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:ルリアちゃん生きてる!

:鎧だけ壊れたのか!

:鎧の破片が少しだけ残ってるな!

:ルリアちゃんにはほとんど怪我がない!


「だいぶ威力をおさえましたからね。うまく『禁忌の鎧』だけを破壊することができたようです」


:あれで手加減してたのかよwwww

:聖魔剣おそろしいなwwww

:それをなんの迷いもなくブン投げるレイカさまはもっとおそろしいwwww

:ルリアちゃんが生きてたのも、ゲームのサブクエストをクリアできたくらいの感覚で喋ってるからホントおそろしいwww


 ルリアを生かしたまま『禁忌の鎧』を破壊できたことを確認すると、レイカはパチンと左手の指を鳴らす。地面に突き刺さっていた聖魔剣が霧散していき【アイテムボックス】のなかに収納された。


 ついでに二台のドローンカメラに巻きつけていた青い光の鎖も消しておく。


 壁に寄りかかっているルリアは何度が咳をすると、パチパチとまばたきを繰り返す。


「っ……わ、わたしは……」


:正気に戻った!

:ルリアちゃんが正気に戻ったっぽい!

:鎧が壊れて自我が戻ったのか!

:まともに喋れてる!

:なに喋ってるのかわかるぞ!

:レイカちゃんが翻訳魔法をかけたおかげか!

:ここにきて役に立ったな翻訳魔法www


 自我を取り戻したルリアは、見慣れぬ景色に困惑しながら視線をめぐらせる。そしてレイカの存在に気づくと、唖然としていた。


 バッと勢いよく立ちあがって、身構えてくる。


「お、おまえは……! ダークネスカイザー……!」


 ルリアが鋭い声で呼んでくる。


 けれど、レイカは不思議そうに首をかしげていた。


「レイカ。あんたのことじゃないの?」


 おんぶされている真子が小声でささやいてくると、レイカはハッとする。


 レイカは真剣な面持ちになって、左手を胸に添えながらうなづいた。


「はい、そうです。わたしが魔道王ダークネスカイザーです」


:だから偽名を忘れんなwww

:真子ちゃんに言われて気づいたwwww

:もうその偽名やめなさいよwwww


 たくさんツッコミのコメントが書き込まれると、レイカは唇をムグムグとさせる。


 とりあえず、ルリアが正気に戻ったようなので、レイカは胸を撫で下ろす。おんぶされている真子も「よかったぁ」と安堵していた。


 警戒心を強めていたルリアだったが、自身の身体から『禁忌の鎧』の断片がボロボロとはがれ落ちていくと、両目を見開いた。


 ルリアの身体から力が抜けていき、レイカに向けていた警戒心が薄まっていく。


「……そうか。わたしは……敗れたんだな」


 状況を理解したようで、ルリアは崩れ落ちていった鎧の断片を見下ろしながら、ボンヤリとした表情でつぶやく。


「『禁忌の鎧』にまで手を出して、自我を手放したというのに……それでもおまえには届かなかった。これでは、勇者とは呼べないな」


 自嘲するようにルリアは唇を曲げて、うつろな笑みを浮かべていた。 


 レイカは神妙な表情をすると、歩き出した。意気消沈しているルリアのもとに、歩み寄っていく。


「わたしは異世界でたくさん旅をして、いろんな人たちとの出会いと別れを経験してきました。だからこそ、わかることがあります」


 ルリアのそばまでやって来ると、立ち止まる。


 うつむいているルリアを見つめながら、レイカはクスリと笑った。


「ルリアさん。わたしはあなたほど、勇者に相応しい人に出会ったことがありません。あなたはどんなに心が折れても、どんなに敗北しても、決して諦めることはなかった。最後は必ず立ちあがることができる人です。そんな人こそが、本物の勇者なんだと思いますよ」


 レイカの言葉を聞くと、ルリアはおもむろに顔をあげる。


「ダークネスカイザー……」


 驚いた表情をしているルリアに、レイカはやさしく微笑んでうなづいた。


「……わたしの心を折ったのも、敗北させたのも、ほとんどおまえじゃなかったか?」


「…………」


 レイカは黙ったまま、そっと目をそらす。


:おい小林www

:こら小林wwww

:自分で心を折ったり敗北を与えたりしておいて、なぐさめてたのかwwww

:ルリアちゃんからしたら、おまえが言うなって感じだろうなwww


 コメント欄でも、いろいろと指摘されていた。


 居心地が悪そうにしているレイカを見ると、ルリアはおかしそうに口元をゆるめた。


「そう言ってもらえて、うれしいよ。きっとわたしは、おまえに認めてもらいたかったんだ。はじめて出会ったあのときから、わたしはおまえの強さに憧れていた。その感情を素直に受け入れることができなくて、必死におまえに勝とうとしていたんだ……」


 ルリアは自分でも気づいていなかった感情を吐露すると、瞳の奥が波打って、視界がボヤけていた。


 こんなにも熱いものがこみあげてくるということは、やっぱりこれが自分の本心なんだろう。ルリアは苦笑しながら、そう認めるしかなかった。


 レイカとルリアの会話を聞いていた真子はグスンと鼻を鳴らすと、両目からボロボロと大粒の涙をこぼして「ううううううううぅぅぅぅぅぅ!」と泣き声をあげて感動にひたっていた。


:いや、いいシーンなんだろうけどもwwww

:レイカちゃんが真子ちゃんをおんぶしてるから絵的に変だなwwww

:もういい加減パイセンを下ろしてもいいだろwwww

:パイセンの存在のせいでおかしなことになってるwwww

:そのパイセンが号泣してるんですがwwww

:異世界とは一番関係ない真子ちゃんが誰よりも感動してるwwww

:異世界が大好きだから、めちゃくちゃ感情移入してるんだろうよwwww

:真子ちゃん完全に大好きなアニメの最終回を見てるときの俺なんだがwwww

:クソッwwww 真子ちゃんさえいなければ、ここで感動できたはずなのにwwww

:パイセンが邪魔だwwww


 ルリアは指先で目元に浮かんだ涙をぬぐうと、近くにあるゲートを一瞥する。それから、青い瞳をレイカに向けてきた。


「最後に、おまえの名前を教えてくれないか? ダークネスカイザーというのは、本当の名前ではないのだろう?」


「っ! なぜわかったんです!」


「いや、なぜも何も、ダークネスカイザーと呼ぶたびに不思議そうな顔をしていただろ?」


 ルリアは呆れたような半目になって、偽名を見抜けた理由を話してくる。


:バレてたwwww

:しょうちゅう忘れてたら、そりゃバレるよなwwww

:むしろなんでバレてないと思ってたんだwwww


 偽名がバレていたという衝撃の事実に、レイカは驚愕する。


 そんなレイカを見つめながら、本名を教えてほしいとお願いしてくるルリアは真剣のようだ。


 ……いまなら、ルリアに本当の名前を教えてもいいかもしれない。レイカはそう思えた。


 はじめてルリアと異世界で出会ったときのことを思い返しながら、レイカは改めて自己紹介をする。


「わたしの名前は、こば……」


「こば?」


 自分の名前を言いかけたレイカだったが、異変に気づく。


 近くにあるゲートが小さくなりはじめていた。縮小が進んでいき、閉じようとしている。


「いけません! ゲートが閉じてしまいます!」 


「え? ゲートが? あっ、いや、でもそのまえに……!」


「なにをボサッとしてるんですかルリアさん! 早くしないと帰れなくなりますよ!」


「いや、だから名前! 名前を教えてくれ! おまえの本当の名前は結局なんなんだ!」


:レイカ!

:小林だよ!

:小林レイカちゃんです!

:小林レイカ!

:この子の名前は小林レイカです!

:↑おまえらがどんなに必死になっても伝わらんぞwwww


 レイカは慌てて催促するが、ルリアは一向に動こうとしなかった。その間にもゲートは縮小していく。


 このままではまずい。そう判断したら、レイカの身体は勝手に動いていた。


「でりゃあああああああああああああです!」


 ドゴンッ!


 力加減を調整しつつ、ルリアの脇腹めがけて蹴りを放つ。


 ルリアは身体ごと吹っ飛ばされていき「うわあああああああああああああああああああああ!」と叫びながら、ゲートのなかに無理やり投げ込まれる。


 小さくなっていくゲートからは「名前はああああああああああああああああああああ!」という残響が聞こえてきて、強制的に異世界へと送り返された。


「いやあああああああああああ! ルリアちゃあああああああああああん!」


 真子はレイカの背中から乗り出すと、泣きながらゲートのほうに手を伸ばす。


:蹴ったwwww

:蹴り飛ばしたwwww

:蹴って帰すなwww

:レイカちゃん、ナイスシュート!(お母さん)

:ナイスシュートじゃないよwww

:確かにいい蹴りだったけどwww

:勇者を異世界に帰すためだからしゃあなしwww

:こんな帰還させられる勇者いないだろwwww

:異世界に蹴飛ばされて帰された勇者www

:勇者の異世界への配送完了wwww

:真子ちゃん、推しが帰って泣いてるwww

:推しが目の前で蹴り飛ばされて消えたwwww

:なんかいい感じになってたのに蹴飛ばしたwww

:つーか、名前教えてねぇwww

:ルリアちゃん、最後までレイカさまの本当の名前を聞けなかったwwww

:レイカ! きちんと名前を教えてあげないとダメじゃないか! 「こば」しか伝わらなかったぞ!(お父さん)

:こばwwww

:「こば」だけ伝わったwww

:このままだと異世界でのレイカちゃんの呼び名が「こば」になるwwww


 どうにかルリアを異世界に帰還させることができたので、レイカはホッとする。


 その一瞬の気のゆるみを突くかのように、真子は行動に出ていた。


 レイカの背中から飛び降りると、真子は地面に足をつける。

 

「え? 真子先輩?」


 レイカが振り返ったときには、既に真子は走り出していた。閉じかけのゲートにむかって、全力ダッシュで突っ込んでいく。


「わたしも! わたしも異世界にいいいいい! ファンタジー世界に行ってチートで無双して、たくさん冒険するんだああああああ!」


:真子ちゃんwwww

:パイセンwww

:異世界に行こうとするんじゃないwwww

:おいあの女、本気で異世界に行こうとしてんぞwww

:真子ちゃん目がこわいwwww

:正気じゃないなwww

:異世界のゲートが閉じようとしてるのを見て、正気を失ってるwwww


「ちょっ、真子先輩! ダメですから!」


 レイカのかたわらで光が生じる。青い光によって具現化された鎖が伸びていき、全力疾走している真子のもとまで追いついて首に巻きつく。


「ぐぇ!」


 ゲートの目の前まで来ていた真子は首に巻きついた鎖につなぎ止められて、前に進めなくなる。


:また鎖www

:ナイス鎖wwww

:鎖につながれたワンちゃんみたいになってるwwww

:マコ犬www

:「ぐぇ!」ってなったなwwww

 

 そして真子の視線の先にあるゲートは、細かい点のようになると、跡形もなく消失する。


 異世界に渡るためのゲートが、完全に閉ざされた。


「ぢぐじょおおおおおおおおおおお! わたしの異世界があああああああああああああ!」


 真子は泣き崩れて四つん這いになると、握りしめた拳で地面を殴りつけた。


:ガチ泣きwww

:ホント異世界好きだなwwww

:真子ちゃんの異世界ではありませんwwww

:パイセンは異世界に渡ってチート能力を手に入れたら、ろくな冒険しないと思うwww

:後輩のレイカちゃんがろくな冒険してなかったからなwwww


 わりと本気で悲しんでいる真子を、レイカは気の毒そうな目で見ると、具現化していた鎖を消して拘束を解いた。




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パイセンは躊躇無く現世を捨てようとしたな 未練はないのだろうか?もしかしていつでも帰ってこれると思ってる?
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