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カゲビト  作者: 永眠布団
第二章 初任務

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第31話 『救済の意志』



 真城晴輝は焦っていた。


 その理由はこの任務。

 凪原大学にやって来てから、失敗の連続であった為。


 真城晴輝は焦っていた。


 人を助ける為に“影狩り”に入ったと言うのに、未だ一人とて満足に救えてない事に。


 真城が“灰”によってもたらされた“力”。

 それは特別なものだろう。

 人類が未だ成し得ない事をする事が出来る……唯一無二の“力”なのだから。


 ……にも関わらず、それを使えなければ意味も無い。

 物理的に“力”を使えない訳ではない。

 使おうとさえすれば、使う事は出来る。


 しかし。


『いいかい真城君。

 君の持つその“力”。

 「影と肉体を分離する」とされる“力”を任務中、絶対に使ってはいけないよ』


 そう、神崎に止められた。

 理由は責任の所在と有無について。

 そしてそれは、真城自身を守る為のものでもあった。


 真城自身、自分の保身についてはこれっぽっちも考えていない。

 唯一無二の“力”があるのだから、より多くの為に使うべきだと……そう思う。


 だけれども。

 目の前で頭を下げられ願われて、それが真城自身を守る事にも繋がると言われるのだから断りづらい。

 実際そこで真城は神崎の話を……条件を飲んでしまった。

 

 これでは宝の持ち腐れ。

 “いつか”は使える様になるとして、結局それは“いつか”の話でしかない。

 使いたい時。例えば今、使えなければ意味が無い。


 助けを求める人がいて、真城に向けて懇願していたとしても。

 いつか助ける事が出来るから、今は耐えてという他無い。


 ……そんなのはあんまりだ。


 今でなければ、助ける事が出来ない人だっていると言うのに。


 “力”の使い方だって、原田の頃よりマシになったつもりだと言うのに。



 ~   ~   ~   ~   ~



「なにぃ? “力”についての修行もしたい、……だぁ?」


 戦闘訓練の最終日。

 真城は頭を下げて一ノ瀬に頼み込んでいた。


 理由は勿論、自身の“力”について知る為に。


 執務室で神崎に言われた事。

 この“力”の出来る事と出来ない事、メリットとデメリットについて。

 真城なりに調べてみたいと思ったからだ。


 “力”の使用は神崎によって禁止されている。

 しかしそれでも、いざ使っていいとなって初めて、自身の能力について知り始めるのでは遅いと思ったからだ。

 使っていいと言われた時に、すぐにでも使える様にしておきたい。そう思ったからだ。



 原田との戦い。

 その中で真城は、“力”についてある不便さを感じていた。

 それは、“力”を使用している最中に光り続ける右手。その右手から出る光を何秒も当て続けなければならないという事。

 現状のままでは、まだまだ実用的ではない。実戦には使えない。


 燕尾服の男、“灰”。

 彼が言うには『その光を影にぶつければ、影に取り込まれた本体とを分離する事ができる』、との事。

 しかし実際真城に出来たのは右手を光らせる、それだけ。

 確かにその光で、影と本体を分離する事は出来ていた。だが、あれは果たして“光をぶつけた”と言えるのだろうか?

 仮にもし、この“力”に熟練度と呼べるものがあるのなら。

 今の真城の状態が或いは初期段階。“灰”の言う“光をぶつける”段階に、まだ至れていないだけだとするなら。

 ……もっと短時間で、影と本体を分離する事も可能なはずだ。


 現に“影操作”にも熟練度というものがあると聞いた。

 それはあくまでも文字通りに、それを行う事に慣れて手際が良くなるというだけの話ではあるのだが……そういった“慣れ”により出来る事が増えるという事もあるらしい。

 で、あるならば。


 “力”に慣れたい。

 熟練度を向上したい。

 出来る事を増やしたい。……そう思った。



 無言のまま腕を組む一ノ瀬に、何度も何度も懇願する。


 今この訓練場には二人しかいない。

 監視カメラなども存在しない。

 神崎の言っていた課題。一通りの戦闘技術は修得した。……そのつもり。

 ならば何も問題ない。そのはずだ。



 それから少しして。


「……お前という奴は」


 まるで苦虫でも噛み潰したかのように。


「……鍛えても“使う(・ ・)んじゃねぇ”ぞ」


 そう言って、一ノ瀬は真城の頼みを了承した。



~   ~   ~   ~   ~



 緊急事態のアラームが鳴った。


 それを聞いて、真城と桜井は急いで支度を整える。

 深い傷には薬を塗って包帯を。

 身体の痛みや頭痛の類は痛み止めの薬を飲んで対処する。

 それでも残る問題は……根性で。


 “呪いの桜”を守っていた“黒隠”。

 その理由を知る為に、桜を詳しく調べたかったが仕方がない。

 そうする時間が勿体ない。事態は今、緊急を要する。



 真城の焦りは、更に増した。



 移動は“影世界”を利用する。

 それにより一直線で目的地にたどり着く。


 目的地は凪原大学九号館。そこへ繋がる影の中。


 “影世界”から見える外の景色。

 それは少し奇妙なものである。


 “影世界”から外を見上げる事。

 それは海の中から空を見上げた時と同じような感覚だ。

 しかし、見える景色は寧ろ逆。

 空から水の中を覗き込んで見るような……そんな景色。


 綺麗な海やプールを想像してほしい。

 空から水面を覗き込めば、水の底にはうねうねとした模様。水の影が出来ている事だろう。

 そんなうねうねとした模様が、“影世界”から見た空である。


 うねうねと揺れ動く模様。

 その一つ一つには別々の外の景色が見えている。

 部屋を真横から見た景色。

 部屋を真下から見た景色。

 そういった見える方向もバラバラな景色達が、無理やり一つの平面に継ぎ接ぎされた様な。……そんな感覚さえ受ける光景だ。



 そんな景色達の中から、目当ての物を探し出す。……その最中。



 三人の男性から声をかけられた。

 何でも、真城達と同様に緊急事態アラームの知らせを読んで集まったとの事らしい。

 

 男達が纏うのは、軍服のような黒いコート。

 それは真城にも見覚えがあった。

 食堂で見かけ、桜井が“過激派”と述べた者達。……『影世界専門部隊』だ。

 真城達と同じくこの任務に参加して、“黒隠”が“影世界”を経由して逃亡する事を阻害する目的で待機していた部隊である。

 

 

 それから数分。

 これから行う“黒箱作戦”について一頻り説明を受けた後、真城達は目的の出口へ向かって進む。“影世界”を浮上する。


 “影世界”から見える外の世界。

 うねうねと揺らぐ景色の先で、“黒隠”の姿を視認する。



「――――ッ!?」



 真城が見た光景。

 それは前日に目撃し、大学のホームページでも確認した人物である栗枝教授。

 そしてそんな栗枝を机に押し付けた“黒隠”が、更に右腕を近づけて“何か”をしようとする姿だった。


 “何か”の意味は分からない。

 しかしそれでも、その行為について何かしら“嫌な予感”を覚えたのは確かだった。


――『それをさせてはならない』


 そんな言い知れぬ、ただ漠然とした危機感があった。

 ただ純粋に、助けねば。と……そう思った。



 浮上する速度を上げる。

 しかしそれでも間に合わない。


(何か!! 何か投擲する物を……!!)


 コツンと、腰に伸ばした手の先に固い物が触れた。

 それが携帯電話だと気づくと同時、ポケットからそれを取り出し投げつける。


 外の世界にいる“黒隠”。

 その、今まさに栗枝へ伸ばさんとする右手へと目掛けて。


 影を纏わした携帯が、速度を上げて突き進む。

 進むにつれて見えてくる軌道の誤り。そのズレを、影を使って修正する。



 バシン!!



 携帯が“黒隠”の右手に命中する。

 “黒隠”の思惑。その“何か”を阻害する。


 それを見てホッと胸を撫で下ろす。と、同時。

 真城と桜井は、“影世界”から飛び出した。


 真城と桜井が“影世界”から出た事を確認し、『影世界専門部隊』が例の機材を起動する。

 機材の生み出す影。そしてそれを操る隊員の影が、研究室全面を覆いきる。


 “影世界”の中から状況はある程度把握出来ていた。

 部屋の状態。影人の数。人質の存在。

 そしてだからこそ、真城と桜井は一つ作戦を立てていた。

 真城が携帯を投げたのはただの思い付き。

 これはそれとは別のもの。


 真城が“黒隠”を攻撃し、栗枝を開放すること。

 桜井が他の影人へ攻撃し、隙を見て出来る限りの人質を解放することであった。



 ……しかしそれは。


 ギンッ!! ガンッ!!

 と、……残念な事に影人達に阻まれる。阻まれてしまった。

 意表を突いた作戦ではあった。しかし、影人も影人でそれを警戒していたのだろうから仕方がない。

 元々成功率は高くなかった。

 出来ればいい。そんな程度ではあったのだ。



 しかしいざ失敗をしてみて……。

 もっといい計画を思いついていたのなら。

 そう考えるのを止められない。



 人質の存在。

 “影世界”からでも確認はしていたが、いざ目の前でハッキリとその存在を認識し……。


 真城の焦りが、更に更に高まっていくのを感じた。

 そんな感覚、気配があった。



 今いる人質達。

 一般人が危機に見舞われている現状。


 その全ては、真城の失敗が生んだ結果に他ならない。


 どんな理由があったにせよ。

 真城は、女の影人を斃す事を躊躇した。

 その結果……逃げられた。


 桜広場でもそうだ。

 何処か。心の何処かに、まだ迷いがあったのだ。

 だからこそ、仕留めきる事が出来なかった。

 桜井があれだけ協力し、道を作ってくれたのに。……真城はその行為に報いる事が出来なかった。

 結局真城は、同じ失敗を繰り返し……再び影人に逃げられた。


 それだけじゃない。

 “黒隠”と大柄の影人が逃げられた理由。

 それは女の影人の助けがあったから。

 真城が躊躇し、斃し損ねた女の影人の存在が、影人達の逃亡に一役買ったのだ。

 あの時確実に、真城が斃していたのなら……こんな結果にはならなかったはずなのだ。


 ……そうして、そんな真城の失敗のツケが今度は一般人をも苦しめる。


 真城が逃がした女の影人。

 そしてそんな女の影人によって助かった“黒隠”と大柄の影人。

 そうして助かった“黒隠”と大柄の影人が、今度は他の影人達まで引き連れて……。



 全てが真城の所為。

 全てが真城のしでかした失敗の積み重ね。

 全て……真城が“迷っていた”が為の結果である。


 迷った為に失敗し、助けるどころか被害を増やす。……最悪じゃないか。

 真城晴輝という男は……。




 ……だったらもう迷わない。


 同じ失敗は繰り返さない。


 覚悟を決めて、突き進む。




 そうして。

 真城は拳を強く握りこむ。



……


…… ……



「こいつへの要件が済めば終わる。

 人質も、この男も解放してやる。殺しはしない。

 ……悪い条件じゃないはずだ。


 ここは引けよ。“影狩り”」



 “黒隠”がそう告げる。




 ……もしかすると“黒隠”の言う通りにするべきなのかもしれない。

 栗枝教授をただ一人差し出せば、それで丸く収まるのかもしれない。


 “黒隠”が、何をしたいのかは分からない。

 しかし、少なくとも栗枝を「殺さない」と言っている。

 であるならば、それさえ飲めば……。

 人質の解放。

 それが、何の問題も無く可能となる事だろう。



 ……しかし。

 本当にそれで良いのだろうか?


 そんな“妥協”を、真城晴輝は許せるのだろうか?


 ……いや。

 許せる訳がない。


 真城の夢は『人を救う事』。『助けを求めている人間を助ける事』。


 それは今、人質となっている学生達。

 そして“黒隠”に捕まる栗枝教授を、ちゃんと無傷で救う事。


 その夢の為に……真城は影人達と対峙する。


 今この場にいる五人の影人。

 それら全てを撃破すれば終了だ。

 人質達を、……救う事が可能となる。




 ……だが。

 本当にそれで許せるか?

 

 それではまだ、“妥協”をしているというのに……?


 ……いいや、許せない。


 『人を救う事』。

 『助けを求めている人間を助ける事』。

 

 その助ける対象には、当然影人となった人々さえも含まれる。

 “フェイズ3”以上へと成長し、救う事が出来ないとされる者達だって同様だ。


 でなければ、……この“力”を手に入れた意味が無い!!


 今この部屋にいる全ての人物。

 助けを欲する全ての者達を、真城晴輝は救ってみせる!!


 ……救わねばならない!!


 “命”を!! 必ず!!




 真城は口を開く。

 “黒隠”を見つめて言い放つ。



「例えどんな理由であってもだ。

 その栗枝って人が俺の保護対象なのは変わらない。

 俺の“助ける”対象である事に違いはない。


 ……これ以上、お前の好き勝手にはさせない!!」



……



 真城の瞳に宿った覚悟。

 その反撃の兆候を、影人達は見逃さなかった。


 人質の拘束を強めると、『いつでも攻撃が出来るぞ』と威嚇する。

 真城へと、見せつける。


 もしこれ以上近づけば。

 何かをする為動くなら。



 ……人質を殺してく!!




 一瞬の膠着があった。


 そして次の瞬間、――――眩い光が視界を焼き尽くした。



……



 真城の頭にふと、過るものがあった。


 神崎との約束。一ノ瀬との約束。

 それを破ってしまう事への罪悪感の様なものがあった。


 しかしそれでも、真城は使う事を躊躇わない。


 この“力”は、使う為に存在する。

 使わなければ意味が無い。


 神崎は言っていた。

 責任の所在と有無。その全てを真城個人に背負わせない為のルールが必要なんだとか。

 ……だが、真城はそんなものを必要だとは思わない。


 神崎の懸念材料。影人化の後遺症。

 そしてそれに伴う命の問答……。


 確かに、目が見えなくなるのは辛いだろう。

 手が使えなくなるのは不便だろう。脚だって同様だ。


 だけれど真城はこう思う。


 それでも。

 “生きて”さえいれば、“命”さえあれば、いずれ『良かった』と思える日が来るはずだ。

 もしも死んでいたのなら、それに対し良かったか否かを悩む事すら許されない。

 思う事、考える機会さえ貰えない。


 だから真城は救うのだ。そんな命を守る為に。

 いつかくる『生きていて良かった』があると信じて……。



 上が、本部が、神崎が。

 原田の結果だけで足りぬなら、その結果をもっと増やしてやればいい。

 どの道“力”を使わねば、メリットもデメリットも分かるまい。


 真城の歩む救済の道の果てに、例え大きな過ちが起きようと……全てを受け入れ進んでく。それら過ちさえも糧にして……。


 より多くの人間を救う為。


 真城の手で救済する。その為に。



……

 

 

 真城は右手に力を込める。

 真城は右手に“力”を込める。


 それは一瞬の事。


 今までの真城は、思いの力をより多く籠める事によって光の大きさに強弱を付けていた。

 そしてそれは実際、誤りでは無かった。

 しかしただ一つ。光の強弱にはラグがあり、より明るく光らせる為にはそれだけ長い時間を必要とするという欠点があった。


 真城はそれを、不便に感じていた。


 だから真城は“力”の使い方を訓練した。

 より短い時間でも、“力”を効率よく引き出せる様にと一ノ瀬に頼み込んだ。



 結果から言うと、それは功を奏した。

 思っていたよりも順調に、“力”の扱いに慣れる事が出来た。

 原田の時よりも格段に、“力”について理解を深める事が出来た。そう思う。



 そして“これ”がその成果。



 真城は一気に“力”を発動する。

 眩い程の輝きを、一瞬で放出する。


 カッと、まるで閃光弾でも使った様に。

 視界を奪う程に大量の光が炸裂する。



「――ッ!??」



 影人達はその一瞬の出来事により目を覆う。

 それでも視界がチカチカし、辺りの様子を窺い知ることが叶わない。

 突然の出来事に狼狽える。


 当然だ。

 突如真城の右手が光り出すなど。

 予備動作も無く起こるなど……想定の範囲外。


 そしてそれは桜井も同様だった。

 真城の“力”を知らされていないのだから仕方ない。

 事前に説明することも出来なかったのだから仕方がない。

 ……そこについては真城も申し訳なく思う。

 まさか桜井も仲間から被害を受けるなど、思ってもいなかった事だろう……。


 真城は当然問題ない。

 自身が光を放つ直後、真城はしっかりと目を瞑っていたからだ。



 真城は影人達が体勢を整える前にと、影人達の集まる方へと向かって走り出す。

 

 距離を詰めて放つ二撃目。

 それは先程のただ光を放つ技とはまた違う。

 全方向へと向けてただ放出していただけの光を、今度は手のひらに止めて溜め込むイメージで、“力”の加減を操作する。


 すると……。

 今度は右の掌だけが、白く眩く発光する様に変化する。

 これもまた戦闘訓練の最終日、一ノ瀬と共に訓練した成果である。


 真城はその掌を、眼前に居た人質を取る影人達に押し付ける。

 勢いよく。人間の肉体から影を押し出すかのように。

 一度。二度。三度と、“フェイズ3”の影人三体へと当てていく。



 それと同時に。



「ぐ、があああああーー……ッ!!!?」


 影人達の悲鳴が上がった。

 身体の隅々を震わせて、その人間の肉体からズルズルと人型の影が分離する。


 真城はその影を、左手の手刀に纏わせた影の一振りでまとめて切り裂く。

 躊躇などはしなかった。

 覚悟は既に出来ている。


 ブチブチと嫌な音を立てながら、影の身体を一方的に狩り尽す。


 影人の呻く声が再び聞こえた。

 しかし真城は気にしない。

 霧散して消える影人の存在を見届けて、抱えた人質と共に倒れ込む影人化の被害者達を確認し……、今度は“黒隠”へと向けて手を伸ばす。



「……この……ッ!!」


 視界が回復して目を開けた“黒隠”と目が合う。

 だがそれも、真城は気にしない。


 “黒隠”の胸倉を左手で捕まえると、その勢いで人質の栗枝と“黒隠”を引き剥がす。

 更に足元に影を纏わせ、自身の身体を押し上げる。

 特大のジャンプ。

 それにより、真城は“黒隠”と共に宙を舞う。


 右手の“力”を再び起動して、“黒隠”が立っていた後ろの壁。そこを覆う影の壁へと押し付ける。


 パンッ、という音が鳴り影の壁の一部に穴があく。


 真城の目的。

 それは“黒隠”の居た後ろの壁にあった窓。

 何故か開いていたその窓が、真城の目当てのものだった。


 真城はその開いた窓から外へ出る。

 “黒隠”を連れたまま。


 これ以上、“黒隠”を復讐対象の栗枝の近くに置いておくことは出来ない。

 もしかしたら最後っ屁。死に物狂いで事に及ぶ可能性だって拭えない。


 折角『影世界専門部隊』が張ってくれた“黒箱”から出てしまうのは勿体ない。

 迷惑だってかけるかもしれない。


 だけど、それでも、真城はそこでは戦えない。

 こんな狭い部屋の中で戦えば、どの道人質にだって被害が出かねない。


 元々の作戦では、影人達を“黒箱”に閉じ込めた後“影世界”へと引きずりこむ算段ではあったはずだが……。

 それだって、こうも狭い部屋の中では不測の事態も起きかねない。


 要はこの戦いが一般人に見られなければ良い話。

 それなら丁度良い場所がこの付近に存在する。


 元々この九号館の建物は、草木といった植物に囲まれた場所なのだ。

 九号館の両隣には、一定の距離を空けた八号館と十号館が存在するが、その裏手には生い茂る植物と、この凪原大学と外を区切る為の高いコンクリートの塀しかない。


 それが原因か、将又別の理由があるのかは定かではないが横並びの八号館、九号館、十号館の裏手側には窓が少ない作りとなっており、加えて校内の人物もその景色を知っている為外を見ない。

 裏手側の窓に用があるとするならば、精々換気する時ぐらいだろう。


 故に、そこは戦闘に打って付けの場所だと言える。


 そもそも真城は、今回の戦闘に時間をかけるつもりは毛頭ない。

 “力”を解禁したわけだ。

 運さえよければ一瞬で……片を付ける事が出来るだろう。


 真城の目的は“黒隠”と栗枝を一定間隔で切り離し、安全に撃破する事。

 それさえ済めば、後は戻って大柄の影人と対峙する。その算段。



 桜井を含め、『影世界専門部隊』の人達には迷惑をかける。

 勝手な行動をしてすまないとも思う。


 だけど。それでも。

 真城が“影狩り”に入った目的を、違える事はしたくない。

 皆を救う。真城の手で。



 真城が窓を蹴り、外へと飛び出すその一瞬。

 未だ部屋の中にいる桜井に向けて声を出し、



「桜井さんはそっちの“フェイズ4”を押さえておいてください!!


 “黒隠”は、俺が先に斃してきます!!」



 そうして、外へ向かって跳んでいった。



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