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「た、たたたたたたたたた! たたたたたたたたた! 大変です! 大変です真子先輩! 大変なんです! わ、わたしの、わたしの配信のチャンネル登録者数が!」
現実世界のほうに帰ってきてから数日後。
レイカは早朝から自分の部屋で、素っ頓狂な声をあげていた。
ベッドから目覚めると、久しぶりに再会した両親から新しく買ってもらったスマホを起動した。
そしたら、いくつもの通知が画面に表示された。
一体なんだろうと思って見てみたら、そこにはなんと配信チャンネルとSNSのフォロワーが30万人を超えたことが書かれていた。
通知の内容を目にしたレイカは、数秒ほどフリーズ。
三年間も放置していたはずなのに、なんでこんなことに?
というか、もともとレイカは底辺配信者で、チャンネル登録者は一ケタだった。両親が見にきてくれないときの配信は、安定の同接ゼロだ。
それがどうしてこんな桁違いに爆増しているのか?
状況を理解できないレイカはフリーズから復活すると、慌てて真子に電話をかけた。このまえ再会したときは、まだレイカはスマホを持っていなかったけど、別れ際に真子は連絡先を教えてくれた。
その連絡先へと電話をかけて通話がつながるなり、レイカは動揺した声をあげたというわけだ。
「めっちゃビビってるわね。そりゃあんな登場の仕方をして、ヒュドラを瞬殺しちゃえば超絶バズるでしょうよ。それに本当に異世界から帰ってきたんじゃないかって、注目もされてるし」
スマホからは、なんだか疲れている真子の声が聞こえてくる。
ヒュドラに襲われたときの精神的なダメージが、まだ抜けきっていないのだろう。レイカは勝手にそう解釈する。
実際は、血塗れになったレイカに恐怖したことからくる疲労なのだけど。
「このまえヒュドラを倒したところは、切り抜かれて拡散されまくってるし。わたしのチャンネルのアーカイブにあるあのときの配信は、再生数がすごいことになってるわよ」
真子は人気の配信者だ。三年前から結構人気者だったけど、あれから月日を経て、真子の人気は更に高まっている。
その配信に映り込んでしまったことも、レイカがバズった要因の一つだ。
「まぁ動画の再生数が伸びたのは、わたしとしてもありがたいんだけど……」
聞こえてくる真子の声は、なんだか歯切れが悪い。
「なにかあったんですか、真子先輩?」
「……ヒュドラを倒した後、逃げ出したわたしをレイカが鎖でつなぎとめたじゃない?」
「えぇ、そうですね」
「あのときのことが原因で、わたしマコ犬とか呼ばれてて、ネットでめっちゃイジられてる」
「それは、わたしもそう思いました」
「オイ」
うっかり素直な感想が口をついて出てしまった。レイカは「すみません」と謝る。
通話口から真子のため息が聞こえてくると、「まぁいいんだけどね」という声が返ってくる。そんなに怒っているわけではなさそうだ。
レイカはクスリと笑うと、真子の姿を思い浮かべながら語りかける。
「真子先輩、ありがとうございます。こうしてチャンネル登録者数やSNSのフォロワーが増えたのは、真子先輩のおかげです」
「助けてもらったのはこっちなんだから、むしろお礼を言うのはわたしのほうでしょ。それにヒュドラをあんな簡単に倒せちゃう実力があるのなら、配信を再開すれば、すぐにでもたくさんの視聴者が集まってきたはずよ。わたしがいなくても、いずれレイカは注目されていたと思うわ」
なんだかちょっとだけ、真子の口調が早くなる。もしかしたら、照れているのかもしれない。
「レイカのことは、前から応援していたからね。こうしてバズってくれたのは、わたしとしてもうれしいわよ。今のレイカなら、このチャンスをものにできるはずよ」
はげましの言葉をくれる真子に、レイカは頬をゆるめる。
配信者としての人気がぜんぜん出ないレイカのことを、真子は昔からよく気にかけてくれていた。真子がやさしいのは、何年経っても変わらないようだ。
「……と、ところでレイカ! ア、アンタは、その……異世界から帰ってきたって言ってたけど、あ、あれって本当なの……!」
さっきまで落ち着いた口振りで喋っていた真子の様子が、急におかしくなる。聞こえてくる声は妙に熱っぽくて、ハァ、ハァ、と息づかいが怪しくなっていた。
そういえば、このまえ『原初の混沌』から出た後に、行方不明の間は異世界に行っていたことを手短に伝えたら、真子は驚きつつも異様にソワソワとしていた。
それに真子は昔から異世界系の創作物を好んでいたと記憶している。
「な、なんか前よりもおかしなくらい強くなってたし! い、異世界に行ってたっていうのは……」
「詳しいことは、配信のほうで話すつもりです。よければ真子先輩も見に来てください」
「そ、そう……」
あからさまにガッカリしていることが、真子の沈んだ声から察することができた。異世界の話を聞きたかったようだ。
「ちゃんと見にいくから、配信がんばりなさいよ」
「はい。ありがとうございます」
最後にもう一度お礼を言って、真子との通話を終える。
フゥ、とレイカは吐息をもらすと、握っているスマホを見つめた。
自分がバズって、チャンネル登録者数が30万人を突破しただなんて、いまだに信じられない。胸の鼓動がうるさく鳴っていて、なかなか静まりそうになかった。
「真子先輩に言われたように、配信をがんばらないといけませんね」
こっちの世界に帰ってくることができたら、また配信をしたいとずっと思っていた。それに、かつては手の届くことがなかった夢を、今ならかなえることができるかもしれない。
今度こそやってみせます。そうレイカは意気込む。
「……ん?」
気炎を燃やしながら、スマホをイジッてSNSを見ていたら、『血塗れ女』というワードが目に入った。
先日ダンジョンで真子を助けたときの光景が思い起こされる。
……なんだか胸騒ぎがする。
嫌な予感を覚えつつも、画面をスクロールしてみると……。
『真子ちゃんを助けた血塗れ女www』
『ヒュドラを瞬殺した血塗れ女www』
『血塗れレイカちゃんwwww』
『ヒュドラよりも怖い血塗れ女www』
「ち、血塗れ女……!」
自分が血塗れ女と呼ばれていて、いろいろとおもしろおかしく書き込みがされているのが散見された。
それを読んだレイカは、ヒュドラと対峙したときは決してもらうことがなかったダメージをモロにくらう。
バタリと、ベッドに仰向けになってダウンした。




