第30話 『絶望の花』
専用端末からアラームが鳴り響く。
それも真城と桜井、二人同時に。
「……ん? この音って確か」
「緊急事態の連絡!?」
初めて聞く音に、一瞬事態の把握が遅れた真城。
しかしそれに対して桜井は、音の意味を察して驚く。
今現在鳴ったこの音は、桜井の言う様に“緊急事態”を告げるもの。
“影狩り”にはいくつかの部隊が存在している。
それは例えば『戦闘部隊』。真城や桜井の所属する部隊である。
その中で、このアラームを鳴らす権限を持った部隊も存在する。
それが『支援部隊』なのである。
『支援部隊』の主な仕事。
それは任務中のその他部隊を、文字通り“支援”する事。
今真城達が行っている任務。
それは何も真城や桜井、そして一ノ瀬だけのものではない。
一つの任務に対して、『戦闘部隊』から数名と『支援部隊』数名はセットなのだ。
加えて、任務内容によっては『影世界専門部隊』も参加するし、その任務が終われば『収拾部隊』が駆け付ける。
“影狩り”の任務とは、様々な部隊の活躍によって成り立っているわけである。
当然今回の任務も『支援部隊』は参加している。
そんな『支援部隊』から送られてきたアラームが、“緊急事態”を示すものだった。
……というわけだ。
『支援部隊』はこの任務中、あらゆる方法を駆使して凪原町と凪原大学を監視している。
方法はまぁ色々あるのだがとりあえず……その方法があるおかげで、現地で行動する『戦闘部隊』よりも広い視野を持てているというわけだ。
実際今回の任務でも、真城達は何度か助けられている。
“影無し”の男。栗枝環樹教授の情報や、“呪いの桜”といった噂話まで、情報を整理して端末に送ってくれていたのは彼らだし、女の影人に接触した際に戦闘場所に適している場所として体育館を候補に挙げてくれたのも彼らである。
馬鹿にできない程の縁の下の力持ち。
それこそが『支援部隊』なのである。
そんな『支援部隊』が鳴らしたアラームだ。
きっと真城達が桜広場で傷の手当をしている間も、逃げた影人達の行方を探していたのだろう。
そして、彼らは見つけたのだ。……逃げた影人達の存在を。
そしてそれは、真城達にアラームを鳴らしてまで伝えたい程の緊急事態という事だ。
“影狩り”にとっての緊急事態など、数え切る程しかない。
『このまま放っておけば、“影狩り”や影人の存在が世間に露呈する可能性』があると、……そう判断したのだろう。
桜井は急いで専用端末を取り出すと、アラームを切って画面を確認する。
端末に届いていた内容。それは……、
『“黒隠”と、他四体の影人を補足しました。
凄い速さで凪原大学、九号館へと向かっています。
直ちに急行してください!!』
~ ~ ~ ~ ~
「なんだね君達は!?」
九号館。
その中の一室で、一人の男性の声が響いた。
その場所は勿論、栗枝環樹の研究室。
声を上げたのも栗枝である。
五人の影人達。
年齢は幅広く、一番上が三十代。一番若くて十代だ。
もしここが、小中学校。或いは高校であったなら、その見た目の違和感から騒ぎが起こる事もあっただろう。
しかしここは大学だ。
共通の制服やカバンがある訳でもない。
通う人物の年齢に制限がある訳でもない。
そんな場所であったからこそ、影人達が研究室に着くまでに騒ぎが起こる事も無かったのである。
それはある種、影人達にとっても都合のいい事。
そしてそれは、影人の存在を隠したい“影狩り”達にとっても、不幸中の幸いであったと言えるだろう。
しかし、研究室にいきなりやって来た見慣れぬ人物達を前に、部屋の中は騒めく。
今は九時過ぎ。夏季休暇とはいえど、栗枝の他にも三名の学生がその部屋を利用していた。
彼ら学生は皆四年。
卒業論文を書き上げている真っ最中の事だった。
“黒隠”が最後に研究室内に入ると、栗枝の存在を確認して扉を閉める。
更にガチャリと、ドアノブに付けられたつまみを回して鍵も閉める。
ここは三階。
窓から飛び降りるような危険な行為に走らない限りは、この部屋から出る方法など一つだけ。
その入り口を閉めてしまえば、もう誰もこの部屋からは逃げられない。
“黒隠”はクイっと首を動かし合図を送り、それに頷いた残りの影人は瞬く間に部屋にいた学生達を制圧する。
誰一人、抵抗も出来ぬまま。
「殺しますか?」
大柄の影人。安部が“黒隠”に向けて質問する。
「……いや。
まだまだ時間を稼ぎたい。
あの男に、ただ不幸を撒いて終わりでは……俺の気が治まらない。
そいつらはすぐにでもやって来るであろう“影狩り”に、人質として使えばいい。
良い肉盾にもなるだろう。
ただし騒がれても面倒だ。意識ぐらいは奪っとけ」
「了解」
瞬間。
意識を刈り取られた学生達が床に転がる。
それを見て、更に大きく顔を引きつらせる栗枝。
自身の危険を察したのだろう。
栗枝は急ぎ、身体を反転させると後ろにあった窓を全開にする。
「だれ――――ッッ、んぐぅ!!??」
“誰か助けてくれ”。
栗枝が大声でそう外に助けを求めようとした刹那。
それを悟った“黒隠”が距離を詰め、栗枝の口を塞ぐ。
次いで栗枝を窓から引き離すようにして、力任せに栗枝自身の机へと顔を押し付けた。
“黒隠”が、栗枝の頭に触れた……次の瞬間。
「――――ッ!?」
栗枝の身体が、一度大きく脈打った。
今まで“黒隠”を見ていた栗枝の表情が打って変る。
瞳に宿していた困惑の色。
それは言わば、見慣れぬ不審者に対し警戒するようなものだった。
しかしその色が、まるで幽霊でも見たような。
信じられぬものを見たような。……そんな表情へと切り替わる。
「……思い出したか? 俺の事」
「あ、足立……、尊……っ!」
「なら、分かるよな?
どうして俺がやってきたか、が」
栗枝の表情が、真っ青になっていく。
「ま……待ってくれ!!
確かに俺はあの女に色々したが……、別にそれしかやってない!!
あの女が今何処にいるか、……それは俺も知らねぇんだ!! だから……!!」
栗枝の言葉を聞き、“黒隠”は合点がいく。
この男が一体何を話しているのかを一時理解出来てなかったが、「そういやそうだった」と思い直す。
この男。栗枝は、靖田優沙が現在行方不明である事に対し弁解を述べている。行方不明に対して自分は関与してないと、そう言っているのだと。
確かにこの男は靖田優沙が息を引き取る際、既に気を失っていた。
彼女の腹にハサミが刺さる所さえ、この男は見てはいない。
きっとこの男は、“黒隠”が勘違いしているのだと、そう思っているのだろう。
何らかの理由で靖田優沙が消えたから。
靖田優沙と関係のあった栗枝が、靖田優沙の行方不明に関与していると足立が疑っているのだと。……きっとそんな感じだろう。
そしてだからこそ、行方不明になった靖田優沙とは関係ない。そう弁解し誤解を解けば助かると、……そう思っているのだろう。
……そんな訳がないだろう?
確かに、この男が靖田優沙を殺したわけでは無い。
行方不明の理由さえ、この男はあずかり知らない。
……だがそれが何だという?
殺してないから関係ない?
そんな虫のいい話。ある訳がないだろう?
「何を言ってるんだお前は?
お前は彼女に手を出した。ただそれだけで十分だ」
逃げようと藻掻く栗枝の身体を机へと、再度強く押し付ける。
ギリギリと首と胸を圧迫され、荒く呼吸を繰り返す栗枝。
「ま、待ってくれ……っ!!
どうかしてたんだ……!! あの時は……!!」
まるで懇願でもするかの様に。
「研究が上手くいかなかったんだ!!
ストレスが溜まってて!! それで……!!」
何度も言い訳を繰り返す。
だが“黒隠”は知っている。
その言葉が本当に、ただの言い訳である事を。
研究が上手くいかなかったから?
ストレスが溜まっていたからだ?
いいや、違う。
お前はそんなことが無くっても、そうする人間ではないか。
「頼む!! 俺はもうあの時とは違うんだ……!!
妻もいる!! ……娘だって!! だから!!」
大粒の涙を溜めて、栗枝は訴える。
しかしそんな栗枝の言葉を聞いて、“黒隠”の口元が……三日月の様に歪んで笑う。
「なぁ?
俺がもし、他人の“記憶”と“運気”を操れる。……そう言ったら信じるか?」
「……い、一体、何を言って」
「お前はさ。今の今まで、……この状況になるまでさ。
……どうして俺と彼女の事を忘れていたと思う?」
栗枝の瞳が、僅かに見開く。
「都合よく俺や彼女の存在を忘れて、この四年。
お前、……妙に運が良かったと、そう思わないか?」
「そんな事、……信じられるわけが!!」
「信じる信じないは勝手だが……。
お前の四年の人生で手に入れた幸福は、全部俺のおかげだよ。
研究の成果が実ったのも、お前に妻と子供が出来たのも、全ての悪事が都合よく表に出ないのも……全て」
「んな事をして、お前に何の得があるって……」
「お前により多くの絶望を望むから。
人の人生壊すなら……本人潰すより先に、大切な人を害せばいい。
人の積み上げてきたものを、踏みにじってやればいい。
そいつの今が幸福であればあるだけ、失うものはでかくなる。
……全ては、その為よ。
楽しかったろ? 四年間、幸せだっただろ? ……だから、もう十分だろ?」
栗枝の背筋に伝わる破滅の感覚。
得体の知れない悪寒が渦巻き、身体の中を駆け巡る。
「これからお前には、何十人という人間の不幸を注ぎ込む!!
簡単に死んでくれるなよ?
絶望し、泣き叫び、懺悔しろ!!
産まれてきた事を後悔する程に、お前の人生が崩れ行く様を俺に見せてくれ!!」
栗枝の人生を破壊する。
絶望のどん底へと突き落とす。
殺すなんて生温い。
この世のあらゆる悪意を身に受けて、そして最後に消え失せろ。
“黒隠”が右手にはめた指輪。
『不運エネルギー』が満ちた指輪を押し付けて、その全てを譲渡する。
これからお前が咲かすのは、綺麗な桜の花じゃない。
混沌としていて禍々しい……絶望の花。
「これでお前の人生もめちゃくちゃだ!!」
バシン!!
……そんな“黒隠”の雄叫びが、急な何かに阻まれた。
栗枝を押さえ付け、今まさに『不運エネルギー』を譲渡すべく伸ばされたその腕が弾かれる。これは……。
(携帯……!?)
見ればただの携帯端末。
しかもそれには影纏いがされており、更に携帯端末から伸びる影の糸が、研究室内に出来た影の中へと続いていた。
何者かが投げた携帯端末。
それが腕へとぶつかって、“黒隠”の思惑が阻害されたわけである。
「……ッ、来たか!!
構えろお前ら!!」
“黒隠”が告げる。
同時。
影から二つの人影が飛び出した。
そしてその人影が飛んだ後、研究室の全面を覆うべく大量の影がなだれ込む。
ギンッ!! ガンッ!!
と、短く小さな音がなり、その攻防が終息すると現れた人影へと目を向ける。
真城と桜井。……それは、“黒隠”が予想した通りの面子だった。
投げられた携帯端末へと繋がった影の糸。
それは真城へと繋がっていることも見て取れた。
一瞬の攻防。
その一つが“黒隠”へと向かい、それを大柄の影人、安部がガードした事。
その一つが、捕縛した人質へと向かい、それを女の影人、松田が阻んだ事。
“黒隠”がやろうとした事以外、大方予想の範疇だ。
しかし。
「……なるほどな。
“影狩り”はこういう事もするんだな」
研究室。その四方の壁から床、天井に至るまでの全面を影でコーティングされた事態を見て取って、“黒隠”はそう呟いた。
影人という存在が世間に認知されない様、人知れず影人を屠り去る秘密結社。
その存在は、“黒点”の奴から聞いていた。
だからこそ、あまり目立つ動きは避けろとも……。
しかしここまでやるとは……。
人の多い日中。更には大学の校舎内。
その中で暴れればどうなるか?
“黒隠”とて、気にならなかった訳ではない。
計画に支障が出ないなら。……そう考えた事も無くはない。
実際、“黒隠”は最後の行動。
もう後がないからと強行した行いで、自身の計画が失敗に終わろうものならば、“影狩り”と影人双方に被害を与えてやるのも悪くない。そんな考えも、確かに頭に過っていた。
だが……。
「えぇ。
こんな一般人の多い中で暴れられても困るからね!」
なんとか間に合った。
そういった表情で、汗を拭う桜井がそう答えた。
部屋の全面を覆う影。
それは“影狩り”の最終手段。その一つ。
影人の居る部屋そのものを影の壁で覆い、閉じ込める。
影人との戦闘。
それはどれをとっても、思惑通りに事が進まないものである。
“影狩り”に“影世界”へと引きずり込めないように立ち回る。
そういった動きをする影人も少なくない。
影人の中には、人目をはばからず暴れようとする者。
普段は“影狩り”に気付かれない様に目立たず潜伏をしていても、“影狩り”に見つかったと知った途端、全てを諦め暴れ出す……そんな影人も少なくない。
……今回の“黒隠”の行動を除いても。
なので当然、“影狩り”は対策を講じている。
原理は単純。
“影世界”に潜ませた数人の“影狩り”が、影を使って部屋の表面を影で包む。
その部屋のみを影で隔離し閉じ込める。それだけ。
硬化させた影の障壁で逃げようとする影人を、戦闘中の光景を、戦闘で出る音の全てを外部へと漏らさない為の閉鎖空間を作るもの。
それこそがこの作戦。“黒箱作戦”と名付けられたものである。
本来、操作中の“影”を一般人が認識することは出来ない。
影が無くなっていようとも。
影が動いていようとも。
影が欠けていようとも。
ただ当たり前の様に、本来ある足元にいつも通りで“普通”の影があるとしか認識できない。
“影耐性”が無いのなら。
……ただ一つ。唯一の例外を除いて。
影人の“フェイズ2”。
それはかなり異質な状態の影といっても過言じゃない。
何故ならその状態は“影耐性”の無い一般人が唯一その存在を認識し、剰え“それ”を人間だと誤認する。そんな状態である為だ。
しかもそれだけでは無い。そんな“フェイズ2”の外見。服装という部分にも注目したい。
人には人の影がある。
衣服には衣服の影がある。
それは当然の事である。
……であるならば、実体化し他の人間に認識されるようになった“フェイズ2”の影人は、全裸であって然るべきだ。
一糸まとわぬ人間の影が、実体化したわけだから。
しかし実際はそうではない。
“ドッペルゲンガー”と言われる状態。原田がそうであった一件から鑑みても“原田と瓜二つの人物”を見た、話したという者はいても、“全裸の原田”を見たという者はいなかった。
それはつまり、“フェイズ2”の影人をただ人間だと誤認しただけに留まらず、いつもよく目にするような“服を着た原田”と誤認していたという事になる。
影人は、肉体を手に入れて“フェイズ3”にならなければ他の物に触れない。
つまり衣服に触れ、衣服を着るという事がまず出来ないのだ。
……では何故、そういった事が起こるのか?
その答えは、言って見れば単純だ。
影の変化を“影耐性”を持たない人間が認識出来ないのと同じ事。
人間の脳が騙されているからだ。
影が消える。影が動く。影が欠ける。
そんな事実は“ありえない”から認識しない。認識出来ない。
実体化した影の存在を感じとり、それが人間だと誤認する。
人間の脳が“そこに人間がいる”と誤認したのなら、そこに人は見えてくる。
見えてきたら、その人物が全裸なのは“ありえない”から服を着ていると認識する。
人間が“そう”感じているだけ。
脳が“そう”だと錯覚しているだけ。
”当たり前”だと思う風景を“そう”だと認識する。それだけだ。
人間の脳とは、思いの外信用が出来ぬものである。
人間の五感や六感、潜在意識に割り込んで認識を撹乱する。
そのような事が、“影”には可能なのである。
まぁ、それを意識して使用できるかと言われれば話は変わってくるのだが……。
とはいえ、それを可能にする機材を作り出す事に成功した一種の天才。神崎拓富のお陰で生み出された秘匿隔離装置“黒箱”。そしてそれを用いた“黒箱作戦”が実用的なものとなったわけである。
現状小型化は難しく、外の世界での持ち歩きは出来ないが“影世界”なら話は別だ。
今回の任務。“影世界”に待機させた『影世界専門部隊』には、それぞれ“黒箱作戦”を行う為の機材を持たせていたのである。……要は作戦勝ちだ。
その機材を使い、部屋を包む影にある変化を意図的に起こさせる。
それは先程言った様に、“人間の脳を撹乱し認識を誤認させる効果”を付与するという事。
それにより、万が一部屋の内部を外から覗く人間が現れても、その部屋には何の異常も無い部屋だと思わせる。人の居ない、只の空き部屋だと誤認させる。
部屋の隙間や窓といった箇所を対象にした、ある種の光学迷彩の様な機能となる。
……そんな機能がある事を“黒隠”は理解していない。
ただ単純に影人を逃がさない為の檻だろうと、そう“黒隠”は考えていた。
そしてそれは間違いではなかった。寧ろ“黒隠”側からすれば正解だろう。
外への配慮。光学迷彩機能など、“黒隠”からすれば関係ない事である。
コツコツと、靴のつま先で床を打つ。
つま先から伝わる感触、感覚を確認し、
(ふむ……、かなりの強度がありそうだ。
目視出来る限り、影の分厚さは五ミリ弱といっただろうか。……面倒な)
研究室全面を覆う影について確かめる。
運気の譲渡を阻害されたとはいえ問題ない。
それ自体はいくらでもやり直せる。ただ、指輪に溜めた運気。『不運エネルギー』を全て譲渡する為には少しばかりの時間がかかる。
“影狩り”が“黒隠”の目的について知っているとも思えないが、しかしそれでも現状から察する事態、栗枝教授が捕まっている現場を確認し助けない理由も無いだろう。
栗枝が“黒隠”から離れれば、運の譲渡を行えない。
今ここで栗枝の拘束を邪魔されるわけにはいかない。
“黒隠”は他の影人に目配せし、それを受けた影人らが人質の生徒を連れて動く。
“黒隠”の周囲を守る様に、一般の生徒三人を盾にして。
元々この為に三人を確保したのだ。有効に利用しない手などありはしない。
そして更に一言。
“影狩り”達にこう告げる。
「それ以上動くな!! “影狩り”共!!
それ以上動けば無関係な一般市民が犠牲になるぞ!!」
“黒隠”を守る布陣。
それが完成する前に突っ込もうとしていた真城と桜井の動きが止まる。
「前に言ったな!!
俺には復讐したい男がいると!!
それがこいつ。栗枝だ!!」
“黒隠”は机に押し付ける形で拘束していた栗枝を自身へと引き寄せる。
栗枝の両腕を左手で捕らえるとそのまま後ろ手に縛り上げる。
更に右腕を使って栗枝の首を絞めつける。
まるで人間とは思えない程の強い力で首を絞められた栗枝は声にならない声を出して藻掻き苦しむ。
そんな男の光景を真城と桜井に見せつけて、
「こいつへの要件が済めば終わる。
人質も、この男も解放してやる。殺しはしない。
……悪い条件じゃないはずだ。
ここは引けよ。“影狩り”」
目の前の二人。真城と桜井へ。
或いは未だ“影世界”に潜んでいる“影狩り”達へと、訴える。
長年の夢が成就するまで後少し。
もう一歩なのである。
これ以上、邪魔させない。
俺の無念を踏みにじらせない。
こんな男を、これ以上好きには生かさない。
“俺達”の復讐劇。
……それなのに。
未だに瞳の輝きを失わず、何かを決意した様に。
真城は、“黒隠”を見てこう告げた。
「例えどんな理由であってもだ。
その栗枝って人が俺の保護対象なのは変わらない。
俺の“助ける”対象である事に違いはない。
……これ以上、お前の好き勝手にはさせない!!」




