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カゲビト  作者: 永眠布団
第二章 初任務

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第25話 『噂の真実』



 桜井と“黒隠”が対峙する。

 桜井が求める二段階目。その目的――。



~   ~   ~   ~   ~



「私……“黒隠”の事も気になるんだよねぇ」


 黒煙がドーム状に渦巻くその中で、桜井はそんなことを呟いた。


「能力ですか?」


「それもあるんだけどね。どっちかと言うと目的かな~」


 目的。

 それは言うなれば、どうして“黒隠”が未だこの桜広場に止まり続けているのか。といった問題だ。


「あぁ、それは俺も思ってました」


 桜井の回答に思うところがあったのか同意する真城。

 聞けば真城の内容も、桜井と一致する疑問が多かった。


 二人の意見を、まとめるのならこうである。




 “黒隠”。それはどちらかと言えば頭の回る狡猾な人物だ。

 他の者の前に立ち率先して行動を起こすタイプではない。

 他の者に後ろから指揮をして行動をさせるタイプである。


 では、何故そんな人物が今姿を現した?

 今尚姿を見せている?


 元々“黒隠”が現れた理由。

 それは真城と桜井に対し交渉を持ち掛けたことが原因だ。

 事の発端は二人が“女の影人”を見逃しただの何だのと。

 しかしその交渉も既に決裂し、終わっている。


 それにより今の戦いが始まった。

 初めは大柄の影人と協力し、真城と桜井を早急に叩くのが目的だとも考えた。

 しかし結局、攻撃を仕掛けてくるのは大柄の影人のみである。

 “黒隠”は何時まで経っても戦闘に参加しない。

 それどころか戦闘が始まって早々に、一番見晴らしが良いからなのが中央の桜の木を陣取って静観するだけである。


 確かに真城達を叩くなら、攻撃を大柄の影人に任せて後ろから指示を出す係として“黒隠”がいるというのも理解できる。

 大柄の影人一人に任せ、万が一にでも撃破されれば事である。

 しかし、“黒隠”も大柄の影人と同様に“フェイズ4”。

 隠し持った強力な能力なりで加勢すれば、それだけでこの形勢は瓦解する。

 撃破するのが目的なら、二人で攻めた方が確実なはずである。


 ……では何故、“黒隠”は未だ加勢しない?

 現状見せた能力も“影操作”の一つだけ。

 何か条件が複雑な能力なのか。

 或いは現状何らかの理由で使えないのか。使わないのか。

 何にしても不可解だ。


 戦闘に参加する気が無い。

 しかしだからといって、この現場から離れる様子も感じない。


 結果として“黒隠”もまた、桜井が狙える攻撃の対象として影槍のターゲットにされてしまっていたわけだ。

 戦わず現場から離れないにしても、やりようはもっとあったはずである。

 何故わざわざそんな分かりやすい場所を陣取るのか?

 挙句真城達に狙われては大柄の影人に守ってもらってばかりいるのだろう?


 ……それではまるで、足を引っ張っている。と言わんばかりの状態だ。


 想い抱く性格と、現状の行動が合致しない。

 大きな違和感。矛盾を感じる。




「それも一緒に調べたい。

 あっちの影人さんの能力検証が一番なのは分かってる。

 ここで私達がやられてもその次に。一ノ瀬さんに託せる様にね。


 でも、あの“黒隠”の行動にも意味はあると思う。

 それがこの任務攻略のヒントになりそうだし!!」



~   ~   ~   ~   ~



 警棒を構え、“黒隠”を捉える。

 桜井の影が警棒に纏う。しかし、


「ちっ……!!」


 桜井の攻撃動作を見て取った“黒隠”が先に動く。

 桜井が警棒を握る手。そこへ向けて“黒隠”は右手に纏わせた影を槍の様に射出する。


「……ッ!?」


 桜井はとっさに構えを解くと、攻撃を避ける様に横へと移動する。

 そこであえて攻撃を受けることも出来た。桜井が影を硬化させるだけで対処することも可能だった。

 しかしそうはしなかった。

 それは桜井の勘。


 “影操作”で操る影は不定形。

 操る存在の意思の下、その形を大きく変える。

 剣。或いは槍。爪や鞭など様々だ。あらゆる武器を形作る。


 しかし、“武器”を作れるからといって、その全てが硬化したものとは限らない。

 切る、叩く、突く……の他に“捕らえる”ことも出来るのだ。


 もし仮に、この攻撃を桜井が硬化した影で受けたとしよう。

 その際に、硬化されていると思った槍がもしも固くなかったら……。

 桜井はその腕を、警棒を、“黒隠”の影に捕まってしまうのだ。


 そうでなくても構わない。

 考えすぎでも問題ない。


 しかしそれでも今ここで、利き手と共に警棒が振れなくなる事態。

 それだけはどうしても避けねばならない。


 桜井は非力な女性である。

 力比べで男性に、そうそう勝てるものではない。


 真城には拳があったとて、桜井はそうではないのである。

 純粋な力も筋力も、男性には遠く及ばない。


 実体化させた影の攻撃を鞭や槍にする理由。それもいわば非力故。

 勢いで威力を上げることの出来る鞭。或いは突きで相手を押し飛ばせる槍を好んで使うのはその為だ。

 自身で足りない力の分を、別で補わなければならないからだ。


 純粋な武器である警棒を封じられたくもない。

 わざわざ“影操作”で一から作るより、元から完成している警棒の方が使い勝手がいいのである。

 脳への負荷というのもある。

 武器の形に影を変えて硬化させるより、元々ある物に影を纏わせた方が楽なのだ。



 ……実際の所、“黒隠”の攻撃にどれ程の意図があったのか。

 本当に“捕らえる”目的があったのか。

 それ知る術はない。


 しかし攻撃を避けた桜井を見て取り、忌々し気に舌打ちをした“黒隠”から察するに……避けて正解だっただろう。



 桜井は体勢を整えると、再び警棒を構え直す。

 警棒の先を“黒隠”へ向ける。

 いつ攻撃が来てもいいように、今度は桜井が“黒隠”の出方を窺う。



 しかし、


「こういった仕事は安部のやることだってのに」


 と言いながらもしてくる攻撃は、先程と同じ影の槍のみ。

 いつくかの槍を同時に操作し桜井へと射出する。それだけだ。


 桜井はそれを難なく躱すと“黒隠”の下へ接近する。


(あっちの影人さんは晴輝くんが抑えてる。

 “黒隠”は今、私と一騎打ちをするしかない。

 ……それなのに、使ってくるのは“影操作”だけ。

 この状況になってまで、まだ能力を隠すメリットは無いはずよね……?

 

 警戒はしてるけど、もしかしたら本当に攻撃系の能力は“影操作”しか持ってない?)


 勢いを付け、一気に“黒隠”の懐まで接近する。

 そのまま警棒を振って攻撃を叩きこむが、それでも“黒隠”が行うのは纏った影の硬化のみ。

 それでも確かにガードは出来るが……、


(防御系の能力も持ってないってこと……?)


 桜井は眉を寄せる。

 もしも他の能力が攻撃系でないのなら、防御系かとも思ったが……どうやらそれも違うらしい。

 もし防御系能力があるのなら、わざわざ“影操作”の硬化は使うまい。

 使わない……とまでは言い切れないが、“影操作”の硬化はあくまでも副産物的なものである。

 極めてしまえば下手な防御系能力にも並ぶだろうが、余程でないなら“防御”を主体としている能力には遠く及ばないものである。


 ならば“黒隠”の能力は何なのか?

 他に能力が無いという事も無いだろう。


 影人という存在。

 それは“フェイズ3”になって以降“フェイズ4”になるまでの間。つまりは肉体が影と同化していくにしたがって、能力を最低一つは取得するとされている。

 “黒隠”は現在“フェイズ4”。

 肉体全てが影と同化した状態だ。“フェイズ4”になって以降も使える能力は増えてゆく。

 ……何か一つはある筈だ。ある筈なのだ。


 ……いや、正確には“その一つ”は既に心当たりは存在する。

 確信ではないまでも、ある程度予想できた能力だ。

 桜井が探しているのは“それ以外”にも能力があるか否か。それを求めているわけだ。


 疑問は募る。

 『能力は無い』と、そう断言出来るならどれほど楽か。

 しかしそうも言っていられない。

 “能力”は使われて見るまで分からない。その危険度によっては、最悪“所見殺し”も成立する。

 きっと大丈夫。そう楽観視出来るものではない。


 しかもそれに加え、

 

(私から攻撃を受けて、……未だに撤退の素振りがない)


 勿論桜井だって簡単に逃がすつもりは無い。

 少しでも撤退の動きを見せるなら、なりふり構わず止めに行く。

 もし全力で逃げるなら、その背中を刺しに行く。


 しかし“黒隠”は動かない。

 撤退の意思を示さない。



 桜井が警棒で攻撃し、それを“黒隠”がガードする。

 “黒隠”が影の槍を飛ばしては、桜井がそれを躱してく。

 そんな攻防を続けながらも、桜井は“黒隠”について考える。


(……これだけやっても動かない。

 撤退をするほど私を脅威だと思ってないってこと?


 確かに私は戦闘が得意ではないけどさぁ!!)


 桜井の額に、薄っすらと汗が滲む。

 真城だって大柄の影人を一人で抑えるのには限界がある。

 もう数分とかからずに煙幕の効果も消えるだろう。

 

 そうなる前に何とかしたい。

 

 この作戦。

 第二段階とは、“黒隠”と大柄の影人を分断し、大柄の影人を真城が抑えている間に桜井が“黒隠”へ攻撃。

 隠し持っている能力を使わせることである。


 その段階で、自身の危険を察知した“黒隠”が撤退するならそれもいい。

 逃げの行動を取る“黒隠”の隙を突いて、一気に攻める。

 もしそこで“黒隠”を取り逃がしてしまったらそれはもう仕方がない。

 代わりに二人で大柄の影人を攻撃する。

 幸い、大柄の影人が使う“瞬間移動”の弱点は看破した。

 大柄の影人の“瞬間移動”の転移先が人の眼前であるのなら、既に逃げてしまった“黒隠”の眼前へと転移され共に逃亡……といった結果にはなり得ない。

 目にする相手が真城と桜井の二人のみに限られるのなら、その“瞬間移動”を逃亡には使えない。

 流石の大柄の影人でも、二人を相手にしながらの逃亡は難しいだろう。

 真城と桜井だってそれを許さないし逃がさない。一気に畳み掛けるつもりである。


 

 ……が、

 “黒隠”は一向に能力を使わない。

 逃げる動作すら見せない。


 こちらの作戦が見抜かれているのか?

 或いは別に理由があるのか?


 それさえ分からない。

 唯一分かる事。それはあと数分で、大柄の影人が真城の下から解放されるという事のみ。



(どうする、どうする!!

 考えろ考えろ考えろ……!!


 何か……、何かあるはず……ッ!!)




 必死に考えていたからだろう。

 桜井が周りをちゃんと確認していなかった事もある。


「――ッ!??」


 突如、桜井の視界が揺らぐ。

 能力の使いすぎか?

 脳への負荷の影響か?

 そんな思考がよぎるが関係ない。


 桜井は石につまずいたのだ。

 土の中、小さな小さな丸石が、隠れる様にして埋まっていたのだ。

 桜井はそれを偶然踏みつけた。

 踏んだ瞬間、靴底の石がゴロリと回転しながら地面を滑った。

 当然踏んでいる桜井の足も石の回転によって地面を滑る。

 後は簡単だ。

 靴底の石が回転し、靴底から解放された直後。つま先を地面に押し込んで必死にブレーキをかけていた足が制止する。

 が、身体の勢いは止まらない。慣性に従って突き進む。

 前へ行こうとする身体。それに耐えかねて、つま先を押し込んでいた足の踵が宙に浮く。

 つま先を軸にして、足元が90度ほど回転する。


 グキリッ!!

 と嫌な音がした。


「――うぐ!!」


 呻く声を発するも、何とか転倒は免れる。

 片手を付いて一回転。

 そのまま空中でバランスを整えて着地する。……しかし、


(~~~~ッ!! 足首挫いちゃったんだけど!?)


 内心穏やかではない。

 少し顔が熱くなるが、それは今気にしない。気のせいだ。


 こんな時に非常事態。

 なんてことだ。運が悪い。




(……ん? 運が、悪い)


 それは運が良いのか悪いのか。



『“呪いの桜”。……って、知ってる?』



 それは前日の会話。

 桜井が本部から送られてきた情報で気になった事を真城に尋ねたものである。

 実際それが元となり、こうして桜広場まで来たわけだ。

 その“呪いの桜”とは、今まさに桜井と“黒隠”がいる場所に鎮座しているものだった。

 

 人の運気を吸い取って、不幸をもたらすとされる噂の木。


(私が足を挫いたのも……実はこの桜の所為だったり~……、なんちゃって)


 ははは、と内心で乾いた笑いをする桜井。

 しかし……、



『……うん?

 そういえば……この桜の木。

 噂が流行り始めた時期を考えれば、“黒隠”が関与している可能性はかなりある』



『……けれど、だとすると。

 どうして“黒隠”は、この噂を放置したままなの?

 ……いや、それ以前に。

 どうしてそんな噂が立つまで放置していたの……?』



『この桜の木に人を集めさせたく無いような……?』



 その瞬間、桜井の脳内で点と点が繋がった。



(もしかして“黒隠”の能力って……)



 桜井自身、噂はあくまでも噂だと思っていた。

 その噂自体に意味があり、噂そのものは真実ではないのだと。


 しかしもし、噂自体も真実であったなら?

 “呪いの桜”自体が“黒隠”の生み出したものだとしたのなら?

 それが示す意味とは何なのか……?



 芋づる式に閃きだす。



 桜井の予想する“黒隠”の能力。

 その一つは、“記憶操作”であるのだろう。

 “記憶改竄”と言ってもいいかもしれない。


 “記憶改竄”。どうしてそれが分かったか?

 それは大柄の影人に、話しかけた時の事。

 大柄の影人は何も答える事は無く、ただ無表情。虚ろな瞳であったのだ。

 桜井が怒りを覚えた理由である。


 記憶を操作し従える。

 そんな事。影人と仲良くなりたい桜井が、到底許せるものではない。

 だから察した。瞬時に理解した。

 “黒隠”はその能力で、大柄の影人を操っているのだと。



 次いで閃く。



 “呪いの桜”。

 その噂の根幹部分。

 それは生徒たちの放った言葉達。

 初めは『転んだ』『怪我をした』と、『その理由が桜の木にあるのだ』と噂が流れだす。

 その噂は伝播して、最終的に『就活に失敗し続けるのはこの桜の所為なのではないか?』とまで行きついた。

 結果として生徒らは、その桜の木に近づく事が無くなった。


 その噂の出所は分かってない。

 ただ唐突に、突然囁かれだした事。


 その背景に、“黒隠”の動きがあったなら?


 持っているその能力。

 “記憶操作”を利用して改竄し、広めたものであったなら……説明も付くはずだ。


 出所は分からない。

 しかし噂は蔓延する。


 生徒の記憶を改竄し、それを行った“黒隠”の存在も抹消する。

 そうすれば、その証拠は残らない。

 転んだ記憶。それによって付いた傷。

 そのどちらもを、“黒隠”は作る事ができるのだ。


 その全ては自作自演。



 そして再びリフレイン。



 思い浮かんだ“黒隠”のセリフ。

 それは初めて邂逅した時の事。

 原田の件で、真城が怒った時の事。


『……でも、原田の奴は俺の“力”とか関係ないぜ?』


 “力”とは何だ?

 その時も、確かに疑問を持っていた。

 

 今判明している“黒隠”の能力“記憶操作”。

 その事を言っている?


 ……いや、そうではないと思う。


 このセリフはそもそも、真城が行方不明となった人々。

 影人化させた人々に対して言ったもの。

 或いは凪原町。凪原大学を“影人工場”としている行為に対して言ったもの。


 ならばここで言われる“力”とは、人を影人化させる為に使われたもののはず。

 

 確かに“記憶操作”なら、意図して悪い記憶を書き込んでストレスを与える事も可能だろう。

 特定の人に目を付けて、記憶を弄ってストレスを感じさせる。

 そうすれば、影人化も起こり得る。その可能性は高くなる。 


 だがそうか? 本当にそうなのか?


 “黒隠”は更にこうとも言っていた。


『もしかしたら少しばかりの後押しはあったかもしれないが……、どの道あいつの影人化は時間の問題だったのさ』


 ……と。


 もし仮に、この町の影人工場計画に“記憶操作”が使われていたとする。

 確かにその能力で、人間にストレスを与える事も可能だろう。

 しかしそれでは疑問が残る。


 “記憶操作”の能力は、少なからず相手の身体。もしくは頭に触れる必要があるはずだ。

 手も触れず、不特定多数の人間の記憶を操作可能ならば今現在。桜井や真城が洗脳を受けていない理由がない。

 そもそも“記憶操作”の能力がそれほど万能であったなら、このように戦闘が始まる事さえあり得ない。

 

 『俺に当たられても困る』とも言っている。

 もしも“黒隠”が原田の記憶を操作して、ストレスを溜め込ませたことが影人化の理由であるのなら、……そんなことをまず言わない。

 完全な加害者のはずだから。


 ではこの言葉の意味から何が読み取れる?


 何らかの能力は使用した。

 しかしそれで、原田を狙った事は一度も無い。

 原田を狙ったわけでは無いのだが、その能力の余波のようなものを受けた可能性は残ってる。

 ……そんなところか。



 誰かを狙う訳でなく、ただ不特定多数の人間に干渉する能力。

 それは一体何なのか?


 その答えは、今しがた桜井も理解した。


 目の前にある桜の木。“呪いの桜”。

 それは一体どんなものであったのか。

 

 何も難しく考える必要などなかったのだ。

 答えは初めから、桜井達へストレートに提示されていたわけだ。


『近づくだけで運気が落ちる桜の木』


 そう。

 “黒隠”の持つ能力は、――“運気操作”なのだろう。




 “運気操作”を利用して、“呪いの桜”を生み出した。

 “記憶操作”を利用して、その噂をばら撒いた。――その理由。




(もしかして“黒隠”は、本当にこの桜の木に人を近づけたくなかったの?

 その為に噂をでっちあげて、桜広場を閉鎖させた?


 ……じゃあ“黒隠”が今も尚撤退せずにいる理由って)



 ふと、桜井の脳裏をよぎるもの。

 それは大柄の影人に向けて飛ばしていた影槍の対象を“黒隠”へと切り替えた時の事。

 その一件を思い出す。


『待て!!

 お前は先にその女を始末しろ。この程度の攻撃なら問題ない』


 そう言って腕を振り、桜井の影槍へと対処していたが……。

 あの時に一瞬“黒隠”が背後を確認していた事を、桜井は見逃してはいなかった。


 “黒隠”の背後にあったもの。“呪いの桜”。


 “黒隠”は間違いなく、桜井の影槍が“呪いの桜”に当たる事を警戒していた。

 だからこそ“黒隠”は、避けるのではなく弾くという選択を取ったのだ。


 思い返して見ればそれだけではない。

 桜広場一帯をまるで蜘蛛の巣のように影の糸で覆った時も、終始“黒隠”は“呪いの桜”を気にかけていた様に思う。

 桜井は木の幹を利用して影槍の方向転換を行っていた。

 それにより事実、桜広場一帯を影の糸で張り巡らせる事には成功していた。

 しかしそれでも、影の糸を“呪いの桜”に絡ませる事は出来なかったのだ。


 理由は勿論“黒隠”が全ての影槍の向きを変え、“呪いの桜”への接触を拒んだ為。


 桜井は一度張った影の糸からも、更に枝分かれするように影槍を射出していた。

 影槍の先端以外も警戒しなければならなくなる性質上、“黒隠”の近くにある桜の木。“呪いの桜”に影の糸を巻き付かせたくなかったのだとも思っていたが、そうではない。そうじゃ無かった。


 全ては“呪いの桜”を守る為。


 

(私達がずっとここで戦っていたから“黒隠”も離れられなかったんだ。

 私達の戦闘で、“呪いの桜”に傷を付けたくなかったから……。


 なら、私達の前に現れた本当の理由も……“呪いの桜”を調べられたくなかったから?

 私達に、触られたくなかったから?


 ……そうか。

 そういう事だったんだね)



 突然起こった躓きが、全ての物事と結びつく。


 “黒隠”の能力。そしてその目的へ。



「……だったら。――――攻略法が分かったよ」



 瞬間。

 真城の操る黒煙が、風に揺られて霧散した。



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