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傍観者  作者: Amaretto
第七章
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7-4(槇原14)

[槇原]



 抵抗したところで、無理やり脱がされるのがオチだ。だったら、自分で脱いだ方がいい。

 私は何も証拠は持っていない。だから無事に帰れる。学年主任の言葉が本当なら……。


 私は無言で立ち上がり、ワイシャツのボタンに手をかける。一つずつ、丁寧に外してゆく。

 羞恥心なんて、気にしていられない。


「まきちゃん……。」


 田中先生は、私の状況に耐えれないのか、鉄格子に捕まったまま、俯いている。

 田中先生の右手の小指の爪は、血で赤く染まっていた。


 白いワイシャツが地面に落ちる。

 続いてスカートもストッキングも脱いでゆく。

 私は下着だけの姿になった。


 脱いだ服を、男たちが持って行き、確認している。


 学年主任は私の身体をじろじろと見るようにしてから、「どうした、手が止まってるぞ。」と言った。


 私は目を見開く。

 下着も脱げ、ということらしい。


 さすがにいくらなんでもそれはひどすぎる。あんまりだ……! 私はそう思い、手を強く握りしめた。

 学年主任を殴ってやりたい。「ふざけるな!」と言いたい。


 でも、言ってしまったら、田中先生の今までの苦労は何になる? 今、私が逆らったことで、計画が失敗してしまったら、あとどれくらいの生徒が犠牲になる?



 ”まきちゃん、私の、パートナーにならない?”

 ”私はあなたのその正義感の強さに惚れて、声をかけたの。やってくれるかしら?”


 田中先生の声が、頭の中で再生される。


 動けるのは、武田と、私しかいない。

 この制度崩壊のパートナーになると、田中先生と約束した。

 ここで、田中先生の今までの努力を水の泡にするわけにはいかない!


 私は、俯く田中先生に目を向ける。

 頑張っているのは、私だけじゃない……!


「脱ぎます。」


 屈辱と怒りと憎しみで、どうにかなってしまいそうだ。

 私は、泣きそうになるのを必死に抑え、強がる。

 そして下着を脱いでゆく。


「脱ぎました。」

 私は、学年主任の顔をキッと睨みつけ、脱いでやったぞということを誇張するように、堂々と言う。


 学年主任は、私の姿を一瞥してから、男たちに、「どうだ? 証拠はあったかね?」と聞く。


 もちろんないに決まっている。

 しかし、男たちの答えは、私の予想外のものだった。


「はい。ありました。」


 私は耳を疑った。そんなことあるはずはない。


「え、ちょっとまって、そんなの嘘です! 私は持ってません!」


 学年主任は、耳をピクっと動かし、言った。


「今、『私は』といったかね? それでは、誰かは、証拠を持っている、ということでいいかね?」


 私は何も答えられなかった。

 学年主任は続ける。


「もし、君が証拠を持っていないと主張するのであれば、君のクラスの生徒を調べ上げる。君のクラスで、証拠を持っていそうなのは、……武田智治。」


 私は彼の名を聞いて焦りを見せないように取り繕った。


「武田智治は持っていません。」


 私は冷静に言った。まるで本当のことを言っているかのように。


 「ああ、そうそう。君のクラスでね、何名か、休暇申請があったと思うんだがねえ。」


「休暇申請……?」

 私は少し遅れて気づく。学校側が、武田の休暇申請を却下しているのだとしたら。

 私の顔は青ざめていく。



「そう、彼も、休暇申請したんだよ。武田智治も。却下させてもらったよ。彼はこの島を出るに相応しくない。そう思わないかね、槇原先生?」


 私は、絶望する。武田が、船に乗れなかったら、終わりだ。

 どうしたらいい。私は、どうしたらいい。

 田中先生。私は最後の砦になれなかった。

 ごめんなさい。もう、終わりだ。


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