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カゲビト  作者: 永眠布団
第二章 初任務

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第29話 『“黒隠”』



 亡骸となった彼女。

 今しがた息を引き取った彼女を見て……沸いた感情。


 彼女の想いは、間違いなく俺へと向けられたものだった。

 他の誰でもない、俺に向けて。


 俺とはつまり、“俺”でもあったはずなのだ。


 つい最近生まれた“俺”。

 しかし“俺”が成る前も、間違いなく“俺”は存在していて……。

 “俺”だって俺と同様に、分かつ前の記憶を共有している。


 彼女と出会った。

 彼女と遊んだ。

 彼女を遠ざけた。

 彼女と離れ離れになった。

 彼女と再会した。

 彼女と恋人になった。


 その記憶は、“俺”も同じく持っていた。


 俺の葛藤。

 俺のジレンマ。

 俺の後悔。

 俺の怒り。

 俺の憎しみ。

 そして俺の絶望も。


 “俺”に沸いた感情であったのだ。


 俺と“俺”は別人だ。

 だが、厳密に言えば同じ者。


 彼女が俺を愛し、俺が彼女を愛した様に。


 

 ……そうか。

 

 “俺”もまた彼女を愛していたんだな。



……



 壊れた(・ ・ ・)俺を見る。

 自身の手で、愛する人を殺めた絶望。

 意識が、生きる事を放棄した悲しみ。


 俺の抱いた苦しみの全てが、……“俺”にも分かる。

 当たり前だ。“俺”は俺なのだから。



 気絶した男、栗枝環樹を見る。

 まだ息はある。死んでいない。


 俺の意思。俺の想いは、……この“俺”が引き継ごう。

 他ならぬ俺の望んだ事。成せなかった事だから。



 俺の身体に、再び“俺”の身体を移す。

 俺の意識はもう無い。

 意識も身体も、その所有権は“俺”のもの。


 完全なる“フェイズ3”。

 

 ドクン……ッ!!


 突如、“俺”の身体が脈打った。

 “力”の鼓動。その覚醒を感じた。


 “俺”に、“記憶操作”が発現した瞬間だった。



……



 頭に触れ、男の記憶を操作する。

 彼女の記憶。その全てを消去する。


 男の記憶を読み取って、彼女に関する事柄を全て抹消してやった。

 パソコン内のデータ……その全てを。

 記憶を読み漁り、パソコン外に移したデータも何もかも、物理的に破壊した。



……



 用を終え、男を椅子に寝かせると、彼女と彼女の荷物を抱えて研究室を後にする。

 

 秋の夜。

 涼しい風が吹き抜ける。

 彼女を抱えたままで、“俺”はある場所へと向かった。

 道行く生徒はもういない。

 閉門時間まではまだあるが、生徒は基本帰っている時間である。



 目的地に到着し、足を止める。

 そこは俺と彼女の思い出の地。

 彼女が告白し、俺がそれに答えた場所。

 桜広場だった。


 どうしてここにやって来たのか?

 それは勿論、思い出の場所だから。

 しかしそれとは別に、

 

――『私も好きなんだ、……桜の花』


 彼女が好きだと言った花だから。


 彼女が好きな花。

 彼女と俺の思い出の場所。

 

 彼女を弔うなら。

 彼女の墓を作るなら。

 ……ここしかないと思ったからだ。


 桜広場。その中心部。

 そこに植えられた一本の桜の木。



 その下に、“俺”は彼女を埋葬した。



……



 少しばかりの月日が流れた。

 その間、“俺”は男に対しどういった結末を迎えさせてやろうかと考えていた。


 ただ殺すだけじゃ生温い。

 想像しうる限りで最悪の、惨めで惨たらしい最期を遂げさせよう。

 そういった思いがあったのだ。

 しかし、影人である“俺”であっても、中々と良い案は浮かばなかった。



 そんなある日の事。

 男の影に変化が起こった。


 影人化。

 それが男の影にも起きたのだ。


 男は元々ストレスを抱えていた。

 研究の成果が芳しくない。

 良いアイデアが浮かばない。

 何をしても上手くいかずに失敗が続く。

 学内で教員との人間関係。トラブルがあったのだ。


 男はそのストレス発散の相手として、彼女を選んでいた。

 脅しの材料を手に、彼女の弱みにつけ込んだ。

 服従させ、玩具にし、自分の鬱憤を晴らしていたのである。


 しかし彼女はもういない。

 彼女とそんな関係であった事でさえ、“俺”が能力で消してやったから。



 だからこそ……そんな中で生まれた、弊害のようなものだった。



 “俺”はそんな男に生まれた影人を。

 “フェイズ1”状態の影人を。

 迷いなく、踏み砕いて殺害した。


 “俺”と同族な存在。

 例えこんな男の影人であろうとも。

 この影人自体に罪は無くっても、……関係無かった。


 この男の影人が成長し、その身体を乗っ取るような事態。

 “俺”が与えなければならない復讐の全てから、逃げるような事だけは……絶対に許せなかったからである。



……



 更に月日が流れて、春の事。

 桜広場に植えられた桜が、再び花開くそんな時期。

 それは、人があまり立ち寄らない桜広場に、唯一人が集まるそんな時期。


 “俺”は憤っていた。

 理由は彼女の墓である桜の木。ひいては桜広場を無数の人間によって踏み荒らされる事態によるものだ。

 確かにあの桜広場に彼女を勝手に埋めたのは“俺”である。

 こんな事を考える事さえ筋違いだとも思う。承知の上だ。

 しかしそれでも、彼女をただ安らかに眠らせてやりたいという想いがあったのだ。


 どうすればいい?

 どうすれば彼女の墓を守る事が出来る?



 ……そういった想いが、募り募った時だった。

 ドクンっ!! と、身体が脈打つのを感じた。

 その感覚。気配には覚えがあった。


 “俺”が、“記憶操作”の能力を目覚めさせた時と同様の現象。

 それは“俺”が、“運気操作”の能力に覚醒した合図だった。



……



 初めは困惑した。

 “記憶操作”とは違い、“運気操作”の使い方がよく分からなかったからだ。

 使い勝手も良くはない。

 ただ単純に、相手を幸福にしたり不幸にしたりといった事が出来ないのだ。

 そうする為にはまず、“物”が必要だ。


 運気というものが引き寄せる運命や出来事を“俺”自身が前もって知る事が出来ないという事もある。

 例えば相手に『不運エネルギー』を注いでも、必ずしも相手が不幸になってくれるとも限らない。

 死ぬ程の不幸な出来事を望んでも、そうなるとは限らない。

 それ自体を起こりやすくする事は出来ても、本当にそうなってくれるかは実際になってみないと分からない。


 

 しかしそれでも知恵を絞ってみた結果、良い案は浮かんだ。


 第一に、彼女の墓たる桜広場から人を立ち退かせる方法。

 “俺”はまず“運気操作”を使って、中央に植えられた一本の桜の木。彼女が埋めてある墓標の木を“逆パワースポット”へと変えた。

 “逆パワースポット”。それは周囲の生物から『幸運エネルギー』を吸い取り蓄える装置である。

 次に“記憶操作”を使って校内に、“ある噂”をばら撒いた。

 一人ずつ、着実に。“呪いの桜”という噂話を、生徒の頭に植え付けていった。

 そうしていく内に、次第に人は遠退いていった。

 噂話は吹かせば勝手に広がってくれた。たまに実例として“怪我をした人”を作ったおかげだろう。

 

 嬉しい誤算もあった。

 “逆パワースポット”へと変えた桜の木が、吸い上げた『幸運エネルギー』を消費して更に大きく成長した事だ。

 彼女の墓標としてもかなり見栄えが良くなった。

 

――『人から吸った“運気”を糧に急成長をした』


 それもまた噂話を脚色する素材として役立った。


 ただの誤算もあった。

 噂話が広まったまでは良かったが、それを悪く思った学長が桜の木を切り倒そうと画策した事である。


 しかしそれも、“俺”が良いように利用してやった。

 桜の木を切り倒すように依頼された業者を突き止め、事故に見せかけ襲撃した。

 業者の私物。何から何までを、“逆パワースポット”に変えてやった。


 結果。“俺”の撒いた噂話は信憑性を得るに至った。

 桜広場を壊すことなく閉鎖させる。

 “俺”の望んだシナリオ通りに、事を進めることが出来たのだ。



 そして、かねてより悩みの種であった『男への復讐の内容』も決定した。

 それは男の人生を、尊厳を、破壊する事。

 “俺”が味わったもの全てを何倍にもして返してやる。……そう、誓いを立てた。


 復讐の第一段階。

 これは初め、やるか否かで悩んだが……。

 まずはあの男を幸福にしてやることにした。

 理由は勿論、味わう絶望を増やす為。

 この男は元々、ストレスで影人化を起こす程度には運気が無い。

 そんな男を絶望させようにも、現在の幸福値が低いのでは意味が無い。

 より多くの絶望を与えるには寧ろ、奴に幸せを謳歌させてやる期間も必要だと考えたわけである。


 “俺”は度々、“逆パワースポット”にした桜の木が蓄えた『幸運エネルギー』を一部、男に譲渡して仮初の幸福を与えてやった。


 そして最終段階。

 男を絶望のどん底に落とせるだけの『不運エネルギー』を集める為に、凪原町に幾つかの“パワースポット”を生み出した。


 これでもう、後は時間の問題だ。

 男を確実に破滅させるだけの『不運エネルギー』が集まるのを待つだけだ。

 溜まり次第決行する。――奴に地獄を見せてやる。



……



 問題が起こった。

 事態はそう上手くは行かなかった。


 “黒点”と名乗る影人が、“俺”の前に現れた。

 理由は、“黒点”が起こそうとしている聖戦に“俺”が必要なんだとか。


 一体何処から得た情報なのか……。

 無論“俺”は断った。

 そんなものに興味は無かったからだ。


 だが……“黒点”の持つ圧倒的な力を前に、“俺”は成す術を失った。

 奴の誘いを断って数秒、そこには命乞いをし懇願する……“俺”の姿があった。


 死ぬわけにはいかなかった。

 だからこそ、“俺”は奴の誘いに乗らざるを得なかった。


 しかしそれでも、自身の計画を優先する。

 それだけは譲れなかった。


 “黒点”は“俺”の能力を欲してやって来た。

 だからこそ、“俺”の死は望んでない。

 そこに交渉の余地を見出して、必死で交渉を行った。

 “俺”の目的を達成する為に、“黒点”の出す条件は出来る限り飲み込んだ。


 その甲斐があった。

 何とか“生きる”事を勝ち取った。


 ……しかし変わりに、ここ凪原町の人間を俺の能力で影人化させ、生まれた影人を“黒点”に引き渡す事が条件になってしまった。

 年単位ではあるものの、最低ラインの人数も決められた。


 ……仕方のない事だった。

 “俺”が目的を達する為には。



 それから“俺”は、凪原町に“逆パワースポット”を生み出した。

 “影狩り”と呼ばれる組織に“俺”の存在がバレないよう、綱渡りな影人作りが始まった。


 影人化を起こし行方不明となる人数が急激に増えれば、それは“影狩り”に見つかるリスクを上げる。

 だからこそ、“逆パワースポット”をあまり増やす事が出来なかった。

 ほとんど運任せで、影人化が起こるのを待つ事しか出来なかった。


 しかしそれでも、年単位での人数が決められてしまっていたから。

 時には男への復讐の為に溜めた『不運エネルギー』をばら撒いて、影人化を促進させる事もしなければならなかった。


 目的の為の『不運エネルギー』。

 それを使わざるを得ないのだから、いつまで経っても目標の量に届かない。

 “俺”の計画が、なかなか決行出来なくなった。



……



 “俺”という存在が生まれて早四年。

 

 計画は、未だに実行出来ずにいた。

 復讐すべき男は、“俺”の与える『幸運エネルギー』のおかげで教授へと昇格し、研究の成果から有名になりつつあるというのに……。

 男は結婚し、与えられた幸せな生活を謳歌しているというのに……。

 “俺”という存在も“フェイズ4”と呼ばれる段階へ至ったというのに……。



 “黒点”は条件を吊り上げる。


『聖戦が近い』


 ……それが一体何だと言うんだ。

 そんなの“俺”には関係ない。

 やりたきゃ勝手にやってくれ。


 これ以上、凪原町だけで行方不明者を作れない。

 “影狩り”のリスクを今よりも高めたくはない。



 隣町にも……“逆パワースポット”を生み出そう。



……



 これ以上はマズイ。

 “影狩り”にも見つかった。


 かくなる上は侵入者。……“影狩り”を排除する。



 それが出来ないならせめて……っ!!!!




~   ~   ~   ~   ~



「――――ッッ!!!!」



 長い記憶の旅を終え、“俺”の……“黒隠”の意識が覚醒する。



「足立様!! ……足立様!!」


 目覚めると女の影人、松田椎菜の声が耳に届く。

 “黒隠”の昏睡中、“黒隠”の名を懸命に叫んでいたようである。


 次いで大柄の影人、安部春緒(あべはるお)が目に留まる。

 強く目を閉じて、“黒隠”の受けた傷口を抑えているようだった。

 “フェイズ4”の影人が出血する事はあり得ない。なので当然、大量出血等で死ぬ危険も無い訳だ。

 では何故、傷口なんて押さえてる?

 そんな疑問が一瞬過るが、


「……気が付かれましたか」


 安部春緒がそう言って手をどけた事で合点がいく。

 “黒隠”が受けた傷が、完全に治っていたからだ。


 安部春緒の能力。“再生”。

 傷を癒し、肉体を回復する力は自分以外、他人であっても可能なのだと思い出す。

 再生速度はかなり遅くはなるが、それでも無いよりマシである。ありがたい。


 まだ少しグラつく視界に目を瞑り、上半身を起き上がらせると、更に二人“黒隠”を心配する人物にも目を向ける。

 

 増田京兵(ますだきょうへい)

 杉谷美春(すぎたにみはる)


 この二人も影人だ。

 今はまだ“フェイズ3”。

 “黒点”に引き渡す為に育て上げ、まだ引き渡してはいない者達だ。

 安部春緒程では無いにしろ、松田椎菜と同様に使えそうだから取ってある駒である。


 現状の“黒隠”の戦力。

 それは今、これが全てだ。


 “黒鉄”の助けなど借りられない。

 それだけは、俺のプライドが許さない。

 あいつらの思い通りに動くつもりは毛頭ない。



 辺りを見渡すと、どうやらここは建物の屋上のようだった。

 何号館かは分からないが、少なくとも大学内の建物のどれかだろう。


 気を失った“黒隠”を担いで、何とか逃げ果せてきたわけか。

 こいつらのお陰で命拾いをしたらしい。……感謝しよう。

 

 

「……どれだけ気を失っていた?」


「まだ30分程です」


 “黒隠”の質問に安部が答える。

 30分。……思いの外長い時間寝ていたわけではないらしい。

 それは良かった。

 “影狩り”の男の方。或いは女もそうかもしれないが、“黒隠”が桜の木を守ろうとしていたのを分かっているようだった。

 もし仮に“黒隠”が数時間単位で眠っていたのなら、その間に桜の木の下を調べられていてもおかしくない。

 30分というのなら、流石に掘り返せてはいないだろう。


 

「今後、どうしますか? 足立様」


 杉谷が、疑問の言葉を口にする。

 続いて、


「現在、“影狩り”二名の場所は把握できています。

 というよりも、傷の手当などで桜広場からは動いてはおりません。


 襲撃をするなら絶好かと。

 今度は俺達も参加します。……全員で叩けば」


 そう話す増田の言葉を「……いや」と“黒隠”が遮る。



 “黒隠”と戦闘をした“影狩り”達。

 あの二人は初め、安部の攻撃について来れてはいなかった。

 ただ翻弄されるだけ。

 これなら余裕だと、そう思った。


 しかし結果はどうだった?


 “念動力”も“瞬間移動”も、優位なのは最初だけだった。

 奴らを手の上で転がしている。

 そう思っていたはずなのに、気が付けば……形勢は逆転されていた。

 手の上で、転がっていたのは自分らの方だった。


 実戦。

 そういったものを、いままで“黒隠”はしてこなかった。

 この四年間、凪原町に潜伏し、“影狩り”に見つかるのを恐れ、戦闘も避けてきた。


 しかしあの“影狩り”達はそうではなかった。

 “黒隠”の持つ駒で最強の存在。安部を前にしても怯む事は無かった。

 

 命を賭した戦いの中で、目覚ましい成長を遂げた奴ら“影狩り”に、最後は安部でさえ押し負けていたのである。


 これが実戦。

 逃げる事無く、命がけで戦い方を磨いてきた者達の姿。


 ……もう次は無い。

 次戦えば、安部であっても負けかねない。

 “黒隠”も、逃げ切れる保証は何も無い。


 奴らはもう、すぐそこに。

 我々影人を斃すべく迫ってきている。


 ……もう、後など無い。

 このままでは、四年の歳月が無駄になる。

 復讐が、成せなくなる。



 ……そんな事させない。

 ……そんな事、あってはならない。


 例え自分がやられても、復讐だけは必ず果たす。

 あの忌むべき男を地獄へと……引きずり落とす。


 絶対に。



「安部!! ……例のアレを渡せ!!」


 “黒隠”は安部に指示を出す。

 例のアレ。……それはある指輪の事である。

 見た目は何の変哲も無い只の指輪。アクセサリー。

 

 だがその実態は少し違う。

 “黒隠”の能力で“パワースポット”にした代物だ。


 “パワースポット”。

 周りの人間から『不運エネルギー』を吸い取って人々を幸福にする代物。

 『不運エネルギー』を集める為の代物だ。


 しかも只の“パワースポット”という訳でもない。

 復讐計画の為に凪原町に配置した“パワースポット”が集めた『不運エネルギー』を一か所に集めて保存しておいたものがコレである。

 こうしておくと、いざ『不運エネルギー』を必要となった際、わざわざ凪原町に配置した“パワースポット”へ取りに行かなくてもすむという寸法だ。

 お陰で、早急に影人を生み出さないといけない時にも役立った。


 何故それを“黒隠”が常備していないのか?

 それには一つの理由があった。

 桜の木が『幸運エネルギー』を溜め込んだ影響で急成長したのと同じ理由。

 『幸運エネルギー』を溜め込んだ物に幸福がもたらされる様に、『不運エネルギー』を溜め込んだ物には不幸が訪れるからである。

 物に起こる不幸。つまりは破損や劣化速度の増加。また、その物を破壊すべく起こる不幸な出来事だ。

 それがあった為、“黒隠”が常に持ち歩く事が出来なかったのである。

 

 指輪を安部に預けていたのは実にシンプルな理由から。

 能力“再生”を持つ彼ならば、指輪の破損や劣化を防ぎ回復も出来る上、彼自身が指輪の影響で不運な目に合おうとも“再生”でどうにかなるからだ。

 “黒隠”の能力とその計画に非常に相性が良かった彼だから、“黒隠”は傍に置いたのだ。



「……ついに始めるんですね」


 安部が頷くと、指輪を取り出す。


「あぁ。

 これより計画を実行する。


 あの男の場所へ、赴くぞ!!」



 向かうは研究室。

 栗枝環樹の下へと。



 計画は邪魔させない。

 後が無いなら今ここで、復讐を果たすまで……!!



 同時、複数の影が蠢くと、瞬きの間に姿が消え失せる。



 “黒隠”の復讐。

 四年越しの計画。

 その最終段階が、遂に始動する。



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