第十話 『チャイム』
現れたのは、一人の女子生徒だった。
背丈は東山よりやや低めの小柄な体型で、胸は高校二年生にしては悲しいほどうすい。
目つきはやや鋭く、ショートカットの黒髪とあいまって一見すれば少年に見えるだろう。
実際、制服のセーラー服ではなく体操服を着ていると、よく男子に間違われるそうだ。
それでも輪郭の繊細なかんじや、顔の各部の整ったつくりは、彼女が少女から女性への成長を示していた。
「おお、北川じゃねえか。どうしたんだ? 剣道部で稽古をつけてもらってるって聞いたんだが」
「もうすぐ下校時刻になるから、あんまりつきあわせるのも悪いと思って、少し前に終わりにしてきたの。それで、夏織から教室で脚本会議をするって聞いてたから、どんな様子なのか気になって……」
北川はほんの一瞬だけ東山に顔を向け、その後すぐに南に顔を向ける。
「でも、なんかおじゃまみたいだね。ごめん。私はこれで……」
「んなこと言うなよ。ちょうど今、去年の北川の話で盛り上がってたんだから」
「ちょっっっと春太郎ぉぉぉぉ! どうしたのぉ? なんの話ぃ? どこがどう盛り上がったってぇぇぇえ! てかなに思いっきり地雷踏み抜いてんだお前はああああ!」
「おいおいどうしたんだ。そんなたいしたことじゃないだろ」
「そうよ。去年のことなんて、美冬のドジっ娘属性が思わぬ形で発現してしまっただけじゃないの。そんなに気にするほどのことではないわ」
「南さん? 北川さんとの友情はどうしたの? こんな形で失っていいものじゃないでしょ?」
困惑する東山を見て、北川はため息をつく。
そのため息を、東山は聞き逃さなかった。
「いいよ。東山君。わかってるから」
「あああああ、わかってない。わかってないよぉ。お願いだからわかってぇえ」
混乱する東山を落ち着けるように、西野は彼の頭を軽くたたく。
「いいから落ち着けって。それより北川も会議に参加してくれないか。主役の意見も聞きたいと思ってたんだ」
「じゃあ、その、おじゃまにならないなら」
どうぞどうぞ、と西野は席を立って北川に座るよう促す。
「大体のアイディアは東山がノートに書いてくれた。何か意見があれば、遠慮せずどんどん言ってくれ」
北川はノートに書かれたメモを読む。
その間、東山は冷や汗をかきながら、北川の反応を待った。
しばらくした後、北川は顔を上げて東山の顔をじっと見つめた。
彼女の表情を見て、東山は悟った。
もうだめだ。北川さんの中で、僕は変人確定だ。
このままではクラス全体、いや学年、学校全体に自分が変人であると思われかねない。
そう判断した東山は、すべてを告白することを決めた。
「あの、じつはそれは」
その時、最終下校時刻十分前を告げるチャイムが鳴った。




