悟り
桜庭は毎日由奈のお見舞いに行っていたこともあり、由奈の家族にも認められていた。
その日も由奈のお見舞いに行ってると由奈のお父さんが病室に来た。
桜庭は挨拶をすると立ち上がり椅子を譲った。
「あーいいよいいよ。気を使わないで。」
桜庭はどうぞどうぞとお父さんを促す。
「桜庭君、今日飯でも行かないか?お家で用意してる?」
お父さんは立ったまま桜庭に話かける。
「連絡入れるんで大丈夫です!」
桜庭はお父さんとしゃべる時いつも緊張してしまう。
「おおお!良かったじゃん!祐介美味しいもんご馳走になりなぁ!」
由奈が笑顔で答える。
「お願いします!」
桜庭は面接でもしてるかのようだった。
「いつもお見舞いに来てるご褒美だね!」
由奈がそう言うとお父さんは笑いながら歩き出す、桜庭もついて行こうとする。
「お父さんだけ一回出てて!」
由奈は焦るように桜庭を引き止める。
「わかった、桜庭君廊下で待ってるね。」
お父さんはそう言うとそそくさと出て行った。
「こっちに来て。」
由奈は桜庭に抱きついた。
「大好きだよ…。」
囁き声で桜庭に言う。
「俺も大好きだよ。」
桜庭はギュッと抱きしめた。
桜庭が廊下に出るとお父さんも一回病室に戻り、由奈と挨拶をした。
「お父さん祐介に美味しいもんお願いね。」
由奈は桜庭に手を振り桜庭もそれに答えた。
桜庭は緊張気味でお父さんについて行く。
イタリアンのお店に到着すると、メニューを桜庭の方に向けて開いた。
「好きな物頼んで良いからね。気は使わないで。」
桜庭はパスタとお父さんに促されるままドリンクのコーラを頼んだ。
「この店、由奈とよく来たなー。前に来た時は違う彼氏だったけどね。」
「そーなんですかー。」
桜庭は緊張気味に答える。
「でも前の彼氏は好かなかったなー。どこが良いのか分かんなかった。桜庭君の方が全然いいな。由奈と付き合ってどのくらい?」
桜庭は笑ってしまった。
「実はまだ付き合ってないんです。退院したら付き合おうって約束してて。」
お父さんの顔が一瞬曇ったのを桜庭は見逃さなかった。
「そっかあまりにも仲が良いから、てっきり付き合ってるのかと思ったよ。」
お父さんは顔色を戻した。
「由奈さんは大丈夫なんですか?なんの病気なんですか?」
お父さんはうつむく。
「心臓の病気でね…。医者は手術をすると言っているが、なかなか進まない…。俺も分からないんだ。」
桜庭は由奈が予想以上に重い病気なんだと感じた。
「桜庭君、進路とかは決まってるの?」
唐突な質問だった。
「はい。やりたい事があるので、大学を受験しようと思ってます。」
桜庭はハキハキと答えた。
「そっか…。勉強も大変かもしれないんだけどお願いを聞いてくれないか?」
「はい。なんでしょう。」
お父さんは口元を抑えると急に涙を流し始めた。
「出来るだけで良いから、由奈の側にいてやってくれ。由奈が桜庭君にしたことも由奈が話してくれたよ…。ごめんな。」
桜庭もそんなお父さんを見ると涙が出てきた。
「でもな、そんなんでも由奈に対してあんなに優しく接してくれてるんだから、本当に嬉しくて…。」
桜庭も泣きながら、うんうん頷く。
「はぁ…。」
お父さんはため息をつくと息を整えた。
「正直由奈はどのくらい持つかわからない…。だから桜庭君との約束も守れないかもしれない。それでも良ければ一緒にいて笑顔にしてやって欲しい。」
桜庭はお父さんからハンカチを渡され涙を拭いた。
「はい!もちろんです。絶対離れません!由奈さんの為なら自分に出来ることはなんでもします。」
桜庭は笑顔で答えた。
周りの客はその異様な光景を見ながら、ひそひそと話ていた。
桜庭はお父さんに家にまで送ってもらう車の中で音楽の話をしていた。
お父さんも昔バンドをやっていた話だ。
由奈の兄貴の話も聞いた。
今は就職して東京にいるとのことで、由奈の件は仕事を放り出してでも来ると困るので隠しているらしい。
最後に車を降りる時お父さんが握手を求めた。
桜庭はお父さんの手を取り、力強く握り返した。




