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「おはようございます。お父さん、お母さん」
血塗れ女というヒドい呼ばれ方をしていることを知ったダメージから回復すると、レイカは一階にあるリビングに降りてきて、両親に挨拶をした。
「おはよう、レイカ」
レイカの父である小林信治はソファーに腰を下ろしたまま、落ち着いた声音で挨拶を返してくる。
顔には長年使っている銀縁眼鏡をかけていて、目尻をやわげながら温厚な笑顔を向けてくれる。
「レイカちゃん、おはよう。なんだかレイカちゃんのことが、ネットですごく話題になっているわね」
母親である小林恵美が、ダイニングのほうから微笑みながら声をかけてくる。
亜麻色の長い髪を結んで肩口から垂らしており、おっとりとした顔立ちは子持ちとは思えないほど若々しい。
三年間も離れていたから、家に帰ってきたらぎこちなさを感じるかもと不安だったけど、それは杞憂だった。両親は以前と変わらずに、やさしくレイカに接してくれる。
二人ともレイカは必ず帰ってくると、そう信じて三年も待ち続けてくれていた。そんな二人の顔を見ると、「我が家に帰ってきたんだな」という感慨深さがこみあげてくる。
「はい。真子先輩を助けたときのことが、取り沙汰されているみたいです」
レイカは笑顔でそう答えると、ソファーに腰を下ろす。信治のはす向かいの位置に座った。
ダイニングのほうから恵美がやってきて、信治の隣に座るのを見て取ると、レイカは「よし」とうなづく。
大事なことを切り出すことにした。
「お父さん、お母さん。先日話したように、わたしはまた配信を再開しようと思います。そして、ダンジョンにもぐります」
またダンジョンにもぐることは、既に両親から了承を得ている。それでも、改めて宣言しておきたかった。
行方不明になって両親には心配をかけてしまったけど、またダンジョンに行きたい。その想いは、変わらなかった。
「……それがレイカの生き甲斐で、どうしてもやりたいことなら仕方ないかな」
信治は一瞬だけ困ったような表情をしたけど、すぐに微笑を浮かべてうなづく。レイカの願いを聞き届けてくれる。
「お父さんはこう言ってるけど、本当はもうレイカちゃんにはダンジョンにもぐってほしくないと思っているのよ。でも、ダンジョン探索や配信はレイカちゃんが絶対にやりたいことみたいだから、お父さんも止めたくないみたい」
恵美がレイカのほうに身体を寄せながら、耳打ちでもするようにささやいてくる。その声は信治にも聞こえていたようで、苦笑いを浮かべていた。
こんなにやさしい両親に三年間も心配をかけていただなんて、胸が苦しくなる。
レイカは背筋を伸ばして居住まいを正すと、二人のほうに向き直って毅然と言い放つ。
「先日約束したように、わたしはもう行方不明になったりはしません。ダンジョンにもぐれば危険は付き物でしょうけど、以前よりとっても強くなりましたから安心してください」
二人に心配をかけるような真似は絶対にしないと、固く誓う。
娘から決意のこもった言葉を聞かされると、信治と恵美は顔を見合わせる。それから相好を崩して、レイカのことを見つめてきた。
「そう言ってもらえて、うれしいよ。本音を言えば、もうレイカにはダンジョンにもぐってほしくないけど……。それでも父さんは、レイカのことを応援しているよ」
「わたしも、レイカちゃんのことを全力で応援するわね」
「お父さん、お母さん。ありがとございます」
両親からの声援に、レイカは快活な笑みで応える。
「さてと、それじゃあ朝食の準備をしないとね。レイカちゃんは、パンでいいかしら?」
恵美は両手を合わせてパチンと音を鳴らすと、ソファーから立ちあがった。
レイカは「はい」と返事をする。
またこうして家族で食卓を囲むことができて幸せだ。もう何度目になるのかわからないけど、帰ってきたんだという実感を持つことができた。
レイカの返事を聞くと、恵美はダイニングのほうに足を向ける。けど何かを思い出したようで「あっ、そうだ」とつぶやくと、レイカのほうを振り返ってきた。
「レイカちゃん。ダンジョンにもぐるのは構わないけど、もう血塗れにならないように気をつけなきゃダメよ。それもネットで話題になっていたから」
「できれば、自分の娘が血塗れになっちゃうところは、父さんもあまり見たくないな」
「うっぐ……も、申し訳ないです」
どうやら血塗れ女というワードは、両親にまで浸透していたらしい。
久しぶりに我が家に帰宅した際も、レイカが血塗れだったので二人をとても驚かせてしまった。
レイカは恥ずかしくなって、膝に両手を置いたまま、背中を丸めてちぢこまった。




