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 スーハ―、スーハ―、スーハ―。


 レイカは何度も繰り返し深呼吸をしながら、自室のパソコンの前に座っていた。


 窓の外の景色は日が沈んでいて、すっかり暗くなっている。


 椅子に座ったままソワソワとして、落ち着かない。


 そろそろ告知していた時刻だ。


 長らく放置しつづけていたSNSを使って、自宅で雑談配信をすることを数日前に告知した。それだけで騒ぎになっていたようで、SNSや掲示板にはいくつもの書き込みがされた。


 異世界に渡る前の底辺配信者だった頃は、誰からも注目されていなかったのに……バズるとこんなにも状況が激変するものなのか。


 まだ配信が始まっていないのに、待機人数がすごいことになっている。「本当にこれわたしのチャンネルなんですか?」と我が目を疑ってしまう。


 時刻が迫ってくるにつれて、緊張感が増してくる。練習した自己紹介の言葉を頭のなかで何度も繰り返し唱えた。


「そ、そろそろ時間ですね……」


 手が震える。胸の鼓動が高鳴って、心臓が破裂しそうだ。


 だけど、配信再開の初日から遅刻するわけにはいかない。


 腹をくくらないと。


 告知していた時刻ぴったりになると、思いきってディスプレイに表示されている『配信開始』をクリックする。


 そしたら……。


:はじまったああああああああああああああああああ!

:本当にあのときの女だああああああああああああああああああああ!

:異世界から帰ってきた女ああああああああああああああああああああああああ!

:ヒュドラを瞬殺した血塗れ女あああああああああああああああああああああああ!

:今日は血塗れじゃないんだねwwwwwww

:今日も血塗れだったらコワイだろwwwww

:自宅からの配信だから、ダンジョンで着てた青いローブ姿じゃないな!

:ふつうにブラウス着てる!

:黒髪ロングの女の子!

:こうして見ると、クール系の女の子っぽいwwww

:チャンネルの名前が変更されてたなwww

:もともとは『レイカの楽しい探索チャンネル』だったけど、今日見たら『レイカの楽しい異世界帰りチャンネル』に変更されてたwww

:異世界帰りを前面に押し出してるwwwww

:さてはこの女、売れる気まんまんだなwwwww


 ディスプレイに表示されるのは、底辺配信者だった頃とは比較にならないほどのコメントの嵐だった。


 しかも、いきなり同接が十万超えをしている。


「…………」


 その衝撃にレイカは、練習していた自己紹介の言葉が頭から吹き飛んでしまいフリーズする。


:どうしたwwww

:硬直したまま動かないんだがwwww

:え? 画面バグッた?

:画面が止まったぞwwww

:時が止まったwwww

:↑安心しろwww 止まってないwwww

:止まってるのは血塗れ女だけですwwww


 レイカはハッとして、我に返る。


 あまりの同接数と、コメント欄に流れつづける書き込みの多さに、硬直していた。


 あやうく放送事故を引き起こすところだった。


 レイカはあらかじめ用意していたセリフを思い返しながら、慌てて自己紹介をする。


「い、異世界帰還者の、小林レイカです。個人で、探索者を、や、やって、やっています」


:おっ、正気に戻ったぞwww

:緊張してたんだなwwww

:まぁ、いきなりこれだけの視聴者が集まればねwwww

:自己紹介してきたけど、すげぇどもってるwww

:めっちゃ棒読みwwww

:はは~ん、これはあらかじめセリフを用意していたなwwww

:台本にあったセリフですねぇwwww

:ちゃんと自分の言葉で喋ろうかwww

:俺は台本のセリフではなくて、キミ自身の言葉が聞きたいなぁwwww

:笑顔なんだけど、ぎこちないなwww

:ぎこちない笑顔かわいいwww

:真子ちゃんと同じ個人勢なのか


 あれだけ練習してきた自己紹介の言葉をつまらせてしまった。それに、用意していたセリフだと秒でバレた。


 どうやら集まった視聴者たちは、恐ろしい観察眼を持っているようだ。


:……やっぱりこうなったか(先輩)

:ん? 先輩?

:先輩って?

:もしかして真子ちゃん?

:真子ちゃん先輩!

:真子ちゃんのSNSを確認してみたら、この配信を見ながらコメントしたって書いてあったぞ!

:てことは本人か!

:どうやら本人で間違いないようだ!

:真子ちゃんが来たwww

:血塗れにされた上に鎖でつながれたのに、来てくれたのかwwww

:それだけ聞くと、ホントひでぇなwwww

:マコ犬が来たwwww


「あっ、真子先輩! うれしいです! 約束通り配信を見に来てくれたんですね!」


 レイカは人並み外れた動体視力によって、無数に流れていくコメントのなかから真子のものを発見する。 


 さっきまでガッチガチに緊張していたが、真子のコメントを見て、レイカは多少の冷静さを取り戻すことができた。


「先日は血塗れにしてしまって、真子先輩には申し訳なことをしました。それにあんなにおびえて……。よっぽどヒュドラさんが怖かったんですね」


:真子ちゃんがおびえてたのは、ヒュドラさんにじゃないよwwww

:レイカちゃんにおびえていたのかとwwww

:レイカさまのせいですwwww


 レイカの発言に、たくさんツッコミのコメントが書かれていく。


 こんなふうに視聴者から反応がくるのは、かつて配信を行っていたときはなかったことなので、レイカは密かに感動していた。




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― 新着の感想 ―
一般的に考えて、何年も前に失踪した友人が血塗れかつ笑顔で接近してくるとか完全にホラー映画のワンシーン
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