第20話『A様ご入国』
黄金石の自然王が残したアイテムの中で最も価値のあるのは宝箱だ。霊域の主が残した宝箱の存在は大きな波紋を呼ぶので、どうにかこうにか回収してクランハウスに持ち込んだ。
「言い伝えではDoD内で霊域の主を倒すと現実世界の霊域の主は弱体化するとか。本当かな?」
「試したくもないな。国を挙げて討伐するだろ」
「その国に所属しているのをお忘れなきよう」
【黄金の国】に所属していてノルマがある身の俺は、神奈にそう諭されて堅く頷いた。
「【空間魔法】で持ってきたけど宝箱は開けないの?」
「スキルオーブだと相場は決まってる」
「霊域の主は初討伐ってわけじゃないよな?」
「そうなの!?」
「うん。フロア内に出現するお仕置きモンスターにも霊域の主はいた」
「九人類の仕業とも言われますけど」
「しかし視聴者の反応は初討伐だな?」
霊域の主初討伐で盛り上がっている。今までの討伐例は霊域の眷属だった?
【初討伐おめ!】
【これであんさんは監獄を出られるな!】
【初討伐ってすげーな!】
【快挙だ!! 世界的に見ても霊域の主を倒した討伐パーティーはいないからな!】
【つーか3人で倒せるのか!?】
低階層のフロアボスだったので運よく討伐が叶った。魔法を使ってくる以外に特殊攻撃がなくてちょっと拍子抜けだった。
討伐時に獲得したDPはなんと100万ポイントだ。
「もう戦わなくていいかな? 私、ガチャで遊んでくる!!」
「ここに【覇運】おねーちゃんがいる」
「私はお姉ちゃんではありません。A様は【黄金の国】に入国されますか? 霊域の主の討伐功績で入国を認めても問題ないでしょう」
「入国します!!」
海乃は一目散に返答した。100万ポイントだからな。神奈に渡った【覇運】でガチャを回したくなる。
「A様ご入国か」
「【再生連合】でも良かったのに」
「ここは【黄金の国】ですので」
「それもそうだ。悪いな、モッホ」
「配信をぶち切る。実力行使に出るから」
そう言いながら神奈をパーティーに誘う志穂だった。
【配信は切るな!】
【そうだ、まだノルマが終わってないだろ?】
【【再生連合】の配信ノルマ5時間に草生えるww】
【ガチャ引けよ!!】
【いや、【覇運】おねーちゃんて何?】
ガチャを回すか。おっと、超級のバフ回線が志穂に切り替わった。
「切り替えていくよ! 【覇運】でどれだけレア度が高まるか!?」
「やるのですか?」
「やる。私がトップバッターでよろしく」
志穂は100万ポイントでガチャを回しまくった。【幸運な森の民】なので3000ポイントのレアガチャだ。
「【豪運の擁護者】出た!」
「素晴らしいです。私の【豪運】を擁護してくれるのですね?」
「【覇運】まで守ってあげるよ」
「そこまでは必要ありません。【覇運】は間を取り持てるスキルです」
「URの【転移魔法】が出たから次いいよ」
「私が回す番!!」
志穂の次に海乃がガチャを回した。【幸運な森の民】は持っていなかったが、速攻で獲得してじゃぶじゃぶとDPを消費していく。
「で、出た!! GR!!」
「本当か!?」
「うん! 【神人族】!!」
「種族スキルが出た!?」
「凄いですね!」
滅多に出ることがない種族スキルでも【神人族】はSランク冒険者が喉から手が出るほど欲するスキルだ。GRの中でもとりわけ有名なのは、覚醒ステータスを変える力があるからだ。
「人間に戻れる!? 覚醒ステータスが変わってるんだよ!」
「おおっ! それは良かったな~!」
「人間に戻れる! 人間に戻れる~!!」
万歳して喜ぶ海乃とバトンタッチして俺がガチャを回す。俺だけは【SRガチャ】だ! 【モンスターランク】だけは出てくれるな!!
・【ハンターランク】(+500)
・【ダンジョンランク】(+300)
・【モンスターランク】(+300)
・【アタックランク】(+600)
・スキル 【気功術】(SR)
・スキル 【体力自然回復】(SR)
・スキル 【吸収】(UR)
・称号 【霊域を討ちし者】
怒涛の10連ガチャ……!! スキル3つだ!!
称号も1つ増えた。
【霊域を討ちし者】は霊域の主に発見される確率を高める。フロア内にいるお仕置きモンスターに見つかりやすくなるのと、戦闘時にヘイトを集めやすくなるようだ。【即死耐性】のある俺にはぴったりと言える。
「【気功術】、【体力自然回復】、【吸収】の3つだ!」
「ガチャ運いいねー」
「本当にいいです。【覇運】のお陰ですか?」
「日頃の行いが良かったからだな」
そういうことにしておいて、【SRガチャ】のことは言わないで貰う。
「【気功術】はプレイヤー相手に使える。相手を気絶させられるからね」
「【モンスターランク】が上がらずに済むか。それは有難いな」
「ダン伍は際どいところを攻めましたからね。監獄にいるのでしたか?」
「今はな。霊域の主を倒して監獄にいる理由の半分は無くなったわけだが、もう半分の理由が足を引っ張ってくるかもしれない」
「事情を聴く」
志穂に事情を聴かれて簡潔に「芋虫に捕まった」と答えた。
「元プレイヤーで九人類に芋虫のまま飛ばされたらしい」
「芋虫刑は重罪だよ」
「重罪ですね。九人類に忌み嫌われたとなるとPKくらいですが」
「そんな危険な奴だったのか……?」
プレイヤーキラーにリアルで命を狙われた? 不味いな。
「すぐにログアウトする。またな!」
「またね~!」
「私はノルマが終わってない……周回していいかな?」
志穂や神奈を置いて俺はログアウトした。
現実に戻ってくると、コサメが俺の端末で配信動画を見ていた。サメ芋虫のくせに態度だけは人間だ。
「おい。俺の端末を返せ」
「今見てたのに文句あるわけ? 一先ず討伐おめでとうだけど霊域の主を倒した程度では監獄を出られない!!」
「お前が元に戻るまで手伝ってやるって。しかしよく聞け」
「何?」
俺はコサメの胴体をひょいと持ち上げる。今にも噛み付きそうな顔は元来のものか。目の奥に浮かんだどす黒い感情は見なかったことにする。
「俺を殺せると思うな? ゲームでPKしてたんだろ?」
「……ふんっ。それが何か? ただのゲームでしょ」
「九人類に恨まれた時点で終わりだろ。馬鹿なことをしたな」
コサメは少し居心地が悪そうになりながらそれでも俺を見つめ返した。
「お前もよっぽどだと思うけど? 私を拾って霊域の主まで倒した。殺されても知らないから」
「用心しておく」




