも呼びかける。
足立尊を救う為、出来る事を少しずつ。
それがもしかすれば、足立尊の精神を呼び戻す切っ掛けになるかもしれないのだから。
真城の言葉を聞き取って、“黒隠”がどう出るか。
鬼が出るか蛇が出るか。
真城としてはそれが良い方に。
少なくとも、藪をつついて蛇を出すような事態にならない事を祈るばかりだ。
……しかし。
その瞬間、“黒隠”の放つ怒気の量が増した気がした。
肌に感じる空気の重さが、一段階増した気がした。
“黒隠”の身体がいびつに歪む。
そうして見えた“黒隠”の顔の変化を見て取って、……真城は今の言葉が逆効果であったのだと理解した。
突如“黒隠”の背中が勢いよく弾け飛ぶ。
それは細く、触手の様にうねりながら無数の影槍へと変化して、真城へ向かってつき進む。
「……ッ!?」
量が多い事に加えて、その速度さえも目で追えない。
真城の“力”で弾くことは不可能だ。
そう瞬時に判断し、大きく身体を回転させながら回避する。
足元に影を纏わして、それを操り回避距離を引き延ばす。
それでも真城を追尾し降り注ぐ影槍を、影で作った盾でなんとかガードし防ぎきる。
が、そこで攻撃は終わらない。
“黒隠”の両腕も、更に無数の影槍へと変化する。
「この……ッ!!」
四方八方。
縦横無尽に影槍が襲い来る。
(……回避が、間に合わない!!)
真城は咄嗟に“力”を発動し、光を全体に放出する。
が……、それでも影槍は光を物ともせずに向かってくる。
(……やっぱりか!! ……クソ!!)
真城のただ光を放出するだけの“力”では、影の攻撃を無効化するには至れない。
より正確に言うのなら、することは出来る。が……それには時間がかかるのだ。
それは影槍、或いは影鞭のように速度を付与された攻撃では、真城の光が当たっていてもその効果が適応し霧散するよりも早く真城の身体へと到達してしまうから。
迅速に相手の影攻撃を無効化し霧散させるなら、やはり右手で触れるのが一番だ。
光の放出は、確かに効果範囲は広くなる。
しかし一番“力”が発揮される右手から離れれば離れる程にその“力”は弱くなる。
即効性が薄くなる。……今回のように。
(……ぐ!!)
真城は必死に右手を振り回す。
バババチン!!
突如聞こえた叩き音。
それが……奇跡的に向かってきた影槍を叩き、いくつか同時に霧散させた音だと理解するや否や、その影槍の弾幕が消えた箇所へ向かい真城は素早く飛び込んだ。
真城自身の今の体勢など構わずに足元の影を操作して、……まるでロケットでも打ち上げるかのように自身の身体を発射する。
グンッ!! と一気に加速して、影槍の包囲網を突破する。
ズザザザザ―――――ッッッ!!!!
角度約四十度の鋭角さで吹っ飛んだ真城の身体は低く浅い弧をえがき、最後は地面を滑りながら着地する。
こんな事もあろうかと、着地する瞬間に何とか全身影纏いを終えていた。
おかげで擦り傷などは出来ていない。
が、とは言えど……視界のグラつき等は防げない。
フラフラとした足取りで、それでも素早く立ち上がると更なる攻撃を警戒する。
“黒隠”の影槍も、いまだに攻撃が収まらない。
瞬間、真城は“黒隠”の姿を捉えて驚く。
それは“黒隠”の身体全てが変化する、……その瞬間であったから。
まるで大量のイトミミズが別々の方向へと散らばっていく様に。
いくつもの糸が絡み合う事で出来ていた一つの塊が瞬時に解けていく様に。
“黒隠”の身体そのものが、全て影槍へと変わっていく。
(“フェイズ4”ってのはそんな事も出来るのかよ……ッ!?)
いくら人型である必要が無いとはいえ、ここまで出来るとは予想外。
これが“黒隠”固有のものなのか?
或いは大柄の影人もやろうと思えば出来たのか?
その答えを今知る由は無いが兎に角、攻撃を躱す事が優先だ。
再び襲い来る影槍を、真城は全力疾走で躱してく。
先程まで自身の足があった場所へと降り注ぐ影槍を背後に感じながら、それでも後ろを振り向く余裕はない。
今少しでも速度を落とせば足元から胴体へと、順々に穴が開くのは想像に難くない。
しかも考える事はそれだけにとどまらない。
自身に向かって伸びてくる影槍の動きを予想して、四方を囲まれない様に立ち回る。
時に周りの草木も利用するがその都度、影槍が実体を無くしてすり抜けてしまうので意味も無い。なので最後は結局自身の脚力のみが頼りとなる。
少しして、攻撃が当たらない事に痺れを切らしたのか、影槍の動きが変化する。
いくつもの影槍が真城への追尾を止めて旋回し、直接真城を狙うのではなく行く手を阻む為に動き出す。
突如、真城の目先の地面へといくつもの影槍が真上から突き刺さる。
そうしてその影槍は更に変化し混ざり合い、影の壁へと成り変わる。
「――!?」
急いで真城は回れ右。
九十度の方向転換に成功するが、それが“黒隠”の罠だった。
真城が方向を変えた先。
そこには既に、いくつもの影槍が刺さっていた。
そしてその影槍は、真城がその方向を向いた直後から怪しく蠢き変動する。
黒く丸い球体の様に変わった影槍の塊は次第に形を人に変え……“黒隠”の姿へと戻っていく。
真城は更に方向転換を試みるが……それより“黒隠”が速かった。
“黒隠”は瞬時に真城の懐に飛び込み、真城の首を捕まえる。
更に首を捉えた腕を伸ばして、真城の身体を後方へと押し運ぶ。
「――ごふっっ!?」
真城の身体が、遥か背後にあった木へと打ち付けられて止まる。
ギリギリと、真城の首を絞める力を強める“黒隠”に真城も抵抗を試みるが、“黒隠”がそれを許さない。
真城の四肢を影の触手で拘束し、両手で首を更に絞める。
「……彼女の下に帰れだと?
……それが彼女の望む事だと?
知った様な口を叩くんじゃねぇよ!!
あいつはなぁ!! もう死んでんだよ!!
忌々しい……あの男を庇ってなあ!!!!」




