第八話 『主人公の宿命』
ちょっとした自己嫌悪にさいなまれている東山をさておき、南は言う。
「それで、脚本についてなんだけど。話のおおまかな流れはこれでもいいと思うの。問題は結末をどうするか、というところね。鬼たちを始末しておしまいじゃ、あまり印象はよくないんじゃないかしら。だから、この物語を通じて主人公である桃太郎がどう変化したのか、どう成長したのかを描かなければいけないと、私は思うのだけど」
「成長っていわれてもねぇ。原作だと宝物を取りもどしてめでたしめでたし、だったよね。桃太郎の成長ストーリーってわけじゃなかったような……」
「お、そうだ。いいアイディアを思いついたぞ」
「えー。どうせまたろくでもないアイディアなんじゃないの?」
「桃太郎は鬼を退治するために生み出された式神じゃなくて、術によって強化された人間ってことにするんだ」
「やっぱりろくでもないアイディアだった! これ以上鬱要素を増やしてどうすんだよ」
「最後まで聞けって。鬼ヶ島へ行くまで桃太郎は自分のことを純粋な式神だと思い込んでいるんだ。でも、鬼たちとの戦いを通じて、自分にはないはずの人間の心があることを自覚していくんだよ。で、鬼たちの頭領を倒した時、命尽きる寸前の頭領が言うのさ。お前は人間だ。我々とはちがい、運命から逃げるのではなく、抗うこともできるってな。そこで桃太郎は自分が人間であることを確信し、自分を利用した村人たちの悪意に気づくんだ。そして桃太郎は、自分が人間であることを証明するために、自分の運命を歪めた村を滅ぼすことを決意するんだ」
「どうあがいても絶望じゃん。完全なるバッドエンドじゃん」
「あら。私はそのアイディア、いいと思うけど」
「マジで?」
「いうなれば、周囲の言いなりになって自分の意思を殺していた主人公が、戦いの末に自我を確立して、自らの運命を切り開くために戦うことを決意するってことでしょう。こういうテーマを土台にして物語を仕上げれば、多くの生徒の共感を得ることができるんじゃないかしら」
「そう言われると、そういう気がしないでもないような」
「いやはや、さすがは委員長だ。俺が託した深遠なテーマを正しく読み取るとはな」
「てきとーなこと言うなよ」
「なんにせよ、自身の運命に抗うというのは重要なテーマになるんじゃないかしら。この場合は乗り越えるといったほうがいいかもしれないわね」
南は腕を組み、思考を整理するように短く息を吐く。
「そう……。ある意味この文化祭というイベントも、運命を乗り越えるためのイベント、試練といえるかもしれないわね。普段は目立つことなく学校生活を送っている人たちでも、この機会に自分の存在を主張したいと思う人や、自分を変えたいと思う人がいるかもしれないわ」
そうだな、と西野はうなずく。
「目立つ特徴もなく、授業中は珍回答を連発して教室に笑顔の花を咲かせ、体育の集団競技ではみんなの足を引っ張ってばかりの運動音痴の役立たずだって、最高の脚本を完成させてクラスに貢献できるんだからな」
「ねえ春太郎。そろそろ殴ってもいいかな」
「そうよ。今のは私もひどいと思うわ。いくら本当のことでも言っていいことと悪いことがあるんじゃないかしら」
「やめて南さん。援護を装ってとどめ刺さないで」
東山がそう言うと、西野と南は楽しそうに笑った。




