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動画内では、レイカが状況把握のために切れ長の目を細めてルリアとハイオークのことを注意深く観察していた。
「なにをボサッとしている! 早く逃げろ!」
ルリアはそう叱咤してくると、両手で剣を構えて、ハイオークと向き合う。
刃を向けられたハイオークは「グルルルル!」と唸り声を発しながら、ルリアとレイカのことを交互に睨みつけてきた。
「状況は一目瞭然でした。どうするべきかは、みなさんにもわかりますよね?」
:金髪少女を助けるんだな!
:ルリアちゃんと一緒にハイオークを倒すのか!
:異世界に来てから最初の仲間になるのか!
:モンスターを倒して、あの美少女を仲間にするのね!(先輩)
レイカの呼びかけに応じて、たくさんのコメントが返ってくる。それを見てレイカは相好を崩した。
こうやって視聴者から返事がもらえるのはうれしい。
動画内では、状況を把握したレイカが険しい面持ちとなって、ハイオークを睨みつけていた。
レイカの右手に魔力が集まっていくと、青い輝きが灯る。
レイカは右手をハイオークに向けて、魔力の輝きを放った。青い光は凄まじい速度で飛んでいき、爆音を鳴らして屈強なハイオークを一撃で粉砕する。
:ハイオークを倒したああああ!
:威力エグッ!
:一発で倒したぞ!
:なんか撃ったレイカちゃんもビックリしてない?
「このときは非常に驚きましたね。なぜかわたしの魔法の威力があがっていたので」
:もともとあそこまでの火力は出せなかったのか!
:異世界に来たことで、火力があがったってこと?
:そうみたいだ!
:とりあえず、これでルリアちゃんは助けられた!
:一人目の仲間をゲットだぜ!
動画内のレイカは魔法の威力があがっていたことに目を丸くして、自分の右手をまじまじと見つめていた。窮地を救われたルリアも、レイカの放った魔法に驚愕している。
ルリアはこわばらせていた身体を脱力させて構えを解くと、まとっていた殺気を消し去った。
「あなたが来てくれていなければ、わたしはどうなっていたか……」
ルリアはなごやかな笑みを浮かべると、レイカのほうに歩み寄ってくる。
そしてお礼の言葉を述べてきた。
「本当にありが」
「てい!」
お礼を言ってくるルリアに向けて、レイカは魔法攻撃を放つ。
ルリアは目を見開くと、ギリギリのところで避ける。だけど、ドォオオオンという凄まじい爆発の余波で吹き飛ばされて「うあああああああああっ!」と叫びながら地面を転がった。
:……え?
:いや、あの……
:あれ? 美少女を助けるんじゃ……
動画に映っているレイカは「てい! てい! てい!」とルリアに向けて魔法攻撃を連発する。
ルリアは慌てて立ちあがると走りまわり、ドォン! ドォン! ドォン! と激しい爆音を立てて飛んでくる青い光から悲鳴をあげながら必死に逃げつづける。
:オイイイイイイイイイイイイイイイイイイ! なにしてんねええええええええん!
:いやいやいやいやいや! マジでなにしてんっスか!
:ちょっと待ってくれ! 意味がわからんのだが!
:なんでルリアちゃんまで攻撃してんだよ!
:美少女を助けて仲間にする流れじゃなかったのか!
「え? 違いますよ? わたしはハイオークさんも、ルリアさんも、まとめて蹴散らすつもりでした」
:なんでだよwwww
:どうしてそうなったwwww
:この血塗れ女の思考回路が理解できんwwww
:すまないwwww 流されてる映像が俺の理解を超えてるwwww
:なんでよ! ルリアちゃんが仲間になるんじゃないの!(先輩)
:パイセンが嘆いてるwwww
:こらああああああああああ! レイカアアアアアアアアアア!(お父さん)
:お父さんガチギレwwww
:そりゃ怒るよwwww
:異世界でのレイカちゃんの活躍が見れてうれしい!(お母さん)
:お母さんは喜んでるwwww
:これは活躍と言っていいのかwww
「わたしの大好きな漫画のなかで、ピンチになっているキャラがいて、主人公が助けにきたんですけど、それ自体が罠で、助けたキャラが敵対してくるという展開がありました。それかなって」
:漫画www
:それじゃないよwwww
:そんでモンスターと対峙してる女の子まで攻撃しちゃうのはおかしいだろwww
:どう見てもルリアちゃんがピンチだったよwwww
レイカの行動に対して、たくさんのツッコミが入る。コメントを見たレイカは「わたしの大好きな漫画だったら、みんな騙されてましたね」という感想を抱いていた。
「しかし、魔法の威力がとてもあがっていたことには驚きました。身体能力のほうもかなり向上していましたし、なぜか異世界人の言語まで最初から理解できていた。そういうのはぜんぶ、異世界系や探索者ものの漫画をたくさん読んでいたおかげなのかと思いましたね」
:んなわけあるかいwwww
:なんで異世界系や探索者ものの漫画を読んでたら強くなったり、異世界の言語を理解できるようになったと思ったんだwww
:この子アホだなwww いま確信したwww
:俺も異世界系や探索者ものの漫画をいっぱい読んだら、強くなれるんだな!
:↑なれませんwwww
:レイカちゃんが強くなったのって、もしかしてチート特典や転移ボーナス的なものか?
:おそらくそうだ。異世界に渡ったことで、なんらかの影響が出たんだと思う。いや、わからんけど……
:そういや俺らもルリアちゃんの言葉が理解できてるな
:この記録魔法とやらで翻訳されてるのか?
:異世界に渡ったことによって、レイカはなんらかの大きな力を授かった! それによって魔法や身体能力の強化がされ、異世界の言語も理解できるようになった!(先輩)
:動画に流れてるルリアちゃんの言葉が理解できるのは、レイカの記録魔法が異世界言語を自動的に翻訳しているからだと推察できる!(先輩)
:真子ちゃんwww
:いきなり真子ちゃんがペラペラと説明してきたwwww
:すげぇ活き活きしてるなパイセンwww
:ガチで異世界好きなんだなwww
「なるほど。そういうことだったんですね。真子先輩が異世界に詳しくて助かりました」
レイカは微笑みながら、配信を視聴している真子にお礼を伝える。
:なんで異世界に行ったレイカさんよりも、行ってない真子ちゃんのほうが詳しいんだよwww
:パイセンのほうが詳しいの絶対おかしいだろwww
:これはレイカさんがいい加減すぎるのがいけないwwww
:てか、動画のほうではレイカちゃんの凶悪魔法からルリアちゃんが逃げまくってますがwww
映し出されている動画内では、レイカが連発する高威力の青い光からルリアが息せき切りながら逃げつづけていた。
レイカは眉間をわずかにひそめると、ルリアへの攻撃をやめて右手を下ろす。
「どれだけ撃っても、ルリアさんがしぶとく逃げまわって当たらなかったので、もしかしてこれは倒してはいけないキャラなのでは? と思ったんです」
:遅いよwwww
:ふつう最初にそう気づくだろwww
:ていうか、倒していいキャラだと思う時点でおかしいwwww
:そもそも異世界で倒していいキャラとかいないからなwww
レイカの魔法攻撃から生き延びたルリアは表情を曇らせたまま、ギュッと唇を噛みしめて、震える手で剣を構えた。
「お、おまえは……! おまえは一体何者なんだ!」
二つの青い瞳に恐怖をたたえながら、ルリアは鋭い声で問いかけてくる。
レイカは唇をつぐんだまま少し考えると、フッと笑みを浮かべて、胸元に手を添えながら名乗った。
「わたしは、魔道王ダークネスカイザーです」
:ウソつけwwww
:ダークネスカイザーwwww
:誰だよwwwww
:さっき聞いた名前と違うんですがwwww
:ちょっ、待てwwww この名前ってもしかしてwwww
「どうやら知っている視聴者もいるみたいですね。そうです。ダークネスカイザーというのは、わたしが敬愛するナカタニサクラ先生が描いた、『ダンジョンハンター』という漫画のキャラです」
:ダンジョンハンターwwww
:ここでも漫画wwww
:タイトルは聞いたことあるけど、内容までは知らないな
:どういう漫画なん?
:現代ダンジョンや探索者を題材にした漫画だ!
:だいぶ前にアニメ化もしてるぞ!
:作者のナカタニ先生はそこまで知名度はないけど、一部の熱狂的な信者がいる!
:読んだらおもしろいからな!
:予想外の展開だったり、メインキャラがあっさり退場したりするから読んでてビビる!
:クセのある作品だけど、ハマる人はハマる!
:確かに困ってる人を助けて騙されるってのは、ダンジョンハンターにあった展開だなwww
:だからルリアちゃんを攻撃したのかwwww
:いや、それで攻撃するのはおかしいだろwwww
コメント欄では、ダンジョンハンターやナカタニサクラについての書き込みが増加していた。それを見ると、レイカは椅子から腰を浮かして中腰になる。
「もちろん、わたしはダンジョンハンター以外にも、ナカタニ作品は全て読破していますよ! ナカタニ作品からしか得られない栄養がありますからね!」
:レイカちゃん落ち着こうwww
:椅子から立ちあがったぞwwww
:テンションあがっとるwwwww
:ナカタニ作品からしか得られない栄養って、どんな栄養だよwww
:なるほどwww レイカさまの倫理観が狂ってるのはナカタニ作品のせいだったかwwww
:すべての元凶はナカタニ作品だったwww
:なんという風評被害www
:漫画は悪くないだろwwww
ディスプレイに表示されるコメントを読んでいたレイカは、ハッとして我に返ると、「いけません。配信中でした」と冷静さを取り戻して椅子に座り直す。
:レイカちゃんがダンジョンハンターを大好きなのはわかったけど、それでなんで偽名を?
:本名でよくないか?
:偽名を使う意味がわからんwww
「え? いや、だって初対面のよく知らない人ですし、いきなり本名を教えるわけないじゃないですか。それにダークネスカイザーは作中でも主人公たちを苦しめる強キャラで、かっこいいんですよ」
:確かに知らない人に本名を名乗るのは危ないけどもwww
:ここ異世界ぞwww
:作中で強キャラかどうかは関係ないだろwwww
:かっこいいからって、偽名を名乗るなwww
:そこまで頭がまわるだなんて、レイカちゃんすごい!(お母さん)
:お母さん娘にアマアマだなwww
:俺の勘がささやいてる。たぶんこの母親はまともではないと……
:勘がささやかなくても、さっきからコメント見てればまともではないとわかるぞwwww
コメントが大量に流れていくその一方で、動画内ではレイカと向き合っていたルリアが緊張した面持ちで、ごくりと喉を鳴らしていた。
「ま、魔道王ダークネスカイザーだと……!」
:ルリアちゃんwwww
:漫画キャラの名前なのにwww
:めっちゃビビってるじゃねぇかwwww
:【注意】漫画のキャラの名前です
:ルリアちゃんは漫画のキャラってことは知らないからなwww
:魔道王とかつけてるから、ややこしくなってるwwww
:ていうかカイザーなのに魔道王ってついてるのおかしくないか?
:そこは作者がノリで名前をつけたっぽいwww
レイカはルリアから視線を外すと、周辺を見まわして背中を向けた。
「ひとまず辺りを見てまわりたいので、ここから立ち去ることにしましたね」
レイカは動画を見ながら解説を入れる。
だが、立ち去ろうとするレイカにルリアは声をかけてきた。
「ま、待て……!」
レイカはぴたりと足を止めると、長い黒髪をなびかせながら振り返る。
「……ひっ!」
レイカから眼差しを向けられたルリアは、悲鳴をあげて身を固くする。
おびえるルリアを見て、レイカは怪訝そうに首をかしげた。それから正面を向くと、歩みを進めていった。
「このときルリアさんに呼び止められたんですけど、なにも言ってこなかったんです。一体なんだったんでしょうね?」
:いや、あの……
:これは普通に怖かったのでは?
:完全にルリアちゃんの表情が恐怖に染まっていた!
「確かに……攻撃しちゃいましたからね。ちょっと怖がらせてしまったかもしれません」
:ちょっとじゃないwww
:めっちゃ怖がってますwwww
:レイカさまとエンカウントするだなんて、ルリアちゃん哀れすぎるwwww
立ち去っていくレイカの背中が見えなくなると、ルリアは「くっ……!」と声をもらして、地面に膝をついた。
「魔道王ダークネスカイザー……」
悔しさと恐怖が混ざりあった表情でその名前を呼ぶと、ルリアは瞳に涙を浮かべながら全身を震わせていた。
「このように、出だしはいいスタートを切れましたね」
レイカは微笑みながらそう言うと、右手を前に出して、浮かんでいた映像を消した。
:お、おう……
:出だしのいいスタート?
:ルリアちゃんを仲間にしそびれてるが……
:仲間にしそびれてるどころか、心をへし折ってましたがwwww
:これ進むルートまちがえてるだろwwww
:思ってた異世界冒険とちがう……(先輩)
:先輩に同意www
:パイセンに同意するwwww
:ルリアさんには娘が多大な迷惑をかけてしまったようで申し訳ない……(お父さん)
:お父さんwww
:異世界の映像を見せられて、一番ダメージをもらってるのはお父さんかもしれんwww
すごい量のコメントが流れていく。【記録魔法】で異世界の映像を流したのは、かなり効果があったようだ。リビングにいる信治の様子が少し心配ではあるけど。
:レイカさん! 同接が三十万いってるぞ!
:ホンマや! いつの間に!
:異世界の映像を流したあたりから、急激に伸びていったぞ!
:この配信の現在のランキングは98位だ!
:日間ランキングの100位内に入っとる!
:ルリアちゃんが攻撃されたところから更に視聴者が増えてたようだwwww
:ルリアちゃんの不幸が人を呼び集めたwwww
「ど、同接三十万……! それに98位……!」
その数字が目に飛び込んでくると、レイカは背中から冷たい汗が噴き出した。
自分の配信が100位圏内に入っているなんて信じられない。驚きと同時に、胸の奥から熱いものがこみあげてくる。
「ありがとうございます! これも応援してくれるみなさんのおかげです!」
:レイカちゃんうれしそう!
:もともとは底辺配信者だったから、こうして100位圏内に入れたらそりゃあな!
:見てる側としてもうれしいよ!
:これに満足せず、まだまだ上を目指していくんだ!
:レイカちゃんおめでとう!(お母さん)
大勢の視聴者から送られてくる応援コメントに、心が温かくなる。
だが、コメントにも書かれていたように、これに満足せず、もっと精進しなくては。




