第21話『鬼人化』
「父さん、母さん。ごめん」
「いいんだ。気にするな」
俺が施設に入ってしまったばかりに両親には迷惑をかけていた。施設側に1か月は様子見するという判断を下されたのだ。
「1か月は長いよな~」
「私はお前のこと馬鹿だと思ってる」
「虐めるぞ」
サメ顔をつねるとじたばたと暴れた。可愛くない芋虫だな。
「鬼人化しろよな」
「絶対にしない。私は無害な芋虫なの!」
「芋虫はキモいんだよ!!」
「言ってはならないことを!!」
芋虫で喋るな!芋虫で食べるな!と、俺は声を大にして言っている。しかしコサメは鬼人化しようとしない。
「そもそもなんで芋虫にさせられた? VRマシンを被れよな」
「……いいけど見た目は変わらないし。霊域の主を倒したところで私は一生このままなの! 分かる!? 九人類だか知らないけど元はただのプレイヤー!! 私は私の為すべきことをしたまで!!」
「はぁ……元の肉体には戻れないのか?」
「だって死んだことになってるから。鬼人化した見た目は元の姿だけど見せる気なんてないんだからね!」
ふんとそっぽを向いたコサメは嫌そうにVRマシンを見やる。
「私はゲームをしない。ゲームする奴に寄生してやるの」
「お前を飼い慣らしてやる。ログインしろって」
「……分かった。監獄に来てしまったからにはログインする」
ネカフェより居心地の悪い監獄で、コサメと共同生活を送ることになった。運動の時間とかに虐められそうだな。
「何処にいるんだ?」
「芋虫のコミュニティーにいるからすぐに行ける。配信をぶち壊そう」
「お前の人間性を先にぶち壊してやる」
「く、くすぐらないで!!」
コサメはVRマシンを盾にするので、そのまま『セイマン』にログインさせた。
芋虫は芋虫だ。進化の系譜の末端なので、コサメは落ちるところまで落ちた人間。何をしでかしたかはともかく、九人類の身勝手な行動で芋虫になってしまった哀れなプレイヤーだ。
【黄金の国】のテリトリーでは門前払いを食らうコサメを外で待つこと1時間、あれほど嫌がっていたのにコサメは鬼人化した姿で現れた。
「なんだよ。鬼人なら門を通れるじゃないか」
「わざわざ外で待ってたの? バーカバーカ」
「助けてやらないからな?」
「私の死体は火葬されたの。助けられるわけがない!!」
「灰から甦れ。ステータスは人外だろ?」
「九人類の1人に力の9割を奪われたの! 私を謀って殺した!!」
「悪目立ちし過ぎたんだろ。『セイマン』は輪廻の中心だな」
「輪廻なんてクソくらえね!」
口の悪い人間はゲートを潜れないのではないか? リアルで芋虫になって嘆いているのは分かる。
「これでも何度か黄金ダンジョンに入ったことがある。説明不要」
「九人類に処刑された女だと説明してやるからな」
「処刑よ処刑! 何も悪いことしてないのに私は芋虫にさせられた!」
「悪いことをしたから芋虫刑になったんだろ?」
「知らない! 分身スキルで9等分にされてから殺されたの!!」
えげつないことをするな、九人類。処刑された側からすると、分身を取り返して元に戻りたいんだろうが。
「お前、どうやって人からポイントを奪ってるんだ?」
「……教えると思う?」
「食ってるんだろ? 食ってるんだな?」
「誰にも真似出来ない魔法があるの。教えるわけがない!!」
「そうかよ。今度からお前がゲームしないと俺もゲームしないからな」
「仲良くなんてしないから!!」
ふんとそっぽを向いたコサメは、俺とともに黄金ダンジョンに向かった。
「【霊域探知】は持ってるだろ?」
「笠帽子が探知。再生体が私の秘密。絶対に教えないんだから」
「モンスターの力を持っているんだな」
「そーいうこと。ダンジョンにタダで入れてくれるの?」
「入れてくれるだろ」
ダンジョンにはA様がいたので、俺はコサメに同情の視線を向けた。
「【神人族】が欲しいだろ?」
「……別に。期待はしてないけど?」
「種族スキルがあれば芋虫でも変わるよな。俺が引いてやる」
「ほ、ほんと……?」
「お前は危険人物だが芋虫刑はないだろ?」
「危険人物なのは九人類だからっ!!」
俺が【SRガチャ】で【神人族】を引けばコサメは人間に戻れる。そこまでしなければ監獄を出られそうにないからな。
「なんでそこまでしてくれるの?」
「監獄にいるからだ。それに俺は昆虫人間を残らず救いたいんだ」
「異星人扱いされるから居場所がないんだよね」
「誰にやられたんだ?」
「銀河のハーマン・ブラザー。ダンジョン関連企業で聞いたことない?」
「あるようなないような。ちょっと待て。企業に殺されたのか?」
「そうだけど? 殺された理由は目障りだから。それと実験のため」
「実験って」
霊域の主討伐で危険な橋を渡った俺でも嫌な予感がするぞ。ダンジョン関連企業がSランクダンジョンを実験場にしてる?
「とにかく私はPKしかしてないし、罠にかけられて返り討ちにあった。PKして本当に人が死ぬと思う?」
「お前なら殺せる気がするんだが」
「向こうの言い分はPKの処刑だった。PKして【モンスターランク】が上がるのはこっちだってのに」
「ログアウト出来たのか?」
「裏道がある。教えてあげないけど【神人族】を手に入れたら全部教える。他の異星人を救う鍵があるかもしれない」
気は早いかもしれないが、60万ポイントもあるのでスキルオーブを探した。というかディジーを探した。
「【豪運】と【覇運】は本当にえげつない。ハーマン・ブラザーはそれに加えて【魅力】と【魅了】を持ってたんだから」
「お前だってスキルを何百個と持っていたんだろ?」
「持ってたけど分身で失った。私の特技は分身でスキルを分けること。本体のコピーを作れて、私はそのコピーに乗り移ったわけ」
敵から逃げようとしたのか。それで芋虫になるとは災難だな。
「監獄にいるよりはマシだと思ってきたのに」
「お前、今まで飯は?」
「残飯漁り。ホームレスだけど何か文句ある?」
「あるに決まってるだろ」
俺の家に寄ってくるなと言いたい。
ディジーを待っていると、昼過ぎにログインしてきた。入国テストが行われるとあって、A様も黄金ダンジョンから出てきた。
「ダン伍!!」
「うわっ。どうした?」
いきなりA様が抱き着いてきて頬ずりしてくる。中身別人か!?
「治ったんだよ! 竜化が治った!!」
「それは良かったな」
「彼女は誰? というか、監獄は出られたの!?」
「まだだ。こいつと囚われてる」
「こいつって呼ばないで。私はコサメ」
コサメは不貞腐れながら自己紹介をした。
「芋虫から鬼人化した? さては九人類!!」
「違う! 私をあんな危険人物たちと一緒にしないで! 人間に戻れたの!? 私に【神人族】ちょーーーだい!!」
「誰にも上げない!!」
「鬼人化も立派な人化だと思うけどな。それよりガチャしようぜ」
「賛成!!」
「そのための私ですね」
ディジーの周りでガチャをすると幸運をおすそ分けしてくれる。【豪運の擁護者】があってこそだが。
「ディジーは何かいいの出たのか?」
「出ました。種族スキルの【獣人族】です」
「【獣人族】っていいのか?」
「リアルで獣人になりたかったです」
ディジーは【獣人族】を得て、リアルで獣人になってしまったらしい。Sランクダンジョン恐るべし。
「いいなぁ。私のために取ってよね、ダン伍!」
「誰が貴女のために取るの!?」
「ダン伍とはそう約束した! 私のために【神人族】を取ってくれる~!」
「【悪魔族】でも文句言うなよ」
「【黄金の国】にもいますからね」
【天使族】の友達はいるな。コサメだと芋虫に翼が生えるか……?
「スキルオーブは自分で買えよな」
「お金あると思う!? ダンジョンで探してくる!!」




