7-5(槇原15)
[槇原]
絶望に底がないことを私は初めて知った。
私の今までの苦労。
田中先生の努力。
すべて、無駄になってしまった……。
私は、顔をガクンと下げる。
「ははは。槇原先生も、そうお思いのようだ。さて、武田智治の、部屋、持ち物、すべて検査するんだ。」
私に向かって、服がバサッと投げつけられる。
そして、檻の扉を、閉められた。
ガチャンと、鍵がかけられる。
……私達は今まで必死にやってきた。
こんなんで終わってたまるものか。
「待ってください。」
去っていこうとしていたが、学年主任は私の方に振り向く。
鉄格子の向こうから、「どうしたのかね?」と嘲笑うような表情で私を見る。
圧倒的な地位の差。埋まることのない、壁。
「私は、この制度に対して、不満を持っていました。だから今まで、田中先生と二人で、証拠を集めてきたんです。どうしてだか、わかりますか。」
学年主任は、顔をしかめたまま、無言で私を見る。
私は続ける。
「生徒が大切だからです。生徒が好きだからです。生徒のためなら、なんだってする気で、今までやってきたんです。」
学年主任は怒りをあらわにした表情で言う。
「それでは、私たちが生徒を大切にしていないとでもいうのかね?」
学年主任は私を睨む。
その冷徹な瞳も、威圧的な態度も、もう怖くなかった。
「そうです! そうなんです。この学校は、生徒を大切にしていない。 ただの道具として、生徒たちを利用しているだけ。生徒のことなんか、これっぽっちも考えちゃいない!」
私は今まで言えなかった学校への不満をぶつけるように、叫ぶ。
私が本心を言うと思っていなかった学年主任は、驚き、怒る。
「貴様! そんなことを言ってタダで済むと思ってるのか!」
「そう思ってるのは、まきちゃんだけじゃないわ! 私もよ!」
学年主任は後ろを向く。
田中先生は、今までの憎しみ、苦しみ、怒り、すべてを言葉にする。
「あなたたちは、何のために、教師になったっていうのよ! どういう目で生徒を見ているのよ! 生徒のために、あなたたちは何が出来るっていうのよ! 何にも、出来ないくせに! あななたちは、ただの傍観者よ!」
学年主任は、私達に非難の言葉を浴びせられ、沸々としている。
「じゃあ君たちは、生徒のためになにが出来るっていうんだね?」
相変わらず上から見下すように、私達に言ってくる。
「私は、なんだってできますよ。」
私の言葉に、学年主任は私の方を振り向きなおす。
私は、学年主任をまっすぐ見て、思いを告げる。
「私は、生徒の為なら、なんだってするつもりで、今ここにいます。教師らしくいたいと思う気持ちが揺らいだことはありません。だから……一つだけ、お願いがあります。」
私は檻の中で、全裸のまま跪く。
そして、学年主任に向かって、土下座をする。
「生徒には、何もしないで下さい。お願いします。」




