尚美
それから尚美との毎日のメールが再開された。
尚美は献身的なまでに桜庭を励まし続けた。
しかし桜庭の気持ちが晴れることなく、自分を見失いつつあった。
「励ましに来てくれないか?」
桜庭は絶対に来ないだろうとタカを括って尚美にメールを送った。
「わかったよぉ〜。じゃあ今から行くね!私が行ったら大丈夫だよ!」
桜庭は尚美からの意外な返信に驚くが、自分が言った手前拒否することもできずに尚美を待った。
夜の7時頃尚美から「駅ついたよ〜。」と電話があった。
桜庭は迎えに行き昔のように手をつなぐ事もなく二人は歩きはじめる。
「どこ行こうか?」
尚美は桜庭の斜め後ろから話しかける。
「何も決めてない。」
尚美の問いかけに桜庭は気のない返事をする。
「とりあえずごはん食べようか!私お腹すいた。その後ゆっくり話そう。」
桜庭はうなずくと尚美と家の近くのファミレスに入った。
「何食べよっかな〜。祐介ごはん食べた?」
向かい合わせに座る尚美はメニューを桜庭に向け渡した。
「俺は食ったからドリンクバーだけで良いよ尚美好きなもの食べな。」
桜庭は興味なさそうに答える。
尚美はご飯を食べながら、桜庭を元気付けようと励まし続ける。
桜庭は大したリアクションもせず、ドリンクバーのコーヒー飲みながら尚美が励まし続けるが桜庭は心ここに在らずといった様子だ。
そうして10時を過ぎた頃、尚美も喋り疲れてしまった。
沈黙が訪れる。
先に口を開いたのは桜庭だった。
「尚美ありがとうな。そしてごめんな、なんかいっぱい励ましてくれたのに、でもちょっと元気出たよ!もう遅いし帰ろっか。」
桜庭は席を立とうと準備をする。
「私、今日親に泊まるって言ってきた。」
「いやいや泊まるってお前明日も学校だけど。」
桜庭は驚いてしまった。
「いいじゃん。一緒に泊まってよ!」
「は?うちに泊まるとか勘弁してくれよ。」
桜庭は呆れてしまっていた。
「一緒にホテルに行こう!」
今までの尚美からは想像もつかないような事を尚美は言っている。
「いやホテルって、金はどうするんだよ。」
「お金なら私持ってるから大丈夫だもん。」
桜庭は完全に呆れていたが、なぜだか笑えてしまった。
「んまぁ、明日の授業足りてるからいいか…。でも期待するなよ。」
「やったーーー!」
不思議なやりとりが続いた後二人はファミレスを出た。
ホテルに向う最中桜庭は念のため自分の親に友達の家で遊ぶと嘘の電話を入れた。
尚美は終始嬉しそうで、ホテルに向う最中コンビニで買いものをした。
ホテルに着くと二人は他愛もない話をしていた。
この時ばかりは桜庭もリラックスをして、由奈の事を忘れていた。
「じゃあ私お風呂入るね、一緒に入る?」
「何言ってんだよ、早く入ってこい。」
尚美は頬を膨らませて怒ったふりをしながら風呂に入っていく。
桜庭は尚美がいなくなると由奈の事を思い出してしまった。
桜庭はそんな感情から逃げるように尚美の入っている風呂場に行った。
「やっぱり一緒に入って良いですか?」
「えーー!本当に!?…いいよ。」
桜庭は服を脱ぐと風呂のドアを開けた。
「ごめんな、痛かった?」
ベッドで桜庭の横に寝ている尚美は首を振った。
「どうしてホテル行こうなんて行ったの?」
「どうしてって…。」
尚美は言葉につまる。
「私ね…。初めての人は祐介って祐介と付き合った時に決めたの。」
桜庭は無表情で聞く。
「けど別れちゃったよね?でも諦められなくて、しかも祐介好きな人出来たとかって言うし。」
桜庭はおもむろに尚美の目を見る。
「だけどフラれちゃったじゃん?それで祐介がまた違う人好きになる前にって思って…。」
「お前そんな理由で…。」
「わかってるよ!高崎からも聞いたもん。でも私も諦められないんだもん。それに祐介もちょっとは元気になるかなって…。」
尚美は言い終えると目を閉じた。
「ごめんな、でも俺も尚美にわるいと思って…。」
「ううん。祐介のそういう優しさ好き。別れた理由聞いてもっと好きになっちゃった。ちゃんと向き合ってくれてたんだって思った。」
尚美は桜庭の胸に顔を埋める。
桜庭は顔を戻し天井を見ながら考える。
「ごめんね。重く捉えないで。付き合ってとか言わないし、ただ私は諦めないよ〜。」
尚美はそう言い終えると桜庭のほっぺにキスをした。
「祐介も諦めちゃ駄目だよ。まだ好きなんでしょ?諦めなければまたチャンスは来るんだよ。」
そう言い終えると尚美は桜庭の胸に顔を戻した。
「でもお願い。もうちょっとこうしていていい?」
尚美は泣いていた。
桜庭はうなずくと尚美を抱き寄せた。




