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第16話『霊域の主』




 霊域の主と聞いて俺たちは恐る恐るボス部屋から離れた。クラン総出で倒しても人が死ぬだけのダンジョンだ。霊域の主がいるダンジョンは九人類の縄張りと化している。


「どうする? 戦うと現実で死ぬけど、目立たず攻略しないと」


「九人類の目に留まると厄介です」


 入国審査場が無くなる恐れのある事態だ。九人類が動くと集落の1つや2つ簡単に滅びてしまう。


 霊域の主はDoDにありながら現実で人を死に至らしめる能力を有する。【霊能格納庫】を有する化け物で、対峙した時には現実方面から狙われる。九人類は霊域の主を従えたとも考えられている。


「探吾の護りにはすぐに行ける。もし倒すならだけど」


「家族がいるからな。監獄の方が安全なのか?」


「監獄ではなく国の重要施設です」


 【黄金の国】の本拠地には政府の建てた監獄があり、防衛戦力として雇われているメンバーもいる。


「監獄はいいかも。出てくるのは大変かな?」


「霊域の主を討伐したら出してくれるんだろ? 師匠にはそう聞いたが」


「どんな師匠ですか」


「監獄にいたことのある御仁だ」


 そこまでして討伐しなければならない理由は俺とディジーが【黄金の国】だから。入国したからには一戦力となる。


「クランリーダーに相談してみます」


「こっちも相談する」


「合同パーティーで構いませんか」


 気楽に考えるディジーだったが、クランリーダーからの返答は芳しくなかった。


「駄目です。霊域の主は抱え切れないと言われました」


「こっちも配信にはならないって」


「2人とも空振りか。俺もちょっと聞いてくる」


 師匠に聞けば教えてくれる。個人道場なんて今時寂れてるだろ。


 ログアウトして違和感に気付いた。

 【霊域探知】で部屋の中にモンスターの反応が一つ。


「なんだ!?」


「くぴぃっ!」


 クローゼットを開けるとそこには子サメ顔の芋虫がいた。レベル40で芋虫に戻ってんじゃねえ!!と突っ込みたくなる【冒険家】の芋虫だ。


「これって……人間か?」


「……に、人間。お願い。私をお外に放り投げて」


 芋虫にしては小柄だ。何処となく愛嬌がある。蹴飛ばしたらよく飛びそうだ。って、そうじゃない。


「なんで部屋にいる? 名前は?」


「名前はコサメ。13歳……九人類に捕まってこんな姿にさせられた」


「何をやらかしたんだ? 監獄送りよりも酷い仕打ちだな」


「ま、街1つをゴミ捨て場にした」


 ゴミ捨て場って街があったな……元は水清らかな水運の都市をゴミ捨て場にしたのか。それは九人類の仕業だったような。


「何か言えない事情があるのか?」


「ない! わたし芋虫でも生きていける!」


「待てって」


 顔が真っ赤なので事情があるんだろう。窓から逃げようとするちょっと不器用な芋虫のコサメを摘まみ上げる。


「俺の部屋で何をしてた?」


「な、何にも。食事は外で済ませたし?」


「嘘つけ! 寝てる間に俺の体力を食っただろ!?」


「そんな悪夢じみた芋虫じゃない!!」


 どうだかな。HPの多い奴を狙う芋虫かもしれない。


「フルネームを教えるんだ」


「……あ、雨小雨」


「雨小雨? おかしな名前だな」


 ひとまず話を聞く態勢を整える。HPの多いプレイヤーを狙う芋虫型モンスターには心当たりがある。本能を剥き出しにするのはモンスターであれご法度だ。


「【王槍召喚】」


「うぴっ!? なんで召喚するの!?」


「お前が危険な芋虫だからだ」


 落ち着いて聞く気はない。家に芋虫が入り込んだんだ!


「何しに来たんだ?」


「…………助けて貰おうと思って。玄関から入ると嫌らしいかなって、窓から転がり込んでジュ……ジュースを飲んだの」


「へぇ。ジュースを飲んだのか。どんなトロピカルジュースだ?」


「トロピカルジュースじゃない! 美味しい味がしたのは確か!!」


「モンスタージュースでも啜ってろよな!!」


 言うに事欠いてジュースと言いやがった! こいつは確信犯だな!?


「助けって見るからに監獄の生き物なんだが」


「監獄には行かない!」


「これから俺は監獄だ。多分な」


「どういうこと!?」


 芋虫に説明する事情はないが丁寧にしてやった。霊域の主と聞いてぴんと来たようだ。


「わたしが探吾を守ってあげる! 肉体は任せて!!」


「嫌なこった! お前、どんな嗅覚してやがる!? 俺たちが霊域の主と出会ったのもお前のせいじゃないか!?」


「そんなわけないっ!!」


 とにかく監獄に行く用事が増えた! 監獄ならばこの生き物も大人しくなるだろう! トレーナーになる? 無理難題だ!!


「探吾? どうかしたのか?」


「父さん、聞いてくれ」


 物騒な鋼鉄の箒を持って現れた父さんに小雨を見せる。


「それは焼いて食えるのか?」


「わたし、食べても美味しくない……」


「だそうだ」


 体力を食われた腹いせに芋虫を食べるのはよしておこう。お腹を壊しそうだ。それはそれとしてマイファザーは驚かないな。


「元人間か。元の人格は死んでるだろう」


「死んでない! その証拠にステータスが見える!」


「本当か? 見せてくれ」


「ほら! ちゃんと見えるから私もコピーじゃないって気付いた!」


「自分をコピーと思う瞬間があったのか」


 首を縦に振るので少しだけ同情した。




 +++


 名前 【雨小雨】


 【雨と嵐の逆境魂】

 【雨と嵐の忍耐首】

 【雨と嵐の念動力】

 【雨と嵐の再生体】

 【雨と嵐の笠帽子】


 HP 32403

 MP 30294

 SP 54035

 DP 249


 スキル 【冒険家】、【火魔法】、【水魔法】、【風魔法】、【土魔法】、【闇魔法】、【火耐性】、【水耐性】、【風耐性】、【雷耐性】、【光耐性】、【即死耐性】、【嵐鬼鍛造】、【鑑定】、【栽培】、【消去】、【鬼人化】


 称号 【導かれし雨女】、【鬼人の小英雄】


 +++




 鬼の文字に魔境出身だな~と感慨深くなる。魔法スキルが多いのは芋虫でもそれなりに戦える証拠だ。


「芋虫に転生した場合は何処に連れて行くんだったか」


「監獄だろ」


「監獄には行かない!」


「監獄と言っても国の重要施設だ」


 ディジーの受け売りだ。ディジーは流石に知らないよな?


 父さんに任せるのもあれなので、翌朝までコサメを監視することになった。冷蔵庫に入れても出てくるし、鍋に入れようものなら暴れ回る。しかし基本的に大人しい性格だった。


「ほら。監獄に行くぞ」


「うぅ……監獄には行きたくない」


「俺も一緒だから安心しろって」


「笑えない冗談だな」





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