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カゲビト  作者: 永眠布団
第四章 帰省

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第22話 『一対多』

 


 真城は男を担いだまま商店街の一角を駆けていく。

 そうして、ある店の敷地の端に丁度人一人を安置出来そうな木造の物置を見つけると、急いでその場所に男を横たえた。


「…………、」


 寸舜にも等しい束の間で、真城は震える手を握りしめると息を吐く。

 真城の身体を震わすもの。それは高鳴る鼓動からなる高揚感。まだ高みへと行けるという渇望と希望。それら夢へと駆け上がる為の道しるべを手に入れた嬉しさや喜びと、そういった感情から来るものだ。

 実のところを言うのなら、踊り出したい程だった。


 だが、真城はそんな自身の衝動を押し殺す。

 今はまだ、そんなことをしてられない。

 やるべきことは、まだ何も終わってない。

 故に真城は、すぐに影人達へと向き直る。


 真城を追って来ていた影人は、既に十メートル近くまで迫っている。

 真城は急いで回れ右。影人達を向かい打つ。

 無いとは思う。しかしそれでも確実に、横たえたこの男を戦いに巻き込まない様にする為に……男から影人を遠ざける様に行動する。


 影人達を殴り飛ばして進んでく。

 そうやってどうにか元の場所へと歩を進め、ようやく少しは男の安全が確保出来たとホッとする。

 だが……そんな中でも、ずっと真城は黒子姿の影人を視界の端に入れていた。

 当然だ。奴が一番、警戒すべき存在であるからだ。そして、だからこそ真城はあることに気が付いた。


 いや……気が付いてはいたのだが、しかし目の前の影人を追いやるのが第一で、反応出来ていなかった。ただそれだけではあるのだが……まぁ兎に角。

 黒子姿の影人が纏うその黒衣。それが何やら沸騰でもしたように、グツグツユラユラ揺れていた。それは今までに無かった変化に他ならない。それこそ真城が“力”で影人の一体を分離する時までは、確かに起こっていなかったものである。

 それにだ。


「―――、――――!!」


 何やら()を発しているようだ。

 それはきっと、真城へと語りかけたものではない。まず間違いなく、独り言のように発せられたものだろう。

 何せ黒子姿の影人(ヤツ)は、真城へと顔を向けてない。天を仰いでいるかの様なのだ。


「――、あぁ」


 黒子姿の影人へと近づいていくにつれ、その音が僅かに真城の耳へと届くようになってくる。


「――――ば、――ご―――なにせ―――を―――――ッ、」


 音の……言葉の意味は聞き取れない。

 だが、何やら震えているらしい。

 そんな状態の黒子姿の影人の様子を見て取って、真城は警戒を強めてく。



 しかし。そんな真城とは裏腹に。

 黒子姿の影人は、突如その震えを治めると真城から背を向けた。

 それはまるで、もうこの場に用はないとでも言いたげなアッサリとしたものだった。



「――なッ!?」


 黒子姿の影人の突然の挙動に、真城は驚き声を上げる。

 それは当然のことである。

 これだけのことをしておいて、逃げるだなんて許さない。

 黒子姿の影人(ヤツ)だけは、必ずここで仕留めねば。


 何かに納得したように身を翻した黒子姿の影人を、真城は……押し寄せる影人達を相手取りつつ呼び止める為に声を上げる。


「逃げるのか!!」


 それに対し、黒子姿の影人は何の音も発さない。

 だが、それで諦める真城じゃない。


「何が目的でこんな事をしたんだよ!!」


 それは真城の純粋な疑問でもあった。

 真城(自分)を殺す為じゃない。もしそうであるというのなら、一体何の為にこれだけの数の影人達を引き連れてきたのだろう。

 白菊を、他の不良達を何らかの能力で“影人化”させてまで……。戦力を増やしてまでやって来て、何もせずに帰ろうとする意味が分からない。


 黒子姿の影人は、その言葉に反応して向き直る。

 そうして少しだけ考える素振りを見せた後、


「『……』『全て』『ハ』、『“黒点”』『ノ』『望む』『こと』」


 とだけ音を発して動き出す。


「――ッ!?」


 身体の輪郭が陽炎の様に揺らめいて、フワリッと浮かび上がったかと思ったら、射られた矢の如き勢いで加速して、黒子姿の影人は夜空の彼方へ消えていく。

 それは本当に、ただの一瞬のことだった。



 …… ……



 黒子姿の影人の消失。

 だがそれでも、他の影人達にはあまり関係が無いらしい。

 司令塔だったはずの黒子姿の影人(ヤツ)が消えようともお構いなく、真城へと攻撃を仕掛けてくる。


「…………クソッ」


 真城は、黒子姿の影人を斃すことが叶わなかったこと。逃げる前に動くことが出来なかったことに歯嚙みする。

 絶対にここで仕留めねばならなかった存在だ。それをみすみす逃がしてしまった失態に、真城は自身への苛立ちを止められない。


 いったい今日何度目の失敗だ?

 何度失敗すれば学ぶんだ?

 沸々と、次々怒りが込み上がる。



「……――ッッ」


 だが、それでも、と。

 今は意識を切り替えよう。

 そう無理やりにでも言い聞かせ、最後に一発、真城は自身の頬を殴りつけて目を開ける。ジワリと鉄の味が広がるが気にしない。

 自分への罰は、ひとまずこれでいいだろう。


 ……とりあえず。

 逃げられてしまったのならば、それは仕方のないことだ。

 いつまでも、怒っていても意味はない。そんなエネルギーがあるならば、別の所に使いたい。

 もし仮に、これから黒子姿の影人(ヤツ)を追うとして、目の前の影人達を放って行くことが出来るのか? と言えば不可能だ。その答えは、例えこの影人達の中に白菊がいなかったとしても変わらないし揺るがない。

 目の前で困っている人を救う事。それこそが、真城の夢であるからだ。

 ……であるならば、今はここの影人達を分離することが優先だ。

 誠に不本意ではあるのだが、それでも黒子姿の影人(ヤツ)がいなくなったことにより、かなりやりやすくはなったのだ。ならばその状況を活かさない手はないだろう。

 そう思考を組み立てて、真城は一度深呼吸して前を見る。


「スゥーー、フゥーー……ッ」


 怒りを原動力へと変えていく。そうして奮い立たせてく。

 集中力を研ぎ澄まし、影人へ……或いは分離作業へとその思考を切り替える。

 その結果――、次第に先ほどの高揚感。胸の高鳴りとも相まったソレは、思わぬ相乗効果をも発露させ、真城の意識を大きく飛躍させていく。



 それは“いつ”からであったのか。

 気が付けば、真城は“ゾーン”へと成っていた。


「……あぁ」


 世界が遅くなっていく。真城の世界が加速する。

 認識が出来ること。思考出来る時間が加速度的に増えていく。


 これが、これこそが“ゾーン”。

 今の真城には願ってもない状態だ。

 これ以上ないくらい理想的な状況が、真城の背中と――真城の理想を押していく。


 目の前の影人達は十数体。

 そのほぼ全てが真城に向かって殺到する。


 しかし。

 その影人達の分離に対して、一番厄介であった黒子姿の影人はもういない。

 であるならば、もう憂いは何もない。心置きなく、仕事に専念出来るというものだ。

 ここからは、真城晴輝の独壇場。もう誰にも止められない。

 ここにいる影人を、全て真城が分離する――その時まで。



「いくぞ!!」


 真城は大きく声を張り上げる。

 影人()への牽制だけではない。

 真城自身への決意と覚悟の表明だ。

 今すべきこと、しなければならないことをもう一度、自身へ言い聞かす為のもの。


 それでもう迷わない。

 もう後ろは振り向かない。

 前だけをただ見つめ、勢いよく影人の群れを迎え撃つ。



 ……


 …… ……



 幾度とない閃光と戦闘音や破裂音。

 その度に声が、気配が、少しずつ消えていく。

 真城が終始優勢で、事態は変化をし続ける。


 今、この瞬間も、真城が影人の一体を男の身体から分離して、逃げ隠れしようとしたその本体(影人)へ、影で作った銛を叩き込んだとこだった。

 そうして影人が霧散したのを確認し、次のターゲットへと切り替える。

 この場はもう、完全な戦場だ。故に最初の男の様に、この男を出来うる限りの安全地帯へと避難させることは叶わない。せいぜい倒れた拍子に頭や胸を打たない様、操作した影をクッション代わりにするくらいが関の山。……仮に出来ても、そこから更に道の端へとスライドさせるぐらいだろう。

 後は横に寝かせた彼らへと、影人の攻撃が及ばないよう気を配り、祈り続けるだけである。


 何せ数が数なのだ。

 影人()達との距離や位置取りを把握して、どうにか一対一の戦いへ持ち込み続けてはいるものの、それでも対処はギリギリだ。

 一体捌けばまた一体。すぐに相手がやってくる。

 もう本当……完全に飽和状態なマッチングアプリ。或いは握手会を開催する大人気アイドルみたいな心境だ。



 真城は的確に戦闘中の影人へと攻撃を叩き込み、或いは想定の場所へと回避させ、足元に倒れている既に影人を分離済み男から距離を取るよう誘導する。

 そうしてある程度の距離が確保出来たなら、すかさず“力”を放出する。


(“混沌点”は……二つだな。場所は……心臓付近と右肩、か)


 影人が怯んで身体を強張らせる内に、真城は“力”の純度を操作して分離に適したものへと切り替える。と、すかさず先手を打っていく。

 影人が目を見開き、向かってくる真城を追い払おうと頻りに腕を動かすが構わない。真城は腕の動きを意図も容易く掻い潜り、心臓付近と右肩へ“力”を纏った拳を当てていく。

 眉間にしわを寄せ、身悶え、えずく影人へと、真城は更に“力”を打ち続ける。


(“混沌点”の特定は……完了。それじゃあ後は、)


 分離だけ。だがその前に、と距離を取ろうとする影人を捕まえて一度ひざ蹴りを食らわせる。呻き声を漏らす影人が再びその場で硬直し……その隙に真城は“力”を“混沌点”へと注ぎ込む。――パンッと破裂音が木霊して、影人が男の身体から弾け飛ぶ。

 最後はその影人本体を逃がさぬよう、左手に纏わせた影を槍状の武器へと変化・硬化させていき……そうして一刺し。影人を斃して終了だ。



 こんな感じの工程をもう五度はやり終えた。かなり手慣れたものである。

 それはここにいる影人が、今のところ全て『“混沌点”が二か所だけである。(しかもその一つは心臓付近であることが多い)』ことと、それらの『“混沌点”の混ざり具合が非常に緩い』こともまた、一役買っているだろう。

 ……が、やはり“ゾーン”からくる恩恵は絶大だ。

 これがあって初めて、この一方的な戦闘と分離が維持出来ている。そう言っても過言では無いだろう。



「この……ッ」


「死ね!!」


 今度は二体、影人がこちらへやってくる。

 真城はそれを、影を使って分離済みの男を道の端へと寝転がせながら迎え撃つ。


「さて、」


 どうしたものか、と真城は拳を繰り出しながら思考する。

 影人も大分数が減ってきた。しかしそれ故に、相手も少しずつ連携をし始めたという事だろう。

 今までの戦闘で、真城へと一体で挑むのは危険だとそう判断したらしい。

 真城は周りの様子をざっと見て、他の影人の動向・位置取りを確認する。


(三時の方向、屋根の上に三体。八時の方向、家の陰に隠れるようにして二体。そして十一時に一体か……)


 そして今相手をしている二体。

 完全に包囲された訳ではないのだが、しかし影人も絶妙な位置と距離をキープしているようである。真城の動きを常に見て、隙あらば……といったところだろう。

 となれば、だ。


(流石にこの二体を引き剥がし、一対一(サシ)に持ち込むのは不可能か……)


 いや、まぁ実際は可能かもしれないが、どの道一度引き剥がしたところですぐに合流。或いは他の影人が代わりに参戦してくるのがオチだろう。

 であるならば、無理に一対一(サシ)にこだわって無駄なリソースを割くよりも、初めから一対二、或いは一対三なりの戦闘を想定して動いておいた方が賢明だ。



 勿論その戦いは、一対一(サシ)よりも難しいものになる。

 だがそれでも、真城が歩む先の未来。“分離作業”は一対一(サシ)でしか行えない……だなどといたレッテルを自ら自身に貼りたくない。

 いずれ出きるようになるからと、今出来ないと諦めたりはしたくない。

 大事なのは“今”なのだ。そしてそれに今必要なものはなんなのか? それはきっと、目の前のハードルを絶対に超えてやるという強い姿勢や心意気。そして絶対に成功させるという強い意志や決意だろう。

 後は真城が“それ”を実行に移すか否か。ただそれだけであるはずだ。


 であるならば簡単だ。

 “やる”か、“やらない”か。


 答えは“やる”一択だ。


「あぁそうだな。――やってやる!!」


 大丈夫。今の真城なら問題ない。

 この戦い方にももう大分慣れてきた。分離も速くなってきた。

 集中力が“ゾーン”で底上げされている今ならば、出来ないことは何もない。



 ……


 …… ……



「うぉおお!!」


 影人二体を相手取り、真城は血気盛ん、勇猛果敢に前に出る。

 力強く踏み込んで、相手のペースを崩してく。


「ぐっ……!!」


 一手、二手と攻撃を加えていくうちに狙い通り、影人の一体がバランスを崩してよろめいた。しかもそれだけに止まらない。バランスを崩した影人に一瞬気を取られたもう一体の影人の隙を突き、その影人の態勢をも崩してく。


(今だ!!)


「――な!?」


「ぐ、ぁ!?」


 己の防御もままならない、攻撃にも転じれない。

 そんな無防備な二体へと、真城は“力”を起動する。

 右手から閃光が放たれて、“力”が影人の肉体をスキャンする。


(“混沌点”は……心臓部と左脇腹附近。もう一体も心臓付近と左肩で――痛ッ)


 ズキリッと脳から来る微かな痛みに、真城は寸舜だけ顔を顰める。

 初めに全範囲放出で“力”を開放した時ほどでは無いにしろ、複数体の同時スキャンともなれば、脳への負荷はあるようだ。

 まぁ或いは、これまでの戦闘で少しずつ蓄積されていた負荷が今になって頭痛として現れただけなのかもしれないが……、


(影人のスキャンは一体ずつにした方が良いのかもしれないな)


 などと、そんなことを思いつつ、今度は拳に“力”を集めてく。

 二体の影人は身体に“光”をもろに受け、未だに身体を強張らせて動かない。

 であるならば、と真城はその隙を見逃さず、一気にその影人へと距離を詰める。

 まず一体。そう思ったその時だ。


「――――ッ」


 突如、行く手を遮るように、動けずにいる影人への接敵を試みた真城へと、影の鞭が下ろされる。

 ビシャリッッ、と当たらずとも音だけで竦みあがりそうな衝撃音が鳴り響く。……が、真城がソレに打たれたという訳ではない。周囲への警戒も抜かりなく行っていたこともあり、真城はソレを当然難なく回避する。


 完全な不意を突いていた。そう思っていたであろう影の鞭を操っていた影人の女が目を見開くのが見て取れた。それだけじゃない。周りの他の影人も、同じような反応だ。……が今はそちらを無視して目の前の影人達へと向き直る。

 何せ、影の鞭を必要最低限の動きで躱すことが出来たこと。それにより生まれた決定的な隙こそが今なのだ。

 影の鞭での攻撃。それによって真城の猛攻を停止させ、そこから反撃に転じようと考えていたであろう影人達(やつら)は今、その計画が頓挫して硬直中。

 ならば邪魔は入らない。



 真城は一気に影人二体へ踏み込んで、連撃を叩き込む。

 二体も負けじと抵抗し、影を使っての反撃を行うも、真城はそれを素早く回避しつつ、或いは左手に作った影の剣で切り払って対処して、なおも攻撃を続行する。

 “力”を纏った右拳を打ち込んで、再び態勢を崩しにいく。


(――よし、“混沌点”の割り出しは完了だ。後は……っと、またか)


 瞬間、影の攻撃がこちらへと降り注ぐ。

 それは先ほどの影の鞭の比ではない。

 真城を包囲するほぼ全ての影人が影の触手を操作して、矢の様な速度で真城を穿たんと狙い打たれたものだった。

 ……が、真城はそれも落ち着いて対処する。

 闇夜に溶けるような漆黒の影は確かに目を凝らす必要があるだろう。

 しかし思考が加速し世界が鈍足になっている“ゾーン”の状態であるならば、その把握も然程難しいものじゃない。

 降り注ぎ、或いは真横からやってくる影触手。それを一つ一つ回避して、それでもホーミングしてくる様ならばこちらも左手に作った影の剣、或いは“力”を纏った右手で打ち払う。


(“影操作”の精度が拙いな。……或いは、黒子のヤツの能力で強制的に“フェイズ3”になった弊害か? いや、そもそも影が人格を持ってから数時間しか経ってないなら当然か。いくら影人であったとて、生まれてすぐじゃ影の扱いもそこまでか)


 もし仮に、ここにいる影人が全て本来の発生過程を経て成った奴らであったなら、或いはもう少し対処に戸惑ったかもしれないが……、これなら対処も簡単だ。

 よく見れば、操作する影の総量も多くなく、一度にいくつもの触手を伸ばせてない。

 であるならば、これらの影の攻撃にそれほど注視する必要もないだろう。


(3、2、1……今!!)


「――な!?」


 降り注ぐ影が途絶える一瞬を読み切って、影人の一体へ真城は距離を詰めていく。

 そうして“力”を纏った右拳を構えると、そのまま拳を打ち付ける。

 瞬時に“力”を影人へと流し込み、“混沌点”を引き離すとほぼ同時、パンッとした破裂音と共に弾け飛んだ影人の本体を影の剣で切り伏せて、分離作業を終わらせる。……とその足でもう一体の影人の方へと駆けていく。


「ヒェッ!?」


 影人が引き攣った表情で慌てて腕を横に薙ぐ……が真城はそれを、上体を低くして回避すると、そのままの勢いで掬い上げる様にして右拳を叩き込む。


「ぎゃあああああ!!!?」


 “力”を注ぎ込まれた影人が呻き声を響かせて悶え苦しむが、真城のやることは変わらない。“混沌点”引き剥がし、飛び出してきた影人を切って捨てる。

 それはもう、今日だけで何度目かの作業と同様だ。


「これで残るは六体か」


 ゆっくりと、真城は残る影人達へと目を向ける。

 引き攣った影人達の慄く顔が見て取れた。

 真城という“恐怖”をまるで拒むかのように、降り注ぐ影の勢いが増していく。

 がしかしそれは、最早狙い打ちとは程遠い、本当にただやみくもに感情に任せて影を乱射しているに他ならない。

 “下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる”。なんてことわざもあるがしかし、当然その影の攻撃が真城に当たることは無い。

 なにせ、


「無駄だ」


 真城の操る影の触手が、降り注ぐ影を片っ端から弾き飛ばし、或いは弾き砕いているからだ。

 操作の精度のみならず硬化の程度さえ低い影人達の攻撃は、真城の操る影に傷を負わすことさえままならず、ベキリッバキリッと薄いガラス細工の如く砕かれては霧散して消えていくだけだ。


 周囲の影人達の瞳から、一つまた一つと戦意が消えていく。

 勝てるわけがないとばかりに後退り、最後には背を向けて走り出す影人までもが現れる。

 だがそれは、真城の望む所じゃない。


「逃がさない!! お前らは、ここで俺が分離する!!」


 故に手は打ってある。


「な、何だ!? 身体がッ」


「ちょっと!! 何よこれ!!」


「動かねぇ……ッッ!!」


 逃げようとした影人が、一体また一体とその動きを止めていく。

 中にはバランスを崩して前のめりに倒れていく影人も。


 真城が何をしたのか、と言えば簡単だ。

 降り注ぐ影の攻撃から自身と分離し終えたばかりの男たちを守る為、こちらも影触手を使って応戦をした時の事。……別に真城は、自身との“格の違い”を見せつける為に、影人()の影の攻撃を砕きまくっていた訳ではない。

 分かりやすく“ソコ”へと影人()の目を集めているその隙に、細い影の糸を操って周囲の影人達を絡め捕る準備をしていただけである。


 まぁ流石に、自身の影を持っていない真城では影が足りなかったので、降り注ぐ影を払い落とす為の影触手に影の大半を割いている間は、残った影を出来るだけ細くした状態で、拘束対象の影人達の付近まで伸ばせるだけ伸ばしての待機。

 影の攻撃が止んでいき、影触手が役割を終えたタイミングで一気に全ての影を影の糸へと変化させ……拘束まで持っていった。という感じの一手間はあった訳だが、それを影人達に語って聞かせる必要はあるまい。


 桜井の様に極細の影の糸に出来たなら、影触手を操りながらでも影人達を拘束出来ていたのかもしれないが……無い物をねだった所で意味はない。

 小指の半分程度の細さなら出来るようになったので、これでも大分マシだろう。



「だったら……ッ!!」


「クソが!!」


 もう逃げられない。そう悟ったのだろう。

 であるならば、と。()られる前に()ってやる。……と、瞬時に思考を切り替えた影人が、槍や刀、鞭や鉄球などを構えてこちらへ押し寄せる。

 もうなりふりを構っている余裕もないらしい。或いは恐怖でどうにかなってしまったのかもしれないが、ここで勝負を決めてやる……と、そういったところだろう。


 だが当然、真城に負ける気は毛頭ない。

 何せ今の真城はといえば……ドーパミンやアドレナリン、そういったもので満たされて、やる気が満ち満ちた状態なのだから。



 残る六体の内の五体が一気に動き出す。

 自身を奮い立てる為、或いは真城(相手)を威嚇する為の怒号・雄叫びを響かせて、真城へと押し寄せる。



「さぁ来いよ。……必ず俺が救ってやる!!」



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