7-6(武田6)
[武田]
槇原先生は、学年主任に呼び出されてから、戻ってこなかった。
つまり、動けるのは、もう俺しかいないということだ。
だから俺は、”彼女”に希望を託そうと思う。
放課後、俺が呼びだしたら、”彼女”は素直に来てくれた。
体育館裏。監視カメラの死角。
「ふふっ。どうしたの? 急に呼び出して。体育館裏って、まさか、告白じゃないよね?」
小田はニヤニヤと俺を見ている。
「告白……っていったら、どうする?」
そう俺が言うと、小田は怪しむような表情をする。
「え? なに、そうやって、私を慌てさせる作戦かなあ?」
小田は、俺の心理を探ろうとしている。
隙だらけの小田を、壁に押し付けるようにし、壁に手をつく。
身長の小さい小田は、俺を見上げることになる。
「何? 私に脅しでもするつもり?」
俺はガタイが良い方ではないが、小柄な小田が相手なら、力づくで抑え込める。
俺の方が圧倒的に有利な立場に立っているはずなのに、小田は余裕の表情で俺を見ている。
小田は怯えたりしないんだ。むしろ、脅された時の方が、明るく目を輝かせる。
「ああ。そうだよ。小田、俺に協力しろ。これは、”命令”だ。」
俺は小田を見下し、冷たい視線で威圧する。
威圧は正直、通用するとおもっていない。俺の狙いは、ただ一つ。
”俺が本気だということを、示すこと”
普通の俺なら、小田を脅して協力させたりしない。「小田、協力してくれないかな?」と言ってお願いする。それが普段の俺。
でも小田が求めてるのは、それじゃない。”優等生ぶらない俺”なんだ。
俺の発言で、小田の目が変わった。おちゃらけた小田が、本気で、俺を相手にする気になったんだ。
「命令? どんな?」
小田はいつもの高い声でなく、低く冷たい声で言った。
「明日、クラスで鬼ごっこをするようにみんなに言ってほしい。鬼は、生徒以外全員。」
小田は、鬼ごっこ? と首をかしげる。
「明日って、休暇の船が12時に出発するでしょ。休暇に行く生徒はどうするの?」
「休暇に行かない生徒達だけで行う。大体20人くらい。小田も、残るでしょ?」
小田は笑った。
「ふふっ。そういうことね。私も、武田くんも、休暇申請を却下された。だから、出発までの時間稼ぎってこと?」
小田は勘が鋭い。頭が切れる。こうして会話してると、自分のすべてを見透かされそうで怖い。
「そう。クラスの誰が証拠を持っているか分からないようにして鬼ごっこを行う。もちろん、俺と小田はダミーを持つ。」
「クラスの誰が証拠を持っているか分からないようにしてねえ……。」
小田は、そう言って俺を見て笑う。
ぞくっとした。
「まあ、クラスに残る人に、鬼ごっこをしてもらうように、お願いするんだよね? いいよ。」
小田があっさりと承諾したことに驚きを隠せない。
「私が嫌というとでも思った? そんなわけないじゃん。だって”命令”だもん。」
そう言った小田はいきなり俺を勢いよく突き飛ばす。
俺は草の上に尻餅をつく。
「命令した、王子さん? もし、私が明日、裏切ったらどうする?」
小田が上から見下ろしてくる。
まるで、立場逆転とでもいうように、口元には笑みを浮かべている。
小田は、試してるんだ。俺が、小田を本気で信じれるかどうかを。
裏切るようにしか思えない小田を、俺は……信じる。
「小田は、裏切らないよ。信じてるから。」
俺のその言葉に、彼女は少しだけ、優しい笑みを浮かべた。




