第31話 女子トーク 麗奈SIDE——
麗奈SIDE——
ジュウッと鉄板の音が耳に心地よく響き、パチパチと弾ける肉汁が食欲を煽る。
ソースの香ばしい匂いが漂う中、あーしたちの目の前には焼きたてのハンバーグが人数分運ばれてきていた——
テーブルを挟んで向かいにいるのは薫。そしてその横にちょこんと座って彼へ話しかける中田さん。
ジムトレを終えて汗を流したあーしたちは、近所のハンバーグの名店に足を運んでいた。
名目上は夕飯兼タンパク質補給ってことで、あーしから声をかけたけど……本当は中田さんの事をもっと知りたいという気持ちがあったのが正直なところ。
「うおぉぉ旨そう!やっぱハンバーグだよなぁ……うれしぃ〜!」
湯気を上げるハンバーグを見て目を輝かせる薫が可愛くて、思わず口元が緩んじゃう。
……ま、当然だよね?この店にしたのは薫がハンバーグ好きなの知ってたからだし……
そんな言葉を飲み込んで頬杖をついたまま薫の顔をジッと見つめていると、ふと視界の端に薫に笑顔を向ける中田さんの姿が目に映った。
「薫くんハンバーグ好きなのっ?」
「大好物なんだよ!」
「へぇ〜、そうなんだ!じゃあ……今度お弁当にハンバーグ入れてきてあげるねっ」
「えっ!?いいのか!?……栞、朝から大変じゃないか?」
「全然!ちょっと味は落ちちゃうけど、ハンバーグは焼いてから冷凍して作り置きできるんだよっ」
マジかぁ、ほんとに仲いいなぁこのふたり……
いつの間にこんな風になってたんだろう。
まるでカップルみたいなふたりの会話を見て、胸の奥にモヤモヤした感情が広がっていく。
でもこれは全部自分が悪い……そんな事は嫌ってくらいわかってる……
あーしはそっと視線を落として小さく自嘲するように笑ったあと、気持ちを切り替えいつもの自分を取り戻すように顔を上げた。
「よしっ、ふたりとも!冷めないうちに早速食べよ!」
その声に呼応するように目の前の二人がコクリと頷いた。
お腹が空いてると、気持ちまでネガティブになるって誰かが言ってたっけ?
まずはこの空腹を撃退しないとね……
あーしはそんな思いをナイフに込めて、目の前で香り高く踊るハンバーグへ手を伸ばした——
————
気付けばさっきまでのモヤモヤはどこへやら。
あらかた食事を終えたあーしたちは、三人で気兼ねなく笑い合ってるうちに中田さんともすっかり打ち解けてて……気づいたら「栞ちゃん」「麗奈ちゃん」って自然と呼び合えるようになっていた——
そんな矢先、薫が『あー、ちょっとトイレ』と軽いひと言を残して席を立つ。
「「いってら〜」」
ふとした拍子に中田さんと声が重なり、顔を見合わせた瞬間クスッと笑いがこぼれる。その無垢な笑顔に、なんだかあーしもホッとしていた。
ほんとにいい子なんだなぁ、この子……
そんな風に感じていたあーしに、中田さんが改めてお礼を伝えてきた。
「片桐さんっ、ほんとにこのお店美味しかったよぉ!案内してくれてありがとっ!」
たった一言。でも、あーしにはそれがすごく嬉しかった。
改めて見つめる彼女は、まさに可愛いを具現化したような子。
ツヤツヤの黒髪、ぱっちりした目、小さくて可愛すぎる顔立ち。
あーしより背が高いのに手足はスラッとしてて……なのにすっごいデカい、しかも形も良い乳。控えめな性格に、透き通るような声。
しかも食べっぷりもいい。
モデル体型なのにご飯をおかわりしてたくらいで、そういうギャップが余計可愛い。
一方であーしはっていうと……ちょっとキツめの目つきに、筋張った筋肉質な身体、Cカップ。男勝りな性格に、荒っぽい言葉遣い……
ダメだ、何一つ勝てない……気弱で可愛くてどこか守ってあげたくなる存在……そんな栞ちゃんに薫も……
「れっ……麗奈ちゃん??」
「あっ……」
気づけばあーしは彼女のことを無意識に見つめていたらしく、声を掛けられてハッと我に返る。
だけど栞ちゃんは、そんなあーしを特に気にする様子もなくグルリと辺りを見渡すと、少し迷ったような顔で口を開いた。
「麗奈ちゃんっ、あのっ……い、今だけ薫くんいないし、ちょっと聞きたいことが……」
「ん?なになに?女同士の会話ってやつ?」
「えっと、そんな感じなんだけど………いい?」
「もちろんっ!!」
まさかの女子トーク案件が栞ちゃんから出てくるなんて……
驚きつつもノリノリで応じると、彼女は少しだけ視線を落とし、あーしにだけ届くようなか細い声で言葉を漏らした。
「麗奈ちゃんって……ほんと薫くんと付き合ったりしてないの?」
「………………へっ?………………」
「なんか薫くんはそんな仲じゃないって言ってたけど……ほんとかなって……」
あまりにも唐突で直球な質問に思わずフリーズしてしまう。
……ってか、それこっちが聞きたかったやつなんだけど!?
あーしは動揺で思考が追いつかず、口だけが勝手に先走ってしゃべりだしていた。
「あはっ、あははっ……ないない!あーしが薫と?考えた事もないよぉ!あいつはただの幼馴染みだって!あははっ……」
バカ………あーしのバカ……なんで?なんでこんなこと言っちゃうんだよ?
見栄?恥じらい?彼女への気遣い?自分でもわかんない。
そんなあーしの葛藤なんて気づかないみたいに、栞ちゃんはホッと安堵の笑みを浮かべていた。
「そっ、そうなんだ……もし二人がそうだったら、私、お邪魔かなって思ってて……良かったぁ」
いい子すぎて自分が恥ずかしい………ほんとに勝てないじゃん……
話の流れに背中を押されるようにして、あーしはずっと心に引っかかっていたことを栞ちゃんにそれとなしに聞いてみる。
「むっ……むしろ、薫と栞ちゃんってもう付き合ってるのかと、あーしは思ってたよ……?」
あーしの言葉に反応して栞ちゃんの顔がみるみるうちに茹でダコみたいに赤くなる。
そのまま両手を突き出してジタバタと焦る様子にちょっと可愛さを覚えてしまった。
「えっ!?そっ!?そんなっ付き合うだなんて!?私なんかがそんなっ!色々助けてもらってるだけだよっ……!」
まだ付き合ってないんだ……
否定されてホッとする自分がなんだかすごく情けない。
しかも栞ちゃんのその反応……やっぱりそうだよね……だって好きでもない人に毎日お弁当なんて作らないでしょ?薫はクソ鈍感だから気付いてないだろうけど……
たぶん、ふたりの距離はまだ縮まりきってはいない。
けど、このままあーしが傍観者でいたら……そのうち本当に取り返しつかなくなるかもしれない……
「二人とも何の話してんだ?」
「薫!?」「薫くんっ!?」
唐突にあーしたちの間に割り込んできた薫の声にあーしは反射的に飛び上がってしまった。
気付けば本気で女子トークしてたみたいで、思わず顔が熱くなる。
もちろん薫には話せるわけがなく、ごまかそうとした言葉がまさかの栞ちゃんと同時に口をついて出た。
「「なっ何でもない!!」」
「えぇ……そんな声揃えて言われても……」
「女子トークだよね!栞ちゃん?」
「うっ、うん!」
「…………まあいいけど……なんか急にふたり仲良くなってない?」
「「まあねぇ〜」」
声が重なるたびに思う。あーしと栞ちゃんは案外気が合うのかもしれない。
それもそのはず……同じ人を好きになった者同士なんだから。
……これ以上考えるのは今はやめよう。
自分の気持ちにまだ整理はついてないし、それに栞ちゃんがいい子すぎて応援したい自分までいる始末……わけわかんない。
あーしは頭の中のぐるぐるを追い払うと、またあの心地良い3人の空気に溶け込んでいった——




