第8話 少年の死
井上は近衛騎士団長に向かって叫ぶ。
「子供だぞ。戦えるか。」「油断すると死にますよ。」
近衛騎士団長の注意に井上が少年に意識を戻すと少年は井上の腹めがけて突きを繰り出していた。井上は半身を引いてかわすがショートソードが腹をかすめる。
井上の服が切り裂かれ、血がにじみ出してくる。井上は少年は自分を殺すつもりだと理解する。井上は後ろに下がり少年から距離をとる。
少年からは殺気が発散されて、目が座っている。説得には耳を貸さないだろう。
井上は剣を構える。少年は躊躇なく迫って来る。井上は少年のショートソードを剣で受けると左足で少年の腹を蹴り上げる。
少年はやせていて軽く、仰向けに倒れ、手放したショートソードが床を滑る。近衛騎士団長が大声で言う。
「勇者よ。止めだ。」
井上は剣を上段に構えて少年を見下ろす。剣を振り下ろせない。井上は固まる。ここで殺さないといけないことは分かる。だが、体が動かない。
少年は床を這って進み。ショートソードを拾うと立ち上がる。今度はうかつに近寄って来ない。少年は獲物を狙う野良犬のように隙をうかがう。
井上は剣を構え直すが動けない。「殺せ、殺すんだ。」自分に言い聞かせる。重い足を少しづつ進めていく。
井上と少年の距離はゆっくりと縮まってゆく。井上の間合いに少年が入る寸前、突然、少年が吠える。
「あーーーあああぁぁぁっ」
少年はショートソードを腰だめに構えて突っ込む。井上は剣でショートソードを打ち落とし、剣の柄で少年の顔面を打ち据える。
少年は鼻と口から出血し痛みに転げまわる。近衛騎士団長は井上に言う。
「さあ、殺すんだ。このまま嬲り殺すつもりか。」
近衛騎士団長の言葉に井上は手が震える。震える手で剣を握り、剣先を少年に突き付ける。
「そうだ。刺せ。刺し殺せ。」
井上は涙を流しながら剣を引き付け、少年の心臓を狙う。
「わあああああああぁぁぁぁぁーーーーーーー」
井上が叫びながら剣を正確に突き出す。近衛騎士団長は顔をそむける。井上はひざから崩れる。井上の涙は止まらない。少年を刺した感覚は心に刻まれる。
近衛騎士団長は騎士たちに命令する。
「運び出せ。丁重に扱え。」「はっ。」
少年は騎士たちに担がれて出ていく。
小塚は全てを震えながら見ていた。彼女はこれから自分たちがすることの罪深さに打ちひしがれる。「なんてことなの。人を殺すために訓練を受けていたの。」心の中で後悔の言葉を繰り返す。




