第8話『ログアウト不可』
【モンスターランク】が上がってしまう背景には度重なるプレイヤーの襲撃がある。人間ほどログアウト不可に陥りやすい。
雑貨屋で周辺マップを購入して、昆虫たちの暮らす集落を後にする。彼らは望んでこの集落にいるプレイヤーだ。
「SRガチャは使えない。やっぱりDP消費か……」
本当はランクが良かったのだが、またログアウト不可になってしまった。必要な称号は手に入れたので次こそは大丈夫だと、異様な個体数を誇るゴブリンを討伐する。
ゴブリンのドロップアイテムは3つ。
ゴブリンの腰布、ゴブリンの耳飾り、ゴブリンの皮だ。
アイテムをDPに換えるスキルも存在している。レア度ではUR。それ以上を聞いたことがないのでGRという文字に首を捻りたくなる。
「ゴブリンを後何匹倒せば出られるかだな。黄金ダンジョンに行くしかないわけだが」
最下層のボスを倒さなければならない理由が出来てしまった。最悪、【アイテムボックス】を無くしてでも戦うしかない。
A様の取引に応じてみようと1日かけて黄金ダンジョンに戻ってきた。地上では1日に精々1000DPを集められる程度だ。
「なんで人気がないんだろうな」
「だから言ったでしょ。人間の人口は一割未満だって」
「はいはい」
A様に杜撰な対応をしてしまって速攻で嫌われた。しまった。取引するつもりが機嫌を伺い損ねた。
「今日はボス部屋を突破しに来たんだ」
「へぇ~」
「……良ければスキルオーブの交換に応じて欲しいんだが」
「本当に?」
ぱっと表情を明るくしたA様に内心安堵する。
「ああ。【魔剣術】が欲しい」
「私は【アイテムボックス】。スキルオーブはこっち持ち」
「それで頼む。その前にショップに行ってもいいか?」
「うん。空のスキルオーブはショップに売ってるんだよね~」
「値段は見てのお楽しみだな」
いくらでアイテムが売っているのか【黄金の国】ショップへと確かめに行く。【アイテムボックス】の中身も空にしなくてはならない。
「おおっ。雑貨屋よりもラインナップが多い」
「雑貨屋に行ったの?」
「怖いもの見たさで行ってきた。案の定怖い場所だったな」
「この辺りだと政府直轄領でしょ」
芋虫の集落だったな。それに比べて入国審査場Aは居心地がいい。
「クランか……入国手続きがあるんだよな?」
「相当な自信じゃない。そんなに腕を上げたの? 言っておくけどスキルの力だけじゃ勝てないからね!」
「分かってるって。ひとまずDP集めをしなければならないんだ」
「ひょっとして今堕ちてるの?」
俺は気まずげに顔を逸らす。A様は勘が鋭いな。
「ああ。堕ちてる。だからDPがいるんだ」
「入国審査場を出なければ良かったのにー。あ、これください」
A様は気まぐれに果物を買っていた。
ちょっとした食糧の他にもバックパックや装備一式がショーウィンドウに並んでいる。雑貨屋とは雲泥の差があった。
ドロップアイテムを積み上げると数字の書かれたリストバンドを貰った。【黄金の国】では支払いにこのリストバンドを用いる。
「【黄金の国】は商業ギルドの原型とまで言われてるんだから安全地帯に決まってるでしょ。ダン伍は分かってないね!」
「確かに安全地帯だ。昨日はいくら稼いだ?」
「3万DP! 本当に稼ぎまくれるよ! ドロップアイテムは拾った者に所有権があるからお小遣いは稼げないけど」
そういうところもあったな。
【アイテムボックス】がないと黄金ダンジョンでは資金面で苦労する。A様の場合、平然とリアルマネーを使いそうだけどな。
【黄金の国】が中心となって作られた通貨はGPだ。通貨システムすら破壊した九人類のせいで、『セイマン』は世紀末に突入したと言われる。
九人類はDPの根源を破壊するためにこのゲームをしている。善良な人間の一面もあるが、世間一般の九人類は悪党だった。
元の通貨価値を失わせた九人類。ネットを騒がせているのはダンジョンの発生に直接関わっているとする声明文だった。
九人類は人類の敵。その傘下にあるクランも当然だが敵だ。
「スキルオーブは500万GP。5万円だったのか」
「ここだと安く買えるんだよ」
「安い買い物ではないけどな」
俺はポーション用のポーチと振魔の直剣を購入。初期装備の鉄の直剣から振魔の直剣を装備した。
最低限の装備だ。
振魔の直剣を買えたのは幸運だった。【黄金の国】ショップで買える武器の中では三番目にいい直剣だ。
「スキルトレードする?」
「ああ。頼む」
A様からスキルオーブを受け取って【アイテムボックス】を封じる。A様は【魔剣術】を封じてスキルトレードだ。
「トレード完了! 念願の【アイテムボックス】!」
「良かったな」
「URが全然出ないからショックだったんだよ! ありがとう、ダン伍!」
「こっちこそ助かった。今日中にDPをかき集めないといけなくてな」
「堕ちるような称号を持ってるからだよ」
URの【アイテムボックス】とSRの【魔剣術】のスキルトレードが完了して、俺たちは黄金ダンジョンの入国テストに向かった。
今日は50人前後だ。
飛び入り参加はなく、全員が小慣れたセミプロ。
下層にトラップを仕掛けたりするのが上手いプレイヤーが集まった。しかし俺には【転移魔法】がある。
「14時です。開始してください」
Sランク冒険者の卵を振るい落とす入国テストが始まった。
俺は【転移魔法】で15層に飛んで最速でボス部屋の扉を開いた。
「勝ってやる」
黒曜石の自然王の待ち構えるボス部屋へと一歩踏み出す。
【混沌魔法】で強化を施した身体は羽根のように軽い。
振魔の直剣が重機のような腕と衝突した寸前、全身が持って行かれそうになったが何とか堪えた。
【モンスターランク】が上がったお陰でHPは高い。
正面からでも余裕で耐えた。下調べしながら戦っていると時間内に討伐出来る気がしないので最初から全力で仕掛ける。
「硬いが切れなくはない!! うらあああっ!!」
とても自然物を斬っているとは思えない斬撃音が木霊する。武器耐久値が心配になったが一瞬の気の迷いで黒曜石の自然王はおびただしい数の魔法を放ってくる。
「近付けないな! しかし俺には【転移魔法】がある!!」
安全地帯を見抜いて転移すると、胸部へと振魔の直剣で刺突を繰り出す。【魔剣術】で魔力を乗せると貫通力が増した。
青ポーションで魔力を回復して、【転移魔法】と【魔剣術】を攻略の突破口に据える。
【黄金の国】に入国したいと思える切羽詰まった状況で、最難関であるラスボスと戦っている。気合の入り方は他のプレイヤーとは異なる。
「武器ロストは勘弁したいが……【混沌魔法】の強化は身体のみにあらず! 【魔剣術】があって勝てないことはないだろ!!」
振魔の直剣が手に馴染んできた。
【直剣術】と【魔剣術】の効果で剣を操る才能が与えられている。【混沌魔法】に振り回されることがないのも自分自身のスキルだからだ。
相手はゴーレム。討伐難易度はSSS。
現実世界でこのモンスターと相まみえるのはもう少し先の話である。




