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おやすみ、そしてありがとう  作者: ズーム
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告白

桜庭は好きな人が出来たことを尚美に報告すると、それまで毎日きていた尚美からのメールは来なくなった。

毎日前川とメールをするようになり、毎日胸を締め付けられた。


長く感じた一週間…。

そして訪れた週末。メンバーは男は桜庭と佐々木、片山と今宮。

女の子は前川と橘だけだった。


「じゃあカラオケ行こうっか。」


合流したメンバーは佐々木の家の近くのカラオケ屋に入った。

6人にしては広すぎるくらいのパーティルームだった。

男達と女の子が分かれる形で座り、桜庭は前川が遠くにいる事を残念に思っていた。

歌が二巡した頃橘と佐々木は用事があると二人が先に帰ることになった。

二人がお金を置いて部屋を出たあと前川は立ち上がり桜庭の横に座り、桜庭にくっつき頭を桜庭の肩に乗せた。

桜庭は冷静を装っていたが内心ドキドキが止まらない。

「おにーちゃん歌上手いね。」

今宮が歌ってるなか由奈が桜庭の耳元で話しかける。

「ありがとう。」

桜庭は前川の肩を抱く。

そして前川の順番が回ってきて立ち上がり前川が歌った曲は古い少女アニメの主題歌だった。

その歌声に桜庭はまた惚れてしまっていた。

「可愛いじゃん!」

桜庭は心から笑顔で前川に言った。

「おにーちゃんモンぱちとか歌えないの?小さな恋の歌とか。」

前川はリモコンを持ちながら桜庭の方を向いている。

「ごめん歌えない。」

桜庭は内心やっちまったと思ったが顔には出さなかった。

「私モンぱち大好きなんだー。」

前川はそう言うと頭を桜庭の肩にもたげた。

そうして約二時間、四人でカラオケで楽しんだ後カラオケを出た。

片山と今宮は帰ると言って、桜庭と前川の二人になった。

「これからどうしよっか?」

桜庭は二人を見送りながら前川に話しかけた。

「ケーキ食べたーい!」

前川は自然に桜庭の手を握り甘えるように言った。

「よしじゃあケーキ屋行こうか!」

桜庭は前川の手を引き歩き始める。

「ケーキ買って由奈の家行こう!」

前川が明るく答える様は周りから見るとカップルにしか見えない。


そうして前川の家に着き前川の部屋に入る。

こないだと何も変わらない部屋…。

桜庭は告白の決心をした。

「お茶用意するねー。」

前川が部屋を空け一人になった桜庭はなんて言うかをシミュレーションしていた。


「お待たせ〜」

前川が温かい紅茶を持ってきた。

「じゃあ食べようか!」

桜庭がそう言うとケーキの箱を開けた。

「うん!」

アールグレイのベルガモットの香りが部屋を包んでいた。

「おいし〜〜!」

前川が子供のように幸せそうにケーキを喜んでいた。

「はいアーン。」

前川が突然桜庭にケーキを食べさせる。


前川とが初めてじゃない。何もかも桜庭はこれまでの彼女と経験してきた。

ところが桜庭にとっては全てが初めてに感じ、幸せな気持ちに包まれていた。


そうしてケーキを食べ終わると前川がベッドに座った。

夕焼けが部屋をオレンジ色に染めていた。

「こっちにおいでよ。」

前川は自分の横をポンポン叩き桜庭を招く。

桜庭は招かれるまま、前川の横に座ると前川は桜庭に甘えるようにくっついた。

「由奈、俺言いたいことがあるんだ。」

桜庭の緊張は高まり、鼓動が前川に聞こえるんじゃないかというレベルだった。

「由奈?んーまぁいいよ。うん。」

前川の雰囲気が一瞬変わった。

「俺初めて人を好きになった。」

桜庭は緊張のあまり上手く言葉が出てこない。

「おー!おめでとう!橘?」

前川は分かっているのに分からないように聞き返す。

「いやいや、由奈の事好きになった!」

桜庭は前川の態度も気にせず、言い放った。

すーっと気持ちが鎮まっていくのを感じた。

「えー嬉しい。」

前川はすっと桜庭から離れ桜庭の顔を見ている。

「こんなに好きになるの初めてで、もうどうしていいか分からないくらい由奈のことが好きなんだ。」

桜庭は前川の目を見つめ続ける。

「うんうん。」

前川は少し嬉しそうな顔をしたがいたって冷静だった。

「だから俺と付き合ってくれないか?」

桜庭は一言一言をゆっくりと気持ちを込めて言っていた。

「うーん。どうしよっかなー。」

前川は頭を傾けた。

「え?」

桜庭は前川の自分に対する接し方からイケるとタカを括っていたが思いもよらない答えが前川から返ってきて声が上ずってしまった。


「うんとね。桜庭君の事由奈も好きだし、由奈のこと好きって言ってくれて凄い嬉しいんだけどね…」

前川は息を大きく吸った。

「うん…」

桜庭はその先の言葉を聞きたくなかった。

「桜庭君は由奈のどこが好きなの?見た目?性格?」

前川は冷静に桜庭を見つめながら言う。

「全部だよ。見た目も性格も喋り方も。由奈といるとすげー幸せだし、由奈のことも幸せにしたいと思う。」

桜庭は淡々とした口調で答える。

「全部ってまだ会って二回目だよ。由奈の全部を知ってるの?由奈は桜庭君の事まだ分からないよ。」

前川は口調を強める。

「いや知らないよ。だからこれから知っていきたいんだ。」

桜庭はなぜかが分からない。

ただこのままじゃ付き合えないのではないかという不安から焦る気持ちがこみ上げる。

「私ね前に病気で肺の手術したって言ったじゃん?由奈の体にその傷があるの、そんなの気にしない?」

前川は淡々とした口調で桜庭に語りかける。

「うん。」

桜庭はぼうっとしている。

「由奈別れたばっかりだし、浮気されて悔しくて、乗り換えられたのにその後も会っちゃった自分も嫌い。どうしてそんな由奈を好きになれるの?」

由奈の口調はキツく怒るような口調になっていた。

「いや、知らんかったしでもそんな話聞いても好きだし。」

桜庭はベッドに横になる。

「だって由奈まだ元彼に気持ちがあるかもしれないんだよ。それでもいいの?」

前川は寝そべる桜庭を見る。

「いや、それは…困るな。」

桜庭は言葉が出てこない。

今まで付き合った子と喧嘩なんてした事が無かった。

喧嘩になりそうになると、面倒臭くなり別れていたからだ。

しばらく沈黙が続く。


五分くらいが経った頃前川が口調を開いた。


「どうして?どうしてそんなの関係ない、俺が忘れさせてやるから俺に付いて来いって言ってくれないの?」

桜庭は黙って下唇を噛んだ。

言って欲しい事が言えなかった悔しさからだった。

また沈黙が続く。


由奈はベッドに横になった。

「グスっ…。クッ…。」

桜庭は由奈と向き合い、泣いている由奈を見つめながら由奈の髪を撫でた。

「ごめ…ん、グスっ…。」

由奈も涙を拭いウルウルとした目で桜庭の目を見つめた。

「私ね、新しく恋をするのが怖いの…。また裏切られるんじゃないかって…。だから私も桜庭君の事好きなのに、知らないうちから付き合うのが怖いの…。」

そう言うと由奈は桜庭のにくっつき胸に顔を埋めた。

桜庭は優しく抱きしめ髪を撫で続けた。


「ごめん…な。俺も…よくわかんないけど、由奈のこと好きすぎてさ…。由奈の気持ちなんて…考えてなくて…。」

由奈は桜庭の胸の中で首を振った。

桜庭も自然と涙があふれた。

自分勝手さと、勝手に舞い上がっていた自分と、何もしてやれない自分、言ってしまったことへの後悔。

たくさんの気持ちが破裂してしまったのだ。


しばらく抱き合っていると、由奈が顔を上げた。

「おにーちゃん泣いちゃダメだよ。」

由奈はすごく優しい口調だった。

「ごめんな男らしくなくて。」

桜庭はまぶたを拭きながら答える。

「んふふ。そういう方が好き。」

そう言うと由奈はまた桜庭の胸に顔を埋めた。


「ごめんね今すぐは答え出せないや。中途半端な気持ちで付き合ったら桜庭君の事傷つけちゃう…」

由奈は寂しそうに言う。

「俺なんていくらでも傷つけてくれていいよ。」

桜庭は由奈を優しく抱きしめた。

「ダメだよ。私が嫌だもん。」

由奈はそう言うと大きく深呼吸をした。

落ち着きを取り戻した二人は、暗い部屋で色んな事を話した。

由奈はおもむろにオルゴールのぜんまいを巻いた。

「私このこの曲好きなんだ。曲名思い出せないんだけど…。」

由奈は首を傾け考える。

「星に願いを。」

桜庭はすぐに答えを出した。

「そうそれ!英語でなんだっけ?」

「俺に英語を聞いちゃう?」

「はは、そうだね。」

「そうだねじゃねーよ。」

「あははは、ごめんごめん。」


時計が9時を過ぎた頃、桜庭は帰ることにした。

「もう帰るの?泊まっていけば?」

由奈は桜庭にくっつく。

「いやぁ流石に気まずいわー。はは」

桜庭は由奈の髪を撫でると起き上がる。

「わかった駅まで送ってくね。」

由奈は寂しそうな顔をしている。


駅までの道のり手をつなぐこともなく、トボトボ歩く二人。

「また遊ぼうね。」

「またメールするわー。」

手を振り別れる二人。


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