第14話 新たな仲間
井上は死を覚悟する。冒険者の剣は革製の防具を貫き、体に刺さる。井上がよろめいて後ろに下がる。井上の体から汗が吹き出し、肩で息をする。
あれ、剣は心臓を貫いたのではなかったのか。井上は防具の下の右胸を探る。そこには、ポケットにスマホが入っていた。
冒険者の剣はスマホに当たって止まったのだ。だが不利なのは変わらない。
冒険者が必殺の攻撃を防がれてつぶやく。
「運のいい奴め。」
井上は剣を構え直す。冒険者は井上の首を狙って突きを繰り出す。井上は剣でさばきながら前に出て冒険者の目を狙う。
冒険者は首を傾けるだけでかわしてしまう。井上の剣が冒険者の頬を切り裂く。完全にかわしたはずだった。目測を誤った。いや、剣速が挙がってきている。この勇者は戦いながら強くなっている。
冒険者は警戒して左後方に飛んで井上から距離をとろうとする。井上は冒険者が初めて防御に出たと確信する。今だ、責め立てるんだ。チャンスだ。
井上は冒険者を追って間合いに入ると袈裟切りにする。冒険者は剣で防ぐ。井上の攻撃は二手目があった。振るおろした剣を引き戻すように剣の柄頭を冒険者の腹に叩き込む。
完全に決まったはずだった。冒険者は倒れず、右こぶしを井上の右ほおに打ち込む。井上も倒れない。
井上は冒険者を睨みつける。剣を上段から振り下ろす。冒険者は下段から剣を振り上げる。剣はまともにぶつかり合い砕ける。
剣がなくなっても井上と冒険者の戦いは終わらない。井上と冒険者は殴り合う。そして、二人とも倒れる。
井上を神谷がヒールする。冒険者は騎士たちに運ばれていく。
井上は近衛騎士団長に質問する。
「あの冒険者はどうなる。」「始末することになる。」
「彼をメンバーに加えられないか。」「分かった。奴次第だぞ。」
近衛騎士団長は騎士たちに命じて冒険者を連れて来させる。神谷が冒険者をヒールする。冒険者が問う。
「なんのつもりだ。俺にヒールはいらないぞ。」「そうはいかない。パーティに加わって欲しい。俺は井上だ。」
「私はカール・ヒューゲル、落ちぶれた冒険者だ。」「俺たち勇者パーティは経験不足だ。力を貸してほしい。」
「断ったらどうなる。」「お前は勇者の存在を知ってしまったから処分する。」
近衛騎士団長が冷酷に答える。
「私は勇者パーティに加わらないと死ぬことになるのか。他の囚人はどうなった。」「全員死んだよ。」
「そうか。勇者たちに経験を積ませたのか。とんでもない勇者たちだな。」「それは私がやらせたのだ。」
カールは目をつむって考え始める。井上たちは落ち着かない。カールは目を開けると答える。
「私のような奴にふさわしいパーティだ使ってくれ。」
カールが勇者パーティに加わる。最後に連携の仕上げの訓練を始める。チェンバロがワーウルフを6匹出す。
いきなりカールが突撃してワーウルフを2匹仕留める。神谷が井上と小塚を突撃させる。神谷はさらに小室に指示を出す。
井上と小塚が1匹づつ、カールがもう1匹仕留める。小室はファイヤーアローで残ったワーウルフを1匹仕留める。
井上は手ごたえを感じる。このメンバーならやっていけるに違いない。
近衛騎士団長もカールを加えたことが正解だと判断する。




