第18話『黄金と霊域の主』
オリハルコンの剣を打ち鍛えたのは【黄金の国】に所属する鍛冶師で、【鑑定】で読み解いた情報には万物を容易く切り裂くとあった。黒曜石すら例外ではなかったが、生ける黄金は万物に含まれなかった。
「【霊域探知】で分かるのは危険過ぎるってことくらいだな!」
「もっと詳しく教えてくれる!?」
「覚醒ステータスに聞いてくれ!!」
オーガの牙を生やした黄金の巨躯が獣のように走り抜ける。すれ違い様に攻撃しようものなら地面を伝わる振動でバランスを崩して急所を外す。
大地を割って猛毒を帯びた銀茨を生やす両腕は、至近距離だと死角にいてもプレイヤーを追尾する。
下手をすればオリハルコンの剣がひしゃげる握力と膂力が備わっている霊域の主、黄金石の自然王は黄金を散りばめたボス部屋に擬態しながら襲いかかる。
「1発で大槌が壊れた! 【王槍召喚】だよ!!」
「俺も武器の耐久値が怪しくなってきた! 【火蜂鍛造】!!」
【火蜂鍛造】で武器耐久値を回復させながら黄金石を打ち砕く。【魔剣術】と組み合わせることで炎を帯びたオリハルコンの剣が黄金石の自然王を切り裂く。
ソロ討伐をと思っていたが、A様は不利な戦いで乗ってきた。リザードマンの底力があるので、銀茨を巧みに避けつつ攻撃の機会を窺う。
【王槍召喚】で消費する魔力は膨大だ。その分、瞬間的な出力は魔武器よりも高く、何よりも武器耐久値を気にしなくていい。【毒耐性】があるようで猛毒の銀茨を受けても平気そうだった。
「毒茨は【嵐魔法】で一か所に束ねるよ!」
「頼んだ!!」
「魔法は効きにくいよね!」
「このゴーレムは当たりだろ!!」
「過信は良くない! 何が飛び出てくるか分からないからね!?」
黒曜石の自然王よりも機動力の高い黄金は不規則な腕の動きでオリハルコンの剣ごと俺を掴みにかかる。
当たりのゴーレムだ。
【混沌魔法】があって戦えるような敵だが、異次元の強さがあるわけじゃない。ガチャ運が良くて助かったな!
「ダン伍! 毒茨に気を付けて!」
「分かってる! 魔法で吹き飛ばせないのがな!!」
「魔法もタダじゃないからね!」
MP管理をしながら黄金石の自然王の軌道を読むのは至難の業だ。燃費のいい【混沌魔法】だと消費MPは微々たるものか。しかし【嵐魔法】で毒茨を吹き飛ばしていると後半ガス欠になる。
A様には死ねばリアルで死ぬという恐怖が微塵もなかった。当たりのゴーレムと思っていれば「通常ボスの上位個体」という認識に落ち着く。
「弱点がないのは【霊域探知】で分かる。しかし【混沌魔法】で押し負かせるよな、A様!」
「私のことは海乃と呼んで!!」
「A様はA様だろ!?」
いきなりリアルネームを教える奴がいるか! 戦えるという高揚感が先走り過ぎてる! A様がリザードマンなのも驚きだ!!
「本当にリザードマンなのか!?」
「リザードマンだって! 監獄にもいるでしょ!?」
いたけど完全にモンスターだった!! A様は違うから外に出られる? シェルター暮らしはよく分からないな!
「俺が配信してたらどうするつもりだったんだ。少しは考えろ!」
「配信はしてないでしょ?」
「今はな。始めるきっかけはあるんだ。下手なことは言ってくれるな」
「気を付ける! 私には配信、難しいかな!?」
「やろうと思えば出来るだろ!」
中身が半魔半人だと知らずに接していた。A様の身体能力はリザードマン譲りか! 水中を泳ぐように飛翔するので水に強いらしい。
それと防御が硬い。【王槍召喚】で幾本もの槍を召喚して、ボス部屋に安全地帯を築いてくれる。
「私と相性のいいスキルだった!! ありがとう、ダン伍!!」
「気にするな! こっちは監獄にいて霊域の主を倒すしかないからな!」
「退路を断った理由は!?」
「ここが【黄金の国】だからだ!!」
それとコサメの件がある! 霊域の主を倒して華々しく出所してやる!
【混沌魔法】で機動力は確保出来る。
DPSは【魔剣術】では乏しく、A様の【王槍召喚】頼りとなった。最低でもURのスキルがないと歯が立たない。
黄金石の自然王に倒れる気配はなく、ボス部屋は毒茨で支配されていく。【アイテムボックス】や【無限格納庫】に集めてはいるが、隙を見せた瞬間に襲いかかってくる。
「出所がかかってるんだよな!!」
「私は解呪!! 人間に戻って鱗とはおさらばするわ!!」
「そしてリアダンに行くぞ!!」
俺は【気合】と【火蜂鍛造】で戦い抜く。A様は持ちうるリソースを最大限利用しながらスキルの連携で黄金石の自然王に風穴を開けていく。
「勝てるわ!!」
「魔法を使ってこないのは妙だと思わないか!?」
「警戒はしておくけど……!!」
風穴の開いた黄金石の自然王は体力が損耗したことで己を治癒させた。治癒は【光魔法】や【聖魔法】の部類になる。
「【聖魔法】!! 最上位属性の魔法が使えるってこと!?」
「そうだろうな!!」
「攻撃の手数が足りない!! このままだとジリ貧でしょ!? 何かいいアイディアはある!?」
「ガチャを回すしかないな!!」
「いいアイディアね!!」
戦闘中だと悪いアイディアにならないか? 覚醒ステータスが全て機能してくれれば文句はないのだが。
「A様の覚醒ステータスは?」
「未だに黒塗りだけど!? 【ブレイクランク】は高いけどね!!」
「霊域の主を倒したらの話になるか!」
「参戦する」
正午を過ぎると、志穂がログインしてボス部屋に現れた。
「誰!?」
「仲間だ! 助かった、モッホ! しかし大丈夫か!?」
「かなり心配だけど覚醒ステータスがある!」
「助っ人ね! ありがとう!! 一番いいアイディアじゃないの!!」
「気楽に呼べる仲ではないんだがな!」
「それに学園を早退してきた」
やっぱりか。俺も監獄にいなければ今頃学園で授業を受けている。
「【霊域探知】……弱点は頭部かな?」
「頭部なのか? よく分からなかったな!」
「遠距離から攻撃する」
モッホの武器は弓だ。【冒険家】で【音楽家】なのでお似合いである。魔法袋は【黄金の国】製とのこと。ゴーレムドロップだよな。
【霊域探知】で対象を捉えられる志穂はどの位置からでも攻撃出来るらしい。単純に戦力は1.5倍になった。
それに志穂は覚醒後ステータスだ。特殊攻撃には恐ろしく強い。
「私とは相性がいい。【猛毒と即配の秀顕冠】へと渡り、【精霊と闇竜の影法翅】に捧げる……【付与師】」
「バフ魔法の使い手!? GRクラスの職業スキルじゃない!!」
「ふふっ。スキル自体はUR」
URの【付与師】を惜しげもなく披露した志穂は、オリハルコンの矢で黄金石の自然王を貫いた。【聖魔法】の治癒が追い付かないほどで、超高速の矢が頭上に集中する。
「魔法はいくつ使ってくるかな。ボスクラスだと最低5つ」
「最上位魔法は全て使ってきそう!」
「【王槍召喚】……矢にして飛ばせるから欲しかった」
「それは悪かったな!」
【王槍召喚】は武器の大きさに融通が利くので矢としても使える。A様の【槍術】で攻撃するよりはとつい考えてしまった。
「私だって負けてないからね!!」
「自力で引いたの?」
「あ、それは違う! 【アイテムボックス】とスキルトレードした!」
「俺の【アイテムボックス】だった奴だ」
「ダン伍は甘いと思う。それと配信してるからよろしく!」
ぺいっと、ライブ配信用の回線を寄越してくる器用な志穂だった。俺は配信するつもりがないぞ! 何故って監獄にいるからな!!




