第10話 宰相エメリの悩み
チェンバロは午前中、井上と小室にアラキア語を教える。午後は井上が近衛騎士団で剣を学び、小室がチェンバロから魔法を習う。
チェンバロは近衛騎士団長に井上の訓練について基本から教えるようにお願いする。小室には防御魔法を教える。チェンバロは、二人が戦場で生き残れるように訓練するつもりだった。
このことがフロイス王にばれれば、ただでは済まないだろう。それでもチェンバロは二人を役立つように育てたかった。
フロイス王はチェンバロを呼び出す。
「次の召喚の用意はどうなっておる。」「今は、井上と小室に言葉を教えています。」
「何をやっておる。さっさと剣士とヒーラーを召喚しないか。」「井上と小室が言葉を覚えれば、次の召喚者を説得しやすくなります。」
「確かに心を読むより抵抗は少なかろう。分かった。急げよ。」「はっ。」
チェンバロは時間稼ぎに成功する。
宰相エメリが勇者の行方について、情報を得る。コルトバ王国に勇者と聖女がかくまわれており、勇者は毎日、騎士団で剣の訓練を受けており、聖女はルイス王の恋人になっていると言うものだ。
エメリは、この情報をフロイスに伝えるべきか迷う。知れば、直ちにコルトバに侵攻することになるだろう。だが、コルトバ王国には最古の魔女がいる。
鮮血の魔女チェンバロでは、対抗するのは役不足である。フロイスは最古の魔女を過小評価して勇者なら倒せると考えているが、その弟子が勇者エドガーを倒したように勇者では最古の魔女に勝てないはずだ。
今、チェンバロは勇者と魔法使いを大切に育てている。彼らが十分に役立つようになるまでは、コルトバとの戦争は避けるべきだはないかと考える。
しかし、立場上、得た情報を王に伝えるべきだ。本来なら、情報を伝えたうえでフロイス王が侵攻しようとしたとき、諫めて止めるべきなのだ。フロイスは耳を貸さないだろう。
土曜日になり、俺とフルートは異世界へ行く。フルートの家に着くと俺は玉座の間に行くため、床を靴でトンと鳴らして転移魔法の魔法陣を描く。
俺とフルートは魔法陣に飛び込む。玉座の間に出ると兵たちに囲まれていたが、俺とフルートを確認すると元の位置に戻る。
「二人とも私に会いに来てくれたのか。うれしいぞ。」「喜んでいる場合ではありません。ドゴール王国が再び異世界召喚を行いました。」
「なんと、ドゴールは諦めたのではないのか。」「いえ、翼の学校の生徒が二人連れ去られました。」
「これは問題だな。ドゴールの周辺国に情報を流そう。」「ドゴール王国を孤立させて力をそぐと良いかと思います。」
「分かった。国境の警戒も強化しよう。」
俺は雪島と谷垣のことを聞くことにした。
「雪島さんと谷垣は元気ですか。」「二人は勇者と聖女と言うことを隠してある。谷垣殿は近衛騎士団に任せてある。レイは私の愛人と言うことにしてある。」
ルイスの言葉にフルートが冷たい目をして言う。
「ルイス様、手を出していませんよね。」「私は大人になるまで待つつもりだぞ。」
「本当ですね。」「ああ・・・」
「手を出しましたね。」「仕方なかったんだー、抱き着てくるから、つい・・・」
俺はルイスを攻める気にはならなかった。俺だって雪島が抱き着いていたら理性を保つ自信がない。半裸で迫って来る雪島を想像する。
フルートの目が俺に移る。
「スケベ。」
心を読まれてしまったようだ。




