第9話 近衛騎士団長の涙
次に少女が入って来る。手にはショートソードを持っている。
小塚は近衛騎士団長に言う。
「女の子ではありませんか。戦えません。」「戦わずに殺されるつもりですか。」
「でも・・・」「もう始まっていますよ。」
小塚は少女を見る。少女は小塚を睨み、ショートソードを構えている。一目で殺意を持っていることが分かる。小塚は自然と剣を構える。体が殺意に反応したのだ。
少女の持つショートソードは震えている。力んで構えが定まらないのだ。明らかに少女は剣を握ったことがないはずだ。
小塚は中段に構えて微動だにしない。頭の中では人を殺すことに拒否反応が起きて、考えることが出来なくなっていた。
しかし、体は訓練通りに動く。剣技は体に刻まれていた。小塚の顔から表情が消えている。
少女はショートソードを構えたまま、走って突っ込む。
小塚の剣はショートソードを払うと横なぎに振られる。小塚は、ただ訓練通りに剣を振っただけだった。結果は訓練と違っていた。
少女は走り抜けて倒れる。ショートソードが床を滑る。少女は動かない。
近衛騎士団長は小塚の正確な動きに驚く。「本当に初めて人を切ったのか」信じられない気持ちだ。
しかし、小塚は体が震え始める。そして、持っていた剣を落とす。
騎士団長は、井上と小塚に心の中で謝る。さらに騎士たちに命令する
「少女を運び出せ。」「はっ。」
近衛騎士団長は、井上と小塚に声をかける。
「よくやった。逃げずに戦ってくれてありがとう。」「なに言っているんですか。叱ってくださいよ。人を殺したんですよ。」「私は気づいたら切っていたわ。自分が怖い。」
「誰でも初めはあるんだ。今日は何も文句はない。」「先生、だったらなぜ泣いているのですか。」
「私が・・・そうだな、これはフロイス王の命令だったのだ。君たちにはつらい思いをさせた。済まない。済まない。」
近衛騎士団長は両ひざをついて涙を流す。井上と小塚は今日の訓練が本位でなかったことを知る。
井上が質問する。
「この訓練は続くのですか。」「そうだ、始めは女子供から次に男になる。相手はだんだん強くなる。」
「まさか街からさらってきていないですよね。」「彼らは罪人だ。だが、死刑になるような罪人はごく一部だ。」
「今日の子供たちは何をしたんですか。」「知らなくていい。いや、考えてはだめだ。」
「僕たちは逃れられないのですね。」「済まない。」
井上は近衛騎士団長が一番つらいのだと考える。
「僕たちはやり遂げます。小塚もそうだろ。」「ええ、頑張るわ。」
井上と小塚はこれから地獄の日々が始まることを覚悟する。




