失恋
それから数日は桜庭の気持ちは穏やかだった。
正式に付き合ってこそいなかったが、接し方は恋人同士だったし、毎日メールもしていた。
その日の晩も由奈とメールをしていた。
時計は10時半くらいを指していた。
「ごめん、声が聞きたくなっちゃって。」
桜庭は由奈の声が聞きたくて電話した。
「ううん、良いよ。」
由奈は優しい声で答える。
他愛ない会話をする二人。
桜庭には何よりも幸せな時間だった。
「あー由奈に会いたい…。」
ベッドで寝転がりながら電話をする桜庭は会いたくて仕方なかった。
「じゃあ、うちに来る?うちで話そうよ。」
由奈はそう言うが時計を見ると11時を過ぎていた。
「あ、ううんこれから行ったら迷惑じゃん。」
桜庭は気を使ったつもりだった。
「えー、私は別に良いんだけどね。」
「さすがにほら親も心配するじゃん?」
「そお?気にしなくて良いのに。」
桜庭は行きたい気持ちを抑えてた。
年上の一人暮らしの彼女の時は行ったのに、流石に女の子の実家にこんな時間には行けないという判断だった。
「映画でも観に行こうか。由奈なんか観たい映画ある?」
「んードラえもん!」
「いやいや、流石に恥ずかしいわー。」
そんな他愛ない会話をずっとしていた。
気づくと外は明るくなっていた。
「そいじゃあそろそろ寝ようか。ありがとう朝まで付き合ってくれて。」
「ううん、由奈も楽しかったから大丈夫。」
「マジで映画行こうね。」
「うん。」
「おやすみ。」
桜庭は幸せな気持ちでいっぱいだった。
「じゃあね、おやすみ、バイバイ」
由奈が甘えるような声でおやすみまで言った後、バイバイだけを囁くように言った。
桜庭は完全に虜になってしまった。
それから一週間が経っただろうか。
毎日メールをしていた由奈のメールが素っ気なくなっているのを桜庭は感じていた。
桜庭は自分が何か悪いことを言ったのでは無いか、不安になりメールを見返したりしていた。
短い春休みが終わり三年生が始まる初日、バス停に向かう桜庭にメールが届く。
「ごめんね。私他に好きな人が出来ちゃった。本当にごめんなさい。」
メールの内容を見た桜庭は目を疑った。
全てを失った喪失感、そんな事実を受け入れることが出来なかった。
涙が出るほどに好きだったのに桜庭の感情が揺さぶられる事はなかった。
普通に学校に行き始業式を迎える。
クラスに着くと桜庭は佐々木に報告をした。
「俺振られちゃったよ。好きな人ができたんだって。」
いつもの調子で言う桜庭に佐々木は怪我をした人を見るような顔になった。
「マジ!?あんだけいい感じだったのに?あいつありえねーな。ちょっと聞いてみるわ。」
そこから桜庭が意図せずとも周りが勝手に動き出す。
桜庭は初めこそ普通に佐々木達と接していたが、段々と元気がなくなり、その日は昼ごはんすら喉を通らなくなってしまった。
そんな昼休みに桜庭達のグループに後から入った須藤が、隣のクラスから戻ってきた。
「前川隣の9組の佐藤と付き合ったらしい。ちなみにその二人が付き合うことになった時うちのクラスの清水もいたらしい…。」
普段は違うクラスに入ってる高橋もいつもと違う桜庭の様子に桜庭達のグループといた。
「そっか、佐藤ってあいつか…。」
力なく桜庭は答えた。
「は?あり得なくね?佐藤ボコってやるか?」
高橋はなぜか怒っている。
「いや、いい。ってかやめろ。選んだのは由奈だし俺の力が足りなかっただけだし。」
「いや、でもあり得ないだろ。桜庭が先に告ってるんだし、知らない訳ねーし。」
高橋は今にも殴り込みに行きそうな勢いだ。
「そんな事して傷つくの誰だよ。」
桜庭は怒る高橋に冷静に答える。
「おう、そうだな。悪い。でもよー桜庭、お前がそんなんだとクラスん中マジ葬式みたいなんだけど。」
高橋も冷静になったようで、桜庭を心配していた。
「悪いなすぐ元気なるからさ、たかが失恋くらいで落ち込む俺じゃねーよ。」
桜庭強気に答えたが気分は最悪だった。
「俺は清水の方が許せないけどな。桜庭が前川に振られてみんなが動いてる時に、あいつ知らん顔してただろ。」
片山は清水にキレていた。
「あいつも最近調子乗ってるからな。」
高橋が同調する。
須藤は喧嘩とかとは無縁な男の為、オロオロしている。
「あいつはどうでもいいわ。」
桜庭が清水を見ながら吐き捨てるように言う。
清水は明らかに聞こえているが、蛇に睨まれたカエルのように身動きひとつせず、こちらを見ようとしない。
「じゃああいつハブるか。」
佐々木が口火を切るとその日以降清水が桜庭達と話すことはなくなった。
桜庭はその日尚美にメールを送った。




