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カゲビト  作者: 永眠布団
第二章 初任務

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第10話 『任務開始』



 夏季休暇とは言うものの、人がいないわけでは無い。

 警備員や教師は勿論、部活やサークルに参加する者であれば夏休みであっても関係無い。

 上級生ともなれば、自身の研究やら論文やらで登校する者も少なくないだろう。


 ……とは言うものの、やはり夏季休暇は夏季休暇。

 平時と比べれば、明らかに人が少なく、ガラリとしている事には変わりない。


 真城晴輝と桜井明花。

 二人は今、凪原大学の正門を抜け、何事も無く大学内への侵入に成功していた。

 侵入……といっても、真城は元々ここの学生なのだから、別段何がどうという事もない。

 問題は真城の横を歩く彼女。……桜井の方である。


 見た目に少し……問題があると言えなくもない。

 それは今、桜井の背負っている大きめのリュックにある。

 一体何がそんなにパンパンになるまで詰まっているやら、……疑問が尽きない。


 それにもう一つ。


「……明花さんって、ここの大学じゃなかったですよね?」


「うん。

 ……でも今は、ここの学生だよ?」


 そう言って、桜井は懐の学生証をチラつかせる。

 そこにはしっかりと桜井明花が凪原大学の学生であることを証明する旨の手帳が握られていた。


 本部で任務内容を聞き終えた二人。

 真城はすぐにでも大学へ行くことを提案したのだが、桜井の準備があるとかで小一時間ほど待たされることとなった。

 その結果が、この賜物だろう。


「それって……偽造ですよね?」


 内容が内容なので、真城も声を潜めながら桜井に確認する。


「うん。

 でも大丈夫大丈夫。

 これだって、“影狩り”がする潜入方法の一つだし!

 

 流石に機械に通すなら、本部もしっかりしたのを作るんだろうけど……、大学ってセキュリティ結構緩いみたいだよ?

 勿論、大学にもよるけれど……。

 おどおどせず、我が物顔で歩いていれば、案外バレないんだって~」


 あどけない表情で、そんなことを言う桜井。

 それは、どこからくる自信なのか?

 ……少なくとも、根拠がないわけでもないのだろう。

 もしかすると、今までにも同じような潜入任務を経験したことがあり、そこで積んだ“成功例”の体験から自信を得ているのかもしれない。


「それにもしもの時は“認識阻害”を使えばいいし、最悪の場合なら“影世界”に逃げちゃってもいいわけだしね」


「……うん。まぁ」


 真城も引き攣った表情で頷く。

 桜井の言う“認識阻害”。

 それは “影操作”で出来る応用技の一つである。


 『影が薄い』……なんて言葉を耳にした事はないだろうか?

 それは“存在感がない”、“印象が薄い”、“目立たない”、といった人間に使う言葉だろう。


 “影操作”を用いれば、人為的、任意的にそれを行える。

 影を薄くし、存在感を無くすことが出来るのだ。


 詳しいやり方。

 その方法を、真城は教わっていない。

 理由は単純で、この“認識阻害”には自身の影が必要不可欠だからである。

 自身の影でないと効果がでない技。技術。


 そして真城は、自分の影を持っていない。

 ……そういうことである。



 因みにではあるが、“認識阻害”の他に“認識誤認”という技もあるらしい。

 影を薄くし、存在感を無くす“認識阻害”とは逆に、影の存在感を強くして任意の場所に“影送り”をすることで、相手に居場所や気配を誤認させる技だ。

 原田の影人が“影縫い”なる技で真城の動きを止めていた事を踏まえると、“影操作”とは中々に奥が深いらしい。



「……それにしても。

 秘密結社のする任務ってものが、あんまり想像出来てなかったんだけれど……。

 まさか“黒い新幹線”に乗った以外は、普通の交通機関と徒歩を使って目的地に来ることになるとはねぇ。

 てっきり“黒い新幹線”と同様に、何かしら専用車みたいな物が用意されているものと……」


 ふと何かの番組で昔見た、特殊な部隊が専用車で現場に急行する。……そんなシーンを思い浮かべながら、真城は横の桜井へと語り掛ける。

 桜井はそれを聞き、「期待させてしまって申し訳ない」と苦笑いする。

 真城としても今のセリフは、ただ桜井と会話をする為だけの意味の無いものである。

 愚痴。……と言ってしまうのもどうかと思うが、真城としては正直なところ『何か他にもあるのでは?』という期待が何処かにあったのだ。

 “専用車で現場に急行する”。

 ……そんなことを“影狩り”がしない事は、真城も薄々察していた。


 実際のところ“影狩り”としても、国の権力なりを用いて影人の潜む場所を丸ごと閉鎖してしまう方が、やりやすいはずなのだ。

 例えば今回の件。

 現場が大学であるのなら、なにかしら表向きの理由を用意して、土日などの休日に一般人が立ち入らないようにしてしまえばいいのである。

 その方が一般からの目を気にすることなく影人を探し出せるし、戦闘だって思いのまま。

 より確実に、より正確に任務を遂行することが出来るはず。


 では、何故それをしないのか?

 その答えは単純だろう。

 いくら表向きの理由を作ったところで、結局足が付くリスクを増やしてしまうだけである。

 だからこそ、そういった事はしないのだ。


 国の権力を利用したとして、不特定多数の人間を動かせば、必ず何処かでボロが出る。

 不特定多数の人間が多ければ多い程、“影人の案件”が外に出るリスクを高めてしまう。


 動かす人間でさえ限られる。

 “影人の案件”。ましてや“影狩り”の存在など、日本における最重要機密事項である。

 国の限られた人間しか知らぬ事柄だ。

 上の人間がそれを認知しているとしても、その部下達までが知っているわけではない。


 何も知らぬまま動かされる部下たちにとっては堪ったものでは無いだろう。

 何故自分たちは動いているのか?

 何が理由で、何が目的なのか?

 そういった疑問は、いずれ憶測となり噂となる。

 好奇心は猫を殺す。……なんてことわざもあるくらいだ。

 知らずにはいられない。

 確かめてみたい。

 ……例え命令に背いても。

 そんな思いで動かれては困るのだ。


 一人二人程度ならまだいい。

 その場で口封じでもしてしまえば事足りる。

 でも、……それでも収まらなければどうだろう?


 今回が学校であったからこそ出来る事。

 それは逆に、市街地など人通りの多い場所では出来ないという事だ。

 どうすれば、そこらの人間をまとめて退去させる事が出来るのか?

 不発弾が見つかった?

 有毒なガスが漏れた?

 いや。それではダメだろう。

 それこそダメだろう。

 何度も言うが、好奇心とは恐ろしいものなのだ。

 野次馬根性とも言い換えられるかもしれない。

 

 このご時世。

 立ち入り禁止の場所にわざわざ忍び込み、意気揚々と動画撮影なんかをする者もいるくらいだ。

 いくら地域を閉鎖できたとて、そういった輩に騒ぎ立てられたら元も子も無い。

 実際に“そういった事態”になっていないと知られれば、それもまた噂として世に広まることとなる。

 噂として広まれば……街が、報道が、国が無視できなくなってしまう。

 自身の首を自身で絞める結果となってしまう。


 『国に属する部隊が、国民に嘘をついて何かをしている』

 そんな“面白そう”なことを、国民が見過ごせるわけがない。


 では、どうすればいいのだろう?

 その答えは、既に真城もやったこと。

 ただの交通手段を使い、普通に足で目的地へと向かうこと。

 目的地を閉鎖したりなどしない。

 一般人の日常を阻害せず、任務をこなすこと。

 ただ、それだけである。


 ……それに、


「私たちには“影世界”があるでしょ?

 わざわざ目に付きそうな車で向かうよりもお手軽だし、何より一般人には分からないからね~。

 私たちにしか出来ない移動手段。利用しない手は無いわけだ」


 と、満足げに答える桜井。


 そうなのである。

 “影世界”。それは、国民たちに影人の存在を知られたくない“影狩り”からして、とてもありがたい恩恵だ。


 何処に行くにも“影世界”を経由すればいい。

 影人との戦闘も“影世界”で行えば気付かれない。

 実に都合のいい空間だった。

 目視で影人を発見し、適当な音で周囲の人間の目線を逸らしている隙に影人を“影世界”引き込んで戦闘をする。

 ……それこそが、“影狩り”が影人と戦い、尚且つ人々にバレないようにする為に編み出したスタイルなのである。


 なにせ例え運悪く、影人を引きずり込む現場を目撃されたとしても、それは一瞬の出来事だ。

 次の瞬間には跡形も無くなっているのだから、まず本人の目を疑うだろう。

 そんな話をしたとして、まず周りも信じない。

 目の錯覚。視界の隅に人影のようなものが写った気がして振り向いても何もない、なんて現象は誰もが一度は経験したことがある体験なのだから。


「……じゃあ、俺達も“影世界”経由でここに来れば良かったんじゃ?」


「……あれ?

 晴輝くんってまだ全身を“影纏い”出来る時間が数分しか持たないんじゃなかったっけ。

 蘭ちゃんからはそう聞いてたんだけど」


 ……何も言い返せなかった。

 そうか……それでわざわざ交通機関と徒歩で来たのか。


 真城は、桜井が自身に合わせてくれていたのだと知り、少し申し訳なくなった。

 ……“影纏い”が不完全でごめんなさい。


 更に加えて言うのなら、真城の操る影の量は身に付ける衣類などの影に限られる。

 現在真城は、そうした身に付ける衣類やリュック。その他アクセサリーなどを利用して、全身を何とか“影纏い”出来るだけの影を作れる様に工夫している状態だ。

 欲を言うなら扱える影の量も多いに越したことは無いのだが、如何せんあまり道具を身に付けすぎると今度はジャラジャラして動きづらいといった欠点も出て来てしまう為悩みどころ。

 とりあえずこの任務中、真城は全身を“影纏い”してしまうとその間、他の何かに対して影を割くことが出来ないといったハンデを抱えているのである。



 先程話に上がった“認識阻害”などの応用法。

 今回の”影纏い”等々。

 “自分自身の影が無い”。

 それは、真城が思っていたよりも大きなハンデとなるようだ。 



「とりあえずどうしよう……。

 潜伏した影人を探すといっても、校内は結構広いから骨ですよ?」


 真城はコホンと一つ咳払いをすると話題を変える。

 何度も言うが、真城は今回が初めて任務である。

 真城は現在、いわゆる“任務の鉄則”というものを理解できていない。

 今回の件の様に、“潜伏した影人がどこに隠れるか”といった傾向も分からないわけだ。


 なのでまずは、“影狩り”の先輩である桜井に指示を仰ぐ。

 しかし、真城からの質問に対して桜井も納得のいく答えが出ないようで、


「うーん……。

 虱潰しに行くしかないかなぁ。

 向こうから何かしらアプローチがあれば別なんだろうけど、うーん」


 と、頭を抱えて悩む体制をとる。

 

「虱潰し……」


 その答えに真城はガックリと肩を落とす。

 ……やはりその方法しか無いらしい。


 しかし、流石は先輩ということなのだろう。

 両手をパンッと叩き、少し納得のいった顔をする。


「……うん。

 向こうからのアプローチ、……それだ」


 コクコクと一人納得してみせる桜井に真城は説明を要求する。

 解決案が見つかった。

 ならば、すぐに動くべきだろう。

 どうせ行動を起こすなら、早いに越したことはない。

 例えそれが失敗案であったとしても、それが失敗だと気づくタイミングが早まるなら、結果的にそれは次の案へ移行するまでのロスを減らす事にも繋がるのだから。


「えーと……。

 “黒隠”って、影人として活動を始めてからずっとこの大学を拠点にしているわけでしょ?

 てことは、何かしら理由があると思うんだよね。やっぱり。

 

 ここを離れられない理由。

 もしくは、離れたくない理由が。

 んでぇ~……。

 この大学に逃げ込んだ事を考えても、その理由がこの大学にあることは確定的なわけだ。


 資料に書いてあった通りなら、『影世界専門部隊』との交戦後、数体の影人さん達を囮に使ってまでわざわざ『影世界専門部隊』の構える陣形を突破。

 無理やりこの大学へいく事を選んでるみたいだし、……そういった点からしてもまず間違いない。


 なら、やることは単純で……。

 その邪魔をしてみればいい。


 その理由さえ明確にして、“黒隠”が嫌がる事をすれば、向こうも無視は出来ないんじゃないかな~?」


「……なるほど」


 桜井の出した意見に、真城も納得の意を示す。

 確かに、“黒隠”がこの四年間拠点を変えることなく居続けている、という点には一考の余地がある。

 理由は不明。

 しかし桜井の言う様に、この凪原大学に執着している事は確かだろう。


 大学に何かしらの問題があって、そこに“黒隠”が付け入っているのか。

 はたまた、“黒隠”自身が何らかの目的の為に選んだ拠点がここというだけか。


 少なくともどう転んだとて、ロクな事ではないだろう。



「神崎さんの言っていた事……覚えてる?

 この大学や街全体が、一種の“影人工場”になってるんじゃないか~って話」

 

 桜井が思い出したかのように口を開く。

 

 それは神崎が推測した事態。

 任務へ行くまでの真城達に追加で告げられた、一つの内容であった。


 “影人工場”。

 それは読んで字のごとく。

 影人達がそこに住む人達にストレスを与え、影人化を誘発することで効率的に影人を生み出そうとする場所、地域に付けられる通称だ。


 四年間で“黒隠”が行った、或いは関与したと思われる事件。

 それらの件を総合した結果、その可能性が一番高いと神崎は結論付けた。


 『影世界専門部隊』が数体の“フェイズ3”を発見し戦闘があったことを考えれば、少なくとも“黒隠”が影人を集め、戦力としている事が伺える。

 そして、それら影人が凪原町で行方不明となっている者達であることを踏まえると……。凪原町の人間に意図的なストレスを与えることによって、影人化を促した可能性が浮上する。

 そんなところである。


 加えて言うのなら、この四年間での凪原町内行方不明者は十一名。

 その全てに“黒隠”の関与があったとは考えづらい。

 しかしそれら事件が起こった、或いは判明した日時、感覚などを良く調べてみたところ、初めの三年間での行方不明者はそれ程多くなく、年間で見ても平均二人程度のものであったのに対し、この一年間、……正確に言えばここ半年での行方不明者の数が極端に多くなっていた事も挙げられた。


 前三年間の時点では効率的な影人化を引き起こせなかった為なのか。

 或いは、この半年間で“黒隠”が多くの戦力を欲した為なのか。


 そのわけは、“黒隠”のみが知るところだろう。



「あぁ……。覚えてる」


 桜井の言葉に真城は頷く。

 神崎が出した推論とその信憑性。

 それは“影狩り”に来て、未だ影人について理解しきれていない真城でも、なんとなく“当たっている”であろうと分かるもの。


 この凪原大学。

 延いては凪原町全域が、“黒隠”の“影人工場”なのだろう。


 真城は静かに拳を握る。

 理由は“影人工場”の件。

 神崎が語った続きの内容を思い出してしまった為である。


 この半年で行方不明者が極端に増加した。

 それは分かる。


 しかし。

 事態はそれだけではなかったのだ。


 この半年間で変化した事。

 それは被害地の拡大だ。


 今まで影人化を引き起こし、行方不明となる者は“凪原町内”に限られたものだった。

 しかしそれも、この半年間に限り、隣町にまで範囲を拡大していたのである。


 これは、偶然にも原田の件で判明したこと。

 ……原田が被害に遭い、真城が巻き込まれたことで判明したもの。


 凪原町の隣町で暮らしていたはずの原田が影人化をした。

 それは、本当に偶然の産物か?

 そう考えて、調査したのが始まりだった。


 結果は黒。

 この半年間、……原田の他にも二名ほど行方不明者が確認された。

 原田の場合は一人暮らしということもあり、原田が居なくなった事に気付く者がまだいなかった他、その三日後には真城の“力”で影人から解放された為、行方不明扱いを受けずにすんでいた。

 しかしそれだって、運よく真城が勝利していなければ……今頃は、真城の見た行方不明者リストにその名を連ねていたに違いない。



 結果から言って。

 原田が起こした影人化の理由には、裏があったのだ。


 ……例え、原田自身に影人化を促進するだけのストレスがあったとして。

 そんな事を知ってしまったら、敵討ち……などという思考が、頭をよぎらないわけがない。

 あれだけ“原田に憎まれていた”と知ってなお。

 “殺したいと思われていた”と知ってなお。


 真城には関係ない。

 真城にとって原田が、“親友”であったことに違いはない……。



 しかし。

 それでも。


 そんな考えで“黒隠”を討とうとする感情を真城は飲み込む。

 真城の“夢”。願いは“人助け”だ。

 にも拘らず、真城がそんな復讐心で動くわけにはいかない。


 真城の手にある“力”は人間を救う為のもの。

 影に取り込まれ、救うことの出来ない者を唯一救う手段である。


 原田は失敗した。

 本当の意味で、原田を救うことが出来なかった。


 しかし……そこで諦める訳にはいかない。

 原田で出来なかったなら、次こそは。

 今度こそ、……成功させなくてはならない。


 今の真城に出来ること。

 それは、人を救うことだ。


 “人を救う”。

 そうすればいつか、真城の“夢”が叶い、延いては救えなかった原田への罪滅ぼしへと繋がると、……そう思う事が出来るから。

 


「もし、あの話が事実だとして。

 この“影人工場”もきっと“黒点”一派と繋がりがあるはず……。

 ここ数か月間で発見された“影人工場”のほとんどがそうだった~って話だし。


 ……厄介なのがいなければいいけど」


 桜井はガックリと項垂れる。

 

 “黒点”一派。

 それは、“影狩り”が最も危険視する集団だ。

 識別名(コードネーム)黒点(こくてん)”を中心に活動し、真城が遭遇した“黒鉄”もここに所属する。


 数ある影人集団の中でも群を抜いており、そのあまりの一強さ故、他の影人集団は彼ら“黒鉄”一派のはぐれ者と言われるくらいである。


 その一派がこの数か月、活動を活発化させているらしいという話は真城も既に聞いていた。

 タイミングが良いのか悪いのか。

 真城としては、もう少し戦う力を身につけてから挑みたいものである。


「まぁ、色々と考えるのも良いけれど、まずは行動を起こしましょうか。

 さっきも言いましたけど、この大学は結構広いですし」


「……それもそうだね」


 項垂れる桜井に声をかけ、任務遂行を促す真城。

 このままここで話し込んでいても意味はない。

 真城達の目的はこの大学に潜伏した“黒隠”を倒すこと。

 そして、この凪原町を正常化する事だ。


 “人助け”を目的とするこの任務。

 真城が疎かにするわけにはいかない。



「よーし!!

 それじゃあ、そろそろ始めていきますか。

 晴輝くんに先輩らしい所を見せたいし、ね!!」


 ダッ、と走り出す桜井を真城は追いかける。


「ちょっ、いきなり何処行くの!?」


「高いところ!

 まずは影人達を探そうよ。

 ここが“影人工場”だって言うなら他にも影人がいるはずだし、その子から“黒隠”の情報を聞き出せるかもしれないからね!!」


 自信満々に駆けていく桜井はそんな事を言う。

 確かに影人探しは重要だ。

 今この大学に潜伏している影人は、何も“黒隠”だけではない。

 既に『影世界専門部隊』が撃破したとされる二体の“フェイズ3”を除いても、まだまだ影人はいるはずで……。

 “フェイズ4”だっているかもしれない。


 しかし、どうやって探すというのだろう。

 先程の話は、そういった“黒隠”を含めた影人の捜索をどうするかといった話ではなかったか……?


「だからどうやって探すんですか!?」


 息を切らしながら前を走る桜井に問いかける真城。

 これだけ全力で走っているというのに、未だ桜井に追いつけない。

 一週間での戦闘訓練で、多少は体力も増えたと考えていたのだが……。

 一週間で増える体力の変化など、それ程違いがないらしい。

 

「私たちにはこの“目”があるでしょーー!!」


「……目ぇ!?」




 余談ではあるのだが。

 桜井の言った言葉の意味が、自身たちの持つ力のこと。

 “影耐性”による恩恵で、影の傷ついた人間“影無し”や、影と本人の動きが一致しない“フェイズ1”の影人を探してみよう。……などという意味であると理解するのは、この後。

 桜井の目的地である高い場所。

 大学にある校舎の一つ、その屋上に無断で侵入を果たした後のことであった。


 “影操作”を使用すれば扉の隙間から影を通し、裏側から鍵を開けるという行為自体、お手の物らしい。

 ……犯罪だからね、それ。



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