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カゲビト  作者: 永眠布団
第二章 初任務

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第24話 『弱点の確信』



 続く攻防。

 砂の粉塵が舞う中で、大柄の影人と真城桜井は対峙していた。


 その戦闘中、明らかとなった大柄の影人の新たな能力。――“再生”。

 

 それは、真城と桜井を絶望させるに等しいものであった。


 しかし、と同時に、桜井には納得出来るものでもあった。

 “再生”。それは傷を癒し、肉体を回復する力。

 もし仮に、その能力が脳への負荷を軽減し回復をしているとするならば……。


 能力の酷使。

 それに対する抑止力として機能する。



 大柄の影人はこの戦闘が始まって以降、様々な能力を使用している。

 それはまず第一に“影操作”。

 影人の持つ基本能力にして一番応用力、汎用性があると思われる力。

 それに加えて“念動力(テレキネシス)”、“瞬間移動(テレポート)”、“肉体強化”、“再生”と四つの力を併せ持つ。


 主に使われるのは“影操作”と“念動力”。

 隙を見つければ“瞬間移動”をし、攻撃をするのなら“肉体強化”と使い分ける。


 しかしその戦闘スタイルに桜井は少しばかりの疑問があった。

 それは先程も述べた様に“能力の酷使”である。


 能力の使用。

 それには大なり小なり脳を使う。

 例え感覚で操作している様なものでも、実際には脳を使っているわけだ。

 それ自体は別に珍しい事では無い。

 頭で考え、それを行動として出力する際、人は必ず脳を使う。

 人はただ“歩く”という動作でさえ脳を使っているわけだ。


 ではそのような行動。

 ただ“歩く”という簡単な動作ではない。

 “戦闘”をしている中での事。

 身体を動かす事に加えて、状況に応じて能力を行使する。

 それも一度限りの事ではない。何度も何度も、その能力を使用する。


 それは思っているよりも数段難しい事柄だ。


 能力の酷使。それによる弊害は桜井も既に経験した。

 桜井の場合は能力の酷使もそうなのだが、それ以外にも様々な要因があったと言えなくもない。

 ただの操作ではなく、正確な、繊細な操作が求められた事。

 わざわざ陽の光が照り付ける広場で行った事等々だ。


 桜井も初めは違和感を持ってはいなかった。

 そういった悪条件が重なった事により、大柄の影人よりも早く桜井の方がグロッキーになったのだと、そのように考えていた。


 能力の熟練度が上がれば一つ一つの能力使用に対して行う脳の処理が軽減されていく。

 それは“慣れ”や“最適化”によるところではあるのだが、逆に言えば熟練度が少ない状態での能力使用にはより多くの脳処理が必要となってくるわけで……。

 その熟練度の差もまた、桜井が早くグロッキーとなった原因だと思っていた。



 しかしどうやら違ったらしい。


 能力酷使を可能とし、長時間の戦闘にも対応する。

 そんな能力があったなら……。


 それは桜井の抱いた疑問に対する答えとして、最も適した解答だった。

 

 


 紛う事無き強力な影人“フェイズ4”。

 その存在をもっと早く知っていれば。

 本部がその存在を把握していたのなら。

 間違いなく識別名(コードネーム)が付けられていたであろう個体。



 

 しかし、それでも桜井の作戦は崩れない。

 確かにその能力は想定外の出来事だ。

 能力をほぼ無制限に使用出来るなど、考えたくもない事実。


 しかし、それだけ。

 言って見れば“それだけ”だ。


 脅威ではある。

 しかしそれでも問題ない。

 逆にその情報を今知れた事に感謝しよう。


 桜井が真城へと視線を送る。

 それに対し真城が小さく頷く。


 桜井が立てた計画。

 それに必要な一段階目。

 大柄の影人の能力を把握する事。またその弱点に対する確信を持つ事。

 その段階は概ね九割ほど終了した。


 あと少し。

 あと一つ。

 それさえ終われば完璧だ。



 風に舞う砂の煙幕が消えていく。

 そのタイミングを見計らい、桜井はポケットに手を入れる。

 中から取り出したものは煙玉。

 まだドーム状の煙幕がはれている段階で、真城との作戦会議中に忍ばせていた代物だ。


「晴輝くん!!」


「了解!!」


 事前の打ち合わせ通り。

 計画に乗っ取って行動する。

 桜井の合図で真城は一気に大柄の影人の懐へと飛び込むと、勢いに任せて数発の連撃を叩きこむ。

 同時。桜井が煙玉を二つ叩きつけ煙幕を発生させる。

 砂の煙幕が完全に無くなる瞬間、辺り再び別の煙幕が包み込む。

 それはまるで煙幕内に大柄の影人を閉じ込める様に。

 

 黒い煙。

 それは“影狩り”の特別製である戦闘補助アイテム。煙玉から噴出したもの。

 その利点は『煙幕自体の操作』と『煙幕の生み出す影の操作が出来る』点。


 桜井が煙幕を張ると同時。

 真城がその制御権を譲り受ける。


 本来であれば、煙玉からなる煙幕を敵の間近で使うべきではない。

 それはこの煙幕の利点と利用方法を敵に悟られていた場合、その制御権を逆に奪い取られかねないからだ。

 風に舞う黒い粒。極小固体を自身や味方の影で捕まえなければならない性質上、自身らよりも早く敵の影に捕らわれてしまうと、逆に敵へのメリットになってしまう。

 そういった問題点も頭には入れておかねばなるまい。


 しかし結果として今回、そのような問題にはならなかった。

 桜井が初めに煙玉を使用した際も彼ら影人は驚いていた様子であり、この煙幕についても初めて見るといった具合だった。

 その為、制御権の奪い合いにはならないと踏んでいたが、どうやら正解したらしい。

 これでまた一歩。作戦の成功へと近づけた。


 煙玉から放たれた煙幕は、真城の制御に従って動き出す。

 それは大柄の影人と真城を取り囲むようにして回る。

 煙の密度も濃い。それは今回の作戦として機能させる為に煙玉を二つ使用したおかげ。

 前回のドーム状を作る必要は無い。

 ただ大柄の影人と真城を取り囲む事だけ(・ ・)に重点を置き、全ての煙幕を利用する。

 もはや二人の周りは黒一色。

 煙幕内から外の様子を窺い知ることの出来ない空間が出来上がっていた。

 円筒状に回転する煙幕の上からのみ太陽光が差し込んでいる。


 その中で真城は今までよりも増して全力で挑みかかる。

 雄叫びのような気合の入った掛け声と共に、この機のみ、その一点にのみ全てを注ぐ。そんな覚悟で。

 


 そして、当の桜井はというと……。

 

 真城の操る黒煙を抜け、“黒隠”へと一直線に駆けていく。



……



「なるほど、そう来たか」


 自身へと向かって駆けてくる“影狩り”の女、桜井を見て“黒隠”はそう呟いた。

 元から桜井の狙いについては色々と考えていた。

 何かを狙っている可能性。それについては明白だったからである。

 しかしまさかその狙いがこれとは……。


(土煙の時点で気付いているものと思っていたが……。

 それはあくまでも可能性の段階。それを確定させる為だけに、この作戦を仕掛けたか)

 


 桜井の作戦。

 それは“黒隠”と大柄の影人を分断すること。

 いや、……厳密に言うのであれば。


 “黒隠”と大柄の影人を分断出来るか否か。

 それを確かめる事にあったのだ。


 全ては“瞬間移動(テレポート)”。その攻略法を知る為に!!



 ――してやられた。



「――ッ、安部!!!!」


 “黒隠”が大柄の影人に向かって叫ぶ。

 しかし……、大柄の影人はやって来ない。“瞬間移動”をして来ない。


 桜井が笑みを浮かべたのが見えた。

 弱点を確信されたわけである。


 “黒隠”は静かに舌打ちする。

 しかしそれは桜井にも届いたのだろう。

 してやったりと、そういった感情が桜井から見て取れた。



「……面倒だな」


 

 そうして。

 “黒隠”と桜井の二人がぶつかり合う。



……



 桜井が現状で確信を持てた大柄の影人の所有する能力とその弱点。


 まず一番に使用頻度が高い能力。

 それは言わずもがなで“念動力”。


 応用力や効果範囲にも優れており、ただ純粋に見ても強能力。

 大柄の影人はその能力を使い、周囲の土を操作して壁を形成。或いは土を固めて作った泥団子を投擲。また単純にその能力で相手の身体を押さえつけて拘束する等、様々な利用をして見せた。


 “念動力”。

 それは言ってしまえば、手を使わずに物を動かす能力だ。

 念と呼ばれる不可視の力が物体を掴んで操作する。仕組みを言えばそんな所か。


 しかしその能力に関して言えば使用頻度が高いが故に、いざ弱点を探すとなると簡単だった。降って湧いた疑問から答えに行きつくまでに、そう時間はかからなかった。


 “念動力”の弱点。

 それは結論から言えば、『“念動力”で捕らえる事さえ叶わなければその影響を受けることは無い』という事だ。


 能力が及ぶ効果圏内には近づかない。

 それは当たり前の事である。

 ただこの場合、その事のみについて言っている訳ではない。


 “念動力”とは、不可視の力で掴んだものを操作する能力。

 つまり逆に言うのなら、その不可視の力で干渉出来ない、触れることの出来ないものについては操作する事が出来ないという事だ。


 他からの干渉を受けないもの。

 唯一、同種のものでしか触れる事が出来ないもの。


 それ即ち、“影”である。



 初めに桜井が疑問に感じたのは戦闘時。

 真城が大柄の影人へと向かって行った際、突如苦しみだした時の事。

 そう。それは、真城が初めて“念動力”に捕縛された時の事である。


 真城は自身を握りつぶさんとする不可視の力に捕らわれた後、“影纏い”を使用した。

 その結果、“念動力”の押しつぶす様な力と“影纏い”による硬化の力が拮抗出来たおかげで、真城は事なきを得る事が出来ていた。


 もしもこの時、“念動力”が“影”に干渉する事が出来るのだとしたらどうだろう?

 真城の身体を覆う様に包み込む影の防壁。そんなもの、妨害しない訳が無い。

 相手が影人である以上、“影纏い”とその効力を知らないという可能性も無いだろう。

 なら、考えられる事は一つしかない。

 分かっていても、妨害する事が出来なかったのだ。

 真城の操る影に対し、“念動力”で触れることが出来ないが為に。


 判断材料はなにもこれ一つだけではない。

 桜井が使用する警棒。

 それは戦闘時、剣として使用する他にも纏わせた影を変化させることで槍や鞭といった形状にして利用することがある。

 桜井はこの戦闘、主に鞭として使用しているわけなのだがその際に、大柄の影人は決まって鞭攻撃を突起させた土壁で対処していた。

 しかもわざわざその土壁に影を纏わせるといった行為までして。


 もしも“念動力”で“影”を操作出来るなら、そんな面倒な事をしなくていい。

 自身に向かってやって来る鞭状の影を直接操ってしまえばいいだけだ。

 土壁によって一度阻まれた鞭状の影を再び操作して大柄の影人に軌道修正した際は、土壁の生成が間に合わないからなのか決まって回避行動を取っていた。

 桜広場一帯を影の糸で張り巡らせた際もそうだ。複数の影槍で追尾した時もそうだ。

 大柄の影人は、桜井の操作する影に対して“念動力”を使用する素振りさえ見せなかった。


 彼は知っていたのだろう。

 影に対し、“念動力”では干渉する事が出来ないのだと。




 その弱点については、真城とも既に共有済み。

 煙幕の中、作戦と同時に伝えた内容だ。


 だからこそ、煙幕が晴れて以降の戦闘ではフルで“影操作”を利用していた。

 真城も桜井も、身体に影を纏わせて、身体を縛り付けんとする“念動力”に対処する。

 ただ軽く“影纏い”をするだけでも、十分に効果を発揮してくれたのは嬉しい誤算。

 動きを鈍くされる事さえ無くなった。


 それでも大柄の影人が“念動力”を使って本気で捕縛を試みた際は要注意。

 急いで纏った影を硬化させ、続く圧迫に備えなければならない。


 しかし、その最中でも出来ることは沢山ある。

 残った影を使い、自身の身体を押し出す様にして距離を取る。

 もしくは、実体化させた影を操作し大柄の影人に直接攻撃を叩きこむ等々。

 例え身体が動けなくとも、影さえ操作出来るならいくらでもやりようはあるわけだ。


 真城も本来であれば全身の“影纏い”で影を全て使う為、影が余る事は無いのだが、一部の“影纏い”を桜井が補ってくれる為、攻撃にも専念できていた。

 まさにチームプレイである。


 真城の連撃と桜井の攻撃。

 それらに対し大柄の影人が押されていたのも、別に大柄の影人が“念動力”を使わずにナメプをしていたという訳でない。

 使って尚、押されていたのだ。




 そして今しがた確信を持てた“瞬間移動”。……その弱点。

 

 まず桜井が情報として持っている“瞬間移動”についての知識。

 それら全ては“影狩り”の書庫で仕入れた情報。


 物体転移の異能力。

 “瞬間移動”を語る上で、


 ・何を転移させるのか?

 ・一度の転移で移動させる限度量は?

 ・転移先の指定は?

 ・転移先にものがある場合は?

 ・その他限定的な制約はあるか?


 といった五つの事柄が主に重要となるらしい。

 

 ……それら事柄について、今回の件を当てはめて考えた推察。推論。



 まず、何を転移させるのか。

 それはつまり、『自分自身を転移させる能力』なのか『自分以外の物体を転移させる能力』なのか。またはその両方か、という事である。

 これについて大柄の影人は、自身の転移に加えて石や土の塊等を転移させていた事からも、両方の転移が可能な能力であることが分かる。


 次に、一度の転移で移動させる限度量について。

 これは読んで字のごとく。

 しかし正直な所、これについては分からない。

 如何せん大柄の影人が現在転移させているものの中で一番重いものが自身の肉体であるという事以外、めぼしい情報は入って来ない為である。

 人の平均体重などには詳しくないが、大体五十キロから六十キロくらいだろうか。

 例え四十キロだったとしても、それは十分に脅威と言える。



 正直上二つ。

 これら事柄から得られる情報。推察できるものはこれしかない。

 ただ“強力な能力”という事を改めて理解したに過ぎない。

 重要となったのは以下三つ。



 転移先の指定。

 これはつまり物体を転移させられる場所の範囲。

 そしてその転移先は視界で捉える必要があるかどうか、だ。


 これについて桜井は、戦闘中に疑問があった。


 それは、脳震盪を起こし動かなくなった真城を助ける為に『煙玉』を使った時の事。

 桜井が操作する煙幕内。ドームの中へと大柄の影人が転移してくることはついぞ無かった。

 もちろん大柄の影人は、桜井の操作する影槍から逃げるのに必死だった事もあるのだが、それを加味しても、出来るのであればしないという選択は無いはずだ。

 ……では、何故そうしなかったのか?


 ここで一つの仮説を立てた。


 ドーム状の煙幕は見えても、その中を見ることが出来なかった。

 故に、ドーム状煙幕“内”へと転移する事が出来なかったのではないか……と。


 そしてこの事は、今回の件で証明された。



 転移先にものがある場合。

 それは例えば、人を転移させる時。転移先の座標に何か物体があった場合の処理がどうなるか、それがこの事柄の主題となる。

 物体。それは壁や地面。或いは水中なんかも該当する。


 考えられる可能性としては三つ程。

 転移する物体が、転移先の物体を押しのけて転移する可能性。

 また、転移する物体が転移先の物体と重なり交わる形で転移する可能性。

 或いはそもそも転移をキャンセルされる可能性。


 それら三つの可能性についての詳しい内容は省くとするが、しかし今回の作戦。

 大柄の影人の“瞬間移動”がどれに該当する能力か、それを調べるものだった。


 真城と桜井が大柄の影人と再戦した直後の事。

 桜井はあえて影鞭で大柄の影人に攻撃を仕掛ける事で、土壁を形成させる様に誘導した。

 大柄の影人が影鞭を“念動力”で操れない為、今まで通りに地面を隆起させた土壁でガードをするだろうと踏んだ為だ。

 案の定。土壁を生成させることに成功した。


 では何故、土壁を作らせたかったのか?

 それは、それを真城によって破壊してもらう事で、土煙を舞わせたかったからである。


 土煙。風に舞う砂の粒。

 多くの物体で満たされたこの空間内で、“瞬間移動”がどうなるのかを見極める為だけに。


 結果として、大柄の影人は“瞬間移動”を使ってはこなかった。

 真城と桜井が攻撃を畳みかけて尚、大柄の影人が逃げる事は無かった。距離を取る事も無かった。

 もちろん標的である真城と桜井がまとまっているのだから、大柄の影人が転移をする意味は然程ない。

 あえて“黒隠”の下へ行き、合流する意味も無い。

 しかしその戦闘中、大柄の影人が転移をしなかったとしても、別の物体を転移させない理由は無いはずだ。

 土も石も、そこらへんに沢山あるのだ。武器にしない意味が無い。

 真城が何回かされていた様に、顔の前に転移させるだけでも十分に仕事が出来るはずなのに……。



 これだけ揃えば十分だ。

 大柄の影人の異能力“瞬間移動”。

 それは、転移する物体の先に物体があったなら。

 転移先に、転移させる物体の大きさがしっかりと確保されていないなら、転移を使えはしないのだ、と。


 思えばこの“瞬間移動”。

 人間大の大きさの物が転移可能にも関わらず、恐れていた様な事態。

 真城や桜井が壁や地面の中へと転移される様な事は起こらなかった。

 これも同様に、桜井の仮説たる『転移先に物体があると転移を使えない』を証明する為の素材の一つと言えるだろう。



 最後に一つ。

 その他限定的な制約について。


 制約……つまりは能力使用に必要となる条件だ。

 数ある能力の中で、“電気を操る”や“炎を出す”といった単純な能力ではない、複雑と呼べる能力は偶にそういったものを備えている場合が多い。

 言って見れば、今まで述べてきた上四つの事柄も“制約”と呼べるものである。

 しかしそれらは“瞬間移動”という能力を説明する上で切っても切れない事柄だ。

 “瞬間移動”の異能力全体に対し言えるもの。


 だがこれは違う。

 事柄に“その他”とある様に、“瞬間移動”自体にある制約に加えて更にある“固有の制約”についての事である。


 “瞬間移動”についての固有制約。

 “影狩り”内に保存されていた情報の中にも二つあった。

 確か『ある程度の重量でも転移出来るが、転移先は事前にマーキングしておかねばならない』、『転移する物を目視する必要は無く、自身から直径一キロの範囲内にある物なら声に出すだけで呼び出せる』……だったか。


 そもそも影人の持つ能力が被る事自体稀である。

 “瞬間移動”に限った話ではないかもしれないが、よくこのような事例があったと感心する。



 今回、大柄の影人が使うこの能力。

 “瞬間移動”に、そのような固有条件があるかだが……。


 これに対しても桜井は、少しの疑問点を持っていた。


 それは大柄の影人が、視界を覆い隠す程の大量の土を真城に向けて転移させた後の事。

 大柄の影人の直撃を受けて吹き飛ばされた真城は、脳震盪を起こし動けない状態になっていた。

 その後とどめを刺す為に動く大柄の影人を、桜井が決死の覚悟で妨害する事になるのだが、……その時に、何故“歩いて向かっていたのか”が不可解だったのだ。

 それは走ればいいじゃないか、という話ではない。

 何故“瞬間移動”を使わないのか、といった話だ。


 “瞬間移動”を使って動けば、一瞬で距離はゼロになる。

 わざわざ歩く必要など無いはずだ。……では何故、能力を使わなかったのか?


 大柄の影人自身が転移出来ないわけでもない。

 動けない真城を目視出来なかったわけでもない。

 粉塵も舞ってはいなかった。

 人一人、自分一人が転移するスペースもちゃんとあったはずなのだ。


 それ以外の理由で“出来なかった”とするならば、それは固有の制約に該当する。


 以前にも一度考えた事ではあるのだが、大柄の影人が“瞬間移動”を使った時。転移物は何処に出た?

 前は早計だとして判断を見送ったのだが、もしも本当に“相手の眼前へしか物を転移出来ない”のだとすれば、その辻褄も合うのである。


 脳震盪を起こした真城が向いていた先は地面。

 俯き、下を向いていた為だ。

 この時の真城へと転移するなら、その座標は真城の眼前。

 つまりは地面のある場所となってしまう。

 そうなれば更に『転移先に物がある』、『大柄の影人が転移する為のスペースが無い』事にも該当し、結果“瞬間移動”が使えないという事になる。



 結論を述べるなら、大柄の影人の“瞬間移動”。

 それは最低でも自分大の重さの物体を転移でき、また自分自身の転移も可能。

 しかし転移先は限られており、目視出来る人物の視線の先。眼前への転移しか行えない。

 更に、転移先には転移する物体が収まるだけのスペースが空いている事が条件であり、スペースがしっかりと確保されていない場合は使えない。……そんなところか。



 残る二つの能力。

 “肉体強化”と“再生”だが……。

 これらに関しては明確に弱点と呼べるところが無い。


 単純に攻撃力を上げるだけの“肉体強化”は、避ける以外の選択肢が浮かばない。

 “再生”は判明してからそう時間も経っていない。

 詳しく調べれば再生限界だの急な肉体回復の反動なんかもあるかもしれないが……如何せんまだ情報が揃ってない。……こんな所が限界だ。


 しかし、“念動力”と“瞬間移動”の弱点判明は大きい。

 “黒隠”と大柄の影人を分断する事にも成功した。

 ここから反撃する。

 ここから反撃出来る。



 桜井の計画。その一段階目は完了だ。




 これより、計画の二段階目を開始する!!



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