第13話 『戦闘法』
(どうする……!?)
真城は焦る。
何故なら、場所が問題だ。
ここは学生食堂前。
学生や教員に加えて、一般客も利用する。
今が夏季休暇であってもそれは変わらない。
それに何より、食堂には店員がいる。
ここで戦闘なんて行えば、それこそ見つからない保証がない。
(……どうすればいい?)
しかし、そんな真城へと落ち着いた桜井の声がかかる。
「晴輝くん。
人のいない所まで走るよ!」
そう言って、目の前の影人から目を離し一目散に駆け出していく桜井。
それを見て後を追う真城。
「いいんですか!? あの影人ほっておいて!!」
「そんなわけないでしょー!
まずは戦える場所に誘導する。それが第一。
何より、あの影人は私達に用がある。
不意打ちだって出来たかもしれないのに、あの子はわざわざ話しかけてきた。
なら、考えうる可能性は二つ。
話し合いたいか。或いは、戦闘はしたいけど私達と同様に一般人には知られたくない、か。
あの様子だと前者はない。
だったら、私達が戦闘しやすい場所まで誘導する」
「そこまで分かってるなら別に走らなくてもいいんじゃ……?
向こうだって、この場所での戦闘は望んでないんでしょ?」
「あの子と仲良く“戦える場所”に向かえばいいじゃないか~って?
相手がそのつもりなら別に良いんだけれどねぇ~。
私の判断だって憶測でしかないし。
『一緒に行こう』で後ろから刺されたんじゃ意味ないでしょ?
敵同士なら警戒はしとかなきゃ。
それに、さっき言ったでしょ。
向こうが追いかけてきてくれるのが分かってるから、“私達が戦闘しやすい場所まで誘導する”って」
走る桜井の手には専用端末が握られていた。
そして、その端末をすごい勢いで操作する桜井の姿。
その画面を、真城はちらりと覗き込む。
桜井が開いている画面。
それは、任務に行く時に『支援部隊』から送られてきた“凪原大学のデータ”だった。
凪原大学の地図。
或いは、校舎などによって遮られ、人々の目から死角となりやすいポイント。
将又、大学内における人気スポットや不人気スポットの数々。
時間帯に応じた施設利用、個室利用……等々。
様々な情報が記されたデータファイルである。
桜井が見ていたのは、その中の施設利用についての項目だった。
「……!? 了解!」
突如、桜井の持っていた端末にメールが届く。
その内容を確認した桜井はすぐさま方向を転換し、“目的地”へと直走る。
そして“目的地”へと着いた桜井は、走りながらとは思えない流れる動作で影を操ると、施錠された扉の隙間へと影を滑り込ませる。
鍵を内側から解除すると同時、扉を開けて中へと侵入する。
真城が追いつき、中へと入った事を確認すると、再び扉を閉めて鍵をかけた。
二人が着いた場所。
そこは体育館だった。
何故、桜井がこの場所を選んだのか。
その答えは明白だ。
元々、“大学”という場所での戦闘など、行える所が限られている。
ただ、“広い場所”というだけであるのなら、テニスコートやサッカー場などでもいいかもしれない。
そういった物が用意されている大学も多い。
広いグラウンドがあるのならそれもいい。
しかしそこに、“人目につかない事”といった条件が加われば話は別だ。
となれば今求められるべき場所は、ある程度の“広さ”と“人目のつかなさ”両方を併せ持つ場所となる。
それが壁などに囲われているのなら、駐車場や室内プール、講義室、講堂。
何だっていい。
今回見つけたのが体育館というだけである。
一つ重要な点を加えるのならば、それは桜井が調べていた様にこの体育館が現在、誰も使用していなかった事だろう。
例えどれほど広く、閉鎖された施設内であったとしても利用者がいてしまっては意味がないからだ。
『支援部隊』から先程届いたメール。影人を誘導する場所の項目に、“体育館”があったのも決め手の一つ。
『支援部隊』は任務中、様々な情報を整理して端末に情報を送ってくれるのでこういった場合特に重宝する。
きっと今も“影狩り”が保有する監視衛星やその他諸々で“上”や“下”から覗いているのだろう。
唯一の心配事としては、土足で踏み入る点だろうか。
これから戦闘をする事を考えても、なるべく現場を荒らさないように心掛けた方が良いかもしれない。
あまり床や壁に傷を付けては、後に警察沙汰になりかねない……。
いくら“影狩り”と国の権力でもみ消せるものであっても、なるべくは避けたい案件だろう。
『収拾部隊』の仕事を増やしてしまうのも考えものだ。
隙を見て“影世界”へと引きずり込むのも手かもしれない。
それならば、辺りを気にしなくていい。
……真城の扱える全身の“影纏い”が数分間しか持たない、といった点を考慮さえしなければ。
「ひっどいなぁ~。どうせなら、私を入れてから閉めてくれればいいのに」
体育館の床に広がる影。
その一部が水面の様な波紋をたてて歪む。
中から人影が一つ飛び出すと、そのままコツンと足音をたてて着地する。
「“影世界”にも“影狩り”がいるって話だったから、警戒はしていたんだけれど……。
どうやら私程度には見向きもしてくれないみたいだね。
君らの本命が足立様であろう事は予想出来てるし、それで今回私が助かってるわけだから何も言えないんだけれどぉ……少しショックよねぇ?」
二人へと向かい語り掛けるその女性。
それは先程、学生食堂前で出会った影人だった。
桜井の予想通り、二人を追って来たのだろう。
ここまではとりあえず、桜井の立てた予定通りの展開だ。
女の影人が口にした足立様とは、まず間違いなく真城達の標的である足立尊。
“黒隠”のことだろう。
真城達の他に、数人の“影狩り”が“影世界”で待機していることも、どうやら影人達に筒抜けらしい。
女の影人が言った事。
『それで今回助かった』とはつまり、“影世界”へと入った瞬間に、“影世界”で待機している組に攻撃される可能性を警戒しての発言だろう。
残念ながらこの影人の予想通り、“影世界”で待機している組を今動かすわけにはいかない。
彼らはあくまでも、今回の標的たる“黒隠”を逃がさない為の処置。
包囲網を形成してもらっている役回りだからである。
確かに神崎にも、強敵が出た際は“影世界”へと誘導してくれればいい。二面からの挟み撃ちが出来る。
といった指示は出ている。
しかしそれは最終手段に近い。
こちらで対処可能な影人を、わざわざ待機組に処理させて包囲網を崩しては本末転倒もいいところ。
むしろ、“黒隠”以外の強敵。
“フェイズ4”が出た際は、“そういった作戦”である可能性も考慮した方が良い。
包囲網を崩し、その隙を突いて“黒隠”が脱出する。
そういった行いは『影世界専門部隊』との戦闘の際、“他の影人二体を犠牲とすることで、自身が身を隠す時間を作る”といった作戦でも一度、使用されているのだから。
待機組を使うのは最終手段。
そして、どこに隠れているのかも知らぬ一ノ瀬も同様だ。
可能な限り、こちらで全て対処する。
それが真城と桜井の役割であり任務である。
女の影人は両手を広げると、その手に黒いモヤ。影を纏わせる。
両手の肘から先を黒く染め、指の先、長く伸びた鋭利な爪を形作る。
瞬間。
ドッと床を蹴り、一瞬で二人の間へと距離をつめる女の影人。
真城は驚いて横へ躱すが、桜井はそれを見越してか、女の影人が跳んでくるタイミングに合わせた回し蹴りを叩きこむ。
「そぉ、っれ!!」
そして女の影人も、桜井の動きを捉えていたのだろう。
二人の間へと向かう途中、攻撃の構えを崩して両手を眼前でクロスさせると、受けの構えに切り替える。
ドスンと鈍い音が響き、互いの肉体が激突する。
衝突した。と、真城が認識する頃には、既に互いは受けた反動を利用して後方へと飛び退いた後だった。
「や~るねぇ。あんた。ヒヒッ」
「ふっふっふ~。それ程でもあります。
私なりに、戦いには慣れてきたつもりですからね!」
自身の攻撃に対し、受けるどころか反撃して見せた桜井へと称賛の言葉を贈る女の影人。
対し、チラリと真城の方へと視線を向ける。
「相方さんはそうでもないようだけどぉ~?」
「そこは多めに見てあげて!
晴輝くんは今回、初任務なんです!!」
「……あはは」
女の影人と桜井。
そんな二人の会話に苦笑いを浮かべる真城。
女の影人の喋り方が独特である事に加え、桜井の会話も十分に独特だ。
今が戦闘中であるにも関わらず、喋り方に変化がない。
敵だというのに、まるで仲間や友達と話しているような……。
何と言うか……真剣さというか、シリアスさが足りていない。
気が抜けてしまいそうになる心を抑え、真城はなんとか立ち上がり体勢を整える。
女の影人が急に距離を詰めてきた為に、とっさに避ける選択をしてしまったが、どうやら失敗だったらしい。
以前、原田の影人と戦闘した際は、そういった距離を詰めてくるような動作の前には必ず予備動作があったのだ。
“全身を黒いモヤで覆う”。
そういった、分かりやすい予備動作があったからこそ真城は適切な対処を行えた。
しかし、今回はそれが無かった。
全く警戒をしていなかったわけでは無い。
だが、そういった“距離を詰めてくる”動作の前には必ず予備動作がある、といった前提があるものと考えていた。
信じて疑わなかったのである。
しかしそれが間違いだった。
それこそが、失敗だったのだ。
……と、なれば、だ。
原田の影人が使っていた移動法とは別物と考えた方が良いだろう。
今回の影人は、予備動作なく距離を詰めるもの。
そう警戒して臨むしかない。
「晴輝くん。
どうやらあの影人さん。“フェイズ3”のようだね」
桜井からの声がかかる。
桜井は先程の攻防から、この女の影人が“フェイズ3”であると結論付けたようである。
“フェイズ3”と“フェイズ4”。
影人には“フェイズ”がある。
そしてその中で、肉体の乗っ取りが完了している影人は、この二つの“フェイズ”に分けられる。
影人は、その“フェイズ”によって、戦闘方法が多少異なる。
勿論、全ての戦闘に対して同じ方法を取る事も可能だが、“一応”本部より決められた戦闘スタイルというものが存在する。
する。といった話を真城は九条から聞いていた。
~ ~ ~ ~ ~
それは、一週間の戦闘訓練中。
九条との、ある会話の中にあった。
“影操作”の会得途中。
操作する影、纏わせる影の硬度について真城が質問した時のことである。
「影人を相手にする場合、ただ“影操作”を使って武器に“影纏い”させるだけでも十分に効力を発揮します。
武器がちゃんとした物であればある程、“影纏い”の硬度は必要としません」
そんな事を、九条は口にした。
「例えば原田さんとの一件。
一ノ瀬さんは鉄パイプに影を纏わしていました。
どこから拾ってきた代物なのかは分かりませんが……。
とにかく、ああいった物であれば殴るだけでも十分な威力を期待できます。
そういった場合のみ、“影纏い”の硬度はそれほど重要となりません。
比較的手に入りやすく、また武器として使用できるもの。
簡単に思い浮かぶものとしては包丁。
工具なんかで言えば、のこぎりや金槌、ドライバーやバールなどがあります。
……でも、そういった物を持って任務に行くわけにもいかないですよね?
見つかれば何かと問題になる可能性もありますから。
“影狩り”において、“影纏い”の硬度を主に要求されるのは、日の当たる場所で任務を行う『戦闘部隊』です。
先程も言いましたが、我が国日本には銃刀法があるので、そういった意味でも、適当な物を武器として、殺傷力を上げる為に“影纏い”の硬度が必要となるんです」
どんな手頃な物でも、殺傷力のある武器に変える。
それこそが“影纏い”の利点だと話す九条。
「逆に“影世界”で活動する『影世界専門部隊』では、一般人の目を気にする必要が無い為、刀などといった、ちゃんとした“武器”が用意されます。
その為、“影纏い”の硬度をあまり必要としません。
ですが代わりに、“影世界”からの毒素から肉体を保護する為、全身への“影纏い”をずっと行っていなければなりませんし、戦う影人も強力です」
などと、別部隊との違いについても九条は述べる。
まぁ、要は何が言いたいのかといえば、今後真城が配属される『戦闘部隊』では“影纏い”での硬度変更が重要、といった話である。
一般人の目を気にしなければならない『戦闘部隊』は、手頃な物を武器として扱わなければならない為、“影纏い”の硬度が求められる。
対して『影世界専門部隊』は一般人の目を気にしなくてもいい為、しっかりした“武器”を扱える為、“影纏い”の硬度は求められない。
ただし、それ以外での“影操作”や“影纏い”が重要となってくる。
といった話である。……一長一短と言えば適切だろうか。
「何も硬度の変更は“影纏い”だけのものでは無いですよ?
“影操作”で操作する影にだって硬度の変更は扱えます。
原田さんとの一件。
真城さんは、肩に傷を負っていましたよね。
あの時の傷は、何によって付けられたものでしたか?」
「……影、ですね」
真城は言われて思い出す。
そういえば確かにそうだった。
原田の影人が操る黒いモヤ、……影によって真城は傷を負ったのだ。
「形を自在に変えることの出来る影は、鋭く尖らせたり、ナイフの様に薄く研ぐことで威力を増す事が出来ます。
“影纏い”との違いは、あくまでも“影のみ”で形を成している分、持続して行使するのが難しく、それが言わば欠点です。
影を操り、同時に武器の形を形成し、その硬度をも変化させる。
そんなことを戦闘中ずっと行うとなると、集中力が持ちませんからね。
“影纏い”はそういった点を解消し、扱いやすくしたものと思ってくれるといいです。
武器や、それ相応の物に影を纏わせるだけなので、影で武器を形成する手間を省き、影の操作や硬度の変更に集中できます」
なるほど。と、真城は原田との戦闘を思い返す。
原田が操っていた影。
腕から伸ばすようにして射出していたナイフ状の黒いモヤ。
先端は確かにナイフの形状をしており、硬度の変更が加えられていた為か殺傷力もあった。
しかし、それ以外の部分。
先端の部分以外はただの黒いモヤでしかなかったのだ。
あれはきっと、真城に当てる為の先端以外をもナイフの刃のように形作れば、それだけでかなりの集中を必要としてしまう為、あえてモヤのままに止めていたのだろう。
何より、真城に攻撃が当たらず、何度も黒いモヤを射出し続けた原田の疲弊具合はすごかった。
あれこそが九条の言うところの欠点だったに違いない。
「真城さんは覚えるのが早そうなので、影人との戦闘方法についても少し詳しく教えておきますね。
先程お話した“影操作”と“影纏い”の利用法についてです」
そう言って、九条は胸元のペンダントを操作して“影結晶”を表に出すと、いつでも“影操作”が可能な状態となる。
「影人は、その戦闘力や成長具合に応じて“フェイズ”分けをしているといった話はしましたよね?
実は“影狩り”では、そういった影人の“フェイズ”に対していくつかの戦闘方法を推奨しているんです。
が……。
その中で、問題となるのは“フェイズ3”と“フェイズ4”です」
九条が部屋の壁に立てかけていたプラスチック製の棒を手に取る。
それは元々、真城達が戦闘訓練の際……、模擬戦の為に用意されていた武器である。
長さは大体、三、四十センチぐらいだろうか。
一応は殴られても痛くない程度に設計されているのだが、実際に模擬戦を行うとなれば“影纏い”が使用される為、ほとんど意味がない。
まぁ、丈夫ではあるので多少のことで壊れないのは利点と言えるだろうか。
「戦闘面での話をするのなら、全力で戦うことの出来る“フェイズ4”の方がやや簡単といったところでしょうか。
影人の中で最も強力で、斃すのが困難である点さえ除けば……では、ありますが。
前に言った様に“フェイズ4”には、普通の武器が当たりません。
実体が無い為に、それを捕らえる技が必要。というわけです。
今まで散々言ってきた“影操作”と“影纏い”ですね。
まぁ、元々影人と戦う事が出来るのは“影耐性”を持つ我々のみですし、実体が無いといった特徴は“フェイズ1”や“フェイズ2”にも当てはまるものなんですがね……。
そして、“フェイズ4”が最も厄介としている点。
それは、何らかの“能力”を数多く有している事です。
“フェイズ3”でも能力を持つ個体はいますが、それでも精々一つ。
多くても二つの能力を有する程度です。
しかし、“フェイズ4”まで成長した個体の中には四つ五つと能力を宿す者が多く、影を扱った攻撃よりも能力を扱った攻撃を主流としています。
持っている能力が分からない内に突っ込めば、すぐに足元をすくわれますよ」
と、“フェイズ4”の危険度について改めて説明する。
“能力”とは一体どういうものなのか?
それには“影操作”や、一ノ瀬が一瞬だけ真城に行ったテレパシー。“念話”。
真城が“灰”から貰った“力”などが該当するようだ。
そして、そういった数ある能力の中でも、とびぬけて凶悪な力を有する影人は、危険度に応じて識別名を与えている。
本部十階層にある書庫や、専用端末からアクセス可能なデータベースでは、それら識別名持ちの影人の情報が閲覧可能であり、その影人の写真及び特徴、現在判明している能力情報などが記載されているとの事らしい。
「真城さん達『戦闘部隊』が戦う上で一番気を付けなければならない相手。
それは多分、“フェイズ3”でしょう。
他の影人と違い、“フェイズ3”のみが持っている特徴。
それは“実体がある”ということです。
影人の人格によって精神を乗っ取られてはいるものの、身体は人間である事を忘れないでください。
影人において、“フェイズ3”とは非常に特殊な状態です。
影人達の人格が何処に宿っているのか、詳しい事は分かっていません。
しかし、影人の肉体である“影”に対しダメージを与え続ければ、人格が消滅し斃せる事は判明しています。
それは“フェイズ3”でも同様で、例え人格を乗っ取っている状態であっても、身体を覆う“影”さえ削り続ければ斃す事が可能。ということです。
“フェイズ3”との戦いの基本は、“影操作”を使う事。
例え“影纏い”を使ったとしても、武器を直接当てるのではなく“影操作”で形成した部分で攻撃します。
……そして、これは今まで言ってきた影の硬度変化によって“影を実体化”させる方法に加え、人間の部分である肉体には攻撃を当てないようにする必要があります」
九条は持っているプラスチックの棒。
その先端に影で形成した刃を付けてリーチを伸ばす。
「真城さん。腕を伸ばしてもらえますか?」
そう言われ、無言で腕を伸ばした真城。
その腕へと向かい、九条が刃の部分を振り下ろす。
ビクリと一瞬目を逸らし、身構える真城であったが、いくら待てども刃が触れる感触が伝わらない。
無論、九条も真城を攻撃しようと思ってやっているわけではないのだから当然ではあるのだが、……疑問を覚えた真城はその視線を恐る恐る自身の腕へと移動させる。
そこで真城が見た光景。
「これは……」
真城の腕の形。
その肌の表面を添うように、九条の作る影の刃が形を変えて真城の腕にくっ付いていた。
それは昔、手品のグッズで見たような。
ナイフの刃の部分。
中間部にU字型、半円形のくぼみが付いており、そこに腕をはめ込むとナイフが刺さっている様に見える、といった仕組みに似ていた。
刃の形はしっかりと形成されているにも関わらず、真城が腕を動かせば、それに合わせて腕の触れる部分の刃が実体を無くして触れられない状態に変化する。
「この技術を使って、“フェイズ3”の影人の部分のみを切りつける。
それが、“フェイズ3”の斃し方ですね。
これは斬撃系統のみならず、打撃系統の攻撃であっても一応同じ事が可能となっています。
無暗やたらに“フェイズ3”に攻撃を与え、髪の毛や血痕、汗や唾液、指紋といった証拠を残してしまうと、後々面倒ですからね。
いくら我々が国の協力の下、隠蔽作業を行えるとしても……そういった案件はなるべく起こさないのがベストですから。
まぁ……そういう戦闘法が面倒でしたら、いっそ“影世界”へと引きずり込んでしまうのも手です。
いままで説明しておいてなんですが、“影狩り”の皆さんは基本そちらで行っていますからね」
~ ~ ~ ~ ~
真城は、懐から黒い革手袋を取り出すと両手にはめる。
それは真城が本部から貰った“武器”である。
“武器”……ではあるのだが、それはあくまでも日用品の類でしかない。
影人を殴る際、自身の拳を痛めない為の処置だ。
一週間の戦闘訓練の中で、真城はどんな武器が戦いやすいのか。といった軽い調査も行った。
その結果、剣や杖、槍などといった武器の扱いがからきしダメだという事が判明した。
元々、そういった事をしてこなかったのだから仕方ないのだが、どんな武器を振るうにも技術がいるというお話だ。
結局、真城は『武器を使うよりも相手に近づいて殴った方が早い』理論に達した為、この革手袋が採用となった。
一応ではあるが、手の甲や指の付け根の部分には鉄のプレートが入れられており、殴った際の威力をサポート、ガードなどにも利用出来るようになっている。
勿論、一般人に向けての使用は厳禁だ。
加えて左手首に付けた腕時計型のブレスレット。
その文字盤の部分を時計回りに回転させる。
こうする事で、中に内蔵された“影結晶”が表に出て来る仕様となっている。
表。とは言うものの、実際に出て来る箇所は時計の裏側。
『裏ぶた』と言われる部分だ。
これにより、“影結晶”と肌が密着し、“影操作”を扱えるようになるである。
戦闘の準備を終え、真城は正面にいる女の影人を見据える。
これからが本番。
真城が一週間の戦闘訓練で培った技術を披露する時だ。




