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カゲビト  作者: 永眠布団
第二章 初任務

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第27話 『“足立尊”』



 視線の先。

 桜の木が作る影が揺らめく。


 水面の様に波紋を作り、揺れ動き、……そして。

 飛び出した人影が一つ。


 “黒隠”はそれを何とか躱すが意味はない。

 ……続く二撃目を、躱せない。


 後ろには、守るべき桜の木。

 

 

「――――――ッッッ!!!!!?」

 

 

 真城の拳が“黒隠”の身体を大きく穿つ。



 そこで意識が途絶えた。



 暗く深い、意識の底へ。感覚が沈んでく。



 その中で、見えてきたもの。――記憶。




~   ~   ~   ~   ~




――それは、在りし日の記憶。


――俺の。


――俺“達”の。


――“足立尊”の記憶だ。




~   ~   ~   ~   ~



 幼なじみがいた。


 両親たちがそもそもの知り合いだったのか。

 或いは、単に家が近くて意気投合をしただけなのか。


 それを俺はあずかり知らないが、まあ兎に角。

 俺には幼初期より、共に遊ぶ女の子がいた。


 名前は、靖田優沙(やすだゆさ)

 よく笑うが泣き虫の。

 言って見れば平凡な、いたって普通の女の子だった。

 


 

 公園の砂場でよく遊んだ。

 二人だけの鬼ごっこもした。

 おままごとなんかをしたりした。


 親に連れられて、彼女の家に遊びに行った事もあった。

 その逆で、彼女の方が遊びに来る事もあった。


 関係性は“友達”よりも“兄妹”の方が近かったかもしれない。


 俺は親からよく『(たける)は男の子なんだから優沙(ゆさ)ちゃんの事を守ってあげなきゃね!』などと言われていたし、彼女もまた俺の後ろをよく『にー()』と言って付いて回っていた。

 人見知りで泣き虫な故だろう。

 知らない子供やその親に話しかけられるとすぐ俺の背中に隠れるし、散歩中の犬に吠えられただけで大泣きし、俺の服を涙と鼻水で汚してみせた。


 妹はいなかった。

 しかしそれでも、もしも本当に妹が居たのならこういった対応をしたのだろうと。

 まるで本当の兄であるかのように、俺は彼女に接していた。



 今思い直せば変な話だ。

 俺も彼女も、同い年であったのに。



 その関係は、小学生になるまで変わらなかった。

 変わったのは小学生になってから。


 理由は、“恥ずかしくなった”から。



『女子と遊ぶとかおっかしくねぇ~?』


 そう言って、周りの男子が馬鹿にするのだ。俺を。

 クラスで、クラス外で、茶化しまくるのだ。いつもいつも。


 子供は無邪気故に残酷だ。

 人の踏み入られたくない領域に、平気でズカズカやって来る。

 結局の所、彼らにとって“女と一緒に遊ぶ男”などというものは、いい笑いの対象でしかなかったのだ。


 そうして終いには、


『女なんてあっち行ってろよ!!』


『そんなに俺達に交じって遊びたいの?

 男女(おとこおんな)なの?? や~い、男女!! 男女!!』


 彼女の事も、馬鹿にし始めるのだ。


 周りの目が気になって、学校での俺達の会話も無くなった。


 俺が思春期という時期に入ってしまったのも大きかった。


 あれだけ一緒に登校したのに。

 あれだけ一緒に下校したのに。

 その時欠かさず、手を繋いでいたはずなのに。

 いつからか、やらなくなった。


 小学生高学年になる頃には、俺と彼女の間には大きな溝が出来ていた。

 二人の交流は、もう完全に途絶えていた。



 中学生に上がる頃。

 彼女が、両親の都合で遠くへと引っ越す事になった。


 その事を母親から聞かされた俺は、まさに寝耳に水だった。

 何せそれを知ったのが、彼女のいなくなるまでもう一週間と無かったのだから。


 どうしてもっと早く知らせてくれなかったのか?

 なんで彼女は俺に伝えてくれなかったのか?


 様々な考えが回り、回り。……そうして自嘲した。


 何故、俺に知らせる必要がある?

 仲が良かったのは遠い昔。

 今はもう、ただの他人。


 彼女を遠ざけたのは誰だ。……他ならぬ、俺自身じゃないか。




 胸を締め付ける痛み。

 早くなる鼓動。

 それは、もう遅い。

 全てが終わった後だと言うのに……。



 兄妹のように接していた。

 そしてだからこそ、この“想い”は“そう”ではない。

 そんな風に、勝手に思い込んでいた感情。

 

 そこにいることが。

 一緒にいることが当たり前だと思っていた。

 しかしそれも、偶々、偶然、一緒にいれただけだと知った。

 当たり前ではないのだと自覚して、思い出したように沸き上がった感情。


 俺はその時にしてようやく、彼女の事が好きであったと自覚した。


 本当に本当に、もう遅い。

 何もかもが潰えてしまった後だと言うのに……。



……



 彼女の引っ越しの日。

 それは小学校の卒業式を迎えた後。春休み中での出来事だった。

 彼女や両親が、せめて小学校の卒業式までは仲のいい友人達と過ごしたい、過ごさせたい。

 そう思った結果だろう。

 

 俺の両親が「別れくらいして来い」というもんだから彼女の家の近くまで行ったが、結局、会って話はしなかった。

 数年もの間、ロクに話もしてなくて、……一体どの面下げて会いに行けば良いと言うのか。

 俺は結局遠目から、彼女やそのお別れにやって来ていた友人達を一目見て、Uターンして家に帰った。

 その時一瞬、彼女と目が合った気もしたが気のせいだ。

 彼女がそれに対し、何の反応も示さなかったのだから。

 まぁ、例え見えていたとして、彼女が反応をする義理も無い。

 俺達はただの他人。

 そしてこれからは、更に更に他人になる。

 もう一生会う事も無いはずだ。



 こうして、俺の初恋は幕を閉じた。

 只々最低な男が、只々最低な行いをして終わらせた。それだけの事だった。



……



 そこから俺にあったのは、只々平凡な人生。

 生きる目標も定かでない。ただ“死んでいないだけ”というだけのつまらない人生だった。


 中学へ入学して卒業し、高校へ入っては卒業し。

 6年間もの長い時間。それを無下に過ごしていた。



 転機が起こったのは、大学生になった時。

 通い始めた凪原大学で、俺は偶然にも靖田優沙(やすだゆさ)と再開したのだった。




 初め、俺は気が付く事が出来なかった。

 何せ顔も名前も、遠き日の淡い記憶として忘れかけてたくらいである。


 更に言えば見た目も印象も、俺の記憶の中にあった彼女とは全然違っていたからだ。

 確かに元々、顔立ちは整っていた方だと思う。

 しかし彼女は焦げ茶色みがかった黒髪を、まるで男子がするような短めのカットにしていたし、何よりビクビクと肩を震わせてオドオドするその仕草からは、周囲の人間に気弱な印象をいだかせた。……勿論、それは俺も例外ではなかった。

 

 だが、再開した彼女は違った。

 生まれ持った整った顔立ちはその成長と共に美貌に変わり、短かった黒髪は腰の高さまで伸ばしたロングヘア。

 おまけに彼女の魅力に惹かれた男女が取り囲み、受ける印象やその見た目は、お姫様といった気品ある高貴な身分を思わせた。

 


 では、そんな彼女に何故俺は気づけたか?


『尊くん、だよね。……私の事、覚えてる?』


 答えは、彼女の方が俺の事を覚えていたから。

 そして彼女の方が、俺に声をかけてきたからだ。



 ドクンと、大きく脈打つ俺の心臓。

 その鼓動を肌で感じた。


 彼女は俺を覚えていた。

 ただそれだけの事で、俺は、俺の心は、……高鳴った。


 忘れていた想い。

 初恋のあの気持ちを、俺は思い出した。




 しかしそれまでだった。

 

 

 俺と彼女を隔てる障害は大きかった。



 俺はこの数年間、何もしてこなかった。

 彼女は驚く程の変化を遂げていたというのに。

 俺には何も。本当に何も無かった。

 何かを持ってさえいなかった。


 唯一と言えるアイデンティティも、俺と彼女が幼なじみであったというだけ。

 そんなもの。何の取り柄にもなりはしない。


 そもそもの話として、彼女が俺を好きであるはずもない。

 もしも告白したとして、振られるビジョンしか見えない。


 彼女は俺を覚えていただけに過ぎない。

 本当に、ただそれだけの事なのだ。

 

 俺が彼女の立場なら、絶対に俺が好きではない。

 仲が良かったのなんて、幼少期くらいのもんじゃないか。

 小学生になって以降、俺は彼女に何もしてはいない。

 それどころか、寄って来る彼女を振り払うだけの悪人でしかなかった。


 もう“終わった恋”なのだ。


 そもそもにして俺は、彼女と付き合ってどうしたい?

 俺には、彼女を幸せに出来る保証なんて何も無い。

 彼女の笑顔を、守り通す自身が無い。

 こんな俺では、彼女を不幸にしてしまう。

 

 彼女を取り巻く美男子達。

 彼らなら、きっと彼女を幸せにしてくれる。


 例えそうでなくっても、どうやら今の彼女は一部で有名なのだとか。

 なんでも、ある雑誌にモデルとして載った事もあるようで既にファンもいるらしい。

 これなら芸能界デビューも夢じゃない。

 彼女ならきっと、もっと遥か高みへと行くことが出来るだろう。


 俺のような存在は、彼女のこれからの輝かしい未来の足枷にしかなり得ない。

 俺が幼なじみであったなど、消し去りたい黒歴史でしかない。



 再開が出来た事。ただそれだけが奇跡なのだ。

 それ以上のものなどあり得ない。

 それ以上を欲するなど欲深いにも程がある。



 そう、……思っていた。



 大学に進学して四か月程経ったある夏の事。

 明日から夏休み突入という、その最後の日。

 講義が終わった俺の前に彼女、靖田優沙がやって来た。


 彼女にはいつも取り巻きが数人いた。

 しかしその時は、彼女一人しかいなかった。


 突然、俺にぶつかる様にして話しかけてきた彼女。

 驚く俺を余所にして、彼女は手紙を手渡してきた。


 たったそれだけ。

 会話など無かった。


 彼女を前にして、何と話したらいいのかとどぎまぎ俺は、走り去っていく彼女の後ろ姿をただ眺めている事しか出来なかった。



 家へと帰る途中。

 俺は手渡された手紙を開けて見る事にした。


 彼女の手紙。

 俺はそこに、変な期待があった。

 もしかすると……、そんな思いがあった。

 そうして開けて驚いた。



『今日の午後22時。

 凪原大学、桜広場に来てください』



 それは言わば、ラブレターの様な物だった。



……



 家に帰り、何度も手紙を読み直した。

 しかし結果は変わらなかった。


 俺を馬鹿にしている?

 或いは俺を嘲る為に?

 私に近づくな。或いは、“幼なじみ”という事への口封じ?


 嫌な予感がよぎった。

 桜広場に付いた途端、大勢の人に囲まれて袋叩きにされる未来。


 そんな想像しか出来なかった。

 何せポジティブに、ただ告白されるだけなどと、そんな期待するような未来など。

 想像が出来る程、俺は彼女に何もしていないのだ。


 断っても良かった。

 ただ単純に、そこに行かなければ良いだけだ。


 しかしそれでも結局は、もしかしたらという気持ちが拭えない。


 俺は考えに考えて。




 ……行く事に決めた。



……



 22時、桜広場。

 その集合に間に合う様に、俺は大学へと向かった。

 大学の閉門は23時となっていた。

 閉門までの一時間。そこで何かをするのだろう。

 良いか悪いか。そのどちらかの告白を。



 桜広場に到着する。

 辺りは当然真っ暗だ。

 月明かりに照らされていても変わらない。

 桜広場の四方には外灯があった。明かりもまだ付いていた。

 しかしそれでも、暗い事には違いが無い。


 人の気配はしなかった。

 桜の木の陰に、何人もの人間が隠れている様にも思えなかった。

 とりあえずは安堵する。

 これで袋叩きの可能性はなくなった。


 次は彼女がここにいない。この手紙の文章が、単なるからかいである可能性。

 辺りに視線をやりながら、彼女の姿を探してく。

 歩を進め、それでも彼女が見当たらない事を見て取り、落胆する。


 やはりそうであったかと、心の中で項垂れる。



 しかしその瞬間。

 桜広場の中央にまでたどり着いた俺の目に、人影が写り込んだ。

 同時、人影も俺を見つけた様に動き出す。

 

 桜の木の作る影から進み出て、月明かりのある場所までやってきた人影。そのシルエットを月明かりが剥がしてく。



 現れたのは、靖田優沙だった。



……



「ごめんね。……こんな時間に呼び出して」


 彼女は俺を認めると、まず謝罪の言葉を口にした。


「あ、うん。いいよ、別に」


 それに俺は歯切れ悪く答えると、カリカリと頬をかく。


「それで……どうしたの? こんな所に呼び出して」


 俺は尚も辺りの様子を伺いながら、彼女に尋ねる。


「あっ……、えぇっと……」


 大学で初めに会って以降、俺と彼女は全くと言っていいほど会話をしなかった。

 彼女の周りには終始、美男美女が集まっていたし、俺だってそんな状況にいる彼女にわざわざ話しかけに行くなどという愚行は犯さなかったからである。


 それなのに今は二人きり。


 そんな状況だからだろうか。


 俺が再開し、彼女に抱いていた印象。

 まるでお姫様といった様な気品ある風格。

 そんな高貴な雰囲気などどこへやら。

 

 そこにいたのは、大学内で見たような凛とした立ち姿の彼女ではなく、昔よく見た俺の知る彼女。オドオドとして不安そうな、弱気な彼女の姿だった。

 

 

 記憶の中の彼女と一致する。

 姿が成長して尚、変わっていない部分を見つけたからだろう。

 俺は少し、緊張が解けた気がした。



……



 桜広場。その中央にある桜の木。

 そこへ二人は寄りかかる。


 夜空を見上げると、星空がハッキリと見えた。

 その中でも一番目立つのは夏の大三角だろうか。

 例え星座に疎くても、なんとなく分かる星座の一つ。

 明るく輝く三つの星が、綺麗に三角で並んでる。


 緑の葉を青々と茂らせる桜の木。

 その合間をすり抜けて、涼しい風が抜けていく。

 夏の夜の、暑い空気を緩和する。

 


「久しぶりだね。……こうやって二人きりで話すの。

 私が引っ越すのよりももっと前。……小学生にあがる前、だったかな」


「……そうだね」


 少し憂いを帯びた表情で言う彼女。

 そんな彼女を見て取って、しかしその原因たる俺は相槌を打つことしか出来なかった。


「楽しかったな……、あの頃は。

 色んなものが新鮮でさ。

 遊ぶ時は足立くんといつも一緒でさ……」


 今は違うのか?

 そんな疑問が過ったが、それを俺が聞くよりも早く、彼女は次の言葉を口にした。


「あ、あのさっ!!

 実はその時から、……昔から言いたいことがあったんだ!!」


 強く俺を見つめる瞳。

 そこからは彼女の強い意志が感じとれた。


「結局あの頃は踏ん切りが付かなくて……引っ越しちゃうっていうのに、最後の最後まで決心が出来なくて……。

 私が弱かったから、その一歩が踏み出せなかった。

 引っ越しの日。足立くんが来てくれていたのが分かっていたのに……、それでも、声をかける事が出来なかった」


「……、」


「だからこの大学で再開した時は凄く驚いたんだ。

 まさかまた会えるなんてって。


 奇跡が起きた。そう思った。

 でも同時に、これが最後のチャンスかもしれない。って、そう感じた。

 

 ……でも、再開した足立くんも私の事を忘れてて。

 もしそんな状況でこんな事話したら、『昔の事を今も引きずってる重い奴だ』なんて思われるんじゃないかって……怖くなって。また、足踏みして。

 踏ん切りが付くのに、結局夏までかかっちゃった……。


 本当は春にするのが……一番良かったんだけれどね」


 彼女が数歩前に出る。

 そうして後ろを振り向く。


 俺へと視線を移し、更にその後ろの木。

 大きな大きな桜の木へと目を向ける。


「ここに呼んだ理由はね、この中央の桜に“ある噂”があったからなんだ。

 ……足立くんは、聞いたことある?」


「あ、いや。……ごめん」


「いいっていいって。気にしなくても。


 でもさ、その噂に背中を押されたんだ、私。

 だから折角だし噂にあやかろうと思ってここを選んだの。


 その噂の内容はね? ……“この木の下で告白すると結ばれる”」


「……っ!?」



「ずっと前から好きでした!! 私と、付き合ってください!!」



……


 瞬間、俺は言葉を失った。

 頭の中が、真っ白になった。


 絶対にそうならない。

 そう思っていた恋が実り、俺は“幸せ”というものを肌で感じた。感じ取る事が出来た。


 ……でも、それまで。


 例え彼女が、俺を好いてくれていたとして。

 それに見合う俺ではないのだと、俺自身が知っていた。


 俺では彼女を守れない。

 俺では彼女を幸せに出来ない。


 彼女ならきっと俺といるよりも幸せな日々が、待ち受けているはずなんだ。


 だからこそ、俺は顔を背けた。

 彼女の幸せの為に。


 俺は、彼女を、振らなきゃならない。

 断らなきゃならない。


 ……そう思った。だから、



「……ごめん。俺は君とは付き合えない」



 彼女の目を見てハッキリと、そう告げた。


 途端、彼女の顔が悲しみで歪むのが分かった。


 あぁ、やっぱり。俺は彼女を幸せには出来ない。

 現にこうして、彼女を悲しませる事をする。

 こんなんでどうやって……、



「……訳を、聞かせて貰ってもいいですか?」


 絞り出すようなか細い声で、彼女がそう尋ねてくる。

 訳。理由。……そんなこと、簡単じゃないか。


「俺は君に相応しくない。それだけだ」


「……どうして?」


 戸惑いの声が聞こえる。


「……どうして?

 そんなの誰が見たって明白じゃないか!


 君と俺が付き合う?

 人気者の君と、こんな何処にでも変わりがいるような男が?

 『やめておけ』。きっと皆そう言うぞ。

 貶されるぞ? 蔑まれるぞ? 俺なんかと付き合って!!

 祝福してくれる人間なんて、誰一人だって現れない!!」


「……っ!?」


「大体、何で君は俺なんか好きになったんだ!?

 正直、それだってよく分からないよ。


 昔の話、……覚えているなら分かるだろ?

 小学生の時、俺は君に何をした……?

 何もしなかったじゃないか! 俺は!! 君に!!


 それだけじゃない。

 結局俺は、周りの奴らの意見に流されて……君を、遠ざけたじゃないか!!

 もうあいつらにその事でぐちぐちと……弄られたくなかったから!!

 

 俺だって同罪。

 おいつらと同じ、俺は君をいじめた側の人間だ!! そうだろ!?」


 それなのに俺をどうして?

 そう言おうとした俺の言葉を、彼女の言葉が遮った。


「……それは違うよ!!

 私は知ってる。足立くんが私を遠ざけた理由!!


 それは、……足立くんから飛び火して、私まで弄られるのが許せなかったからでしょ!?

 ……だって、足立くんも言ったじゃない。『何もしなかった』って。

 そうだよ。私は足立くんから弄られてない!! 虐められてなんかないんだもん!!」


「……っ!?」


「それに今回の告白で、……反応で、全部分かった。

 今も、あの時も、足立くんは変わらずに私の心配をしてくれる。……私の事を一番に考えてくれてるよ。

 私が『好き』って言ったのに、貶されるとか蔑まれるとか私の事ばっかり……。

 

 あぁ変わってないんだなこの人は。って、……そう思った。

 足立くんなら信じれる。そう思った。


 だから、……もう一度言わせて?



 足立くんがいい。

 私と、付き合って下さい!!」



……



 俺は何も言い返す事が出来なかった。

 これ以上は意味が無いと、彼女には敵わないのだと、そう思った。


 放心する俺を彼女が優しく抱き留めてキスをする。

 俺はされるがままだった。

 口と口。唇と唇が触れてする、恋人同士でする接吻。


 そんな彼女を俺は強く抱きしめる。

 

 出来るかじゃない。

 俺は彼女を幸せにするんだと。

 絶対にするんだと。


 そう誓った。



……



 恋人同士手を繋ぎ。

 桜の木にもたれ掛かりながら夜空を見上げる。

 告白が終わって以降の、閉門の時間がくるまでの十数分。

 俺達は、転校してからの事を話し合った。


 と言っても俺が話す事は特にない。

 主に話すのは彼女の事。


 彼女が俺と離れて以降。

 転校した先での話。



 彼女が成長するにつれ、少しずつ美人になっていった事。

 それにより、彼女の周りには人が集まる様になった事。

 寄って来る男性の下心が透けて見えた事。

 寄って来る女性も同じ。

 彼女と友達になる事で、得を得ようとする女性の思惑が見えた事。


 結局誰一人として、彼女の内面にまで目を向けようとする者がいなかった事。

 お世辞。おべっか。彼女に対する贔屓目の思想にうんざりした事。


『私の顔が良いから一緒にいる』


 ただそれだけだった。


 彼女が誰も信用することが出来なくなった事。

 そんな時、俺と再開出来た事。等々だ。



……



 時が経ち、帰宅の時間。

 最後の会話。彼女は振り向きざまに、


「足立くん。……私の顔、どう思う?」


「……き、綺麗だと思うよ。すごく」


「――っ!??」


 それは正直な気持ちだった。

 それを聞いた彼女は赤面し、遠くへ駆けてゆく。

 別れ際。



「本当はね、私。

 自分の顔が好きじゃなかったんだ……。

 

 ……だけど、足立くんが褒めてくれるなら。

 足立くんを振り向かせる切っ掛けになったなら。


 私も、自分の顔が好きになれそうな気がする!!」



 そう言って走る彼女の顔は、満面の笑みを浮かべていた。



……


 俺にはまだ、俺という存在が彼女に釣り合えているとは思えない。

 到底思えるものではないけれど……。


 でも。

 それでも。


 彼女が認めてくれた俺を、俺という存在を……否定したくはない。

 

 今は無理でも……いずれは彼女に釣り合う様に。

 彼女と共に歩める様に。

 努力しよう。……これからは。


 俺の隣を歩く彼女を辱めない為に。

 俺の隣を歩く彼女が、寧ろ羨ましがられる様な俺に、……一歩ずつ、成っていこう。



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