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カゲビト  作者: 永眠布団
第二章 初任務

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第20話 『大柄の影人』



(……“黒隠(こくいん)”?

 あぁ、“影狩り”が影人に付ける識別名(コードネーム)とかいうやつだったか。

 長年“影狩り”の目を欺いて隠れ潜んでいた所為か、……その名の由来は。


 まぁ、いつまでも足立尊(あだちたける)などと呼ばれるよりはマシか)



 ……



 ――開戦。


 真城と桜井が“黒隠”へと駆ける。先手必勝。

 しかしその二人を阻む様に、大柄の影人が立ちふさがる。


 ふんっ!!

 と、大柄の影人が地面を大きく踏み鳴らすと同時。

 大柄の影人を中心として大地が揺らめく。


「――これは……ッ!?」


 目の前で起こる事態に桜井は顔を顰める。

 “黒隠”へと向かう足を止め、その様子を窺うように舵を切って距離を取る。


 真城は止まらない。

 何が起ころうと関係ない。

 目の前の障害は砕いて突破する。

 それが出来ぬなら、乗り越えてでも突破する。

 

 更に足を加速させる真城。

 例え相手の意図が分からなくとも、それをさせる前に突き抜けてやる。

 大柄の影人。……その後ろに控える“黒隠”へ、この拳を届かせる!!



「――へぶっ!??」


 突如、真城の視界に異物が映る。

 それを認識すると同時、それが真城の顔面へと直撃した。


 全力で走る真城には、それを避けるという選択肢が選べなかったのだ。


 激痛に顔を歪めながらも、自身へとぶつかったソレへ向け、真城は視線を移動する。


(……、これは……石?

 何だってこんな所に、突然……ッ!?)


 拳大の大きさの石。

 それが今、真城へとぶつかった物だった。


 大柄の影人が投げて寄越した……?

 いや、そんな動作は無かったはずだ。


 そもそもそれ以前に、……突如眼前へと現れた。


 理解が追いつかない。

 しかしそれでも、今ここで足を止める訳にはいかない。

 グラつく視界を根性で修正し、よろめく足腰を整える。


 大きく一歩。また一歩と、真城は“黒隠”へと向けて進み続ける。が、


(……今度は何だ!?)


 視線を前へと戻した真城は気づく。

 舞い上がった土の塊が、大柄の影人を中心として回りながら浮遊している。

 そしてそれは、大柄の影人の意思に従う様に、大柄の影人と“黒隠”を守る為の壁を築く。


 さっき真城の眼前に石を飛ばしてきた目的は、この土の壁を築く為の時間稼ぎであったらしい。

 大量の土を動かしている為か、その動きは少し遅い。

 どうやらこれが、この大柄の影人の能力のようだ。


 しかし……、


「どんな壁を作ろうが、ぶっ壊せば問題ないッ!!」


 大きく踏み込む。

 身体を捻り、遠心力で加速させる。

 体重移動も忘れない。

 拳へと影を纏わす。


 土の壁を壊すのだ。

 纏わした影の硬度値を、今出来る真城の最大へと持っていく。


「――くらえ……ッッ!!!!」


 強く、拳を振り下ろす。


 ボスンッ。と、鈍い音を響かせて、土の壁が大きく揺らめく。

 しかし、


「んぁ? ……抜けない!?」


 土の壁は壊れない。

 それどころか、ズブズブと真城の拳を飲み込んでゆく。


(くそっ、判断を誤った……!!)


 土の壁を見て、真城は固い壁を想像していた。

 そしてだからこそ、拳で破壊出来るものと考えていた。

 しかしこれは、土の柔軟さをそのままに、打ち込んできた攻撃、衝撃を吸収し無効化するタイプのものである。


(くそ、……どうする!?)


 拳を完全に土へと呑まれ、いくら引けども拳が抜けない状況に焦る真城。

 そんな真城の眼前、土の壁が退けてゆく。

 真城の拳を飲み込む土を残し、一部取り払われた土の壁。

 その奥から、拳を大きく構えた大柄の影人が姿を現す。

 いつでも攻撃が可能な体制だ。

 真城は未だに拳が囚われ、回避が出来ない。


「……くっ!!」


 咄嗟に真城は身体全体に影を纏う。

 ガードの体勢を整える。


 しかし大柄の影人が拳を振り下ろす瞬間、構えた右拳……並びに右腕の筋肉が膨張し、大きく膨れ上がるのを目撃する。


「……!?」


「晴輝くん……ッ!!」


 真城の危機を見て取り、桜井が咄嗟に駆ける。

 真城とは少し距離がある。

 ただ走るだけでは間に合わない。

 桜井は出来る限りの距離を自らの走りで縮めると、最後、靴裏に纏わせた影を勢いよく棒状に引き伸ばして、自身の身体を押し飛ばす。

 低い曲線を描いて飛んだ桜井は、何とか真城の所までたどり着くと真城の背中に手を当てると同時、真城の身体に桜井自身の影を纏わせてガードを更に強化する。


 瞬間。

 大柄の影人の拳が炸裂した。


 ドゴン……ッ!!

 という鈍い音を立て、真城と桜井の身体が大きく後方へと吹き飛んだ。

 ベキベキと音を立てて、二人掛で張ったはずの影のガードが砕け散る。

 二人は受け身も取れずに地面を何度かバウンドし、ゴロゴロと地面を転がった後に停止する。

 攻撃を受けた衝撃で、真城の囚われていた拳も解放されたが、……正直、それ所の話ではない。


 グラつく頭を押さえつつ立ち上がる真城。

 しかし、全身を強く打っていて上手く身体が動かない。


 桜井も同じく立ち上がる。……が、力を上手く入れられずに、ガクリと片膝を付く。

 ぼやける視界。そして意識。

 これは……、


(いてて……。

 咄嗟の判断で、私の影までガードの為に使っちゃった……)


 “影操作”。

 その能力で扱える影の種類には二通りのものが存在する。

 一つは自身の影。

 二つ目は自身の身にまとっている衣類などの影である。


 これら二種類の影にはそれぞれ使い方が存在する。

 勿論、そうしなければならないと言う訳でもない。

 しかしこれら影の扱いは、戦闘をする上でとても重要な事である。



――『自身の影が傷つけば、それは精神ダメージとして自分自身に訪れる』


 それは、影を扱う者達の鉄則事だ。

 “影狩り”が影人を斃す際、影人の肉体である“影”に対しダメージを与え続ければ良いといった事が言われるが、その理由がこれである。

 要は、芽生えた影人の人格が消滅するまで精神を削り続けろ……という事だ。


 影人達の共通の弱点。

 しかしそれは、影を扱う“影狩り”達にとっても諸刃の剣。

 影人だろうが人間だろうが関係ない。皆が皆、同じ事。


 “影狩り”ではそういった危険を避ける為、自身の影を使用する際の注意点などを定めている。

 まず第一に、自身の影を使わない事。

 相手からの攻撃を受ける可能性があるのなら、そもそも使わないという選択肢。


 第二に、自身の影を攻撃や防御といった重要な箇所に使うのではなく、扱える影の総量を増やす。或いは補助にのみ使うという選択肢。

 要は、水増しだ。

 例を挙げるのなら、原田の影人が扱っていた“ナイフ状の黒いモヤ”の射出だろうか。

 ナイフの部分には自身の影を使わずに、射出時に伸ばす部分に自身の影を使うといった感じである。


 逆に、いくら影がダメージを受けようと問題ないのが、衣類などの影である。

 影による武器の生成、“影纏い”。

 それら破壊されるリスクがある時は、こちらの影を扱うのが良いだろう。



 これらの話は、真城も既に学習済み。

 桜井も勿論然りである。


 ……とは言えど、失敗は誰にでも存在する。

 咄嗟の判断となれば尚更だ。


 桜井は先程、真城の元へ駆け付ける為に自身の影を用いた。

 更にその後、真城を守る為に影のガードを張ったわけであるのだが……その時に、衣類系統の影だけを使用すれば良かったはずが、自身の影も一部使ってしまったのである。


 それで攻撃を防げたならまだ良かった。

 しかし結果。大柄の影人によってその影のガードを破壊されてしまった。

 それにより、精神ダメージが桜井を襲った。――そういう訳である。



(うっ……、くっ……。

 こういう時、晴輝くんは自分の影が無いから、間違えとか起こさなくて良いよね……。

 まぁ、扱える影の絶対量が少ないって欠点は痛いけども……)


 そんな事を思いながら、大柄の影人を観察する桜井。

 その額には汗が滲む。


(……、どうしよう。

 状況から見て、あの影人さんも“黒隠”と同様“フェイズ4”だ。


 土の壁は、土操作?

 さっき腕の筋肉が膨張して見えたのも、多分能力。

 筋肉、……或いは肉体を強化する系の。

 晴輝くんの所にいきなり石が現れたアレも、もしかしたら……テレポートの類?


 “影操作”はデフォルトで持っているわけだから、現状分かる範囲でも四種類の能力、か)


 ただでさえ能力が未知数の“黒隠”に加えて、更にもう一人の“フェイズ4”。

 想定外、という訳では無い。

 ここが“影人工場”である以上、そういった事態も想定内。

 ……だがしかし、二人同時はかなりキツイ。


 真城は今回が初任務。

 桜井だって戦闘が得意という訳ではない。


 正直な話をするのなら、この二人での“フェイズ4”討伐。

 一人ずつでも辛すぎる。

 一ノ瀬が欲しい。

 直ぐにでも助けが欲しい。

 一体何処に隠れているのか……?

 ……ヘルプッ!!


「晴輝くん!!

 ここは一旦撤退しよう!!


 相手が悪すぎる。

 ここで“黒隠”を取り逃がすのは惜しいけど、一度体制を立て直して――ッ」


 桜井の言葉を遮る様に、桜井の眼前に人影が出現する。

 それは、先程まで遠くにいたはずの大柄の影人だった。


(――ッ!!)


 拳を振り上げた態勢に加え、膨れ上がった腕の筋肉。

 そんな大柄の影人を視線に捉えると同時、本能的に後方へ飛び退き回避する。


 遅れてドゴンと鈍い音が響き、先程まで桜井が立っていた地面が大きく抉られた。

 大気がわずかに振動し、土埃が宙を舞う。


(近づいてくる気配が全く無かった……。

 やっぱりこれはテレポートの類。

 どこまで応用が利くのかまでは分からないけれど、少なくとも人一人分の重さの物でも転移可能って訳だ……)


 更に一歩飛び退いて、冷静にその能力を分析する。

 情報は力である。

 ここで撤退しようとも、“次”への備えは大切だ。


 テレポート。

 それは物体転移の異能力。

 簡単に説明するのなら、A地点からB地点までの距離を無視して物体を瞬間移動させるものである。

 要はそれだけ。……しかし、だからこそシンプルで強力だ。


 長距離間の移動に加えて、相手への死角移動などその応用力は幅広く、ひとたび回避に専念されると攻撃を当てるのは至難の業。

 そして何より忘れてならないのは、それを攻撃にも応用出来る点である。

 察しが良い者なら一度は考える事だろう。

 相手の体内に直接物体を転移させたらどうなるか……?

 相手を丸ごと土や壁の中に転移させたらどうなるか……?

 恐ろしい事である。


 勿論、全てのテレポート能力がそれを可能という訳では無い。

 桜井が『テレポートの類』と言っているのはその為だ。


 能力には様々なバリエーションが存在する。

 そしてそれ故に、同系統の能力であったとしても同じ事が出来るとは限らない。


 例えば“パイロキネシス”と呼ばれる発火能力があるとする。

 要は炎を出す能力な訳だが、その炎が何処から出せるのかという事に決まりは無い。

 自身の手から炎を出す。

 身体全身を炎で包む。

 相手自身に点火する。

 上記全てを扱える。

 それら全ては、パイロキネシスとして扱われる。


 今回、この大柄の影人が使うテレポートにも出来る事、出来ない事はある筈だ。

 桜井が求めているのはそこである。


 ……しかし、


(情報が足りてない……)


 桜井は歯噛みする。

 確かに現状でさえ思い当たるものはある。

 自身の転移。石の転移。

 それらは二つとも、我々の眼前へと転移したものだ。

 しかし、だからと言って、相手の眼前へしか物を転移出来ないと考えるのは早計すぎる。

 

 転移させる物の位置にも疑問が残る。

 何処から持ってきた石なのかは定かではないにしろ、少なくとも手には握って無かったはずだ。

 衣類のポケットに忍ばせていたのか?

 将又、足元に偶々その石があったのか?

 ……或いは、手で触れずとも近くにさえあるだけで物の転移が可能なのか?

 考える事は山積みだ。


 が、



「ねぇ。あなたはどうして“黒隠”に協力するの?

 目的は? これがあなたのしたい事なの?」


 桜井は大柄の影人に問いかける。

 それは桜井にとって重要な事。

 能力への対策と共に、……或いはそれよりも大事な事。


「……、」


 しかし大柄の影人は答えない。

 ただ拳を構えると、次の攻撃の動作に入る。

 表情の無い顔。虚ろな瞳。

 ただただ無機質に、ゆったりと桜井を見つめている。


「……あたな、まさか」


 桜井は“黒隠”へと視線を向ける。

 それに“黒隠”は反応しない。

 

 だが、桜井には確信があった。

 証拠はない。しかしそれでも、確たる自信を持って……。


 プチンと何かが切れる音がした。

 そんな気がする。


「…………、」


 桜井を纏う雰囲気が変化する。

 重く、冷たいものへと切り替わる。


「前言撤回!!

 ここで“黒隠”を倒すよ、晴輝くん!!」


「……は、はい」


 初めて感じる桜井の怒気に、真城は少しばかり気圧される。

 さっきまで撤退しようとしていたのが嘘の様。

 だが真城はそれでいい。

 元々真城は“黒隠”をここで倒すつもりだ。


 真城も駆ける。

 “黒隠”へ向かって。


 大柄の影人が桜井の所へいる以上、今の“黒隠”を守る者もうはない。

 だがしかし、


「愚かだな」


 “黒隠”がそう呟くと同時、“黒隠”へと向かう真城を遮る様にして大柄の影人が現れる。

 一瞬で桜井の下から転移して来たのだろう。


 だがそれは、真城も想定済み。

 テレポートに対する知識は無いにしろ、これまでの大柄の影人の動きから、そういった移動法がある事は心得ている。

 だからこそ、いつでも拳を放てる状態で構えていた。


 いくら“フェイズ4”の影人に強力な力が備わっているとしても、あえて別々の場所で戦う利点はほとんど無い。

 互いに協力出来るなら、まとまっていた方が隙も生じ難いはずである。

 では、何故大柄の影人が単身で桜井の下へと行ったのか?

 それは大柄の影人の持つ移動法があっての賜物だろう。

 好きな場所に一瞬で移動出来るなら、いつでも元の位置に戻ることも可能である。

 大柄の影人にとって、距離はそれほど意味をなさない。

 相手の隙を見つけたらそこに移動し攻撃し、再び元の位置へ帰ればいい。

 そういうスタンスなのだろう。


 真城が“黒隠”へと向かうなら大柄の影人は戻ってくる。

 それは容易に想像可能。

 もし仮に戻ってこないなら、そのまま“黒隠”を叩けばいい。

 ……そして、もし戻ってくるのなら?

 その場所は簡単に割り出せる。


 わざわざ走る人間を止める為、後ろに転移する馬鹿はいない。

 左右も然り。何らかの妨害をするとして、躱されてしまっては意味がない。

 そもそも現在進行形で移動を続ける相手の左右に転移して、一体何が出来るのか?

 転移した時には既にもう、通り抜けられてしまっていそうなものである。


 真城と“黒隠”の合間。つまりは真城の眼前だ。

 それが一番。最善だ。

 相手の進路を邪魔する位置。

 それは間違いなくここしかない。

 仮に何らかの攻撃での阻害が失敗しても、身を挺しての妨害が可能であるその位置が。


 上下左右、さまざまな場所に転移する。

 そんな奴を相手取るなら、逆に転移地点を絞ってしまえばいいだけだ。

 ……そう。今回の様に。


 お前は、……大柄の影人は、自身の意思でここ転移したわけでは無い。

 真城の作戦に乗せられて、転移をさせられていただけだ。

 

(――ッ、狙い通り……ッッ!!)


 待ってましたと言わんばかりに、真城は構えた拳を打ち付ける。

 眼前の、大柄の影人へと向かう。



 だが、


「愚かだと言っている」


 憐れむ様な視線を向けて、“黒隠”がそう呟く。


「――ッッ!!?」


 瞬間。

 真城の全身を、不可視の力が駆け巡る。

 それはまるで、透明な手のひらで、包み込まれたような感覚。


「……ぐ、あぁあ!!」


 否。身体のあちこちを、全力で握りつぶされる様な感覚だ。


「が、あああああああああああぁあ……ッ!!!!」


「晴輝くん!?」


 真城の事態を見て、桜井が戸惑いの声を上げる。

 何せ、この異常事態。桜井には全く分からない。

 大柄の影人へ向けて、拳を振り下ろしたまでは分かっている。

 しかしその後、真城の動きが止まるや否や突然苦しみだしたのだ。

 それも、尋常ではない程に。


「……こ、のッ!!」


 メキメキと嫌な音を立てる肉体。

 そんな身体を守る為、真城は急ぎ全身に影を纏う。

 硬化は最大。出し惜しみなど必要ない。


 次第に、真城を締め付ける不可視の力と“影纏い”が拮抗を始める。


(これなら、……なんとか)


 痛みが和らぐにつれ、なんとか落ち着きを取り戻す真城。

 しかしそれでも油断は禁物。

 現状、どうにかなれているとは言え、敵の術中である事には違いが無い。

 早急に打開案を模索し抜け出さなければ、今度こそ真城の身が持たない。

 何せ、真城は全身への“影纏い”を数分しか行えない。

 


「晴輝くんを、――離せ……ッ!!」


 桜井は大きく警棒を振るう。

 その警棒の先端。纏わせた影を鞭状にしてリーチを伸ばす。

 向かう先は勿論、大柄の影人。

 

 ブンッ、という空気を切る様な音を立てて振るわれた桜井の攻撃。

 しかしそれは、突如せり上がった土の塊が大柄の影人を守る様に蠢いて、ボスンと桜井の攻撃を受け止める。

 本来であれば、土の塊など突き抜けてしまえるはずの“影”の一撃。

 影人や“影狩り”が影で生み出す攻撃は、好きな時に要所々々で実体の有無を変更可能。

 土の塊など、実体を一時的に無くしてすり抜けてしまえば良いだけだ。


 ……では、何故出来なかったのか。

 その答えは、

 

(……この! あの土の塊に薄っすらと影が纏わせてある。対策は万全ってわけか)


 影に実体が有ろうと無かろうと、影に触れられるもの。

 それ即ち、影である。

 目には目を。歯には歯を。影には影を。

 それは、“影狩り”が影人に対し行う対抗手段であり、且つ影人が“影狩り”へと行う対処法だった。



 次いで桜井へと視線を移す大柄の影人。

 未だに真城を謎の力で拘束する中、桜井へ向け、左手を前に突き出した。


(……ッ、何か来る!!)


 現状、この大柄の影人の持つ能力は未知数だ。

 何が起こるか分からない。


 最悪の場合、所見殺しといった事さえ起きかねない。

 真城の状況が良い例だ。

 何も警戒せずに飛び込んだ結果がアレである。


 敵の能力がハッキリとしない内は、迂闊な行動は禁物。

 その事を、真城よりも場数を踏んだ桜井は理解している。


 少しの油断。

 一つのミスで足をすくわれ、命を落とした者達を桜井は見てきた。


 そんな桜井だから取る行動。


 ……いや、そもそもとして。

 自身へと片手を向けられている状況など、その直線状はまず怪しいと疑って然るべきだ。

 まさか手からビームを放つとも思ってないが、それに近しい何かではあるのだろう、と。


 咄嗟に身体を前回転し、受け身を取りながらも右側への回避行動をとる桜井。

 そんな桜井の身体が突如、何かに捕まったかの様な不自然な力を感知する。

 上手くは言えないが、何か……。

 その“何か”……によって行動を阻害され、身体を思う様に動かせなくなったのだ。


 実際に右側への前回転には成功した。

 しかし、何か違和感があった。

 自信の体重が、急に重くなったかの様な……。

 或いは、スローモーションでしか身体が動かせなくなった様な……。


 そんな思考を中断する様に、更に桜井へと力が加わる。

 桜井の身体を、包み込み、抑え込む様な力。

 このまま居れば、身体を思い通りに動かせなくなる。……そんな考えが脳裏をよぎる。


(……まさか、これは)

 

 謎の力に抗う様に、今出せる全力を振り絞る桜井。

 地面を蹴り、後方へ跳ぶ。

 ……大柄の影人から、距離を取る為に。


 一歩。

 また一歩と、全力で後退する桜井。

 その内に、身体へとかかっていた負荷が軽減されてゆくのが分かる。


(やっぱりだ)


 桜井は内心で頷く。

 ある考えへと、たどり着く。

 そして、未だ囚われる真城。……その真城に起こり始めた変化を見て取り、桜井はその考えを確信へと切り替えた。


(そうか……。


 あの影人さんの能力……土操作なんかじゃなかったんだ。

 その操作出来る対象はもっと広い。

 

 これは、――――“念動力(テレキネシス)”だ!!)



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