38
レイカが左腕に装着したスマホを見ながら、視聴者たちとやりとりを交わしていると、ルリアの魔力が増大する。
ルリアは敵意のこもった眼差しでレイカを睨みつけると、『禁忌の鎧』から力を引き出す。それだけで大気が震えて、周辺の温度が高まっていく。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
ルリアが叫び声をあげると、その身体から無数の黒い炎と雷が放出された。黒炎と黒雷は乱舞するように無作為に飛び散っていく。
レイカは瞬時に二本の青い光の鎖を具現化すると、二台のドローンカメラに巻きつける。気絶した真子をおんぶしたまま、縦横無尽に駆けまわった。
放たれた黒い炎と雷は絶え間なく爆音を轟かせ、地面や壁や天井を焼いて砂塵を舞わせる。広大なボス部屋に、破壊の嵐を巻き起こす。
:うおおおおおおおお! なんだぁあああああ!
:画面がすごいスピードで動いてる!
:見てて酔いそう……
:耳が痛い!
:爆撃音が鳴りまくってる!
:かろうじて見えたけど、勇者が黒い炎や雷をたくさん飛ばしてるっぽい!
:あちこちですごい爆破が起きてるぞ!
:なんちゅう火力だよ!
:あの黒い炎と雷は、リッチや他のボスを一撃で倒せるだけの威力がある!
:あんなの食らったらヒュドラでも確殺される!
:もしかしてレイカさん、ぜんぶ避けてるのか!
:素早く動きまわって黒い炎と雷を回避してる!
:二台のドローンカメラに鎖を巻きつけてた!
:二台のカメラがレイカさんの動きに引っぱられてる!
:それでさっきから画面がこんな高速移動してる動きになってんのか!
:レイカさま気絶したパイセンをおんぶしたまま避けてるなwww
:ホントだwww いまチラッと見えたwww
:死体を背負って避けてるみたいになってるwwww
:……異世界の勇者だろうと関係ないわ。レイカちゃんを傷つけようとしたんだもの。それだけで万死に値するわ。跡形もなく消し去られても仕方ないわね(お母さん)
:隣にいる母さんの目から光が消えて、ブツブツなにか言ってる……(お父さん)
:お母さんヤンデレ化wwww
:お父さん冷や冷やしてるだろうなww
:レイカママ怖いよwww
:相変わらず娘への愛が重いwwww
おびただしい数の炎と雷を避けながら、レイカは駆けまわっていると、耳元でかすかな声が聞こえてきた。
「……ん? んん? え?」
「あっ、真子先輩。目を覚ましたんですね」
背負っていた真子がまぶたを震わせて、目を開いた。意識を取り戻した真子に、レイカは走りながら話しかける。
あちこちで爆音が鳴りまくり、破壊が繰り広げられる光景が視界に飛び込んでくると、真子はギョッとした。
「わああああああああ! な、なにこれ! なにこれ! どうなってんの! なにこれええええええ!」
:パイセンwww
:ここで目覚めたかwwww
:なんでこのタイミングで目覚めちゃうんだよwwww
:目覚めたら周りで数え切れないほどの炎と雷が飛び交ってて、爆撃が起きまくってるwwww
:起きたら地獄が待ってたwww
:最悪の寝起きwwww
:眠ってたほうが幸せだったなwwww
「真子先輩が意識を取り戻してくれて安心しました」
背中で泣き叫んでいる真子に、レイカは首だけで振り返って笑いかける。
:真子ちゃんが叫んでるのに、レイカさんぜんぜん気にしてないなwww
:そこはまぁ、レイカさまの倫理観はズレてるからwww
:真子ちゃんは目覚めて安心できないだろうなwwww
:てかレイカちゃん、前を向かずに普通に避けてるんですがwwww
レイカは感知スキルを広範囲に展開しつつ駆けまわると、どうしてこんなことになっているのか真子に経緯を教える。
「最深部のボスはもう倒したんですけど、そのあと異世界に通じるゲートが開いてしまって、そこから闇堕ちしたルリアさんが現れたんです」
「え? あっ? は?」
説明を聞いてもすぐには理解できなかったようで、真子はポカンとしていた。だが、ボス部屋の奥に立って黒い炎と雷を放出しているルリアの姿を認めると、真子の瞳がキランと光る。
「ル、ルリアちゃん! 本物の生ルリアちゃん! ホントに! ホントに異世界から来たの! じゃあルリアちゃんの近くにあいてるあの穴がゲート! 異世界に通じるゲートなのね!」
「ちょっ、真子先輩! 暴れないでください!」
テンションのあがった真子が、レイカの背中から乗り出すように激しく動いてくる。
:パイセンうれしそうwwww
:真子ちゃんは異世界系の作品が大好きだからwww
:生ルリアちゃんを見て喜んでるwwww
:ルリアちゃん闇堕ちして正気ではないんですがwww
:おんぶされたままハシャいでるwww
:パイセン暴れるんじゃないwwww
:よし、鎖でつないでおとなしくさせようwww
:↑やめたげろwwww
:興奮して暴れてるから、ガチで鎖でつないでおとなしくさせたほうがいいかもwwww
:というか意識が戻っても真子ちゃんを下ろさないのかwww
:下ろしたら危ない! まだ黒い炎と雷が飛んできてる!
興奮する真子をなだめつつ、レイカは左腕に装着しているスマホに目を落とした。
「っ……! ど、ど、同接が三百五十万を超えてます! いつの間にこんな……!」
現在の視聴者数を確認すると、レイカは目を丸くして声を上擦らせた。
:こんなときに同接を確認するなwww
:たくさん炎と雷が飛んできてるのに、視聴者数を気にしてるんですけどwwww
:ゲートが開いて勇者が登場したときよりも驚いてるなwwww
:ガチで同接が三百五十万を超えてる!
:異世界の勇者が登場してネットが大騒ぎになってるからな!
:大勢の探索者やダンジョン関係者が見にきたようだ!
:探索者じゃない人たちも流入してきてるぞ!
:すごい勢いで視聴者が集まってる!
:レイカちゃんの配信が日間総合ランキングの3位まで浮上したぞ!
「わたしの配信がランキング3位! ということは、1位まであともう少し! わざわざこっちまで出向いてくれたルリアさんには感謝しないといけませんね!」
レイカは声を弾ませながら、ルリアを見て笑いかける。
:ルリアちゃんに感謝してるwww
:一気に同接が伸びたのは、ルリアちゃんが登場したおかげだからwwww
:めちゃくちゃ攻撃してきてるルリアちゃんに感謝していいのかこれwwww
「せっかくルリアさんが来てくれたんです。しっかりと見せ場をつくっていかないと」
レイカは駆けまわりながら、左手を前に伸ばした。空間が揺らぐと【アイテムボックス】から黄金に輝く『勇者の聖剣』を取り出す。
「その剣は……!」
レイカが黄金の聖剣を左手に握ると、おんぶされている真子がいち早く反応した。
:黄金の剣!
:勇者から奪った聖剣!
:なんで取り出したんだ?
すると、さっきまで間断なく響きわたっていた爆音が突如として鳴りやむ。無数の黒い炎と雷を放出させていたルリアが、猛攻を停止した。
ルリアは『勇者の聖剣』を目にすると、電源が落ちたように沈黙する。
そして、ブルブルブルと全身を小刻みに震わせはじめる。
「……アッ、アッ、アッ、アアアアアアアアアアアアアアッ! エクスちゃああああああああああああああああん!」
憤怒と悲痛が混ざりあった咆哮が、ボス部屋に響いた。
:勇者wwww
:エクスちゃんwwww
:NTRされた聖剣に反応したwwww
:寝取られた聖剣を見せつけられて、すげぇ声出してきたんだがwwww
:なぜ聖剣を出して煽るwww
:ルリアちゃんの脳を破壊する作戦かwwww
:ちょっ! なんか勇者の魔力量がはねあがってるんだが!
:まずくないかこれ!




