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第九話 『思いを託されて』

 自分をからかう西野と南に抗議するように、東山は二人にジト目を向ける。


「なんだよもー。ていうか、他の人らは何やってんのさ。まさか僕だけがこの悪しき運命に抗ってるわけじゃないよね」


「もちろんよ。みんなそれぞれの役割をはたすため努力しているわ。舞台の大道具をつくるため廃材集めに行ったり、村や鬼ヶ島の背景づくりのためにフィールドワークに出たり」


「なんかそこまでされるとさ、プレッシャーが半端ないんだけど……」


「そういえば、鬼の衣装はどうなってるんだ? ちゃんと合法ギリギリラインの露出でつくってるんだろうな」


「例のビキニの件? バカなこと言わないで。本番は十月中旬なのよ。そんな格好で舞台に立たせたら、体調を崩しちゃうじゃないの。健康面で問題ありよ」


 南に言われ、西野は不満げな声をもらす。

 一方で、東山は少し安心した。

 よかった。うちのクラスにもちゃんとした常識人がいた。


「なのでインナーがわりにスクール水着とタイツを着用してもらって、その上に鬼のビキニ衣装を着てもらうという妥協案に落ち着いたわ」


「そうかぁ。まあ、しゃーないか」


 東山は絶望した。

 うちのクラスは、もう、おしまいだ。

 バカと変態の特進クラスだ。


「というわけだ。お前の背中にはクラス全員の思いが託されている。だからお前は一人で戦ってるわけじゃない。それを忘れないでくれ」


「いいかんじにまとめないでよ。それに、優勝できなかったら、そいつら全員が僕を殺しにくるんでしょ?」


「いいか。勝つためにはな、勝つことだけを考えるんだ。それ以外は考えるな」


「どうせならもっとうまくごまかしてよ」


「気休めになるかどうかはわからないけど、美冬もこの舞台に向けてがんばっているわ」


「北川さんが?」


 ええ、と南はうなずいた。


「美冬は今、剣道部におじゃまして、剣の構え方や振り方を教わっているの。鬼ヶ島での戦いの場面に向けて、今のうちから練習しておこうと思ったみたいね」


「そうなんだ……」


 少し考えてから、東山は言った。


「あのさ、南さん。どうして北川さんは、主役に立候補したのかな。南さんは、何か知ってる?」


「そうね……。まあ、だいたいの想像はつくかしら」


「それはやっぱり、去年の文化祭のことが関係してるのかな」


「そう考えて間違いはないでしょうね」


 西野はため息混じりに言う。


「あれは事故だったんだ。それに北川はむしろ被害者だ。なのに、あの時はほとんど全員があいつに怒りをぶつけてしまった」


「嫌な事件だったわ。でも、クラスのみんなの気持ちもわからなくはないのよ。あの時まで、みんな一生懸命にがんばっていたもの。それが、あんな形でだめになってしまったのだから。やりきれないのも、無理はないわ」


 東山も、その時のことはよく覚えている。

 疲労と怒りと憎しみに満ちた、去年の一年一組の教室の空気を思い出すだけで、彼は今でも心が苦しくなる。


「まったく、本当に、嫌な事件だったな……」


 西野がそう言った時、教室のドアが静かに開いた。

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