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第七話 『それぞれの舞台』

 ハンドサインを交わした二人は、今度は奇妙なアイコンタクトをとる。

 いったい何がしたいんだこの二人は、と東山が呆れているそばで、西野は言う。


「それで委員長。本題に入るが、他のクラスはどんな様子だったんだ?」


「ほとんどのクラスは脚本の段階で詰まっているようね。二組は三匹の子ぶたをモチーフにしたホラーをつくろうとしているみたい。そこに暴力と知略の要素を織り交ぜて、生き残るために必要なものはどちらなのかという問いかけをしようとしているわ」


「はっはっは、ありきたりだな」


「いやいや。なに勝ち誇ってんの?」


「三組は鶴の恩返しを自己犠牲と絡めた悲恋物語に仕上げようとしていたわ。自分の命を削ってでも恩返しをしようとする鶴と、残りわずかの命となったおじいさんの、愛と命の葛藤を描こうとしているようね」


「いろいろと盛り込みすぎて物語が破綻するパターンだな」


「ねえ、春太郎。さっきからどの口が言ってるの?」


「四組は笠地蔵をモチーフにして、経済学を絡めたコメディをつくろうとしているようね」


「おいおい。たかが高校生の分際で経済学とか、背伸びしすぎだっての」


「春太郎。わかってる? 僕たち原作クラッシャーも大概なことしてるんだよ」


「五組はかぐや姫だったわ。ドルオタやアニオタを皮肉った風刺劇を目指してるみたい」


「おいおい。自分から敵をつくりにいくスタイルとか、バカじゃねえのか五組の連中は」


 もはや東山は何も言わなかった。つっこむのも面倒になってきたのだろう。


「六組と七組はまだ役割分担の段階でもめていたわ。六組は浦島太郎だからある程度方向性を予想できるけど、七組はウサギとカメだからアレンジの方向性が予測しにくいわね。とりあえず、今回の偵察の成果はこんなところよ」


「いいねいいねえ。こりゃ戦う前に勝利確定だな。はっはっは」


「だからその自信はどこから来るのさ。そもそも僕たちだって、まだまともに脚本ができてない状態なんだよ」


「そこは、まあ、なんとかなるだろ」


「なんとかしなくちゃいけないのは僕なんだけどね」


「大丈夫だ千秋。俺はお前ならできるって信じてる」


「僕は春太郎との友情が信じられないよ」


 そんな二人のやりとりを見て、南はどこか楽しげに言う。


「いいわね。青春ってかんじで」


「南さん? ちゃんと目の前の現実を直視できてる? 別の次元とかに接触してない?」


「でも、本当にまだ脚本はできてないの? ノートにはそこそこ何か書かれて……」


 南はノートをのぞき込み、書きこまれているメモに目を通す。


「……これは、東山君が考えたの?」


 その瞬間、東山の頭は急速に回転した。

 ちがうと答えた場合、脚本を考えていないことを責められてしまう。

 かといって、そうだと答えた場合、この原作クラッシュのスクラップを生み出した責任を問われてしまう。


 さて、どちらのほうがマシだろうか。

 そんな東山の苦悩を知ってか知らずか、西野は言う。


「おお、そうだぜ。千秋が考えたんだ。いやー、俺たちもたたき台を用意したけどさ、こいつの想像力にはかなわなかったぜ。たいしたもんだよ、ほんと」


 この野郎、と東山が思った時。すべては手遅れになっていた。


「そうなの……。その、なんというか」


 南は東山の目をしっかりと見て、優しい口調で言う。


「東山君。なにか悩んでいることがあったり、抱えていることがあったら、相談して。委員長として、いいえ、あなたの友人として、力になるから」


 東山は、優しさは時として純粋な悪意より人を傷つけるものであると知った。


「……うん。わかった。ありがとう」


 そして、自分には事実を訂正して真実と向きあう勇気がないことを思い知った。

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